1473.目覚めよ! ユーラシア時代の両生類



YS/2003.12.10


目覚めよ! ユーラシア時代の両生類



「東欧を制するものはハートランドを制し、ハートランドを制する
ものは世界島を制し、世界島を制するものは世界を制す。」

・・・ハルフォード・マッキンダー(英 1861−1947)

注 ハートランド=ユーラシア大陸内部、世界島=ヨーロッパ・ア
ジア・アフリカ)


「リムランドを制するものはユーラシアを制し、ユーラシアを制す
るものは世界の運命を制す」

・・・ニコラス・スパイクマン(オランダ系米国人 1893−1
943)

注 リムランド=ランド・パワー(大陸勢力)とシー・パワー(海
洋勢力)が接触している地域)


 マッキンダーは、世界島の中央部でシー・パワーの力が及ばない
ユーラシア北部を「ハートランド」と名付け、鉄道や道路などの陸
上交通や通信技術が発展すれば、ランド・パワーが沿岸地域に及ん
でいるシー・パワーを駆逐し、圧倒することになると主張した。マ
ッキンダーとスパイクマンの唱えた理論は、二つの世界大戦を経て、
米国の伝統的なモンロー主義を転換させ、東西冷戦時代における米
国の「ソ連封じ込め政策」に大きな影響を与えることになる。

 その後「リムランド理論」は、ニューヨーク市立大学のソール・
コーエンらによって、より柔軟なモデルへの修正も試されるが、今
なおマッキンダーやスパイクマンの主張は米国の外交戦略に強い影
響を及ぼしている。そして、冷戦終結後の今、かつてのソ連に代わ
って、21世紀のユーラシアを制し、世界の運命を制すことになる
存在が姿を現し、米国を根底から揺さぶり始めている。

 2002年1月、外交問題評議会(CFR)は外交政策と経済政
策間のギャップを埋めるためにレスリー・H・ゲルブ(CFR名誉
会長)、モーリス・R・グリーンバーグ(CFR名誉副理事長/米
最大手保険会社のAIGグループ)、デビッド・ロックフェラー(
CFR名誉理事長)、ピーター・G・ピーターソン(CFR理事長
/ニクソン政権商務長官)らが中心となって「モーリス・R・グリ
ーンバーグ地経学研究センター」を設立する。ポール・ボルカーも
2002年7月までこの「モーリス・R・グリーンバーグ地経学研
究センター」のシニア・フェローを務めており、アドバイザリー・
ボード会長にはグリーンバーグ、そして同メンバーにはロックフェ
ラー、ピーターソン、カーラ・H・ヒルズ(CFR副理事長/ブッ
シュ父政権通商代表部代表)、ロバート・E・ルービン(CFR副
理事長/クリントン政権財務長官)、リチャード・N・ハース(C
FR会長/ブッシュ政権国務省政策企画局長)、ブレント・スコウ
クロフト(フォード、ブッシュ父政権国家安全保障問題担当大統領
補佐官)やウィンストン・ロード(クリントン政権国務次官補)な
ど20世紀の米国を支えてきた超党派のエスタブリッシュメントが
ずらりと顔を揃えている。

 外交問題評議会の地経学研究部門の新設は、かつての軍事大国ソ
連の経済的崩壊により、20世紀の国際政治を動かしてきた地政学
の経済的要因にウェイトを置いた地経学への関心の高さを示すもの
として注目される。21世紀を地政学から地経学への移行として語
られることも多いが、これまでの地政学も経済的要因を包括してお
り、地経学の関心の高まりは、地政学の再評価に繋がることになり
そうだ。

 ブッシュ政権の政策には地政学と地経学の影響が明確に表れてい
る。そして、ソ連の崩壊を自国の姿と重ね合わせているかのような
「焦り」もあるのかもしれない。ここに対イラク戦に踏み込まざる
を得なかった原因が隠されている。


■「悪の枢軸」と「新旧欧州分断作戦」

 ブッシュ大統領の2002年1月の一般教書演説でイラク・イラ
ン・北朝鮮を「悪の枢軸」と定義したが、単に「テロ封じ込め」を
意味するのではなく、「リムランド理論」の延長上に位置付けられ
ていた可能性がある。従って、この「悪の枢軸」発言は、ロシア、
中国、そして拡大するEUに対して発せられた「ユーラシア封じ込
め」的な警告と捉えることもできる。世界の運命を制するユーラシ
ア連合の出現は、これまでの米国覇権を揺るがしかねない。米国の
中長期的な攻撃目標を「悪の枢軸」発言によって明らかにし、時に
は先制攻撃も辞さずとするブッシュ・ドクトリンによって強い決意
を示し、そして実行に移されたのが対イラク戦争であった。

