1459.米国のイラク占領政策の変化



米国のイラク占領政策に変化がある。そこを検討する。  Fより

ゲリラ活動が南部にまで拡大すると、10万の米軍でもイラクの治
安維持ができないことになるために、比較的友好的なシーア派と手
を組むしかない状況になっている。

シーア派はイランでも選挙を実施しているように、イスラム民主主
義体制の国家観がある。このため、暫定政府を確立したら、直ぐに
選挙をして、政府関係者を直接選挙で選出後、憲法制定をしたいと
いうことと、憲法はイスラム法をベースにするべきとイラクのシー
ア派では一番位の高いアリ・シスターニ師が言っている。

今まで、ネオコンや国防総省のラムズフェルドなどは、このイラン
のイスラム民主主義は近代民主主義とは違うので、認めがたいと言
っていた。中東の民主化は近代民主主義のことであると明言してい
た。しかし、それではシーア派とのゲリラ戦になり、日系米人の
シンセキ前陸軍参謀長が言っていたように30万人以上の軍が必要
になってしまう。

このため、パウエル国務長官は、イラクに多くを期待していないと
欧州の会議で語っている。イラクの体制はイラク人が決めることで
、米国は民主主義のお手伝いをするだけであると。この趣旨はシー
ア派と手を結ぶことにしたと私Fには聞こえる。

イランの核問題でもIAEAが非難決議を出したが、最初、米国は
どんどん進める方向から国連に持ち込まないという妥協した。この
ため国連での非難決議はない模様である。この態度変化も米国のイ
ランとの提携ができたためのような気がする。この意味することは
イラクのシーア派からイランのシーア派へ米国と友好を保てという
指示を出してほしいためであろう。

しかし、反対に、もし、シーア派が反米闘争に本格的に乗り出すと
、イラクとシリアはバックアップするために、今はスンニ派地域が
ゲリラの活動範囲であるが、それが人口60%の所に拡がることに
なり、比較的ゲリラ攻撃の少ない南部が、混乱することになる。
今、英国軍は南部にいるために、ゲリラに会わない。死者も少ない。

この欧州の軍隊が駐留する南部地域が混乱すると、お付き合いで多
くの国は派兵しているので、欧州やアジアの軍隊に撤退をされて、
米軍は孤立することになる。このため、暫定評議会のメンバーもシ
ーア派を無視できない。彼らにはイラク以外に帰る場所がない。

CFRはイラクを3分割しようという提言を出したが、これは米国
のシンクタンクを混乱させて、議論を呼ぶために発表したようだ。
とうとう、CFRがそのような妥協案を出したということは、妥協
してもイラク・エグジット戦略をブッシュ政権は模索する必要があ
るということがある。ブッシュの支持率も50%以下になってきて
いる。大統領選挙に黄色が灯ってきた。

今は民主党の大部分やヒラリー・クリントンも対テロ戦争推進派で
あり、ディーンのような戦争反対ということはない。しかし、これ
以上、イラクのゲリラ戦で米軍がやられると、ディーン民主党大統
領候補は反戦マクガバンと同様で大負けするとの予想が、反転する
可能性もある。特に被害の大きなイラク米軍の中で、反戦気分が高
まっているようで、その反戦の情報も徐々にインターネットを通じ
て、世界が知ることになっている。米国のマスコミは政府御用組織
化しているが、インターネット上で反戦的な情報が溢れ返っている。

この情報で日本の皆様も、イラクの戦況やイラク人たちの気持ちを
知ることができるのです。そして、やっと共和党主流のリアリスト
たちも、ネオコン退治に立ち上がってきた。

このため、どうしても米国はイラクのゲリラ戦を終結させる必要が
あるのです。自衛隊よりイラクの今後の方向のアドバイスこそが、
米国に必要なのです。
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イラクに陸上自衛隊を出してはいけない 
【イラク情勢】
       在韓米軍の一部をアフガンとイラクへ再配置か 米紙報道
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24日付の米紙ワシントン・タイムズは、米国防総省が在韓米軍の
一部をアフガニスタンやイラクに再配置するとの見通しを報じた。
また、ソウルの在韓米軍本部の移転が1年以内に始まるとも伝えた。

