1472.「リアリストたちの反乱」(その六)



「リアリストたちの反乱」(その六)

byコバケン 03-12/11
	
▼ミアシャイマーの追撃
原爆を使用したのは世界でただ一国、このアメリカだ!という爆弾
発言でネオコンたちのドギモを抜いたミアシャイマーは、さらにネ
オコンの切り札である「アメリカの正義」という幻想を、徹底的に
叩きのめす発言を続けた。

「原爆投下は、世界史上でも最も激しいレベルの空爆に続いて行わ
れたのだ!」「われわれは日本の住民を焼いて殺したのだ!」「
1945年の3月から9月の間に空襲で90万人を殺し、二つの原
爆を落としたのだ!」

あまりアメリカ人が聞きたくない史実である。しかしこれによって
ミアシャイマーが狙っていたのは、「アメリカは恐ろしいことがで
きる国なのだ、だから他の国は怖がってアメリカに歯向かってこな
いのだ」ということを知らしめることなのである。

すでに述べたように、ミアシャイマーにとってアメリカが「正義」
であるかどうかは、彼の「現実主義」(リアリズム)という流派の
分析には全く関係がない。彼にとってはすべての国家は単なる「国
家」であり、それ以上のものでもなければ、それ以下のものでもな
い。

よって、その行動のしかたはすべて同じであると考えるので、アメ
リカが怒ったときの恐ろしさ、アメリカの犯した罪などを発言で使
うことは、全く平気なのである。

▼ミアシャイマーはアメリカの左翼か?
ここまでの彼の発言を読んでみると、ミアシャイマーというのはア
メリカの左翼なのか?という気がしないわけでもない。アメリカの
あまり触れたくない過去の罪である、広島・長崎への原爆投下や東
京大空襲などに触れているのだから、当然そのように考えられても
おかしくはない。

しかし彼は徹頭徹尾、アメリカの右派/保守派なのである。その最
大の理由なのだが、彼は常にアメリカの「国益」(national interest)
のことしか考えておらず、その計算しか頭にないからである。

「なにをいうか、原爆投下の罪について発言したんだから、アメリ
カの『国益』を考えているとは言えないだろ?!」というのは、た
しかに正しいツッコミである。

ところが原爆について発言しようが、空爆について発言しようが、
ミアシャイマーの「国益計算」にとって全く支障がでない。なぜな
ら彼はすでに述べたように、アメリカを世界の他の国々とまったく
変わらない「一つの国家」としか考えていないからだ。

この単なる「一つの国家=アメリカ」の国益を最大限に引き上げる
ためにはどうしたらいいのか?これだけがミアシャイマーの唯一の
関心なのである。

ここから導き出される結論は何か。「アメリカの国力(経済力)を
温存しつつ、軍事バランスで常に優位に立て」ということである。
よってかなり極端にいえば、国力や軍事バランスという面で損がな
ければ、アメリカが何をしようとかまわない、ということにもなる
のだ。

これは核兵器の問題にもつながってくる。ミアシャイマーをはじめ
とする現代のリアリストたちは、厳重にしっかりと管理されるとい
う条件さえ満たせば、世界の国々に核の保有を認めたほうがむしろ
世界平和に役立つとさえ言っているのである。彼ほど有名な学者が
日本にまったく紹介されないのは、こういうところに原因があるの
かもしれない。

話をもどす。アメリカが日本に原爆を落としたことが道徳的に悪い
と匂わせながらも、この悪行が他国の恐怖を引き起こして、アメリ
カへの攻撃をためらわせる抑止力になった、サダムだって封じこめ
ることができる、だから余計な軍事行動を起こして国力を無駄遣い
するな、というのが、ここでのミアシャイマーの主張である。

まさに物理的・力学的な分析であるが、こういう分析は左派/自由
主義者(リベラル)にはとうていできない。ミアシャイマーは決し
て「道徳」や「正義」で物事を判断せず、軍事・安全保障を中心に
考えるバリバリの右派であり、国益優先主義者なのである。

