1529.地経学の構築



地政学より地経学の方が重要である。この考察と構築を試みよう。
                Fより

米国の軍事力は、その他の挑戦者になりそうな国家が束になっても
勝てないほどにダントツである。特に情報化されRMA化した米軍
はイラク侵略戦争でも、中東最強なイラク正規軍とはほんの2週間
程度で勝敗が決してしまうのです。このような状況では、ランドパ
ワーのロシアや中国は、陸軍中心の通常戦争でもシーパワーの米国
に敵わない。

ここの理解が重要でしょうね。このため、中国もロシアも戦争でき
ないし、もし戦争をするなら核戦争しかない。この核戦争ではロシ
ア・中国の自国も米国の核で全滅することになるために、最後の脅
しでしかない。しかし、将来的には戦術核使用から最終的にはこの
段階まで来る可能性があると見ている。

このため、通常戦争できないロシア・中国を含めて地球全体が資本
主義・市場主義になっている。米国にイデオロギー的な敵対ができ
ない。このため、欧州も含めて経済的な優位性を確保して、自国を
富ませようとしているのが今の戦いの中心である。この戦いは経済
的な面だけであるので地理と経済学の混合である地経学が重要にな
るのです。

金や石油などの資源の偏在や輸出可能な農産物、工業地域が重要で
ある。この3つの要素が富の源である。農産物の育成には水資源も
重要である。そして、その資源を交換するために商業、運輸と基軸
通貨が必要になる。また、地域経済圏を設定して、自国の優位な経
済圏を作ることになる。

そして、経済圏内での基軸通貨を自国通貨にすると、多くのメリッ
トがあるし、世界的な基軸通貨になると、巨大なメリットを享受す
ることになる。このために、経済規模の大きな国家は自国通貨を
基軸通貨にしようとする。現在、この基軸通貨になりそうなのは、
米国ドルとユーロと日本の円でしょうね。

基軸通貨の争いは米国のドルとEUのユーロで行っているが、米国
副大統領チェイニーがバチカンへ1月30日に謝りに行って、両方
ともに矛を納めるようだ。欧州の裏にヨハネ・パウロ2世がいたこ
とは、このサイトでは有名な話ですよね。このため、欧州も米国か
ら逃げないし、当分、基軸通貨はドルで行くようである。米国のイ
ラク問題は国連中心に再度構築することになる。グリーンスパンも
米国経済に欧州のお墨付きをもらい、安堵の言葉が漏れている。
また横に逸れた。

地経学と地政学は似ている。輸送のネックポイントがあるためで、
物資のほとんどは海で運んでいる。石油はパイプラインで運ぶこと
も多くなっているが、鉄などの鉱山物や大型機械は基本的に海運で
ある。

地峡の運河、海峡がこのネックを構成している。運河ではスエズ運
河とパナマ運河、海峡ではマラッカ海峡、ロンボク海峡でしょうね。
ロシアは津軽海峡も重要になる。

ハートランドとリムランドの概念も地政学から流用できる。ロシア
・南アには資源が偏在している。金・ダイヤモンド・石油などがあ
る。中東も石油があり、この当たりがハートランドでしょうね。
もう1つ、人的資源としては中国とインドがあります。この2国は
準ハートランドでしょうね。

中国は人的資源を工場労働者として活用して、世界の工場を目指し
、インドは英語圏という特徴を生かして、英語圏のバックオフィス
を目指している。米国企業のバックオフィス(コールセンタ、財務
管理、人事管理)はその業務自体がインドへシフトしている。

リムランドはその周辺国家で、欧州、アジア、日本、米国などがそ
うなのでしょうね。リムランド構成国家は経済的に石油や金や人的
資源の需要が多い。

このように、リムランドは経済的取引が多いために、商業が発達し
て通貨も重要である。そして自国の経済圏を作ろうとする。
ASAEN経済圏やNAFTAやEUなどがそうでしょうね。それ
と基軸通貨の争いが起こる。

もう1つ、地理的に米国は北中南米としか自由貿易圏ができないた
め、地理的条件をなくした2ケ国間のFTAを結び始めた。これは
日本にとって好都合な自由貿易制度である。日本から離れたアフリ
カや中南米にもFTAを結べるために、中国の強い影響力を持つア
ジアでは自国経済圏構築に限界があると見ていたためで、世界的な
広がりを持って自国経済圏がこのFTAで可能になる。南アとFTA
を結べることになる。

