1497.日本の進路



件名:【寄稿】台湾独立問題と北朝鮮  

@ブッシュ・温家宝会談

 12月9日、ワシントンでブッシュ大統領は北京政府の温家宝首
相と会談し、台湾問題に関して「中国でも台湾でも、現状を変革す
る一方的な動きに反対する。台湾の指導者の言動は、現状を一方的
に変革する意思を示していると見られ、我々は反対する」と述べた。

 台湾の陳水扁総統は11月30日、台湾本土から600キロ内の
支那沿岸に合計496基の弾道ミサイルが配備されていることを指
摘し、中共の武力不行使を求める台湾国民による「住民投票」を来
年3月20日の総統選挙に併せて行うことを明らかにしている。

 ブッシュ大統領の、「現状維持」発言は北京政府に有利に働くも
ので、時間の経過は台湾独立側には不利に働く。2008年北京オ
リンピック、2010年上海万国博など、中共の国威発揚イベント
が今後7年内に予定され、小国台湾はそれまでに独立への道筋をつ
けない限り、中華ナショナリズムと膨大な経済力に併呑される懼れ
が強まる。ブッシュ政権は、中共を戦略的パートナーと呼んでいた
クリントン政権とは異なり、アメリカにとって21世紀最大の「競
争相手」として明確な包囲政策をとり、台湾に対しても2001年
4月にジーゼル潜水艦等総額40億ドルに上る兵器売却を行うなど
、一線を画する態度をとってきた。

こうした従来の親台湾的なブッシュの姿勢がなぜ変化したのだろうか。

A双子の赤字、そしてブッシュ・ファミリー
《2004年経済展望》では、日本政府の巨額の米国債購入による
米政府へのファイナンスの実態を検証したが、わが国に次ぐ世界第
二位の外貨準備保有国、中共政府も相当額の米国債を購入し、運用
している。中共の外貨準備高は6月末現在で3523億ドル、香港
が1000億ドルを超えるといわれている。日本は、9月末時点で
6048億ドルに上る。中共と香港は、この内50%前後を米国債
購入に当てていると見られており、米FRBはドルの安定、米国景
気の拡大のために中国人民銀行の協力関係を築いている。つまり、
米国の双子の赤字へのファイナンスは日本と中共のドル、米国債買
いに支えられている実態がある。北京政府は、対米輸出で稼いだ巨
額のドルを戦略的に使うことで米国に恩を着せ、台湾問題などで
一定の譲歩を引き出しているのだ。一時米大統領選挙の争点として
浮上した、中共からの輸入ラッシュが米国の雇用を奪うという問題
(人民元切り上げ問題)も、12月11日グリーンスパンFRB議
長が異論を唱え、ブッシュ政権の対中セーフガード発動を批判した
。つまり、グリーンスパンは中共から米国への資金環流の方を重視
しているのだ。

 温家宝の訪米にあわせるように、米マスコミはブッシュ兄弟の
中共との関係について報道を始めた。まず、ブッシュ大統領の3番
目の弟ニール・ブッシュが江沢民前中共主席の長男、江錦恒が上海
で経営するグレース・セミコンダクター社の「コンサルタント」と
して1999年から年間40万ドル、計200万ドルを受け取って
いることが明らかとなった。さらに、末弟のマーヴィン・ブッシュ
が経営する企業に、香港の北京派大物財界人李嘉誠が持つ長江実業
傘下の企業から投資を受け容れている、とも報じられている。これ
らはいずれも、初代駐北京米大使を務めた父ブッシュ元大統領のコ
ネクションで発生した人脈だ。ブッシュ父、ベーカー元国務長官ら
テキサス財閥最大の権益はサウジアラビア王族の資金運用だったが
、9・11事件以降大幅に取引が減り、今や中共に関する利権はブ
ッシュ父グループにとって貴重な収益源となっている。これらシナ
人が得意とする搦め手からの対ブッシュ工作が何らかの影響を米外
交政策に与えていることは、否定できないだろう。