 これは、在韓米軍撤退の序曲です。
地政学的に見た場合、半島は大陸のランドパワーの影響を直接受け
、しかも国境線の 防衛のために多大な陸軍を整備、維持するコスト
がかかり、かつ資源にも恵まれない。よって、シーパワーは効率の
観点から、防衛線を海上もしくは相手国の港の背後に置くべきとい
うのは歴史の鉄則だと考える。例として、アメリカは二度の世界大
戦から冷戦を通じて、リムランドのイギリスと欧州大陸の間のドー
バーに防衛線を置いた。アメリカの世界戦略を考えた場合、韓半島
を維持するのに、3万5千の陸軍を配備するだけの価値がないとい
う判断から在韓米軍の縮小、撤退も時間の問題であろう。反対に日
本については島国(不沈空母)であり、横須賀のドックと沖縄の基
地は米軍の世界への戦力投射能力を担保する戦略拠点であり、撤退
はありえません。

よって、対米関係を重視する立場から韓国はイラク派兵に応じてま
すし、ベトナム戦争にも参戦しましたが そんなことは関係なく、
地政学の常識にしたがい、アメリカは撤退を判断するのです。日本
のイラク派兵論者は日米関係維持のため派兵が必要との主張でしょ
うが、派兵するしないに関わり無く、アメリカは日本を切り捨てる
ことは出来ません。全て地政学で説明できます。そうであれば派兵
して犠牲者がでて日米関係が軋むリスクを考えれば、派兵せず、資
金援助と基地使用に特化しておいた方が日米双方に得策という解が
得られます。むしろ小規模な自衛隊を出して犠牲が出たら随時増強
するというのでは兵力の逐次投入になります。また犠牲が出たら撤
退するというのは敵前逃亡であり、軍事の常識ではありえません。
これが前例になって以後のアメリカの出兵要請を断れず、前面的に
派兵することになるのは明白です。絶対に陸上自衛隊を出すべきで
はありません。
satoblue01@aurora.ocn.ne.jp
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米、イラクでの直接選挙を検討=暫定政府発足で−Wポスト紙

 【ワシントン28日時事】28日付の米紙ワシントン・ポストは
米政府高官の話として、ブッシュ政権がイラクの暫定政府発足に向
けて、同国での直接選挙実施を検討していると伝えた。米政府は従
来、イラクに選挙法や有権者名簿がない中で直接選挙を行えば混乱
を招き、旧フセイン政権の残党の介入を許すことになると反対して
いた。 (時事通信)
[11月28日17時12分更新]
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2003年11月29日(土) 
主権移譲プロセス シーア派指導者が批判 暫定議会の直接選挙要求
(SANKEI) 
 【カイロ=村上大介】イラクで多数派を占めるイスラム教シーア
派の最高権威である大アヤトラ、アリ・シスターニ師が、連合軍暫
定当局(CPA)とイラク統治評議会が合意した主権移譲に関する
プロセスを批判した。シーア派穏健派で同派に絶大な影響力を持つ
同師が政治的な見解を示すのはまれであり、シーア派の動向が今後
の主権移譲の日程に影響を及ぼす可能性が出てきた。
 イラクのシーア派組織、イラク・イスラム革命最高評議会
(SCIRI)の指導者、アブドルアジズ・ハキーム師が二十六日
、シーア派聖地ナジャフで記者会見し、(1)六月に主権を移譲さ
れる暫定政権を選ぶ暫定議会は直接選挙で選出すべきだ(2)来年
二月までに制定される予定の基本法(憲法)はイスラム教に基づく
べきだ−などといったシスターニ師の批判を明らかにした。