戦後、東南アジア、特に台湾や韓国、マレーシアは日本準経済圏で
あるが、その目覚しい経済発展がアフリカや中南米などの米国・欧
州の経済圏がただ単なる収奪経済圏であったのと違い、亜日本工業
経済圏にしていた。この意味は非常に大きい。経済の拡大を容易に
したのです。

現在、台湾は中国本土に大量の出店や工場を出している。台湾経済
圏に中国でも同じ福建語のアモイはなっている事実がある。このた
め、中台間の危機を日本の右翼は言うが、そのようなことは経済的
な面からないでしょうね。世界最大の台湾企業エバーグリーン海運
の輸送量の多くが中国本土向けですし、大手の台湾プラスチックも
多くの工場が中国本土にある。

台湾のエイサーのPC組立工場も多くが中国本土にあるし、中国企
業の技術トップの多くは台湾人ですよ。このため、日本企業が中国
で生産するより、台湾企業に中国本土での生産をお願いする方がい
いような感じになっている。中国本土の法律や人脈をよく知ってい
る。同じ北京標準語・福建語を話す中国人という関係があり、コミ
ュニケーションもスムーズなためでしょうね。中国政府も台湾人を
優遇している。準ハートランドの中国の人的資源を上手く利用して
いるのがリムランドの台湾ですよ。因みに香港人、シンガポール華
僑は北京標準語を話せない。広東語しか話せない。

このため、日本の右翼が「台湾は親日である。」というのも違うよ
うですよ。中国で会う台湾人には反日の人も多くなっているようで
す。経済的な面で中国本土との関係が大きくなっているためである
と思うが、親日的なのは、老人層で後20年も過ぎると反日国家に
なりかねないですよ。

このように日本が育てた台湾や韓国が、今度は自分が他地域を経済
圏にする拡大経済になっているのです。これは日本がこの地域から
収奪していないことを示しているのです。そして、この地域が発展
すると日本も発展することになるかしたいですね。日本の高級な物
資が必要になるためにですし、そう思いたい。しかし、日本はどん
どん新しいことを生み出す必要があります。これがないと、台湾や
韓国に負けて、日本は没落することになる。

欧州統合は、独仏など先進諸国(リムランド)と東欧などの後進国
(準ハートランド)が混在することになり、日本が経験したことを
独仏は経験することになる。しかし、今の状態を見ると成功してい
ない。ここに問題があるのでしょうね。
ドイツは遅ればせながら、日本と同様な制度の見直しを行っている
。ドイツ企業の復活が必要になっているのです。それは新商品の開
発力をどう維持するかにかかっているのです。

欧州はアフリカを収奪経済圏としている。このため、シレラネオネ
は肥沃な土地であるにもかかわらず、欧米が支援してダイヤモンド
鉱山の奪合いの内戦を起こして、平均寿命が35歳と悲惨な状態に
なっている。現在、内戦は終結しているが、欧州と米国の資源争奪
戦がアフリカで行われている事実を見て欲しいのです。これでは、
アフリカの経済的な発展はないでしょうね。

そして、米国は中南米を今でも収奪経済圏にしている。このため、
ペルーを見るとフジモリさんが大統領をしていた時期より、貧乏に
なっている。収奪されていることが明確である。今、米国は中南米
の通貨をドルにリンクさせているのです。実質的にはドル経済圏へ
統合している。このために、米国大手企業の参入を容易にして、地
元企業を駆逐している。もう1つ、この経済圏から米国に移民させ
て、低賃金で働かせるなどの奴隷的な使い方をしている。これでは
中南米は経済的な発展はないでしょうね。中南米の収奪が極限まで
きて、新しい収奪経済圏を得るためにイラク侵略をしたとも考えら
れるのです。

日本やアジア地域がこのために世界の工場地帯になってしまったの
です。そして、米国も欧州もこの豊かなアジアに経済的な基盤を確
保しようとして、離れた地域でも自国経済圏にしようと、FTAを
発明したのです。しかし、それは日本に新たな経済圏拡大の武器を
与えたことになることを欧米は、まだ気が付いていないのです。
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
     平成16年(2004年)2月4日(水曜日)