B北朝鮮問題と中東民主化計画
 12月9日のブッシュ・温家宝会談は、同時に小泉のイラク派兵
決定記者会見の日でもあった。北京政府は、小泉があくまで憲法を
護り、丸腰で自衛隊員をイラクに派遣する、と発言したことに満足
した模様だ。さらに、米国防省が在韓米軍撤退の一部実行(12月
3日より第2師団のイラクへの移動開始)や沖縄駐留米軍の見直し
を始めたことにも喜びを隠せないでいる。

 2002年9月に訪米し、ブッシュのクロフォード山荘で会談し
た江沢民が、中共首脳として初めて北朝鮮の核保持への反対を表明
した頃から、ブッシュ政権の台湾に対する態度に変化が見られるよ
うになった。おそらく、江沢民、そしてこれを引き継いだ胡錦濤は
、あらゆる手段を使って金正日を排除することをブッシュに約束し
たものと思われる。その対価として台湾独立へのアメリカの関与や
支持を行わないよう要請したのではないか。

 ブッシュ政権、特にネオ・コン派は、悪の枢軸北朝鮮打倒を唱え
るものの、本音はイラクに次いでシリア、サウジアラビア、イラン
などイスラエルの安全を脅かす諸国の平定、民主化推進が最大の狙
いであり、金正日が排除されて北朝鮮が核兵器やミサイルをこれら
中東諸国に輸出さえしなければ、当面構わないのである。もちろん
、パウエル国務長官など、国際協調派は、北京政府との協調を通じ
て金正日が排除されれば成功と考える。

 中共は北朝鮮の使う石油・石炭の80%の供給を押さえ、食糧支
援も相当額行っている。北朝鮮軍への影響力も絶大といわれており
、その気になれば金正日個人の排除は可能と見られている。胡錦濤
政権は、ぎりぎりアメリカに恩を売りながら、最終的にはベトナム
に仕掛けた懲罰戦争のように、人民解放軍を北朝鮮に進駐させても
金体制を崩壊させるだろう。

 アメリカの21世紀最大の敵としての中共の位置づけは、中共一
党独裁体制が潰れない限り、不変である。しかし、中東全域の民主
化という第4次世界大戦を遂行中のアメリカにとって、短・中期的
に米中対決は避けたい。その取引材料として北朝鮮と台湾、そして
在韓、在日米軍の存在が俎上に上っているのである。野間 健
Kenzo Yamaoka
==============================
件名:日印のより密接な関係を  

2つの国際会議で思うこと/アジアに占める大きな位置
連続して開かれた有意義な会

 十二月になり、世の中は日本のイラクへの自衛隊派遣が是か非か
で大騒ぎしている中、私は二つの有意義な国際会議で久しぶりに刺
激を受け、大変満足した。一つは毛里和子先生が中心となって行わ
れた早稲田大学COE―CASオフィス主催の「グローバリゼーシ
ョンとアジア―アジアの独自性とは何か―」というテーマの会議。
毛里先生はじめアメリカ、プリンストン大学のギルバート・ローズ
マン教授による「東アジアにおける国家のアイデンティティー――
グローバリゼーションの影で」という基調講演、さらには中国の
復旦大学国際関係教授、林尚立教授の「中国の論理:『東アジアモ
デル』観と政治変容」という報告を受けて早稲田大学の面々が加わ
り、ディスカッションが行われた。

 岡倉天心の「アジアは一つ」から始まり、ASIANE―SS
つまりアジア性を学術的、歴史的に浮き彫りにしようとする毛里先
生の試みは、日ごろからアジアを意識している私にとっては極めて
有意義であり、また早稲田大学の先駆性ともいうのか、学問におい
てまた学問を通じて世を啓もうしていこうとするリーダーシップを
感じた。会場で無料配布していた豪華な資料も、内容が充実してい
るだけではなく、十分な予算を使うことによるこの研究課題への意
気込みをつくづく感じた。しかし私にとって唯一の不足は、アジア
というタイトルの割には、ほとんど東アジアに重点が置かれていた
部分だが、この点についても冒頭で毛里先生ご自身も弁明しておら
れた。

 幸いにして翌十二月八日は外務省主催で「インド・台頭するグロ
ーバルパワー<新時代の日印協力戦略>」と題する会議が、外務省
きってのインド通というよりインドの理解者と言うべき元駐インド
大使・谷野作太郎氏と、それこそ長い間インドの政治を分析してき
た専修大学の広瀬崇子教授がモデレーターを務めて進行された。
紙面の関係上、参加者とテーマのみ紹介したいと思う。

