1458.「リアリストたちの反乱」(その四)



byコバケン 03-11/21
	
▼議論のやりかた
ではネオコンとリアリストたちが具体的にどのような議論の応酬を
したのか、実際の様子を詳しく見てみよう。

実はこの議論、日本でも「論座」という月刊言論誌の2003年4
月号に、要約された和訳が掲載されているのだが、これを読んだだ
けでは臨場感がまったく伝わってこない。しかも議論をしている学
者の説明などがほとんどなく、かなり不親切な内容である。

しかもこの記事の最大の失敗は、この討論会の最後に、ネオコンと
リアリストのどちらの議論がよかったかを現場の観客たちに挙手し
てもらい、ディベートの勝負の判定をしていたという事実を、全く
紹介していない点にある。

よってこの記事では議論で出てきた意見だけを紹介しただけで、
それを見ていた報道陣や学者たちの観客達が、最後にどのような判
断を下したのかという、肝心な部分を伝えていないのである。

▼仕掛けるリアリスト
すでに述べたように、この討論会はメディアや学者たちの前での公
開ディベートだったので、かなりきっちりとした形式にのっとって
行われた。

まず最初に「リアリスト」のスティーブン・ウォルトが10分間の
意見発表をおこない、それに続いて「ネオコン」のビル・クリスト
ルも10分演説。そのつぎに「リアリスト」のミアシャイマーが5
分間の反論をおこない、「ネオコン」のマックス・ブートもそれに
対して5分間の反論をする。

それから観客を巻き込んだ質疑応答に流れ込んで自由討論。そして
最後に四人がそれぞれ最終弁論を行う、というものである。

まず口火を切ったのはウォルトである。彼はかなりハッキリした調
子で、なぜイラク戦争に反対するのかを、矢継ぎ早に三つの要点に
まとめて主張しはじめた。

@イラクの脅威は誇張されすぎている
A先制攻撃を行っても、それから生まれる利益が少ない。
Bむしろ政治的・経済的な損失が、利益を大幅に上回る可能性があ
 る。

そしてここから導き出される結論が、「フセイン囲い込みは効果が
あったし、将来においても効くはずだ、よって、予防対策として先
制攻撃するよりも、囲い込みのほうがはるかに望ましい選択だ」と
いうことなのである。

これを証明するために、ウォルトはイラクが今まで一回も大量破壊
兵器(WMD)をアメリカなどの保有国に対して使ったことがない
ことや、フセインがアル・カイダに大量破壊兵器を渡すことはナン
センスだということ、戦争にかかる費用が最低でも一千億億ドルを
下らないということ、そしてなによりもこの侵攻によってテロの脅
威を増長させてしまうということを、規定時間よりも短くまとめて
論じ切ったのだ。

思ったよりも短くまとめたので、ウォルトは司会者でCFRの会長
であるレスリー・ゲルプからちょっぴり褒められている。

▼返すネオコン
次に登場したのは、現代のネオコン知識人の首領格である、ビル・
クリストルである。彼はウォルトに比べれば声のボリュームが小さ
めで、しかもかなりの早口でしゃべるので、心なしか、やや自信が
なさそうにも見える。

クリストルはまずはじめに、今日の討論会に参加するはずだったフ
ランスのドビルパン外相の代役となって出場したウォルトがとても
素晴らしい議論をした、と軽いジョークで会場の笑いをさそった。
もちろんドビルパンが参加する予定は初めからない。

しかしこのような小さなことからも、いかにネオコンが戦争介入に
反対していたフランスを快く思っていないかが手にとるようにわか
る。フランス外相も反戦派という理由だけで、ネオコンのジョーク
のネタになってしまったのである。

クリストルが主張したのは主に七つの点である。これを順に並べて
いくと、以下のようになる。

@パウエル国務長官が国連で示した証拠だけで十分。
Aチャーチルが民主主義制度に対して述べた有名な言葉のように「
 最低だが他のどれよりもマシだ」―――すなわちイラク先制攻撃
 以外に選択肢の余地ナシ。
B今攻撃しないというリスクのほうが、むしろ大きい。
C「封じ込め」は効いていない。ウォルトも「封じ込めが今でも成
  功している」とは一言も言っていない。
Dフセインが大量破壊兵器、特に核兵器などを使わないという保証
 ナシ。それにテロリストともつながっている。
Eソ連を封じ込めた、という比較こそがナンセンスだ。誰もキュー
 バミサイル危機が起こった緊張の時代に戻りたくない。アメリカ
 はイラクを封じ込めることができるかもしれないが、ハンガリー
 やチェコのときのように、こっちも奴らに手出しできなくなる。
Fフセインを倒すことはイラク人民のためだ。これはアメリカの使
 命でもある。

以上のことを、クリストルはものすごい早口で一気に説明した。基
本的には「フセインはヤバイ」という考えをベースにしていること
が見え見えで、あまり論理的にガッチリとした説明とは言えそうも
ない。
	
しかしここで重要なのは、ネオコンの彼が「ウィルソン主義」
(Wilsonionism)という言葉を使い、アメリカの世界における使命
という理想を全面的に押し出して、聴衆の感情に訴えかける議論を
したことである。

「アメリカの使命」ということを強調するのは、ネオコンの知識人
たち全員にほぼ共通する戦略である。一般的なアメリカ人は、こう
いう愛国的な主張にコロッと参ってしまうのだ。

そのほか日本人の関心のあることでは、クリストルは北朝鮮の状況
についても多少述べている。しかしクリストルはイラクよりも深刻
に思える北朝鮮の脅威についてはひとまずおいて置こうといってく
わしくは触れていない。

もちろんこのときのテーマがイラクだったからなのだが、基本的に
はイラク同様に、北朝鮮もつぶしてしまえという考えではあるらし
い。

このようなクリストルの意見に強烈な反論を加えたのが、次の発表
の番を待っていたミアシャイマーである。とうとうここで「真打」
が登場したのである。

★以下、次号に続く。


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