1433.最後の砦トヨタが挑め、世界カイゼン(1)



YS/2003.11.02

最後の砦トヨタが挑め、世界カイゼン(1)



■応えてくれないロボット犬

 10月28日、日本を含むアジア・オーストラリア6カ国歴訪を
終えたブッシュ大統領は記者会見を行う。この中で記者団からのイ
ラク戦後政策の質問に対して、「日本を訪れ、小泉首相との関係が
極めて緊密で個人的な付き合いだと実感した」と語り、「もし第二
次大戦後、平和を勝ち取らなければ、何が起こっていたかとふと考
えた。ミスター・コイズミと同じような関係を持ち得ただろうか、
こんなに緊密に協力できただろうか。」と自問自答し、親友と呼び
合う二人の関係を強調しつつ、イラク復興と民主化の重要性を力説
した。

 ミスター・コイズミがブッシュ大統領の来日時に用意したお土産
は2004年分として15億ドル(約1650億円)の無償援助を
柱とするイラク復興資金支援策と年内中のイラクへの自衛隊派遣、
そしてトミー製の対象年令6歳以上のロボット犬「dog.com」
(希望小売価格−税別:¥14、800−予定)である。

 米ニューズウィーク紙によると、東京からマニラに向かう大統領
専用機内で早速大統領とスタッフが「dog.com」君を飼いな
らそうとしたところ、何も応えてくれなかった。トミーによると
「dog.com」は『話しかけたり撫でたりすると、かわいく動
きながらおしゃべりするロボット犬。最初は「ワンワン」と鳴くだ
けだが、接しているうちに人間の言葉でしゃべるようになる。』と
のことである。しかし残念ながらこのロボット犬は日本語だけに反
応するようだ。

 ソニーのアイボなら英語音声対応もあるはずだが、敢えて「do
g.com」を選んだのは、イラク復興資金の為の節約なのか、ミ
スター・コイズミの本心の表れなのか、それとも憧れだろうか。ブ
ッシュ大統領の指示に応えてくれない「dog.com」君は、ド
イツやフランス、あるいはイラクで大ブームを巻き起こすかもしれ
ない。



■もうひとつの特別なお土産

 ブッシュ大統領が日本に到着したのは10月17日午後、日本に
は17時間半滞在し18日午前に大統領専用機で次の訪問国マニラ
へ飛び立った。実は17時間半の間に、もうひとつ特別なお土産が
用意されていたのである。日本時間で10月18日午前2時、現地
時間で10月17日午前11時、ブッシュ大統領の地元テキサス州
のサンアントニオ市で、トヨタ自動車の米国における新車両生産拠
点「トヨタ・モーター・マニュファクチャリング・テキサス(TM
MTX)」の鍬入れ式を約800万平方メートルの工場建設用地で
行った。地元テキサスのメディアも一斉に報じ、歓迎ムード一色に
包まれていた。

 鍬入れ式では、トヨタの豊田章一郎取締役名誉会長、田島英彦T
MMTX社長他現地事業体関係者らが、来賓のリック・ペリー州知
事とともにテキサス州にTMMTXが根ざすことの象徴として記念
植樹を行い、トヨタは更にサンアントニオ市の経済・教育・医療な
どの発展のために活動を行っている5つのNPO団体にそれぞれ1
0万ドル合計50万ドルを寄付すると発表した。

 トヨタの北米六番目の車両生産拠点となるTMMTXへの投資額
は八億ドル(約880億円)に上り、生産能力は年間15万台程度、
大型ピックアップ「タンドラ」の生産を2006年から開始する。
 
 幌馬車のイメージも重なって、開拓の歴史から始まる米国では重
い荷物も引っ張りながら広大な国土を豪快に走れるピックアップト
ラックは、南部、中西部一帯の保守的な地域では人気が高い。TM
MTXから南部から中西部への供給を一気に強化する狙いがある。

 映画「ターミネーター3」でアーノルド・シュワルツェネッガー
が「タンドラ」を荒々しく乗り回したが、これも共和党への歩み寄
りをもアピールしたのである。

 TMMTXは約2000名の新規現地雇用を予定しているが、ト
ヨタは海外の車両生産工場で部品メーカーを工場敷地内に結集させ
るサテライト工場化を進めており、2004年12月にメキシコ工
場(TMMBC)での導入に続き、TMMTXでの実施も決定して
おり、新工場の敷地内には部品メーカー十数社が進出する予定とな
っている。従って、部品メーカーだけで最大1000人程度の雇用
が生じることになる。田島TMMTX社長は部品メーカーも含め3
000人近い雇用を創出する考えも明らかにしている。

 トヨタはレクサスなどの高級車販売が好調な北米で連結営業利益
の7割に当たる約1兆円の利益を稼ぎ出している。また、米国は将
来的にも先進国の中で唯一人口が増え続けている重要な市場である。
今年8月には、米国の販売台数で、ダイムラー・クライスラーのク
ライスラー部門を追い抜き、米ビッグスリーの一角を崩したトヨタ
は、2004年の大統領選を睨んで、貿易摩擦や日本車脅威論の再
燃を抑える必要がある。そのために「良き米国市民」の証としてブ
ッシュ大統領の地元テキサスを選んだのである。

