1598.『文明社会のガラガラポン』



MN 2004/04/14

『文明社会のガラガラポン』

■「今」をどう捉えるか
  9.11によって、幕を開けた21世紀。歴史の歯車は、これからも
大きな回天を続けていくだろうが、この巨大な変革期が訪れる私た
ちの文明社会の現在位置をできるかぎり正確に捉えておきたい。
  我々の文明社会は、1960年ごろより、約「6400年」ぶりの巨大
な変革波動期に入っている。このネクスト・ソサイアティに向けた
「建設革命」は、今後、2025年ごろまで多くの混乱を伴いながら加
速し、2060年ごろまでに収束していくと考えている。この中核にあ
るのは、もちろん「デジタル情報革命」である。以前に起きた2つ
の技術革命と比較して言えることは、まず、8000年前の農業革命期
において、人々の行動原理を支配した新しい思想は「体系化された
宗教」であり、工業革命期は「デカルト的機械論パラダイム」(ニ
ュートン力学)であった。一方、デジタル情報革命期では「複雑系
」(ガイア理論を含む)が新しい思想哲学になると見ている。
そして、それぞれの時代的特徴を加味した上で、異常気象、大地震
、民族大移動などを含めた「大きな混乱」が自動的に起こる。また
、その変革の規模とスピードは、人々の脳に刺激を与える情報伝達
の手段によって変化する。農業革命期は「教会」、工業革命期は「
活版印刷術」であった。しかし、デジタル情報革命の時代は「イン
ターネット」だ。24時間情報が世界を駆け巡る現代においては、恐
らくその変革の規模とスピードは、史上最高のレベルになる。正に
、デジタル情報革命とは「脳」の革命だ。

  多くの識者は、かつて、トインビーの唱えた「東西文明の800年
サイクル」を想定し、21世紀を「東洋の時代」と想定しているよう
だが、現在、世界の文明をアメリカと日本という、それまでにない
文明圏が牽引していることから、この文明論のパラダイムは崩壊し
ているといってよい。真実は、むしろ、村上節氏が指摘するよう、
「6400年来の文明システムにおける変革波動期」と捉えるべきだと
考えており、各文明圏の「棲み分け」が進んでいくものと考えられ
る。

■2つの危機
 そして、今、我々の文明社会には、大きく分けて2つの危機が訪
れている。一つは、国際秩序の危機であり、もう一つは、国際金融
システムの危機である。
 冷戦の終結により、国際秩序のマクロバランスが崩壊し、新たな
局面に向けて動き出した。一極秩序を創り出そうとする米国の影響
力の衰退は、2008年の第2次ブッシュ政権の終焉を持って、ますます
顕在化し、今後は、世界は、ヨーロッパ、東アジア、中東、アメリ
カなど、複数の極からなる多様な文明圏の構築に向けて動き出すと
考えられる。本質的に、文化・文明の深い相互理解というのは、大
変時間がかかるものであり、あらゆる地域に欧米型の民主主義を普
及させることは、現時点ではとうてい不可能である。黄色の水にい
くら白を混ぜても、純白になることはないということだ。今後の国
際秩序における最大の課題は、米国政治の「がん細胞」にあたる、
軍産複合体、石油業界、親イスラエル派、宗教右派に対して、彼ら
がどう対処するかである。米国は、今回、「国益」を重視して、イ
ラク戦争を始めたが、これはやがて国民国家の終焉と新しい国際連
合の構築に向けた大変大きな命題として台頭してくると考えている。
まさに、これは、世界にとっての「西南戦争」とも言える問題であ
る。経済がグローバル化し、多くの多国籍企業の資金調達が、「国
益」重視などになっていない今、「国益」を押し出す発想は、最後
のあがきに見える。ネオコンも、スポンサーがいなくなれば、自然
と力を失うだろう。それは、日本も同様だ。

 そして、もう一つの巨大な未知数の危機が存在する。金融システ
ムの危機である。これも上記の国際秩序と同様に、戦後一貫して、
基軸通貨ドルによる一極体制であった。ポール・ケネディが主著『
大国の興亡』で明らかにしているように、第2次世界大戦の真因は、
1920年代における大英帝国のポンド基軸通貨体制の衰退と未発達の
ドル体制の勃興による国際貿易を支える金融決済上の「信用システ
ム」が機能しなくなったことであり、その危機と同様の潜在性が、
今のドル・ユーロ市場に見て取れる。また、1972年のニクソン・シ
ョック前後に生じた、金本位制からドル信用本位制移行期における
西側の中央銀行による国際協調融資体制の確立や、その後のマネー
市場の拡大に関しては、先に述べている通りである。現在、2004年
2月6・7日、G7の会合の後、中国元が、限定的な通貨の流動性を受
け入れたのは、正しく複数の極を柱とする次世代通貨システム「通
貨バスケット制」、「商品バスケット制」への移行に向けた動きな
のであり、円市場に限界がある今、ドル危機の吸収役を買ってでる
よう要請を受けたためであると考えている。