 イラン・イラクはマネーを生み出す石油・天然ガスの宝庫である
中東地域をEU、ロシア、中国から奪回することを目指し、北朝鮮
では、連携を強めるロシア、中国、日本、韓国間の緊張を生みだす
のと同時に、EUの中国、韓国、そして日本への更なる東方拡大を
防ぐ目的が考えられる。特に北朝鮮は、米国の北東アジア戦略の根
幹に関わるため、より長期的な緊張こそが米国の狙いであろう。従
って、ブッシュ政権が主導権を握る限り、北朝鮮問題の解決はあり
得ない。つまり、日本が拉致問題を含めた北朝鮮問題を解決するた
めには、米国の戦略を認識した上で、交渉の場に国連やEUを引き
込む努力が求められる。この点で小泉政権の戦略には重大な欠陥が
ある。

 EU(欧州連合)は来年5月、中・東欧諸国などを加えた25カ
国体制により、総人口約4億5000万人の大欧州に生まれ変わる。
ラムズフェルド国防長官が、再三にわたってフランス・ドイツ・ベ
ルギーなどを「古い欧州」と決めつけ、対イラク戦でアメリカ支持
にまわった中東欧諸国を「新しい欧州」として味方に引き入れる発
言は、大欧州の分断戦略に他ならない。つまり、ブッシュ政権が2
002年9月に発表した新国家安全保障戦略(ブッシュ・ドクトリ
ン)における「米国の力を凌駕しようとする潜在的な敵国は思いと
どまらせる」対象に、拡大する欧州も含まれていたのである。

地図
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/map.html

EU加盟国と地図
 
●現加盟国    
15か国:ベルギー、デンマーク、ドイツ、ギリシャ、スペイン、
フランス、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、
オーストリア、ポルトガル、フィンランド、スウェーデン、英国

●2004年第五次拡大
キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトヴィア、リトア
ニア、マルタ、ポーランド、スロヴァキア、スロヴェニア
 
●ユーロ参加国 (12カ国)
ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、アイルラン
ド、オーストリア、フィンランド、ベルギー、オランダ、ルクセン
ブルク、ギリシャ


■対イラク戦は、ネオコン vs 古い欧州 + 国連

 2003年2月21日、モーリス・ストロング国連北朝鮮問題担
当特別顧問(トヨタ・インターナショナル・アドバイザリー・ボー
ド・メンバー)は安倍晋三官房副長官(当時)と会談し、国連が北
朝鮮に対し食糧支援を行う方針を伝え、協力を打診するが、安倍副
長官は日本人拉致問題をめぐる日本側の立場を説明した上で、食糧
支援には拉致被害者5人の家族の早期帰国が最低限のハードルだと
の否定的見解を示す。 また、日本政府が過去に計約120万トン
のコメ支援を行ったことを強調したうえで、「実際に一般国民に行
き渡ったかどうか疑わしい」と世界食糧計画(WFP)のモニタリ
ングのあり方にも疑問を呈したようだ。

 しかし、安倍晋三官房副長官の姿勢は、これまでの日本のコメ支
援が武器としての戦略性を欠いたことを認めるものであり、WFP
への疑問などは米ネオコンの主張と変わりがなく、日本のネオコン
と呼ばれても仕方がない。むしろ国連流の「武器としての食料戦略」
をモーリス・ストロングに聞いてみる方が得策だったのかもしれな
い。その実施例は古くは米国によって日本の戦後食料戦略に適用さ
れたが、最近では国連のイラクへのオイル・フォー・フード計画(石
油食料交換計画)などが参考になるだろう。ここに、対イラク戦を
回避できなかった理由がある。

 ネオコンに乗っ取られつつある米ウォールストリート・ジャーナ
ル紙で、クローディア・ロゼットはコラム「コフィー・アナンダー
セン」を掲載する(2002年9月25日付)。コフィー・アナン
国連事務総長とエンロン・スキャンダルで責任を問われた米名門会
計事務所アンダーセンを組み合わせたものだが、オイル・フォー・フ
ード計画には国連本部の120名以外にも、900人の国際職員と
3000人のイラク人が従事しており、まるで国連による雇用創設
計画のようだと皮肉り、フセインは得た資金で政権基盤を維持し、
ミサイル技術や軍事物資を購入しているとして、資金の使い方にも
不透明感があると指摘する。そしてオイル・フォー・フード計画はエ
ンロン・スタイルだと批判した。確かに国連の資料を見る限り不透
明感があるのも事実だが、ネオコンの国連嫌いを象徴する内容とな
っている。