▼北朝鮮、核の抑止力、そしてイラン
引き続いて「国際政治というのは、テーブルにおかれた最悪の選択
のどちらかをえらぶというとであると自分の生徒に教えている」と
発言したミアシャイマーは、現在のアメリカが直面している「イラ
ク侵攻」か「封じ込め」かという二つの選択肢であり、そのうちで
はやはり「封じ込め」のほうが良いと発言した。

もちろんクリストルが言ったように冷戦中の「キューバ危機」のよ
うな最悪の事態が起こりうる可能性はある。しかしそのようなこと
が起こる確率は非常に低い。たしかに封じ込めは大変かもしれない
が、できないことはない、というのだ。

これを証明するため、ミアシャイマーは「ブッシュ政権は北朝鮮に
対して明らかに封じ込め戦略をとっているじゃないか!」と指摘し
て、イラクも封じ込めできないワケがない、とその矛盾をズバリと
突いたのだ。

ところが「イラクのおかげで中東に核兵器がドミノ式に広まってし
まう!」というクリストルの主張には、とりあえず同意している。
この理由として、核兵器の抑止力や究極の防衛兵器としての特徴が
、世界中の国家にとって非常に魅力的であるからだ、と彼は説明し
たのである。こういう説明では、リアリストの本領を思う存分発揮
できる。

しかしそれでもミアシャイマーは、クリストルのように「イラクか
ら無理やり核兵器を取り上げろ!」ということは言わない。むしろ
アメリカがイラクに侵攻すれば中東の周辺国はますます不安になり
、逆にアメリカからの侵攻を防ぐ目的から次々と核兵器を持ち始め
るようになる、と見たからである。

しかもこの兆候がすでに見られており、イラクのアメリカ属国化に
対抗して、ロシアがイランに核を持たせようとしているのがそれだ
!として、ミアシャイマーは圧倒的な発言を締めくくったのである。

▼ブートの反論
ミアシャイマーのあとを続いて出番となったのが、ネオコンの若手
ホープ、マックス・ブートである。彼もクリストルと同様に早口で
声が小さく、ちょっと自信がないような感じである。当日の会場の
マイクのセッティングのせいかも知れないが、とにかく彼の声は聞
きづらい。

ミアシャイマーによって「アメリカの使命」や「正義」というカー
ドが使えないとわかったのか、ブートは「世界がアメリカをどう見
ているか」という一点に集中して議論を仕掛けてきた。

まずターゲットにしたのは、ウォルトとミアシャイマーの二人がフ
セインを「箱」(box)に閉じ込めておけ、と発言したことである。
これに対してブートは、「そんな消極的なやりかたで中東諸国のテ
ロリストはわれわれをどう見るかわかりますか?」と攻め立てたの
である。

ブートにとって一番気がかりなのは、こういったアメリカの消極的
な姿勢がテロ組織であるアル・カイダを増長させている、というこ
とである。ようするにアメリカがフセインを怖がって、敵に「弱さ
」(weakness)を見せてしまっているということなのだ。

この「弱さ」こそが、アル・カイダをニューヨークのテロ事件へと
駆り立てたという。この根拠として、ブートはオサマ・ビンラディ
ンがアル・カイダの隊員募集ビデオの中で「アメリカ軍はロシア軍
よりもはるかに弱い」と発言していたことや、ニューヨークのテロ
事件発生の時に中東の町は大騒ぎだったこと、ところがアメリカが
アフガニスタンを制圧したときに町は静まり返っていたことなどを
指摘した。

だから我々は弱さを見せてはならない、テロ組織を怖がらせるため
にもぜひ侵略すべし、ということなのである。ブートは最後に、ア
メリカはビンラディンの言うように「張子の虎」(a paper tiger)
ではいけないのだ、として発言をしめくくった。かなりマッチョな
議論の組み立て方である。

このブートの発言で、ひとまず最初の議論・反論の時間がおわった。
そしてそこから休憩をはさまず、すぐさま自由討論の時間に入るこ
とになった。実はここが今回の討論会のクライマックスとなり、ネ
オコン対リアリストの火花散るバトルが繰り広げられることになっ
たのである。

★以下、次号に続く。
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件名:イラク国内に浸透するイスラム・テロリスト  