台湾総統選挙(3月20日)直前の奇々怪々
   80万人の有権者が大陸居住、もしくは中国とビジネス

台湾の大陸投資は公式に1000億ドル、香港経由、アメリカ経由
の投資を入れると雄に500億ドルが上積みされる筈である。 

「王永慶が率いる台湾プラスチック集団は中国大陸で利益の30%
を稼ぎだし、中国鋼鉄の輸出の4分の1は中国へ向かい、李登輝派
だった張栄発の「エバグリーン航空」は直行便一番乗りを狙う」(
「フォーブス」、1月28日号)。

 実際に台北の証券界では国民党が勝てば大陸とのビジネスが増え
、株価は上昇すると踏むアナリストが多い。
たとえば大手ING証券(台北)のジム・キャロル主任研究員は「
年末までに台北の株価インデックスは8500に急進するだろう(
現在6400台)」と予測している(前掲フォーブス誌)。

 大陸在住の台湾駐在員エンジニア、ビジネスマンの20万人が「
投票」のため一時帰国する予定という。現在80万(公式で)の駐
在が認められているから、これは1600万有権者の5%に該当す
る。
 北京在住の台湾商工会議所の指導部は、明快に連戦への投票を呼
びかけている。

 連戦陣営は「一年以内の直行便、二年以内のフライト直行便乗り
入れ」を訴えている。

 「これらビジネスマンたちは「統一派」へ投票するだろう。家族
は別行動を取る。これが連戦再び有利といわれる戦況である」(「
フィナンシャル・タイムズ」、1月30日号)。
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
    平成16年(2004年)2月7日(土曜日)。臨時増刊

  台湾総統選、0・9%で連戦がリード
  中国が再び米国へ”特使”を派遣したが

いよいよ3月20日に迫った台湾総統占拠は1月31日から2月6
日まで立候補の届け出が受け付けられ、再選を目指す陳水扁総統と
雪辱を期す国民党の連戦主席との一騎打ちが決まった。
「グリーン陣営」は与党・民進党と李登輝前総統率いる「台湾団結
連盟」の連合を指し、「ブルー陣営」とは国民党の連戦と合従連衡
した「親民党」の宋楚諭のチケット。後者は前回バラバラで立候補
したため漁夫の利を陳水扁にさらわれた格好となり、今回はなんと
しても総統夫の奪回を狙って団結してきた。

直前の2月2日に民進党が独自集計に基づく世論調査を公開した。
「グリーン」(陳水扁・呂秀漣チケット)が37・9%、「ブルー
」(連戦・宋楚諭チケット)が38・8%と、僅か0・9%の差で
ブルーが優勢と判明した。旧正月(春節)直前の調査では
37%vs39%であったため「幾分、グリーン側が有利になった
」と民進党が分析している。

追い風となったのは中国の露骨な圧力で、しかも直前には広州軍区
と南京軍区で台湾侵攻を想定しての軍事演習。さらに在北京の台湾
商工会議所に圧力をかけ「国民党を支持する」と声明をだしたこと
など、国民党が寧ろ不利の材料になった。

グリーン陣営は、陳水扁総統の主導で、「公民投票」を同時実施と
提案し、当初、反対にまわってきた「ブルー」もこれを追認した。
 内容は二問に分かれ、
「ミサイル防衛など自衛能力の強化」
「中台の相互交流の枠組みづくり」に対する賛否を台湾国民に問う
かたちとなる。
 また「住民投票は台湾を守る」などとするパンフレットを850
万部印刷、台湾の全世帯や海外華僑に配布した。
 2月28日には、100万人が「台湾人の大同団結と中国のミサ
イル撤去を要求する」、人間の鎖デモを開催し、しかも午後二時
28分に陳水扁総統自らが「台湾、yes」と国民に呼びかける。
  
 それまで「公民投票は違法だ」として陳政権を糾弾していた野党
系の県知事、市長14人が投票ボイコットを呼びかけていたが、
国民党も親民党も追認賛成にまわったため、腰砕けとなった。

 その上で陳水扁総統は、2月3日に総統府で内外記者会見を開き
、中台間の「平和で安定した相互交流の枠組みづくり」のために、
(1)中台それぞれの使節を相互に派遣し、北京と台北に連絡事務
   所を設ける。
(2)非武装地帯設置など軍事衝突の防止策を講じる――ことなど
   を提案した。
中国は、台湾の住民投票を「極めて悪質な選挙戦術」と定義してき
たが、日本及び米仏などの緩やかな反対声明では国際包囲網を形成
出来ず守勢に立った。
そこで中国は陳水扁の提案を一切無視する一方で、急遽、国務院台
湾事務弁公室の陳雲林・主任をワシントンへ派遣し、「住民投票阻
止」を働きかける。 