 このため、統治評議会の輪番制議長を務めるタラバニ・クルド愛
国同盟議長が二十七日、急遽(きゅうきょ)ナジャフを訪れて、シ
スターニ師と会談し、タラバニ氏は「(米国と統治評議会の)合意
はそのままだが、イスラム教が多数派の宗教として尊重され、憲法
の法源として考慮されなければならないという付属文書を作成する
」と表明。直接選挙についても米国側に同師の考えを伝えるという。

 旧フセイン政権下で最も抑圧されてきたシーア派はイラク人口の
60%を占めるとされ、米国が唱える「民主主義」が実施されれば
「多数決」でイラクの主導権を握ることになるとみられている。

 このため、これまで米国には比較的融和的な姿勢を保ってきたが
、権限移譲の合意では、六月までに樹立される暫定政府は、イラク
十八県の「代表」から成る暫定議会が選出することになっており、
総選挙抜きの政府樹立の手続きには米政府の恣意(しい)的な介入
の余地が残ると警戒している。

 イラク中部を中心に戦闘が続く中で総選挙を実施するのは極めて
難しいものの、米国が拒否すれば今後、イラクの過半数を占めるシ
ーア派を敵に回しかねず、一方、米国が要求を受け入れても選挙実
施自体が混乱要因となるのは間違いない。

 イラクの「民主化」プロセスはさまざまな宗教、民族が混在する
イラクの「宗派主義」を表面化させると指摘されてきたが、今回の
シーア派の動きはその懸念がいよいよ具体的な形を取り始めた兆候
といえるだろう。
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
      平成15年(2003年)11月25日(火曜日)
           通巻 第710号

米国とイランが“秘密同盟”
   「悪の枢軸」「悪魔」がイラク問題を契機に

 便宜的な、打算的な同盟関係は瞬間的な強さが有るが、けっして
長続きはしない。独ソ不可侵条約をみよ。
 “鉄壁”といわれ、共産主義の団結なのだから永続的なのだ、と
いわれた「中ソ同盟」は1950年代に密かに壊れていた。米国が
ソ連包囲のために中国と同盟関係になるのは1972年である。

 おそらく先月、イランと米国は秘密の同盟を結んだ。
 イランのハタミ大統領は突如(11月17日)、「イラクの暫定
統治機構」は合法的である、として悪魔の傀儡政権を認めたのだ。
 満州国を,当時の中華民国が認めたようなものである。

 この革命的なイランの政策転換は、これからのイラク政策に重要
な意味を持つだろう。

 米国はイランの核開発に関して、北朝鮮と同様に黙認に傾いたの
か? おそらくイランの核施設は完成直前にイスラエルが攻撃・破
壊するだろうから、安心しているのか?

 米国はスンニ派の“反乱”に手を焼いている。
関東軍が中国各地で便衣隊のゲリラ襲撃に手を焼いたように。満州
国では共産党、国民党が入り乱れていたが、旧満州では東北の豪族
、山賊が、それぞれが共産党、国民党とその場その場の「協力関係
」「共闘関係」を結んで、独自にゲリラを繰り返した。
日本が敗戦する前までに満州のゲリラの多くには共産党の影響がみ
られた。

 シーア派の地域はイラク南部である。
事実上、この地域はシーア派独立国然としている。
 つまり、この地域のシーア派指導者ばかりか、潜入していた活動
家の殆どはイランの影響を受けている。イラン傀儡地域だから影の
国家とみても良いだろう。

 米国はイラク南部を「シーア派」という名のイラン系に統治を任
せてしまうのだろうか。
秘密同盟がそこまでの内容を含むか、筆者には現時点で判定しかねる。
 
ともかく米国はこれで、当座の難局を乗り切る。
そのあとに訪れる別の局面は、おそらくもっと悪質な事態であろう
が、それはそのとき、いまはいま。
したがって「米国・イランの秘密同盟」、暫時は機能するだろう。
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件名:軍事戦略と外交政策――アメリカの懊悩  