<T>インドの戦略的重要性
1.転換するインドの対外戦略/ラージャーモーハン・ネルー大学教授
2.米国はなぜインドを重視するのか/スティーブン・コーエン・
    ブルッキングス研究所主任研究員
3.台頭するインド:中国の視点/宮 少朋・外交学院国際関係研究所教授
4.戦略的観点からの日印関係強化/石川 好・秋田公立美術工芸
                                                短期大学学長

<U>今後の日印協力の展開
1.アジア市場統合と日印経済関係の拡大/N・K・シン計画委員会委員
2.安全保障分野における日印の協力/岡本行夫 岡本アソシエイツ代表取締役
3.軍縮、不拡散問題への取り組み/ラージャー・メノン退役海軍少将
4.国連とその他の国際場裏における日印協力/明石 康・日本紛争
                                                 予防センター会長

互いに関係改善に努める中印

 私にとって特に興味深かったのは、中国の宮教授の「インドは中
国にとって脅威ではなく、共に栄え、発展することがアジアひいて
は世界のためである」という内容の発言だった。私はコーヒーブレ
イクの時、直接宮教授に「インドが中国にとって脅威でないのはイ
ンドが弱いからですか? それともインドが他の国を侵略したこと
のない平和主義者だからですか」という質問をしたが、もちろん教
授ははっきりとは答えず、何となく世間話のようなものでお茶を濁
した感じを受けた。従って教授の発言は本音であるにせよないにせ
よ、インドが気になる存在になってきていること、そして少なくと
も現在、インドと中国はお互いに経済交流を深め、関係改善に努め
ているという事実だけは浮き彫りになってきた。

 インド側も盛んに中国との交流は有益であり、この二年間で貿易
が三倍に伸びていること、しかも今のところインドの方に有利に展
開していることを強調していた。日本はしきりに中国の安い労働を
強調するが、その中国は現在多くのものをインドに発注しているこ
とに会場の日本人も驚いているようだった。また作家で大学の学長
を務めている石川好氏は草の根的交流を強調し、先の日中国交三十
周年および日印五十周年の両方の委員を務めた経験に基づいて、日
本人のインドに対する関心の無さ、特に企業の関心が無いことを披
露し、戦略的に日本がインドに対して積極的に働きかけるべきだと
力説し、一つの例として日中間には週七十便以上飛行機が飛んでい
るのに、インドへはその十分の一にも満たないのではないか、また
姉妹都市の数も数十倍の格差があることにも触れていた。

 明石会長は、「今まで二度インドと日本はお互いに片思いをし、
結局愛は実らぬままになっている。今度は三回目で相思相愛の結婚
にまで発展することを望む」という、極めて前向きな発言をされた
。長年両国の関係を見つめ、日印の関係が密接になってアジアや世
界にふさわしい役割を果たすことを願って講演、執筆活動をしてき
た私としては、心がわくわくするほどうれしい傾向だったが、同時
にこれらの公職におられた方々が、学術的にも理論的に完璧に近い
展開をされている中、自らの浅学をさらけ出し、またせっかく盛り
上がってきたところに水を差してはならないと思いつつ、両国の基
本姿勢、特にお互いの文化や官僚的体質さらには教育分野に関して
、つい会場から発言をしてしまった。