 前回(2000年)の得票は、
「ブルー陣営」が59・9%(うちわけ連戦が23・1%、宋楚諭
が36・8%)だった。一方の「グリーン陣営」は39・3%(こ
の時点で李登輝「台湾団結連盟」は未組織、その後2001年の立
法委員選挙で8・5%、同日の民進党が36・6%、両方で461
%となる)。

数から言えば圧倒的にブルー陣営に分があるが、選挙は水物。全く
の予断を許さない状況である。
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国際戦略コラム御中
江田島
地経学を基軸通貨の争いというように理解すれば、ユーロとドルの
対立となります。ではなぜ、フランスはユーロを主導するのか。
それは、フランスはアメリカが自国の防衛を行わないことを二度に
世界大戦、冷戦を通じて知ってるからです。さらに、通貨が細かく
分断されていると、為替の操作をされ、利益を奪われるという面も
あります。
 
フランスは中露に対して、ユーロ決済を働きかけてます。
これは、ランドパワー連合でアメリカに対抗しようとするものです。
サダムフセインも原油をユーロ決済にしようとして、アメリカにつ
ぶされました。その意味で、いまおきていることはユーロVSドルの
死闘です。
 
思うに、管理通貨制度において、通貨の価値を担保するのはなんで
しょうか。それは、軍事力を核とする総合的国力です。
現時点ではアメリカのそれが圧倒的なのでドル機軸ですが、財政破
綻、軍事的失敗でドルが紙切れになる可能性もあります。ではユー
ロはどうか。EU域内ですら拡大25カ国体制でまとまらない可能性が
ある上に、中露との連携など歴史的に長続きしたためしがないこと
をやろうとしており、これを推し進めようとするとアメリカVSユー
ラシアランドパワー連合の対立を惹起します。
 
そこで思うのは、ユーロも不安定要因は非常に大きいということで
す。
 
では、どうすべきか。私は個人的には現物経済の復活があると見て
ます。すなわち、物々交換です。欧州人の友人に直接聞きました。
田舎で農業をやってる友人を大事にするべきだと。

今起きていることは近代の終わりの始まりだというのが私見です。
地域通貨もこの文脈で捉えるべきです。
ドルVSユーロではなく、近代VS近代以降
そして、暫定的に中世の復活。何が価値化というと、人の絆でしょ
う。社会保障も国家ではなく、地域や家族が主体になるべきです。
まさしく、かっての隣組がそうであったように。
 
参考
国家や資本といった近代的価値の相対化を受け入れる
現代に生きる我々は、近代的国家や、資本主義を絶対的なものと思
い勝ちであるが、歴史を見ればどちらも、たかだか200年前後の
歴史しかないことが分かる。英国シーパワーたる、金融資本主導の
産業革命がその契機であろうと思われるが18世紀中期以降CO2排
出量が急増している事も事実である。つまり資本(金本位が廃され
て後、管理通貨制度下の紙幣といってもいい)と国家に代表される
「近代」は自然を客体と位置づけ、科学によって、操作しうるもの
とのパラダイムを構築した。しかし、同時にこれは環境破壊や地域
、家族といった共同体破壊という悪魔のコインの片面(シーパワー
の負の面)であることにも気づかなければならない。そして、国家
や資本が我々を裏切らない保証は全くなく、むしろ歴史を見れば裏
切るケースの方が圧倒的なのではないか。だからこそ、我々はラン
ドパワーの伝統的価値観である家族や地域という単位を見直し、新
たな他者との関わり方を模索する必要があると考える。  

中世ドイツの格言に「都市の空気は自由にする」というのがある。
自由には孤独と責任がつきまとい、人間は一人では生きられないこ
とを考えると、この言葉の持つ意味は重要である。共同体から切り
離されて生きていける原子的個人など存在しえない。やはり我々は
失われつつある共同体を取り戻し、経済成長を若干犠牲にしてでも
真に豊かさを感じられる社会をつくるべきだ。上述の環境会計導入
の真の意味はここにある。