Kurt M.Campbell 米カリフォルニア生まれ。オックスフォード大学
で博士号取得。ハーバード大ケネディー行政学大学院助教授、国家
安全保障会議(NSC)部長などを経て、95年からクリントン政権
で国防次官補代理(アジア・太平洋担当)に就任。
日米防衛ガイドライン見直し、海兵隊普天間飛行場の返還合意など
に携わった。2000年より戦略国際研究所(CSIS)上級副所長に。
ニューヨーク・タイムズ紙ほか数多くの新聞、雑誌に寄稿。 
 イスラム過激派による国連や赤十字へのテロが始まったイラク情
勢は、新段階に入った。
 イラク戦後の"ベトナム化"である。アメリカでは、今どんな議論
がかわされているのか
 ――軍事戦略のエキスパートが明らかにしたアメリカのいま!! 

●かつてアメリカの戦略目標は「10年後のアジアの脅威」だった
 今日のアメリカの外交政策は、9・11同時多発テロを抜きには語る
ことはできない。9・11同時多発テロが米国の国民心理や戦略認識、
またその国家目標全体に及ぼした影響の大きさを十分に理解するに
は、まずテロ直前までの米国外交政策がどのようなものであったか
を考える必要がある。 

 国防総省(ペンタゴン)と世界貿易センタービルが攻撃されるま
では、米国民は、自らの国は他の地域や国々とは全く異なる国際環
境の下にあると信じていた。米国政府自身も基本的に安全な国であ
ると信じて国内外で活動してきた。他の国々や地域のように混乱に
巻き込まれることはないという信念に米国が安住してきたわけは、
その南北両側に友好国家を持ち、また周囲を広大な大海によって守
られているという認識からであった。

 したがって、アメリカには緊急を要する安全保障問題がなく、
1990年代の繁栄が景気循環なしに、ずっと将来も続くと信じていた
のである。そしてアメリカの戦略家たちは、米国本土の安全が保障
されているという確信のもと、ますますアジア地域に関心を向ける
ようになっていった。いうまでもなく、平和と安全を脅かす脅威が
、近代史上初めてヨーロッパではなく、アジア太平洋地域に見られ
るようになったからである。たとえば、いまだ分断状況の続く朝鮮
半島や軍備増強による事態の緊迫化が進む台湾海峡、また先行きの
読めないインドとパキスタンの核開発競争などがそれである。
それらは、やがてアメリカは戦略的関心をヨーロッパからアジアへ
とシフトするであろうと予想された脅威だった。 

 物議を醸した2000年の大統領選挙以後、アメリカの戦略認識の地
平には、アメリカの挑戦国として中国が台頭してきた。その意味で
は、いわゆる「ライジング・ステイツ(rising states)」という呼
び名は、強大化する中国によってもたらされる、あらゆる影響に対
するアメリカの不安を示す端的な表現であった。 

 この時期、ブッシュ政権の軍事安全保障上の主要課題は、十年後
の脅威を想定して、軍事支出を本土ミサイル防衛と次次世代型軍隊
への転換に向けて重点的に配分することにあった。実際、大統領選
挙の期間中、リップサービスとして同盟がいかに重要であるかがた
びたび強調されたが、イギリス、オーストラリア、日本などの重要
な同盟国との関係を除いては、形式だけの安全保障制度の多くは重
要視されることはなかった。その点、ブッシュ政権の戦略思考は「
現実主義」として理解するのが正しいだろう。さらに「意思堅固
(hardheaded)」という言葉が、ブッシュ政権を支える政府高官の特
徴を表す言葉として、もっとも頻繁に用いられていた。ただしそれ
は、あくまでも同時多発テロ事件による、歴史上もっとも破滅的な
一日を迎える前夜までのアメリカの認識であった。ところが、9・11
同時多発テロを契機に、様相は全く異なるものになった。 

●9.11以後、戦略目標を「南アジアと中東」に変更
 アメリカはその歴史において、9・11同時多発テロほどの戦略的衝
撃を経験したことはなかった。それは日本の真珠湾攻撃よりも深い
衝撃であった。いや、1800年代初頭のイギリスによるワシントン侵
攻以上の大きな不安を引き起こした。首尾よく計画されたこのテロ
は、世界における米国の行動を根底から変容させ、米国の本質的な
強さと弱さの両面を浮き彫りにした。 