  このドル危機をドル安による世界経済バランスの修正から、本
質的な金融システムの危機にまで、発展させるキーとなるものは、
現在、2点考えられる。一点は、米国投資銀行を中心に保有される
1京7000兆円のデリバティブ市場の流動性危機と、GDP比率160%も
の赤字を抱えた日本政府の財政破綻である。後者は、ほぼ確実と見
ているが、前者に関しては未だに未知数である。今、彼のジョン・
リード氏率いるSEC(米国証券取引委員会)がこの問題にあたってい
るはずである。将来的には、デジタル・マネーとゲゼル理論をハイ
ブリッド化した次世代型通貨システムを考えるべきだが、それをや
るにはまだ、下地が不十分でもあり、その度胸がある人間もいない。

■コア・テクノロジー
  何かと、体たらくを続けている日本であるが、次世代技術にお
いては、世界と比較して、かなりの優位な潜在性を誇っている。今
、日本企業の多くは、IT技術で米国に先行され、中国が安価な工業
力で台頭してくることで、大変、困った立場に立たされている。が
、「ものづくり」の本質を考えてもらいたい。これは、武器の発展
史を見れば、明らかだ。欧米の武器はバスタードであり、これは「
力」の象徴である。中国の武器は、剣、刷又、ヌンチャクなど、「
多様性」の象徴である。翻って日本の日本刀とは、「精巧にして緻
密、高度に洗練された美しさ」の象徴である。日本刀も、昔は中国
からの刀の輸入品であったが、歴史の中で、何度も研究され鍛えら
れ、いつしか「斬れあじ」という、武器本来の最高の到達点を達成
したのだ。これは、現代にしてみれば、まさに「使いやすさ」に通
じるものであろう。多くの日本人は、これが日本の技術をささえて
いることを忘れてしまったようだ。

  次世代社会のコアとなるテクノロジーは、3つあると考えてい
る。それらは、「デジタル情報技術」、「新エネルギー源」、「バ
イオ・テクノロジー」である。いずれも、日本は、優位を持つ。IT
技術に関しては、ソフトウェア業、ネットワーク技術、半導体技術
など、多方面で、米国企業が先行しているように見受けられるが、
今後、単なるIT技術が、ユビキタス・コンピューティングという「
思いやり」のあるIT技術にとって変わられるとき、日本の技術は、
次第に有利な位置を占めてくるように思える。

  幸運にも、アメリカがそのメッセージを発してくれたように思
う。かつて、黒澤明監督が造り上げた映画史上最高最強のエンター
テイメント『七人の侍』をパクッた、『ラストサムライ』だ。黒澤
監督は、『七人の侍』を製作する際のコンセプトは、「カツ丼に、
カレーとソースをぶっかけて、思いっきりかきこむ」であった。こ
れこそ、まさに日本人が「ものづくり」において、持ち続けてきた
「完璧主義」の世界であろう。
  
■過渡期と建設革命
  今の世界を、大変、興味深い観点で捉えている視点がある。時
代は幕末、米国(幕府)、ユーロ(譜代大名)、ロシア・中国(長
州・薩摩などの外様大名)、テロリスト(過激志士)、日本(天領
)というわけだ。なるほどである。ただ、何となく、私は、今の日
本は、山之内容堂が率いる「土佐藩」という気がしている。幕府に
、天下分け目の関が原での「恩義」があるとし、幕府びいきをして
いるが、もう、その時代おくれの発想を捨て、世界の未来や人類の
未来を見据えて、生きていくべきだろう。まず、我々は、東アジア
文明圏に属しているし、我々の力や才能を多く必要としている人々
が世界にもっとたくさんいる。そのような人々のために、「日本人
」としての気質を思う存分に発揮することが、21世紀型のナショナ
リズムだと考えている。坂本竜馬が現代に生きているなら、きっと
そういうだろう。

  いずれにせよ、世界維新による新政府・新秩序の構築に向けた
、「文明社会のガラガラポン」は、既に始まっている。私も、この
過渡期を経て、次世代社会の「建設革命」に自ら参加していこうと
思う。


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