 国連のオイル・フォー・フード計画が開始されたのは1996年1
2月、湾岸戦争で経済制裁を科されたイラクに対し、人道目的に限
って制裁を部分解除した。国連管理下で石油を輸出し、得られた資
金で食料・医薬品などの人道物資をイラク国民に配給する制度であ
る。計画名から食料だけを想像しがちだが、食料以外に医薬品、そ
して電力、上下水道、教育関連施設などのインフラ整備に関連する
ものが加えられていく。

 国連の資料によると、1996年12月から2003年3月まで
イラクが輸出した石油は約34億バレルで約650億ドルに相当し
ている。この内72%が人道援助に割り当てられ、25%がクウェ
イトへの戦時賠償金、2.2%が国連経費、0.8%が国連の武器
査察に割り当てたとしている。

 共同通信によれば、開戦前に国連要員が撤収したことから業務が
中断し、さらにフセイン政権崩壊で石油管理者が不在となったため、
計画実施の遅れが顕著となっており、イラクへの輸送を待つ物資は
100億ドル規模に上るとしている。また、実施期限である200
3年6月3日までに輸送される見通しが固まった物資は約5億50
00万ドル相当にとどまっており、「国連が管理する口座」には使
途が決まっていない資金32億ドルが保管されている上、70億ド
ル相当の石油売買契約が既に認可されているとしている。ここで問
題となるのは「国連が管理する口座」である。

■国連と古い欧州のユーロ・ドミノ化戦略

 国連発表の資料によれば、やはり「国連が管理する口座」とは、
パリ国立銀行(BNP)ニューヨーク支店であった。パリ国立銀行、
つまり2000年5月にパリ国立銀行とパリバが合併して誕生した
フランスを代表する大手銀行BNPパリバが管理しているのでる。
しかも実際はドルではなく、一部はユーロで管理されているはずだ。

 2000年10月、フセインは原油代金を「敵国通貨」のドルで
はなくユーロで受け取ると迫り、認めなければ原油輸出を止めると
脅したため、国連安保理のイラク制裁委員会はこれを承認すること
になる。背景にはフランスなど欧州主要国の働きかけがあったとの
説が根強く、ユーロ相場をテコ入れしたい欧州勢と、欧州を後ろ盾
に米国をけん制しようとするフセインの思惑が一致して実現したよ
うだ。 

 それまで原油取引はドル建てが既定事実となっており、フセイン
はそれまでの「ドル一極体制」に風穴をあけたのである。フセイン
が風穴をあけたユーロ決済は、その後サウジアラビア、インドネシ
アやマレーシアなどへも波及することになる。国連の管理銀行がB
NPパリバであったことを考えれば、国連と欧州勢は協調しながら
「ドル・ユーロ二極体制」実現に向けて、環境戦略と並ぶ通貨戦略
としてフセインの石油を利用した可能性が高い。

 BNPパリバの2002年度版アニュアル・レポートによれば、
BNPパリバとフランスを代表する石油メジャー・トタルは、二人
の人物が両方の会社の取締役を努めており、二件の取締役兼任で結
合している。つまり情報を共有できる関係にある。そして両社とも
フランス株式会社の中核企業である。

 こうした背景から、対イラク戦は、フランス勢率いる「古い欧州」
と国連が主導する中東地域での「ユーロ・ドミノ化」を阻止するた
めに、米国が力ずくで行使したと見ることもできるのである。そし
て国連と「古い欧州」を敵と見なしたのは、明らかにネオコンと古
き良き時代に浸る攻撃的ビジネス・リアリストの一部に存在するネ
オコン同調者であろう。

■古い欧州の21世紀ソフト・パワー戦略

 EUも軍事・防衛分野では北大西洋条約機構(NATO)に依存
せざるを得ず、国連を大幅に改革しない限り米国の代わりを務める
ことはできない。20世紀同様、世界の警察官として米国を巧みに
操りながら、経済に特化した戦略を組み立てているようだ。ただし、
長期的には国連を軸とした軍事産業の再編、民間軍事会社の積極的
活用によって国連の軍事力強化に向けた取組が始まる可能性は無視
できない。