 9・11同時多発テロ当初、この暗黒の状態にさしのべられた希望の
光は、国内の超党派の人たちによる連帯や、海外からの支援要請の
大合唱であった。しかし次第に、米国は軍事力と単独行動を優先す
る徴候を現し始め、それらは我々が直面する、新しい世界のもつ複
雑さへの認識を覆い隠してしまった。 

 一方、第二次世界大戦以来、9・11ほど米国の戦略環境を根本から
変質させた事件もなかった。米国本土の安全が保障されているなど
とはゆめゆめ考えることはしなくなり、開かれた社会であるアメリ
カは、各方面(たとえば、気軽な旅行からビジネスにいたるまで)
で多大な影響を被ることになった。こうして以降の二年間、アメリ
カの関心はもっぱら南アジアと中東地域に向けられたのである。実
際、ときおり見せる対北朝鮮政策への言及を除けば、そこには中国
の問題が存在するにも関わらず、基本的に米国のアジア地域に対す
る関心は後退している。 

●90年代とは冷戦時代とテロの時代の中休み期間
 ブッシュ政権は、9・11以前までは破綻国家やネーション・ビルデ
ィングに関心を払っていなかったが、現在では弱小国でさえ米国の
安全保障に深刻な影響を投げかけうることを、はっきりと認識する
ようになっている。9・11以前には、アメリカには緊急を要する軍事
的な挑戦はなく、脅威も明確ではなかった。だがそれは、突如出現
した。アフガニスタンとイラクである。 

 米国本土のミサイル防衛はいまだ重要課題であるものの、現在で
は、たとえば貨物の安全といった国内のセキュリティー問題に優先
順位がおかれている。 

 ここにおいて、かつてグローバルな規模の黄金時代が到来すると
思われていた1990年代が、実は紛争と紛争の間の短い休止期間、す
なわち冷戦時代と、グローバルな規模のテロや過激派イスラム原理
主義に対する戦いの時代との端境期であったのだ、と認識されるに
いたったのである。 

●米国が初めて直面する軍事力と道義性のギャップ
 過去二年間にわたり、米国はアフガニスタンとイラクで目ざまし
い勝利を収め、改めてその圧倒的な軍事的優越性を示した。また、
いまだその効果は明らかでないが、米国本土の安全を改善するため
に数十億ドルを投じている。しかし最も注目を要するのは、9・11直
後の超党派の連帯が完全に姿を消してしまい、恐らく今後も回復さ
れる見込みがないことである。諸外国との同盟についても、前述の
イギリス、日本、オーストラリア等との関係は深まったとはいえ、
全体的には、多くの友好国や同盟国との関係が疎遠になってしまっ
た。またそうした諸国は、アメリカがときどき見せる剥き出しの軍
事力行使に対して怒りや不信を募らせている。 

 ブレジンスキーが端的に指摘しているように、これほど米国の軍
事力と道義性とのギャップを世界に露呈したことは、米国史上かつ
てなかったことだ。大統領選挙の年を控え、我々がイラクをはじめ
とする中東をつくりかえるという無謀な計画に踏み込むなか、こう
した諸問題や懸念は、今後ますます激しい論争を呼び起こしていく
であろうことは疑いない。 

 米国は、かつてこれほど大きな政治的な賭けをしたことはなく、
またこれほど国が分裂したこともない。そして世界における米国の
立場が、これほどに危機にさらされていることもなかった。深刻な
脅威と不測の緊急事態が忍び寄るなかで、アメリカはいま、こ
 れまで全く経験したことのない不安定かつ不透明な戦略環境に直
面しているのである。 

カート・キャンベル〈戦略国際研究所(CSIS)上級副所長 兼 国際
安全保障部長〉 
(翻訳=茶谷展行・水本義彦) 
Kenzo Yamaoka
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EU加盟国間での軍事協力体制へ・発端は米国の単独行動主義宣言
在仏米コラムニスト ウィリアム・ファフ

