1369.紳士達の終わりなき夏の夜の夢(上)



YS/2003.08.30


      紳士達の終わりなき夏の夜の夢(上)


■リンクス・クラブ

 1982年3月1日、トヨタ自動車の豊田英二社長(当時)はゼ
ネラル・モータース(GM)のロジャー・スミス会長(当時)と会
談を行う。フォードとの提携交渉が白紙撤回となり、日米自動車摩
擦が激化する中で、最後の切り札としてGMとの合弁交渉にのぞん
だのである。それから3年後の1985年4月、カリフォルニア州
フリーモントで、政財界人ら2000人を集めて、合弁会社、ニュ
ー・ユナイテッド・モーター・マニュファクチャリング(NUMM
I)の工場開所式が行われた。

 あいさつに立った豊田英二トヨタ会長(当時)は、「日米自動車
産業の良い点を組み合わせ、国際的にもすぐれた生産システムを作
り上げ、米国自動車産業の活性化に貢献したい」と語り、スミスG
M会長も「この事業はトヨタとGM、それにUAWが新たな挑戦の
ため海を越えて手を結んだもので、東洋と西洋の英知の結集だ」と
訴えた。 

 この提携を影で支えてきたのはJ・W・チャイ伊藤忠アメリカ副
社長である。いすゞ―GM、トヨタ―GMのいずれの提携にも大き
な役割を果たし、黒子役として日米を飛び回った。

 1982年3月1日の会談が行われて場所は、GMニューヨーク
ビル近くにある会員制クラブ、「リンクス(Links)」のダイニン
グルームであった。この場所を選んだのは、スミス会長本人であろ
う。スミス会長はリンクスのメンバーだった。

■米国のエリート・クラブ

 紳士達が集う米国のエリート・クラブは、ホワイツ(1696年
設立)、ブルックス(1774年設立)、カールトン(1831年
設立)などの英国紳士クラブに大きな影響を受けて、1800年代
から相次いで設立される。リンクス(ニューヨーク)、パシフィッ
ク・ユニオン(サンフランシスコ)、シカゴ、ボヘミアン(サンフ
ランシスコ)、ブルックス(ニューヨーク)、メトロポリタン(ワ
シントン)、カリフォルニア(ロサンゼルス)、センチュリー(ニ
ューヨーク)、デトロイト、デューケーン(ピッツバーグ)、ミネ
アポリス、ローリング・ロック(ピッツバーグ)、サマセット(ボ
ストン)、ユニオン(クリーブランド)、ユニオン・リーグ(フィ
ラデルフィア)、ニッカーボッカー(ニューヨーク)などが特に有
名である。

 当然、名門一族、大企業トップ、大物政治家などは複数のクラブ
のメンバーとなっており、例えばロックフェラー家のデビッド・ロ
ックフェラー元チェース・マンハッタン銀行会長はリンクス、セン
チュリー、ニッカーボッカーのメンバーとなっている。

 このクラブの中で毎年夏に行われる一大イベントのために世界的
な注目を集めるクラブが存在する。サンフランシスコに本部を構え
るボヘミアン・クラブである。

■夏の夜の夢

"Weaving spiders, come not here"(巣を張る蜘蛛よ、近づくな)

 シェイクスピアの「夏の夜の夢」の第二幕第二場の妖精の歌に出
てくるこの言葉は、ボヘミアン・クラブのモットーとなっている。
クラブ機能としてビジネスを行ったり、請い求めたりすることの不
適切性を説いているのである。確かにこのクラブのメンバーの多く
は、このモットーに忠実である。しかし、どうやらある集団の方々
は、長年に渡って違反を繰り返し続けているようだ。まるで、スパ
イダーマンのように網の目の巣を張りめぐらせている。

 このクラブのメンバーは、毎年7月になるとサンフランシスコか
ら北へ70マイル程の距離にあるモンテ・リオの山村近くに集まる。
世界的な巨木として知られるレッドウッドに囲まれた森林の中で、
二週間にわたって行われるサマーキャンプに参加するためだ。この
キャンプに参加した数少ない日本人のひとりは、300フィートを
越えてそびえ立つレッドウッドに囲まれたこの場所を日本の神聖な
神社に例えている。メンバーの多くも聖なる特別な場所と信じてい
るようだ。この約2700エーカーのこの場所は、「ボヘミアン・
グローブ」と呼ばれており、ボヘミアン・クラブの私有地である。

