1222.イラク戦争の戦況と読者からの質問



4/5の状況     Fより
Russian military intel update: War in Iraq, April 5
05.04.2003 [22:07] 
http://www1.iraqwar.ru/iraq-read_article.php?articleId=1881&lang=en

米ーイラク前線の状況は、米軍の攻撃がだんだん少なくなっている。
第3歩兵師団の戦車がバクダッドに向けて進軍して、その先端部隊
は南、東南の市内に達している。今回の米軍の攻撃を終わらせる防
御の構築が始まった。そして、米軍は軍の再編成と休息が必要にな
っている。
今後2日間、米軍は南部の拠点を固めるための攻撃しかしない。
特にバクダッドの東南部を固める。そして、クウィートからの援軍
を待つと思う。

昨夜、101空挺師団がバクダッド国際空港を確保した第1機械化
部隊の支援で行動した。80機の攻撃・輸送ヘリコプターと500
名の部隊をこの空港に配置したようだ。

しかし、装甲強化した旅団を補給路に配置したが、イラクの激しい
攻撃で補給路の防御に失敗している。3両の戦車と5台の兵員輸送
車が失われたと報告された後、司令部では陸上補給を諦めるなけれ
ばならないと考えているようだ。

昨日の軍事行動の評価は大げさすぎる。無線傍受の分析によると、
空港は20門の自走砲と60両の戦車を持った第1旅団の2個大隊
の3000名しかいない。
他の大隊はバクダッドとアマンの道路上にいて、空港を目指してい
る。空港では、四六時中、砲撃と機関銃の攻撃を受けている。
このため、米軍は4両の戦車を含む10両の装甲車を昨日失った。
9名以上が死亡、20名が負傷、25名が行方不明になっている。

それより、空港に向かったパトロール部隊の行方が分からない。
カンーアザッドから向かったが途中で待ち伏せ攻撃を受けたとよう
だ。今、米軍が探索中である。

イラクサイドは3両の戦車を失い、40名が死亡、200名が捕虜
になった。米軍の偵察戦車隊はバクダッド郊外のイラク軍の防御を
調査中である。
同時に、バクダッドの東南部に向かって米海兵隊が進軍している。
先端部隊はアルジェサーの郊外に着いている。チグリス支河のジバ
ラ河の橋を確保しようとしている。しかし、攻撃を受けて止まって
いる。

第1遠征隊の連隊長Joe Dowdyが辞任させられた。砂嵐時のナシリヤ
で、主導権を失ったことと進撃に反対したためのようだ。

カタールの英米軍司令部はこの町の攻撃に失敗したことを理由にし
ている。損害を少なくするため、航空攻撃を行った3日間、この町
を攻撃しなかったことである。
この結果、第15海兵隊Tomas Worldhouserの部隊が命令を守るため
、20名死亡、130名の負傷、4名不明になった。
第1遠征隊はナシリヤで1名も失っていない。しかし、3名の海兵
隊員がここで死亡し、20名が負傷している。

ナシリヤではまだ、戦闘が続いている。ユーフラテス川の橋を渡る
のに危険がまだある。このため、400名がここを防衛している。
この橋を渡る米軍の列にイラク軍は左岸から砲撃している。このた
め、渡る時には煙幕を張り、かつイラク軍に対して砲撃をしている。
101空挺師団が攻撃しているが、イラクの抵抗を押さえられない。
4日に3名が負傷、1名が不明になっている。

ナジャフでは、101空挺部隊の3日間攻撃で町の中心に進撃でき
るようになった。今、市場地域で戦闘中である。
米軍は2名死亡、4名負傷、1台の兵員装甲車破壊されたと報告。
カルバラから3000名のメディア師団が車で去ったと。民兵だけ
が町には残って、抵抗する。

米海兵隊のアルキンディアの侵攻は失敗している。
1台の装甲車を失い、20両の兵員装甲車の列に砲撃があり、撤退
した。2名負傷。米情報機関はこの町での抵抗は無いと言っていた
のに、8日間の町を包囲されてもイラク軍の抵抗が続く。

米軍はアルヒラの左岸を取れない。82空挺部隊はアルヒラ近郊の
橋の狭い回廊しか押さえていない。町は銃撃が四六時中聞こえる。
1名死亡、4名負傷。

クートも同様に狭い回廊しか押さえていない。しかし、昨夜、米軍
は町から押し出されたようだ。近距離での戦闘のため、航空攻撃が
できなかった。そして、4度救急ヘリが呼ばれた。