 ミスター・ソフト・パワーことジョゼフ・S・ナイ・ハーバード
大学ケネディ・スクール(行政大学院)院長は、一貫してブッシュ
政権のユニラテラリズムを批判してきたが、彼の唱えた文化、イデ
オロギー、制度的魅力に根差したソフト・パワーによる世界戦略は、
皮肉にもEUに受け継がれることになりそうだ。そもそも、たった
200年そこそこの歴史しかない米国は、若さをパワーに変えて成
長を遂げてきたのであり、ソフト・パワーとは相容れない側面もあ
る。むしろ、映画、音楽、そしてマクドナルドに象徴されるように、
20世紀中にソフト・パワーを使い果たしたようにも見える。その
歴史的弱点を補うがごとく、軍事力というハード・パワーに依存せ
ざるを得なかった。そして、今後も軍産複合体制維持という制度的
しがらみからは解放されそうにない。国連の軍事力強化は米国にと
っても、しがらみから脱却できる機会とも成り得るが、その時に受
け入れるだけの余力が残されているかどうかが問題となるだろう。

 現実的に考えれば、今後じっくり時間をかけて、EUはNATO
との関連から米国との協調関係を維持しつつ、ユーロ・環境を武器
に金融、経済面でリーダーシップの確立を目指すことになる。そし
てハード・パワーの米国とソフト・パワーのEUとの相互依存によ
る共同覇権体制を確立し、中国を軸とするアジア圏と向き合うこと
になる。現在のネオコン主導の混乱は、米・欧による共同覇権体制
の確立への最後の抵抗であり、むしろ加速させる結果になるだろう。

 日本の古都の名を冠した京都議定書に象徴されているように、二
つの勢力のなわばり争いは当初から日本にも向けられている。そし
て、ユーロ・環境に続く第三波(ガリレオという名のスペース・パ
ワー)、第四波(ユーラシア内巨大鉄道・道路網)もすでに用意さ
れているのである。

■ブレジンスキーの警告

 2001年9月11日の同時多発テロを契機に始まったアフガニ
スタンからイラクへと続く戦争、そしてリムランドの重要地域であ
るイラク・イラン・北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだ背景には、米国
の拡大を続けるEU、特にユーロ圏拡大に対する地政学的な「封じ
込め政策」がある。今後、ブレジンスキー元大統領補佐官が名付け
た「ユーラシア・バルカン(カザフスタン、キルギスタン、タジキ
スタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャン、
アルメニア、グルジア、アフガニスタン、そして、トルコ、イラン)
」一帯の緊張も、より一層高まることになるだろう。2003年1
1月のグルジアで起きた無血政変で大統領の座を追われたシェワル
ナゼ前大統領は、十五年来の友人であるベーカー元国務長官の裏切
りを口にする。米・欧の狭間でしたたかに泳ぎ回るロシア、そして
中国の思惑も絡みながら、リムランド一帯の不安定な状況が続くこ
とになる。そして、新たな「悪の枢軸」が追加される可能性も高い。

 対イラク戦によって圧倒的な軍事力を見せつけることで、米国率
いるシー・パワー連合国である英国、日本、スペイン、オーストラ
リア、そしてEU内部のポーランドを中心とする「新しい欧州」と
の結束を強める狙いがあったが、戦争の大義が問われ、早期終結す
るはずの戦争も泥沼化している。結果としてシー・パワー連合国内
部でも米国への信頼を揺るがしかねない状況になっている。おそら
く英国のユーロ参加問題も再浮上し、より現実味を帯びてくるだろ
う。

 このことは、対イラク戦を主導したネオコンの目算が狂ったのか
?−それともEU拡大の加速こそが彼らの真の狙いであったのか?
−おそらくこの回答は歴史の裏側に葬り去られることになるだろう。
しかし、ネオコンの人脈をたどれば、加速こそが彼らの真の狙いで
あった可能性が無いとは言い切れない。だとすれば、対イラク戦が
ネオコンによって主導された米国による米国の自爆テロということ
になる。

 ブレジンスキー元大統領補佐官が2003年11月に外交問題評
議会で行われたインタビューで次のように発言している(一部抜粋)。

「アフガニスタン、イラクでの勝利を経て、世界規模での軍事展開
能力を持つ唯一の国がアメリカであることが実証された。軍事力を
信頼できる形でグローバルに展開できる国は他にはない。しかし、
世論調査、諸外国政府の反応、アメリカ人ジャーナリストの外国か
らの報道など、いかなる指標をもってしても、今日のアメリカは国
際的な信頼を失っている。世界におけるアメリカの政治的な立場は
これまでになく低下している。イラクが大量破壊兵器(WMD)を
保有していると詳細に説明し、(これまでのところWMDが発見さ
れていないために)、世界の他の諸国がアメリカに寄せていた信頼
が失われてしまった。これはアメリカの世界での役割を大きく損な
う深刻な事態である。 」