 1878年から行われてきたこのサマーキャンプには約2700
名のクラブ会員と特別ゲスト以外は参加できない決まりとなってお
り、全米各地から厳選された大統領経験者を含めた大物政治家やフ
ォーチュン500企業や大手金融機関のトップ、著名大学教授、芸
術家、文化人などが一同に集まる。そして、クラブのマスコット人
形を焼く儀式によってこの二週間のキャンプが始まる。

 メンバーの特徴は、政財界メンバーのほとんどが純白人であり、
ユダヤ系や黒人などは一部の例外を除いてほとんど存在しないよう
だ。また、大半が共和党員か共和党支持者である。従って、極めて
保守的なクラブとなっている。

 これまで、このサマーキャンプに出席が許された日本人は2名、
ひとりが外交評論家の高橋正武氏、そしてもうひとりがユニデンの
設立者である藤原秀朗氏である。高橋氏は、カリフォルニア州政府
の州知事補佐官を務めたことから、特別会員の権利を与えられてお
り、その著作から少なくとも過去に二度は参加しているようだ。こ
の2名以外にも存在する可能性もあるが、その徹底した秘密主義に
より明らかにされていない。

 高橋氏によれば、ボヘミアン・グローブには、約120のユニッ
ト・キャンプがあり、レーガン元大統領は「ふくろうの巣」、ニク
ソン元大統領は「ケープ・マン(洞穴男)」、そして高橋氏は「ド
ラゴン」と呼ばれる政財界人25名で構成される名門キャンプで時
を過ごす。このユニット・キャンプの中で極めて注目を集めるロッ
ジは「マンダレー」である。

■マンダレー・ロッジ

 インターネットにはボヘミアン・クラブに関するさまざまな情報
が飛び交っている。その中で信頼できるものを探し出すのも骨が折
れる作業である。ここに2001年のマンダレー・ロッジの宿泊名
簿がある。メンバーの顔ぶれは次の通りである。ずらりとスパイダ
ーマンが並んでいる。

☆コリン・L・パウエル
現国務長官、元統合参謀本部議長、元国家安全保障問題担当補佐官。
アメリカ・オンライン(AOLー現在はAOLタイムワーナー)元
取締役、ベクテル・グループ元顧問。

☆ヘンリー・A・キッシンジャー
元国務長官(ニクソン・フォード政権)、元国家安全保障問題担当
大統領補佐官(ニクソン政権)。キッシンジャー・アソシエイツ会
長、ホリンガー・インターナショナル取締役、フリーポート・マク
モラン・カッパー・ゴールド取締役、JPモルガン・チェース国際
委員会メンバー、アメリカン・エクスプレス諮問委員会メンバー、
アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)国際諮問委
員会会長、アメリカン・エクスプレス元取締役、レブロン元取締役、
TWCグループ元取締役、ガルフストリーム・エアロスペース(現
在ゼネラル・ダイナミックス傘下)元取締役。戦略国際問題研究所
〈CSIS〉理事、アスペン研究所理事、トライラテラル・コミッ
ション(三極委員会)・メンバー、ビルダバーグ・グループ・メン
バー。メトロポリタン、センチュリー、ブルックス・メンバー。

☆マイケル・H・アーマコスト
元国務省内国政担当次官、元駐比米国大使、元駐日米国大使。アメ
リカンファミリー生命保険(AFLAC)取締役、アプライド・マ
テリアルズ取締役、カーギル取締役、TRW取締役、米国ウラン濃
縮会社(USEC)取締役。スタンフォード大学・アジア太平洋研
究センター・ウォルター・ショーレンステイン特別評議員。ブルッ
キングズ研究所元所長、トライラテラル・コミッション(三極委員
会)・メンバー、ビルダバーグ・グループ・メンバー。

☆ニコラス・F・ブレイディ
元財務長官(レーガン・ブッシュパパ政権)。ダービー・オーバー
シーズ・インベストメンツ会長、H・J・ハインツ取締役、アメラ
ダ・ヘス取締役、C2取締役、フランクリン・テンプルトン・イン
ベストメンツ取締役、ディロン・リード元会長。ビルダバーグ・グ
ループ・メンバー。リンクス・メンバー。

☆ピーター・M・フラニガン
元大統領補佐官(ニクソン政権)。ウォーバーグ・ディロン・リー
ド上級顧問、ディロン・リード元取締役。マンハッタン研究所理事。
リンクス・メンバー。

☆アンドリュー・‘ドリュー’・ルイス
元運輸長官(レーガン政権)。ユニオン・パシフィック元会長、ガ
ネット元取締役、ルーセント・テクノロジー元取締役、イージス・
コミュニケーションズ・グループ元取締役、アメリカン・エクスプ
レス元取締役、FPL・グループ元取締役、ガルフストリーム・エ
アロスペース(現在ゼネラル・ダイナミクス傘下)元取締役、ミレ
ニアム・バンク元取締役。ビルダバーグ・グループ・メンバー。