ジバニアの状況、3日間激しい戦闘が続いているが少し収まった。
現在、米軍はこの町から撤退している。そして、朝早く、攻撃ヘリ
が攻撃された。このヘリの乗員は死亡。もう1台のヘリもカルバラ
の東に墜落した。

イラクの中心部の状況は、米軍の攻撃が減ってきていて、防御に代
わっている。しかし、地上軍が非常に広範に分散している。一番大
きな部隊でも1万2千名の部隊であり、少ない構成員しかない部隊
に分散しているため、イラクの攻撃がやり易くなっているが、制空
権が米軍にあり、このような行動をとり難い。
もし、気候の条件で航空支援が無くなったら、劇的な状況の変化が
起こることになる。

バスラの英軍は2日間停止している。英軍はこの地方で攻撃の成功
を見ていない。時々、近郊で戦闘が起こる程度である。
英軍の司令部はイラク軍の抵抗が強く、まったくバスラの攻略は
できないと評価している。ファオ半島でも5000名のイラク正規
軍と5−7千名の志願兵や民兵が守っている。英軍の希望は武装し
たシーア派が崩壊することで、シーア派の指導者が英米シオニスト
との戦いと言っているが、バスラ攻略前にこの指導者が居なくなる
ことである。昨日、英軍は3名死亡、8名負傷。

イラク北部のクルド人部隊は散発的な戦闘で、イラク軍は健在。
キルクークはクルドー米軍が確保できていない。この町に近づいて
いる。そして、米軍の特殊部隊によると、このクルド部隊は近くの
村や地域で略奪に忙しい。

米軍でもクルド部隊と同じような問題が次々起きているようだ。
特に英軍は占領地域での秩序を重んじるため、この行為に対して
刺激と悪意を感じている。市民に対して、暴行や粗野な行為をしば
しば見るため、憲兵の権限を強化しようと提案するようだ。
尋問で分かったことであるが、米海兵隊でもナシリヤで粗野な行為
があった。

米兵のリックサックを見ると、イラクから奪った物が見つかる。
攻撃を止めて戦争収穫物を検査されることに、米兵は司令官に対し
て不満を持っている。現在、米軍の司令官はこの問題に関して、
特別な命令を準備するしかない。
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イラク戦争を2面に分けて、検討する必要がある。1つは戦争その
ものの性格と推移であり、もう1つが戦闘ではどちらも勝者にはな
れないため、交渉が必要になっている。米国は勝ったことにするこ
とも、必要になっている。なるべく早く戦争を終了しなければなら
ない。
この戦争の性格と交渉の進め方が、研究の対象になる。
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件名:1213 米国勝利の条件を読んで  
読ませて頂き色々考えさせられました。ところで米国勝利の条件は
、究極的にはないということでしょうか。そうなったときに世界は
どうなるのでしょう。アメリカとイギリスは原爆も使うかもしれま
せんね。書かれたコラムを拝見しながら、アメリカの敗北が見えて
来ますし、惨敗撤退か原爆使用か、後者のような気がしますが、
どうでしょう。
古澤
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(Fのコメント)
戦争を続けていれば、米国の衰退になることが確実。このため、米
国も戦争を止めること、停戦か終戦することを考えることが必要に
なっている。フセインを倒せば、後は暫定政権を作り、終戦ができ
る。また、停戦の場合は、現フセイン政権をどうするかとその政権
が契約した独仏露中の利権をどうするかが問題になる。

それと国連と米英の主導権が議論の対象になるでしょうね。しかし
、この交渉は戦場での優劣に影響されるので、戦闘の動向が重要で
ある。国連ではイラクの方が、利権の関係で味方が多い。終戦であ
れば、英米のしたい放題。

停戦の場合、英米が交渉に不満があると、戦争を拡大する可能性が
ある。また、イラクサイドもイスラム全体に拡大した方が得なので、
する可能性がある。お互いが拡大指向になると止まらない。

これは最悪になるでしょうね。このため、多くの国が国益には無く
世界の将来を考えて、国連で協議してほしいものである。
フセインを倒して、早めの終戦にする必要がある。しかし、その後
ゲリラ戦になる可能性はあることを、銘記しておいて欲しい。
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件名:Re: 国際戦略コラムno.1213.米国勝利の条件  
以下のニュースような批判を受け、シリア外相は、同日すぐさま、
”シリアからイラクへ送られた物資は、無防備なシラク市民を保護
するための物資であり、米軍がイラク市民へ与える被害を軽減させ
るための物だ。 米軍は女子供まで殺害し、家屋を破壊している。
この戦争はイラク市民の開放のためだと言っているが信用できない
。間違っている。”と、激しく反論しています。