イラク進攻をめぐる鋭い対立
 パウエル米国務長官は十八日、欧州連合(EU)代表団との会合
について、「不十分」と語り、不満を表明した。会合は中東に関す
るもの。EUはよく知られているように、強圧的な態度を取るより
も外交を通じて、イランの核開発計画に対応することを主張する。
これは国際問題をめぐる欧州と米国との間の亀裂が一層深まってい
ることを示すものだ。米国と欧州の世論は既に、イラク進攻をめぐ
り鋭く対立している。

 イラクに関して米当局者や米国の支持者らは大部分が、米欧の世
論の対立は長くは続かない、と主張する。一時的な国民感情が政治
的に利用されているだけであり、イラクの占領が成功すれば、両者
の関係は元のさやに収まるというのだ。

 ブレア英首相とブッシュ米大統領は、イラク占領はすなわち解放
であり、中東はイラクを手本に再構築される、と主張する。だがこ
の主張は推測にすぎず、意味がない。国民の考えは、世論調査が示
す通りであり、米国以外の政治家や評論家が米国の政策に対して、
あからさまに敵意を表明していることを見れば、明らかだ。このよ
うな大西洋を挟む最近の動向は、主権国家の利害、覇権をめぐる現
実が生んだ矛盾に関して、歴史の中で既に経験してきたことだ。一
時的なものではなく、長期にわたって強い影響力を及ぼすもの、と
みるのが妥当だろう。

 米国は長年にわたり、欧州各国の戦略的決定に非常に大きな影響
を行使してきた。欧州各国の大部分は、北大西洋条約機構(NATO)
と米国が、自国の安全保障にとって欠くことはできない、と当然の
ように考えてきた。このような考えはもはや、必ずしも通用しなく
なっている。ところが、ブレア首相は、そうは思っていない。

新規加盟国に圧力掛ける米国

 EUの国防相らは十七日、軍備庁を発足させ、軍事情勢を分析し
、EUにとって何が必要かを見極めさせるとともに、EU加盟国間
で軍事研究や武器調達を調整することを正式に決めた。米政府はこ
の決定を、ゆがんだ保護主義とみなし、EUに新規に加盟する国々
に対して米国ではなく欧州の武器を購入するよう圧力をかけることを狙ったものと
 している。これらの各国政府は既に、米国の武器、航空機を購入するよう圧力を受けて
 いる。これは、NATO内の「相互運用性」を確保するためであり、米国の装備が欧州
 企業の製品よりもはるかに進んでいるからだ。

 だが、この米国の装備が欧州企業の製品よりもはるかに進んでいる、という見方は外れ
 てはいないとはいえ、全くの真実とも言えない。欧州の軍事技術は現在、巡航ミサイル
 (共同生産のストームシャドー)、軍用センサー、衛星測位システム(ガリレオ)、無
 人偵察・戦闘機(UAV/UCAV)などの分野で非常に進んでいる。先進の軍用機も
 運用されている一方、米国が開発している先進軍用機はまだ開発中だ。(ついでに言え
 ば、米国のウオッチャーらは、五千万jの戦闘機製造に習熟している米企業が、無人機
 の製造を求められれば、五千万jの無人機を作る、と言う。ダッソーやサーブが作れば、
 その十分の一だ)

 米国は、重複する部分が多いと欧州のハイテク軍事開発計画には否定的だ。米国が欧州
 の開発計画に反対するのは、米国防総省の支配力が及ばなくなる、という理由もある。
 一例を挙げれば、いまだに開発中の先進戦闘機、統合攻撃戦闘機(JSF)に関して、
 米国の軍需企業は親密な同盟国にさえ、基本となるシステムや技術を完全に明らかにす
 ることはしない。米国の技術に関する保護主義は、最先端のハイテクから外国の企業や
 協力相手を閉め出す「万里の長城(大きな障害)」だ。