過去の文明の衰亡には家族や地域の助け合いや相互扶助の欠乏とい
うのは決定的に影響していた。日本もそのパターンにはまりつつあ
るのである。さらに西欧近代の自然科学を基盤とした進歩、競争す
るだけのベクトル、モメンタムは結局文明を衰亡させる。

かっての地中海沿岸が緑深き沃野だったのが開発により緑(レバノ
ン杉)を失いやがて滅びた。翻って日本の江戸期など山林開発に禁
制を設け枝一本は腕一本、一木は首一つといった重大な罪に問い、
しかし260年の安定を維持したことの対比は重要である。シーパ
ワーは危機に際して、新たな枠組みを作ることによって先へと進み
、未来を切り開いてきた。その先進性、開明性は今後「利益」、
「個人」、「進歩的発展」から、「環境」、「共同体=個人ではな
く他者との絆」、「持続的発展」へと向かうであろう。その為に
近代の枠組みを変える時が来たのである。提言としては、社会の最
小単位である、結婚の意味を再度見直し、具体的には、婚姻にあた
り、双方が合意できる契約書を作成し、できるだけ紛争や利害を調
停する枠組みを構築すべきである。ここをしっかりしていないから
、容易に離婚に走るのである。さらに、地域が今後の重要な社会集
団となることは疑いなく、企業も社員の地域活動を積極的に後押し
すべきである。地域の青少年と中高年の交流の場を設け、青少年の
夢、未来に対して、中高年がバックアップし、積極的に投資する枠
組みを設けるべきである。華僑や金融資本がバイタリティーを失わ
ない、真の理由はこのやり方を歴史的に維持することにより達成さ
れる世代間の連帯にある。この実現により、そのほとんどが中高年
に所有されている、日本の1200兆円といわれる金融資産は有為
な投資先として、次世代を担う「人」の育成に回るのである。無意
味な金融商品で浪費するよりはるかにましである。

更に、最悪のシナリオを想定し、今後戦争や環境破壊で北半球での
文明的生活が危機に瀕しても南半球で中世的農耕と牧畜の暮らしが
でき人類が種として維持されればそれでよいという考えを広く共有
すべきである。環太平洋経済圏の真の意味はここにある。もちろん
そのような事態を回避するために、人類が英知を振り絞る必要があ
ることはいうまでもないが。
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件名:アナン氏の提言  
http://www.mainichi.co.jp/news/flash/kokusai/20040201k0000m030072000c.html

国連事務総長:
毎日新聞に寄稿 「合法移民に基本的人権を」 

 コフィ・アナン国連事務総長は、29日に欧州連合(EU)議会で行った演説
に関連し、毎日新聞などに寄稿文を寄せた。抄訳は以下の通り。

 今後数年、数十年のEU拡大にとって最大の試練の一つは、移民問題にどう対
応するかということだろう。欧州社会がこの挑戦に立ち上がるなら、移民は社会
を豊かに、強くするであろう。しかし、そうでなければ、生活水準の低下や社会
の分裂につながるかもしれない。
 欧州社会が移民を必要としていることには疑いはない。移民がいなければ、間
もなく25カ国に拡大するEUの人口は、現在の約4億5000万人から、20
50年には4億人以下に落ち込むだろう。
 EUにとどまらず、日本、ロシア、韓国なども同じ行く末をたどる可能性があ
る。経済の縮小と社会の停滞とともに、就業者が不足し、サービスが行き渡らな
くなるだろう。こうした人口統計的な問題を抱えていない国でも、移民は経済成
長の原動力、社会ダイナミズムの担い手となる。
 人々が先進国で生活することを望み続けることは間違いない。不公平な今の世
の中で、アジア、アフリカ、ラテンアメリカ諸国の多くの人々が、豊かな国では
当然視されている自己改善の機会を奪われている。彼らは機会ある国での新生活
を切望しているのだ。
 国々は、不法移民を食い止めるため協力する必要がある。しかし、不法移民対
策はもっと広範な戦略の一部であるべきだ。国家は、合法的移住のための道筋を
示すべきであり、移民の基本的人権を尊重しながら、その恩恵を生かす努力をす
べきである。
 貧しい国々もまた、移民からの恩恵を受けることができる。移民たちは02年
1年間に少なくとも880億ドルを途上国に送金した。その額は、途上国が開発
援助として受け取った570億ドルを上回るものだ。
 各国は新参者を社会にどう組み込むかにもっと取り組む必要がある。移民をと
け込ませる創意に富んだ戦略があってはじめて、移民たちは社会を不安定にする
以上に社会を豊かにする。
 何百万という移民たちが近代ヨーロッパ、全世界で遂げてきた多大な貢献を見
落としてはならない。多くの移民が政治、科学、学術、スポーツ、芸術の分野で
指導者になってきた。また、彼らなしでは、多くの保健制度は人手不足に陥るだ
ろうし、多くの仕事は立ち行かなくなるだろう。移民は解決の一部であって、問
題の一部ではないのだ。
 欧州の将来、そして人間の尊厳にかかわるすべての人は、移民を社会問題のス
ケープゴートにしようとする傾向に対し、断固たる態度を取るべきである。移民
の大多数は勤勉で、勇敢で、決然としている。彼らは「ただ乗り」などではなく、
公平なチャンスを求めているのだ。犯罪者でもテロリストでもなく、順法者であ
る。彼らは自らのアイデンティティーを維持しながら、社会にとけ込みたいと願っ
ているのだ。
 21世紀において、移民は欧州を必要とし、欧州もまた移民を必要としている。
閉ざされた欧州は、よりみじめで、弱く、貧しく、年老いたヨーロッパになるだ
ろう。欧州が移民に正当に対処するなら、開かれた欧州は、より公正で、豊かで、
強く、若々しいヨーロッパになるだろう。【訳・前田英司】
[毎日新聞1月31日] ( 2004-01-31-23:06 )
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件名:徐々に悪化する米ロ関係  