現在になってやっと英BBCは、米軍はこの戦闘が開始した当初、快進
撃に乗っかり、バスラや首都バグダッド近郊都市の生活必需供給路
を絶ってしまうような攻撃を行っており、これが、人道的にも戦略
的にも問題を引き起こしている。と言う見解を少しづつ明らかにし
ています。

先日、26日に発生したバグダッドの市場での爆撃事件についても、
26日大規模な爆撃を行った事は、何処のメディアでも報じている事
実であり、更にこの誤爆後、27日、米軍はこれが誤爆であった事を
認めた、その舌の根も乾かぬ間に、28日には、あの爆撃はイラク軍
が故意に行ったものだ。と声を荒げて、イラク政府を罵っています
。 しかし、この事件に関する調査は未だロクに行われておらず、
このような状況を見ても、更にアラブ諸国の嫌米・反米感情を逆な
でしているように見えます。

バグダッド市内で悲しみと怒りに苦しむイラクの人達は、29日、英
BBC現地特派員に対し、”サダムは取り除くべきだが、この戦争は誤
りだ。”、”私達は、米国の植民地になる事だけはどうしても真っ
平だ。”、”元々、サダムフセインは米が作った化け物だ。どうし
てその化け物を作った張本人を喜んで迎え入れる事ができると言う
のか?””サダムは嫌だが、米国はもっと嫌だ”、”国連軍ならば喜
んで受け入れ、蜂起も出来たはずだが、米軍が来るなら、我々はサ
ダムのためではなく、この国を守るために米軍に立ち向かう。” 
と叫び訴えていました。

これ以上、戦闘が思うように行かないからと言って、更には、たと
え、どんな疑惑について、確かな証拠が認められるような事があっ
ても、簡単にアラブ近郊諸国を非難するような発言を行う事は、
増々米国の首を絞める事になるのは確実です。

それで無くとも、戦況を確実に分析出来ず、イラク人の感情や願い
について、ほんの少しも汲み取る気配もなく、戦闘が始まるや否や
、戦後の復興事業は、米国以外の国には任せないと、土建事業、石
油関連事業の発注を勝手に米国内で行っており、このような報道を
イラクや他のアラブ諸国の人間が知らないわけではありません。

この愚行は、戦後の復興計画はおろか、今後の戦争その物の展開に
も影響を与える事は、必至であると私は考えます。

草々
tomconks
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国際戦略コラム 御中
no.1213に於いて
“国連の安保理で侵略戦争反対決議が採択される可能性もある。
もちろん、拒否権を英米は使うが、国連で米国が拒否権を使うこと
自体が、米国の覇権が揺らいだ証拠になる。

独仏露中を中心として、世界の諸国は国連とは別の組織を作る可能
性が出てくるか、逆に英米が国連を出て、有志連合という組織を作
る可能性もある。”とありますが、そうなった場合、日本の進路は
あくまでアメリカとの同盟関係を重視して「有志連合」に就くのか
、それとも英米のいない国連に止まるのか。非常に難しい選択を迫
られることになる。
 
実際、現実的に見て、賛否はあれども、実行力の点でアメリカ抜き
の世界は、ちょっと考えられない。確かにパックス・アメリカーナ
は、今度の戦争で「終わり」の始まりだろう。
しかし、例えば代わってEUが覇権を握ったところで何ができるのか。
地政学的に見て、シーパワーの日本は独仏露中を中心とした、ラン
ドパワーと一緒にやっていけるのか。疑問符がつく。
英米はシーパワーだが、歴史的に見て日英・日米同盟の70数年が
平和だったのは確かである。自主外交、自主防衛論が日本の底流に
流れているのは解るが、英米と別の道を行くのは、ある意味「賭け
」である。
 
賭けとは情緒でヤケクソに行うものではなく、勝つ確率が高い(と自
らが考える)方に思い切って行なうものである。
 
国家が賭けを行う時、指針となるのが「歴史」である。そう考える
とき、果たして日本の進路は?
 