 開拓の歴史を象徴してきたブランドにジーンズで有名な「リーバ
イス」がある。製造元であるリーバイ・ストラウスは、今年9月2
5日、北米で運営する5工場をすべて閉鎖し、従業員約2000人
を解雇すると発表した。縫製と製品の仕上げ工程を行うサンアント
ニオの2工場も含まれており、年末までの閉鎖に伴い約800人を
解雇することになる。また、4月にはソニーも米国法人傘下でアナ
ログ半導体を生産しているサンアントニオ工場の9月末までの閉鎖
と従業員600名の解雇を発表した。

 雇用環境の悪化が次々と伝えられる中で、トヨタによるテキサス
での3000名の雇用創出は、ブッシュ大統領訪日の最大のお土産
となったはずである。また英語がわかるソニーのアイボが選ばれな
かった理由もこのあたりが影響しているのかもしれない。


■「三河モンロー主義」からの脱皮

 トヨタとブッシュ共和党政権との共通点をあげるとすれば、モン
ロー主義(孤立主義政策)かもしれない。60年代には「財界活動
はご法度」を家訓としたトヨタは、長きにわたって自社グループの
業績だけに固執する巨大田舎企業と揶揄され、政財官との接触を極
端に嫌い、その閉鎖性から「三河モンロー主義」と言われ続けた歴
史がある。

 このトヨタの「三河モンロー主義」を変えたのが「自動車業界の
政治部長」の異名で呼ばれた初代・木村清元専務と二代目・上坂凱
勇元副社長である。木村元専務は1970年に旧トヨタ自動車工業
の東京支社総務部長に就いて以来、20年間にわたり政官財界への
渉外業務一筋に、幅広い人脈を築いた。

 トヨタが本気で政官財界との関係強化に乗り出したのは、豊田英
二最高顧問(当時)が経団連副会長に就任した1984年前後であ
り、その後、国内では消費税導入問題や消費税導入に伴う物品税廃
止問題、低公害車への優遇税制、燃料電池車普及政府支援などを手
掛け、国外問題ではでは欧米との貿易摩擦問題に取り組んできた。
二人はトヨタのみならず、自動車業界全体の渉外担当として税制改
革や通商問題で腕を振るった

 1994年に豊田章一郎トヨタ会長(当時)が経団連会長に就任、
1998年には現在の奥田碩トヨタ会長が日経連会長となり、20
02年5月の経団連と日経連が統合によって、奥田日本経団連初代
会長と豊田章一郎日本経団連名誉会長の誕生となる。長引く景気低
迷の中にあって「最後の砦」としてトヨタが財界トップに担ぎ出さ
れることになった。

 奥田日本経団会長を支えるのは木村清元専務と上坂凱勇元副社長
が所属した渉外部であり、60〜70人規模のスタッフが「霞が関
対策機関」として提言を取りまとめている。

 今年9月に公表された2002年政治資金収支報告書では、トヨ
タは企業部門で6440万円を自民党の政治資金団体「国民政治協
会」に献金しており、2位の本田技研工業(3100万円)を大き
く引き離している。2002年は大型選挙がなかったため、政党や
政治資金団体への企業・団体献金の総額は前年比2割減の約37億
円(過去最低)となる中で、トヨタの安定感が際立っている。

 しかし、トヨタの政治献金額はこの十数年6500万前後で変わ
っておらず、トヨタが順位を上げたのは、それまで自民党を支えた
金融機関やゼネコンが業績低迷や相次ぐ不祥事により脱落していっ
た理由に過ぎない。


つづく


▼ 資料

<2002年政治資金収支報告書> 出所:読売新聞

◇年間2000万円を超える献金をした企業・団体(単位・万円)

●業界団体             自民党・民主党・自由党・保守党      合計

日本自動車工業会      8040・430・0・0         8470
日本鉄鋼連盟        8000・0・0・0              8000
東証取引参加者協会     7425・0・0・0             7425
日本電機工業会        7000・0・0・0              7000
石油連盟              6000・0・0・0              6000
不動産協会           3300・0・0・0              3300
全国信用金庫協会      3000・0・0・100         3100
日本百貨店協会        2500・0・0・0              2500
日本自動車販売協会連合会  1860・400・0・0          2260

●企業

トヨタ自動車          6440・0・0・0              6440
本田技研工業          3100・0・0・0             3100
新日本製鉄            2500・0・0・0              2500
前田建設工業          2291・0・0・45          2336
東芝                  2324・0・0・0              2324
日立製作所            2324・0・0・0              2324
松下電器産業          2324・0・0・0              2324
サントリー            1950・0・100・0          2050

      合計        70378・830・100・145     71453

  ※献金は各党の政治資金団体に対するもの。自民党は「国民政治協会」、民主党は
「国民改革協議会」、自由党は「改革国民会議」、保守党(現・保守新党)は「保守
政治協会」。一万円未満を四捨五入


<トヨタ自動車の献金額の推移(単位・万円)> 
出所:読売新聞、朝日新聞他

       合計   順位       割り振り
2002年 6440  1 自民
2001年 6440  1 自民
2000年 6540  1 自民
1999年 6540  1 自民6200・自由340
1998年 6540  1  自民5630・民主910
1997年  不明
1996年  不明  
1995年 6440  1 自民4540・新進1800・さきがけ100 
1994年   不明         
1993年 5450 17 不明
1992年 6500 27 自民党5900・民社党600自民党 


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