パウエル論文で明らかに/「ロシアの民主主義は未熟」と指摘
「極めて厳しい表現」での記述

 9・11事件以後、「国際テロリズム掃討」で協調し、首脳間の信頼関係を中心に蜜月に
 見えた米ロ関係だが、昨年三月の「ブッシュの戦争」をきっかけに暗雲が立ち込めてい
 た。その両国関係の何が問題なのか。パウエル米国務長官の最近の訪ロによって明確に
 なった。
 パウエル長官はグルジア大統領就任式出席の後、モスクワに二日間滞在し、プーチン大
 統領、イワノフ外相、イワノフ国防相らと会談を重ねた。イワノフ外相も同式典に参加
 していたが、大もてのパウエル長官の陰にすっかり隠れてしまったと伝えられる。

 長官滞ロ中の一連の会談だけでなく、モスクワ到着の翌日、有力紙イズベスチヤの一面
 に大きく掲載されたパウエル論文がロシアで大きな波紋を呼んだ。「今やモスクワとワ
 シントンはけんか腰」という同紙の見出しはかなり刺激的だ。それは「異常なほど直接
 的な言葉」(WP紙)「米国高官による極めて厳しい表現」(NYT紙)で書かれてい
 たからで、両国関係に「新たな冷気」(BBC電子版)が流れ込んだかのような印象を
 与えた。パウエル長官は、プーチン大統領らロシア側もそうだが、会談の席上、あるい
 は記者会見や「モスクワのこだま」放送とのインタビューで、米ロ関係の軋轢(あつれ
 き)をトーンダウンするかのような外交辞令に徹していたが、そうした言動がかえって
 微妙な関係を浮き彫りにしたようだ。パウエル訪ロは、「徐々に悪化する米ロ関係」に
 ついての議論の観点からも、極めて重大な出来事であった、とプラウダ紙は解説した。

 「パートナーシップ、建設中」というのがパウエル論文の元々のタイトルで、そのさわ
 りは、ロシアの民主主義はまだ未熟であるという率直な指摘であろう。次にその問題の
 個所を五点ばかり紹介する。

 @基本的な諸原則を共有するのでなければ、われわれの関係の潜在力は実現されないだ
 ろう。最近のロシアの内政と外交の展開にわれわれが懸念を抱いてきた理由はここにあ
 るAロシアの民主主義システムにおける行政、立法、司法の三権力間の必要なバランス
 が欠けているように思える。政治権力は法律にまだ完全に縛られてはいない。例えば、
 自由なメディアや政党の発展といった市民社会のカギはまだしっかりと確立されていな
 い。チェチェンおよび旧ソ連の近隣諸国に対するロシアの政策もまた、われわれの関心
 事であったBロシアには世界のためにやれることがたくさんあるがゆえに、われわれの
 関係が不完全なままであることには、がまんできないのであるCロシアおよびロシア国
 民との米国の友情は不変である。われわれのパートナーシップは究極のところ、個人に
 ではなく、相互利益や共通の価値観に依存するのであるから、われわれは常に友情の手
 を広げ、心を開いているD成熟した民主主義と繁栄へのロシアの道に立ちはだかるあら
 ゆる障害が速やかに取り除かれることを期待したい――。