 欧州が武器をめぐって協調を図り、保護的政策を取ろうとしているのは、自分の国は自
 分で守ると、欧州各国が考えていることから来たものだ。脅威だったソ連が崩壊し、西
 側の共通防衛への関心が高まり、二〇〇一年にブッシュ大統領が、米国の安全保障戦略
 の基礎に単独行動主義と先制攻撃を主張した。欧州が自給戦略を取ったのは、これらが
 原因だ。

機能せぬイラク暫定行政当局

 EUの各国国防相がこの決定を下した日、米国と欧州の専門家はローマで欧米間の安全
 保障協力をめぐり協議していた。これは実務協議であり、米国からはランド研究所、ジ
 ョンズ・ホプキンス大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)など一流研究機関が参
 加した。このような会合ではたいてい、米当局者が新保守主義的な演説を長々とぶつが、
 今回の会合で欧州の参加者らは、そのようなかわいそうな目に遭わなくてもよかった。

 主催したのは、EUの安全保障研究グループとイタリアの軍事戦略と国際問題の研究機
 関。米国が一方的な決定権を持っており、欧米間の協力にあまり楽観的な見方は出なか
 った。

 また、中東の泥沼からどのようにして米国を救い出すかに関して、大きな懸念が表明さ
 れた。この日、イラク暫定行政当局のイタリア当局者、マルコ・カラマイ氏が、連合国
 の政策との「深刻な不一致」を理由に辞任、行政当局は機能しておらず、「著しく能力
 を損なっている」と主張した。カラマイ氏は、国連の管理下に起き、欧州が関与を強め
 るなど、国際的な関与を強めることを訴えた。この案が受け入れられる見込みはない。
 既に米政府が拒否しているからだ。

 ローマ会合では、米国の参加者が訴えた「米国に失敗は許されていない」という雰囲気
 が漂った。これは皆が受け入れたようだ。だが、現状では、どのようにして実行するの
 かを提案している者はいない。(世界日報)▽掲載許可済です
Kenzo Yamaoka
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件名:アフガンに「理想」の押し付けは禁物  

 中央集権的統一国家の建設は困難・多数民族踏まえた連邦国家が妥当
現実にそぐわぬ大統領制度
 タリバン政権の崩壊を受けてドイツのボンでアフガン各派代表の会合が開かれ、米国の
 推すカルザイを暫定行政機構の議長に選任してからこの十二月で二年になる。ボン合意
 に従って昨年六月に緊急ロヤジルガ(伝統的な部族の長老会議“ジルガ”の全国版)が
 開かれ、カルザイを移行政権の大統領に選出した。今後は、本年末にロヤジルガを開い
 て憲法を制定し、明年六月までに自由選挙を実施して新政権を発足させる予定である。

 憲法起草委員会は予定より二カ月遅れて今月三日に憲法草案を公表した。この草案は強
 力な大統領制をとっている。即ち、大統領は直接選挙で選ばれ、任期五年、軍の最高指
 揮官を兼ね、上院議員の三分の一の任命権を持つ。議会は二院制で、首相は置かない。
 当初案には首相ポストが入っていたが、政権安定のためには大統領の権限を強める必要
 があるとの米国の意向で削除されたと言われる。

 米国流の強い大統領制の採用は理想ではあろうが、複雑な民族構成を持ち、強力な軍閥
 が地方を支配しているこの国の現実にはそぐわないことを私は懸念している。

 アフガニスタンは文明の交差路と言われる。紀元前十五世紀ごろのアーリア人をはじめ
 として、西からのペルシャ、マケドニア、北からの蒙古など、多くの民族がこの地に侵
 入し、支配した。その反映で、この国は十以上の民族から成り立っている。主要な四民
 族は南部のパシュトゥン(全人口の38%)、中央山地の蒙古系のハザラ(19%)、北部
 のウズベク(6%)、北東山地のタジク(25%)である。