「こうした不幸な状況を是正していくための措置は数多くある。大
枠で、穏健さと超党派合意を旨とする外交政策へと立ち返ることが
先決だ。現在のアメリカの外交政策は共和党内の極端な見解、つま
りは、キリスト教原理主義といわゆるネオコンの戦略観に支配され
ている。」

「私が最近世論の場で発言をしたのは、アメリカの世界における役
割について純粋に心配しているからだ。現政権の最近の政策路線、
政策の実行の仕方、政策を説明する際に使用されるボキャブラリー、
テロという特定の問題にばかりこだわる姿勢は、アメリカが本来世
界で果たすべき役割を大きく損なってしまっていると考えている。
これは危険な兆候だ。・・・ 」


■結論

 現在、ブレジンスキー元大統領補佐官の発言に見られるように、
米国内で様々な分野からネオコンやキリスト教原理主義の分析が進
められている。特にアカデミック・リアリストの大物達が超党派で
反ネオコン組織を続々と立ち上げ、ネオコンの暴走に歯止めをかけ
ようとしている。

 それにも関わらず、小泉首相や石破防衛庁長官が語るイラクの民
主化そして人道主義には、キリスト教原理主義とネオコンの戦略観
に支配されているとしか思えない。このふたりのネオコン教信者こ
そが、日本の国益を踏みにじる存在になる可能性がある。冷戦が終
わったことさえ気付いていない日本の政治家や識者の多くは、今ま
さに世界中で高まる日本の文化・歴史・古神道的宗教観・自然観へ
の期待を踏みにじるばかりか、時代遅れのハード・パワー国家を主
導するのだろうか。

 緩やかな「ドル・ユーロ二極体制」と「米・欧共同覇権体制」へ
の移行は、米欧グローバル・ビジネス・リアリスト、国連、国際金
融界ではある程度の合意を得ている。本当に怒らせてはいけない相
手は、最短4年最長8年に過ぎないブッシュ政権ではなく、移行を
推進する米欧にまたがる一握りの集団であることは、もはや常識の
範疇である。

 イラクへの自衛隊派遣を巡って国際協調を訴えるのであれば、派
遣する前に小泉首相や石破防衛庁長官の二人が自らブリュッセルに
出向き、生きた情報を入手すべきだ。貴重な命を預かるものとして
当然のことだろう。米国との関係を重視しつつ、大欧州に向き合う
時が来た。時代が大きく動こうとしている今こそ、慎重に対処すべ
きであろう。我々日本人に刻まれた両生類的遺伝子が生かされる絶
好の機会を見逃すべきではない。




■引用
アメリカは国際社会の信頼を失っている
Brzezinski: America Lacks International Credibility
http://www.foreignaffairsj.co.jp/source/CFR-Interview/brzezinski.htm
==============================
件名:「国家の正義」とは何か  

日本の精神的国是は慈悲の心・イラク戦争加担は国家理念に矛盾

憲法という根本規範が指標に
 イラク戦争以来、日本国民がもっともなおざりにしているのは「
国家とは何か」という本質的問いである。

 「正義の実現」――これが国家の唯一の目的であることはいうま
でもない。しかも、その「正義」は道徳的・倫理的理念と公正・平
等な社会規範とによって意義づけられ制約されねばならない。ゆえ
に、いかなる国家も普遍的道徳を無視した殺生・侵略・差別・迫害
等を行う活動は許されない。わが国の場合、その道義と拘束力は憲
法という根本規範によって集約され「反戦平和・公正・公平・平等
」とが国家指標として明示されている。

 対外的・対内的に防衛と秩序のための国家活動を発動し実行しよ
うとする時は、この根本規範に従属されねばならない。仮に超国家
的機構(例えば国連)の一員となり、自国の国家理念や社会秩序規
範以上の決議や法秩序が定められたとしても、あくまでも日本国の
準拠すべき原理原則を離れてはならないのである。でなければ国家
を国家たらしめている基本理念と存立理由を失うことになる。これ
は違憲か合憲かの法解釈上の問題ではなく、国家それ自体の根幹に
かかわる危機のテーマなのである(異なる態度決定をするなら改憲
・廃憲したらよい)。