「法の支配」はいまだ不十分

 これらの諸点から引き出されるのは、第一に、プーチン大統領の「管理民主主義」に対
 する米国の不満が込められているかに見えることだ。そして、プーチン大統領の言う
 「法の支配」がいまだに不十分であるという主張。「友人だからこその発言」とパウエ
 ル長官は記者会見で弁明したが、これが四年間のプーチン政治に対する評価であるとす
 れば、大統領は内心穏やかではあるまい。

 第二に、Aで示唆しているのは、昨年の下院選挙戦でのメディアの偏向、プーチン与党
 統一ロシアの下院選圧勝と民主派諸政党の惨敗、チェチェン戦争に伴う人権弾圧、グル
 ジアやモルドバにあるロシア軍事基地の早期撤去拒否である。また、三権のバランスの
 欠如の指摘は、昨年十月のオリガルヒ、ホドルコフスキー逮捕を念頭に置いたものであ
 る。ブッシュ大統領はホドルコフスキー逮捕に至ったユコス事件の処理について昨年既
 に電話でプーチン大統領にクレームをつけたといわれている。

 第三に、チェチェン問題への言及についてパウエル長官はモスクワでの記者会見で「内
 政干渉ではない」と断っているが、ロシア側の受け取り方は違う。9・11事件以後、し
 ばらくは聞かれなかった欧米からのチェチェン戦争批判がまたぞろぶり返されているこ
 とにロシアはいら立っている。

 第四に、グルジア、モルドバといった独立国家共同体(CIS)諸国への米国の影響力
 拡大にロシアは格別神経をとがらせている。CISはロシアの安全保障圏だからだ。パ
 ウエル長官はグルジアのロシア軍基地早期撤去要求に同調する発言をしたが、軍事基地
 問題で米国が口出しすることにロシアでは強い反発がある。

 約二時間にわたるプーチン・パウエル会談で、国連がイラクにもっと関与すべきである
 との点で一致したという。周知のようにロシアは、ドイツ、フランス、中国などと並ん
 でイラク戦争に反対し、戦後復興への協力に消極的だ。パウエル訪ロの前後たまたま、
 「ブッシュの戦争」の大義を掘り崩す重大情報が米国から流され、ロシアのメディアも
 これらを大きく報道した。案の定というわけだ。ブッシュ政権誕生直後からイラク戦争
 は既に検討されていたとするオニール前司法長官の証言や開戦時にイラクでの大量破壊
 兵器(WMD)存在の可能性を否定したケイ前米中央情報局(CIA)顧問(イラクW
 MD調査団長)の発言である。昨年二月国連安保理でWMDの存在を断言したパウエル
 長官も「未解決の問題」と主張を大幅に後退させざるを得なかった。パウエル長官はそ
 の一方で、ロシア企業がイラクに武器を輸出していた問題は今なお残っていると言明し
 た。

ブッシュ陣営の選挙戦略か?

 ところで、十一月の米大統領選を控えて対ロ強硬路線が共和党、民主党のどちらの候補
 にとっても必要なことだといわれる。民主党有力候補はそろってブッシュ政権の対ロ政
 策の生ぬるさを批判している。こうした事情から、ロシアの内政干渉めいた一連のパウ
 エル発言は実は、再選を目指すブッシュ陣営の選挙戦略の一環ではないかとの見方も成
 り立つ。一方、三月の大統領選挙で再選が確実なプーチン大統領。彼は米国の次の指導
 者が確定するまでは、対米政策を大きく変えず、静観の構えを続けるのではないか。ま
 だ先の話だが、米大統領選後も、米ロ関係の冷却化が続くのかどうかが問題だ。ちなみ
 に、V・クレメニュク米国カナダ研究所副所長はパウエル訪ロを振り返って「クレムリ
 ンは米国の批判を一蹴(いっしゅう)するだろう。非民主主義の国だと言われてロシア
 はどう出るか。新しい冷戦が予想される」とコメントした。
         長岡大学教授 中澤 孝之 世界日報 ▽掲載許可済み
Kenzo Yamaoka


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