 七九年に侵入したソ連軍に抵抗して各地でゲリラが組織され、米国などの国際的な支援
 を受けた。ソ連軍撤退後は主導権を争って相互に激しい戦闘を繰り返し、その過程でゲ
 リラは軍閥に成長した。この戦いに勝ったのがタジク勢力で、首都カブールも彼らが制
 圧した。各軍閥は現在でも道路の通行税、阿片の生産・流通などを収入源とし、かつて
 の軍事力を維持し、さながら独立国の観を呈している。

軍閥解体の機は熟していない

 現今最大の政治問題は中央政府の弱体なことと、治安の悪化である。

 カルザイはパシュトゥン人であるが、暫定行政機構の議長に就任するまではほとんど無
 名の存在で、パシュトゥンをとりまとめる実力もない。アフガン人に言わせれば米国の
 傀儡(かいらい)である。一昨年十二月の暫定行政機構では、首都を支配するタジク勢
 力が国防、内務、外務の三主要ポストを独占し、パシュトゥンはこれを不満としていた。
 昨年六月の移行政権では内相にパシュトゥン人を起用したが、同人は翌月暗殺され、九
 月には大統領暗殺未遂事件も起こった。首都カブールの治安ですら五千名の国際治安部
 隊(ISAF)によって辛うじて保たれている。

 地方では軍閥間の小競り合いや失業軍人による犯罪の増加に加えて、本年八月以降南部
 ではタリバンの、東部パキスタン国境付近ではアルカイダの残党の動きが活発化し、米
 軍に対する組織的な攻撃、対米協力者の暗殺、国連職員や民間援助関係者に対する襲撃
 が続発している。治安悪化のため、一旦帰郷した難民の逆流も起こっている。

 中央集権的な統一国家を建設しようとすれば、国軍の再建、地方軍閥の武装解除、数十
 万と言われるその兵士たちの社会復帰が避けて通れない課題になる。政府は今後五年間
 に七万人の国軍を創設する一方で、三年間に十万の兵士を社会復帰させる計画である。

 新憲法が草案通り採択されればカルザイの大統領就任が確実視されているが、タジク勢
 力はその軍事力を背景に国防相ポストを手放さず、国軍を掌握し続けようとするだろう。
 その場合、他の軍閥が武装解除に応ずることはありえない。またタリバン、アルカイダ
 の残党の攻勢に手を焼く米軍は、彼らを壊滅させるまでは土地勘のある軍閥の協力を必
 要とするだろう。軍閥解体の機はまだ熟していない。

 また経済復興が遅々として進まぬこの国では雇用機会がほとんどない。カブールでも失
 業兵士の「職よこせデモ」が頻発している。武装解除には、失業兵士の職業訓練と雇用
 の確保が大前提である。アフガン政府は今後五年間に三百億ドルの援助を求めてきてい
 るが、その根拠となるはずの総合的な開発計画は存在せず、雇用対策が有るのか無いの
 かも不明である。今までの援助は難民支援や政府の行政費に費消され、インフラ再建、
 雇用創出にはほとんど回っていない印象が強い。援助疲れ気味の国際社会には、アフガ
 ニスタンに効果の疑わしい大金をつぎ込む余裕はない。

内戦の再発避けられぬ状況も

 弱体な中央政府が十分な雇用対策を用意せぬまま、兵器を扱うことしか知らない兵士た
 ちの武装解除を強行すれば、治安の悪化は必至である。軍閥が反発すれば内戦の再発が
 避けられなくなる。国際的な援助の分担で、軍閥の武装解除と兵士の社会復帰を引き受
 けたのはわが国であるが、この重荷をどうさばこうとするのか、まだ青写真は書けてい
 ない。

 新憲法は理想への道を焦ってはならない。安定への道を優先すべきである。そのために
 は、この際既存軍閥との妥協を図りつつ、多数民族国家の現実を踏まえた地方分権型の
 連邦国家の建設を目指すべきではないか。民主主義の理想の押し付けは混乱を招くだけ
 である。外交評論家 村岡 邦男 世界日報 ▽掲載許可済です
Kenzo Yamaoka


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