 イスラム教信仰が背景に・生物・化学兵器使用の可能性も・国民
は「政教一致体制」望まず

 イラク駐在の二人の外務省職員が先月二十九日、フセイン・イラ
ク元大統領の故郷ティクリットで、テロリストの凶弾に倒れ、痛ま
しい最期を遂げた。犯人像はいまだ定かではないが、イスラム根本
主義過激派思想を信奉する国際テロ組織と手を結ぶ、旧フセイン政
権残存勢力によるテロとの見方が大勢だ。イラクは今や国際テロリ
ストと自由民主主義世界との決戦場と化している。
(カイロ・鈴木眞吉・世界日報)

 邦人外務省職員殺害事件については、四輪駆動車など三、四台の
車に分乗した武装グループが、参事官らの車両を取り囲み、身動き
できなくした上で、並走させた車から自動小銃を乱射したとの目撃
証言が相次いだことから、成功報酬目当ての「職業狙撃手」が雇わ
れたとの説や、手法が酷似していることから旧フセイン政権情報機
関員が関与したとの見方も出ている。いずれにしろ、情報網を強化
した「周到に準備されていたテロ」(米政府高官)との見方が大勢
で、旧フセイン政権残存勢力と国際テロ組織アルカイダなど外国人
テロリストが共闘する最近の一連のテロの傾向を見せている。

 双方の結び付きを裏付ける最新の報告書が一日、国連安全保障理
事会のテロ対策委員会監視グループによって公表された。その報告
によると、国際テロ組織アルカイダが、連合軍を「十字軍」とみな
して敵視する聖戦思想や活動が世界中のイスラム教過激派団体や若
いイスラム教徒たちの心をとらえて影響力を一段と拡大させて世界
各地でテロ攻撃を引き起こし、イラク戦争後は特に同国を拠点とし
て活動しつつあるとしている。

 イラクがウサマ・ビンラディン氏を崇拝する者たちの「格好の集
結地」「理想的戦場」と化しているとともに、アルカイダが今後、
生物・化学兵器を使用する可能性があるとも指摘、「(彼らは)兵
器の使用をすでに決定している」と言明した。

 特に、八月十九日バグダッドで発生した国連本部爆弾テロから、
十月二十七日の赤十字国際委員会現地本部テロまでの一連のテロは
、短時間に複数の標的を狙う、「組織化され、波状攻撃を仕掛ける
能力に富み、自爆テロをまぜた」アルカイダの攻撃の特徴が表れて
いると指摘、「無差別テロ」の特質にも言及した。

 このことは、現在のイラク国内で活動しているテロリストは、教
条的急進的イスラム聖典解釈を土台にイスラム法(シャリア)をそ
のまま適用したアフガン型イスラム国家建設を標榜(ひょうぼう)
する狂信的なグループおよび、その協力者となっていることを示し
ており、イラクは今や国際テロリストと自由民主主義世界との決戦
場と化していることを表している。

 ただ、英国の民間調査機関「オックスフォード・リサーチ・イン
ターナショナル」が一日公表した、バグダッド大の学生らがイラク
全土の家庭を訪問して対面形式で実施した世論調査結果によると、
宗教指導者を支持する人は70%を超えているものの、イスラム法に
基づく政教一致体制を望むと答えた人は1%未満で、今後の政治体
制については、90%が民主主義国家の樹立を望んでいる。

 このことはイスラム・テロリストおよびその同調者は、ごく一部
であることを示している。しかし、少数だからといってこのテロリ
ストを侮ることはできない。彼らはただのテロリストではなくイス
ラム・テロリストであって、死後の世界への確信からくる死を恐れ
ないイスラム教信仰を背景に持つテロリストであり、それは史上最
強の軍団になる可能性を秘めている。死を恐れない聖戦の威力を熟
知しているフセイン氏もビンラディン氏も、神とイスラム教を最大
限に利用している。

 国際社会が憂慮するように、彼らが大量破壊兵器を入手した場合
、武力で脅して、イラク、アフガンはおろか全世界を支配し、人類
は自由を奪われた恐怖政治の中に転落する可能性すら考えられる。
国連報告はその現実的危険性を指摘している。▽掲載許可済です
Kenzo Yamaoka


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