 小泉内閣と与党の対米協力と自衛隊派遣判断は、その意味で政治
による国家規範の否定、破壊的行為といってよい。「正義不在」の
イラク戦争に加担するという、国家理念と相矛盾した行動を「実力
の一元化」(多数与党)で実効化しようとする時、それは政治の死
を物語っている。国家利益や対外的防衛を第一義とする国家をヘー
ゲルは「夜警国家」と定義したが、小泉氏はこのレベルにまでわが
国の名誉を転落せしめている。国家目的とはあくまでも普遍的正義
の追求に置かねばならないのだ。

外交官の死への特別な対応
 二人の外交官の死に対する国家の対応もまた、はなはだしく「公
平」に反則するものといわねばならない。国家とは特定の省庁、公
務員、政治家のみによって成り立っているのだろうか。その人びと
は一般国民と異なる待遇をうける権利があってよいのだろうか。
 二人の殉国死を讃え弔意を示すのはよい。だが、何故に二階級特
進や叙勲、国家的葬儀が営まれねばならないのか。NPO(民間非
営利団体)やNGO(非政府組織)、あるいはUN(国連)協力の
民間関係者の紛争地域での不慮の死に国家は、そこまで手厚く礼を
つくしたであろうか。例えば秋野豊氏の場合どうだったか。

 まさに、戦時中の軍人戦死者待遇と同じ国民差別で、「公正・公
平・平等の国家理念」に反するといえよう。空爆や原爆で死んでい
った多くの無辜の民と軍関係者、天皇制下の官僚を差別した戦時中
と今のわが国の国家理念および規範とは変わっていないのか。

 国民は何の疑いももたずに二外交官への国家の酬い方を受け入れ
ているが、そうした寛容さを政府は巧みに対イラク戦争と復興協力
の合法化に利用しているのであろう。しかし、それは決して犠牲者
を真に慰弔することにはならないと思う。むしろ、国家と国民の一
体性に格差と亀裂を招くことになる。

 いかなる「暴力」(悪罵・中傷・傷害・殺人等)も否定する――
それが日本人の「正義の倫理」でなくてはならない。その上に国家
と国民生活は基盤を置いているのである。

 現在、創価学会と新潮社との間で激しい相互批判が繰り返されて
いる。是非はともあれ聖教新聞掲載の「悪口・罵詈」には私も眉を
ひそめざるを得ない。たしかに「法華経」には「勧持品」の中で「
悪口・罵詈・刀杖」の加えられる受難と不惜身命が説かれている。

 だが、それに応える法華経信者の選ぶ道は「まさに忍ぶべし」で
あり、「常不軽菩薩品」の「敢て軽慢せず」に人びとを「但行礼拝
」する「忍辱の行」にあると思う。また、それが法華経行者の自覚
と自信であり、この徹底した忍耐心こそが公明党の反戦・平和の原
点ともなっているのであろう。にもかかわらず「悪口雑言」を綴り
、自衛隊派遣に賛成する学会・公明党は、結局、小泉氏の好戦的ド
グマに同調することになる。

「不殺生と忍苦」の仏陀の教え

 講和条約締結の際、スリランカ代表は法句経の一節「まこと 怨
みごころは いかなるすべをもつとも 怨みをいだくその日まで 
ひとの世にはやみがたし、ただ 怨みなきによりてこそ その怨み
はついに消ゆるべし」を日本全権団へ贈り復讐と怨念を捨てた平和
国家への再生を願った。釈尊は同胞シャカ族絶滅を前に木陰の元で
黙然と攻撃軍を盾過し、一族に不戦を守らせた。シャカ族は全滅さ
れてしまった。

 だが、この不殺生と忍苦の仏陀の教えこそが長い風雪を経て日本
人の慈悲心を育んできたのである。

 日本の国家理念の根底には仏教の慈悲無量心がある。聖徳太子以
来、それはわが国の精神的国是でもある。一言で言えば「忘己利他
」の心である。年金問題にしても徴収・分配の国民負担を論ずる前
に国政を司る国会議員が自らの受給抑制を示したらどうか。自利を
利他へすりかえてはならない。国家の基本認識を欠いた日本人は、
改めて国家指標の根本を見つめ、真の「正義」に目覚めてもらいた
いものである。評論家 高瀬 広居 世界日報 ▽掲載許可済です
Kenzo Yamaoka


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