大きな動きが始まる期待感

 幸いにして関係者も、少なくとも私の意図とするものが悪意でな
いことは理解していただけたようでほっとした。夕方、外務省の迎
賓館で行われたレセプションでも、さらに深い意見交換をする機会
に恵まれ、何かやっと大きな動きが始まったような期待感を抱いた
。レセプションの場で外務大臣に代わってあいさつに立った荒井政
務官は、ご自分のオフィスに飾っている奈良興福寺に鎮座される無
著菩薩像の写真を持参し、「この方の教えの流れが中国経由で日本
に伝わり、日本の仏教に大きな貢献をした。また日本の東大寺建立
の際の大導師はインド人で初めて日本に来た方だった。つまり中国
を通して日本とインドの関係は始まっており、今回また中国がきっ
かけとなってインドと日本が新たな出発をしようとしていることが
極めて意義深い」という趣旨のあいさつをされた。
 中国ならばさっそくこの関係のきずなを一つの柱にし、友好親善
のさまざまな行事を展開するだろう。インドがそこまでチャンスを
生かせるか疑問は残るが、しかし政務官の心遣いに私は感銘を受け
た。岐阜女子大学教授、南アジア研究センター長 ペマ・ギャルポ
  (世界日報・△掲載許可済)
Kenzo Yamaoka
==============================
件名:指導要領改訂/「ゆとり」に代わる理念確立を  

 文部科学省が小中高校で学ぶ内容を定めた学習指導要領を一部改訂した。
 指導要領は「すべての児童生徒に対して指導する内容の範囲などを示したもの」と説明
 し、教える最低基準であると定義。その上で、各教科の教える範囲を制限する「歯止め
 規定」は残すが、新たに「必要がある場合は、この事項にかかわらず指導することがで
 きる」と、発展的な学習を認める内容を付け加えた。

社会規範身に付けてこそ

 「ゆとり教育」を本格的に進めるために、学習内容を三割削減した現行の指導要領が導
 入されたのは平成十四年度からだ。ところが、この指導要領では、低下傾向にある子供
 の学力をさらに低下させてしまう、と批判が高まった。これを受けて、文科省はすでに
 習熟度別授業などの学力向上プランを実施に移していた。

 今回の改訂はこうした現状を追認したもので、ゆとり教育を掲げた指導要領はわずか二
 年で正式に見直されたことになる。

 ゆとり教育が目指したものは、主体的に考える力、つまり「生きる力」を子供たちに身
 に付けさせることだった。

 しかし、それはしっかりとした基礎学力があってこそ育つものだ。主要科目まで一律に
 三割も削減した指導要領では学力どころか、生きる力も身に付かず、共倒れになってし
 まう。今回、指導要領が改正されたのは当然と言える。

 だが、ゆとり教育は学力低下を招くだけでなく、さらに大きな問題点を抱えていること
 を忘れてはならない。ゆとり教育を支えるのは「子供中心主義」と呼ばれる教育理論だ。

 よく「子供が主人公」という言葉で表されるこの考え方は、教師を子供の「支援者」あ
 るいは「伴奏者」と位置付けている。その一方で、しつけ・道徳などの規範教育は大人
 からの価値観の押し付けであり、子供の可能性の芽を摘むものだとして否定するのであ
 る。

 少年犯罪の凶悪化、低年齢化が叫ばれる中、いま学校教育、特に義務教育に求められて
 いるのは学力向上以上に、自己中心的な欲求を抑えることのできる社会規範を子供に身
 に付けさせることだ。子供中心の教育を続けていく限り、義務教育はこうした社会の要
 請に応えることはできないだろう。

 考える力が基礎学力の上に育つのと同じように、人間の個性は社会規範が身に付いてこ
 そ開花するものだ。

 それゆえ、わが国の学校教育を根本から立て直すには、学力向上のための指導要領の改
 訂から一歩踏み込み、学校現場に浸透する子供中心主義と決別する必要がある。学力向
 上と人格教育を調和させる新たな教育理念を確立することが不可欠である。

 今回の指導要領の改訂では、ゆとり教育の核となっている「総合的な学習の時間」で、
 各学校が全体計画や目標を作成することも規定した。

 総合学習の時間は子供たちが自ら考える能動性を高めることを建前に、新しく設けられ
 た時間だ。しかし、教科の枠にとらわれずに教師の創意工夫で行うことができるため、
 この時間を使って、政治的に偏向した授業を行う教師もいる。また、全国的な広がりを
 見せている過激な性教育も、この時間に行われることが多い。

=文科省は明確な指針示せ=

 総合学習の時間の使い方を、教師だけに任せるのでなく校長が指導するのは当然だが、
 偏向教育や過激な性教育が行えないよう、文科省が明確な指針を示すべきだ。
  (世界日報)△掲載許可済です

Kenzo Yamaoka


コラム目次に戻る
トップページに戻る