☆カール・E・ライチャート
フォード副会長、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック(
PG&E)取締役、コナグラ・フード取締役、マッケソン取締役、
ニューホール・マネイジメント取締役、コロンビアーHCA・ヘル
スケア取締役、ウェルズ・ファーゴ元会長、HSBC・ホールディ
ング元取締役。

☆ジョージ・P・シュルツ
元労働長官(ニクソン政権)、元予算管理局長(ニクソン政権)、
元財務長官(ニクソン政権)、元国務長官(レーガン政権)。ベク
テル・グループ取締役、フリーモント・グループ取締役、ギリアド
・サイエンス取締役、ユーネクスト・ドット・コム取締役、チャー
ルズ・シュワブ取締役、JPモルガン・チェース国際委員会会長、
GM諮問委員会メンバー、ベクテル・グループ元社長、J・P・モ
ルガン元取締役。スタンフォード大学フーバー研究所トーマス・W
・アンド・スーザン・B・フォード特別評議員。ビジネス・ラウン
ドテーブル政策委員会元メンバー。

 このメンバーに、マンダレー・キャンプの4名のホストの名前を
加えると、同時多発テロの直前である2001年の夏の時点で何か
が既に動き始めていた可能性も無視できない。その4名は次の通り
である。

☆ステファン・D・ベクテル・ジュニア
ベクテル・グループ名誉会長、フリーモント・グループ名誉会長、
ベクテル・グループ元会長兼CEO。パシフィック・ユニオン、ボ
ヘミアン・メンバー。

☆ライリー・P・ベクテル
ブッシュ大統領・輸出諮問委員会メンバー(2003年2月任命)。
ベクテル・グループ会長兼CEO、フリーモント・グループ会長兼
CEO、セクオイア・ベンチャーズ取締役、JPモルガン・チェー
ス取締役。スタンフォード・ロー・スクール理事、ジェイソン財団
理事。ビジネス・カウンシル、ビジネス・ラウンドテーブル・メン
バー。トライラテラル・コミッション(三極委員会)・メンバー。

☆ゲイリー・H・ベクテル
ベクテル・シビル副社長。

☆アラン・ダックス(ライリー・P・ベクテルの義兄弟)
フリーモント・グループ社長兼CEO、セクオイア・ベンチャーズ
社長兼CFO、ベクテル・グループ取締役、ベクテル・エンタープ
ライズ取締役。ブルッキング研究所、カンファレンス・ボード理事。

■ベクテルの宴

 このマンダレー・ロッジは、まさしくサンフランシスコに拠点を
置くベクテル・グループのためのベクテル・ロッジであり、イラク
の初期復興事業で最大の総額6億8000万ドル(約816億円)
を受注したことから、イラク占領における連合国軍最高司令官総司
令部(GHQ)と呼んでもいいのかもしれない。

 共和党及び財界への絶大な影響力を持つジョージ・P・シュルツ
の言動は、随時チェックしてきたが、2002年9月6日付けワシ
ントン・ポスト紙に「アクト・ナウ」と題する寄稿を掲載し「危機
は差し迫っている。時間をかけることはフセインを利するだけだ」
とフセイン政権の即時打倒を訴えていた。

 ブッシュ大統領にとって、シュルツ・ベクテル・グループ取締役
は2000年大統領選の選挙準備委員会のメンバーであり、ブッシ
ュ大統領の生みの親でもある。ブッシュ大統領自身にとってブレン
ト・スコウクロフト元大統領補佐官の警告より効果があったはずだ。

 シュルツ・ベクテル・グループ取締役は、ベクテル家のステファ
ン、ライリー、アラン・ダックスの3名が取締役会に名を連ねるベ
クテル所有のプライベイト・インベストメント・ファーム、フリー
モント・グループの取締役にも就任しており、ベクテル・グループ
の影の総裁である。また古くからベクテル・グループと関係の深い
J・P・モルガンの取締役、そして現在のJPモルガン・チェース
国際委員会会長としてメンバーであるキッシンジャー国務長官やデ
ビッド・ロックフェラーを率いる立場にある。

 世界的な建設業界の不況が続く中で、ベクテル・グループも業績
が安定しているとは言えない。ベクテル社副社長であったキャスパ
ー・ワインバーガー元国防長官が会長を務めるフォーブス誌の非公
開企業の売上高ランキングでは1999年の売上151億ドル(全
米5位)をピークに2001年には134億ドル(全米6位)と低
迷しているのである。

(つづく)


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