恵谷 恒一
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(Fのコメント)
日本は両方とも出来ることを考える。有志連合にも国連にも加盟す
るのです。米国が戦争を続けると、これは世界の経済の崩壊になる
が、米国と付き合うと、次の覇権国家といい関係にならない。江戸
幕府が崩壊する時に、薩摩・長州でなかった藩の振る舞いが参考に
なる。

日本は米国幕府に忠実にしている。今はこれで間違えていない。
しかし、江戸幕府に最後まで従った会津藩のような振る舞いは、国
家の大損になる。佐賀藩か土佐藩の程度では戦後の世界覇権の関与
度を確保したですね。どこで判断するかでしょうね。それまでは独
仏と米英の両方に今はブリッジしていることが必要。ロシアとも関
係を確立しておいた方がいい。ここは全方位の外交で、今は米国を
向いているという位置付けが必要でしょうね。

国家戦略は、どのような場合でもクラッシュしてはいけない。この
ため、ずるく・賢く行動することが必要。
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ブッシュ・ネオコンによる、無謀な計画のもと、予想どうりイラク
戦線は、膠着におちいったが(3月30日現在)、無論、軍事的に
は米軍が、当初的な目的(フセインの殺害)を得るだろうことは、
揺るがないであろう。

しかし、重要なのは、これからの政治的なバランスと、流れがどう
動くかである。
ここには、21世紀の政治状況を決定づける、きわめて重要な要因
が含まれていることを知らねばならない。

一つのシナリオは、アメリカ一国主義による、帝国的行動の台頭が
あるかであった。それは、他国によって行動を制限されずに、しか
も、恣意的に他国の内政に介入できるという圧倒的なフリーハンド
を行使する力のことである。
その状況下で、産軍複合が以前にも増して力を持ち、世界を「力」
の解決で従わせる道である。また、中東地区を押えることによって
、世界的な石油支配をコントロールすることは、エネルギーや石油
素材を通じて、現代での、人類の命脈を直接握りしめることになる。

今からの、政治状況は、二つの点にかかっているだろう。

一つは、アメリカ国内の世論の動向である。
現在、アメリカ国内は、大政翼賛的な報道と、プロパガンダによっ
て、自由な発言が封殺されている。また、戦時という昂揚感は、民
衆をドラッグのように犯している。しかし、大統領選に向けて、
この事態は変化していくであろう。民主党は、間違いなく、ブッシ
ュ政権の失政をあげつらい始めるからだ。また、理想的なスローガ
ンをおろすことも出来ずに、興奮する戦闘もなく、長引くイラク占
領と抵抗は、アメリカの一般国民をジレンマに立たせることになる
。この戦争で米軍側が被るの痛手と、国際世論の反米化によって、
米国民が厭戦気分になり、政権の恣意的な、将来の戦争行動に歯止
めをかけることになるだろう。
(国際世論の、継続的な反戦運動はこの点において重要である。)

もう一つは、この戦争でアメリカ企業の懐が潤うかを、どれくらい
阻止できるかだ。<もうかる戦争。>ありていに言えば、イラクを
破壊し、イラクの原油代金で、アメリカ企業に利益が落ちるように
、(復興という特需を)アメリカが執行できることが、彼等が期待
し、行動を急いだ重要な動機の一つなのである。
こちらの方が、アメリカの経済エスタブリッシュメント(チェーニ
イ一派)にとっては、美味しい話であるのはいうまでもない。(も
ちろん、フセインの資産や、日本の復興支援という名の税金も、
入金方にあてにしている。)
つまり、ここにあるのは、きわめて単純な、収奪構造なのである。

そして、同時に米軍装備の消耗は、アメリカ最大の公共事業でもあ
る。(しかし、これは、経済的にみれば、単なる消費にしか過ぎな
い。そこで、この<恐怖と死>を撒き散らす装置を使って、またぞ
ろ、利益に結びつけなければならなくなると云う訳だ。)

彼等は、<もうかる戦争>を、アメリカ人のテロへの恐怖心を利用
して、企画している。

この連鎖を断ちきるには、<もうかる戦争>の企図を挫く必要があ
る。今後、そのような動機で戦争されては、人類は悲惨な世界を迎
えてしまうからだ。
これから、最重要になるのは、イラク復興のイニシアティブを、
国連に取り返すことである。
現在アメリカが、進めている案は、人道援助は国連に(つまり、
無駄金は、各国負担に)統治権(支配権)は、アメリカにという誠
に、自分達に都合のよいものである。
つまり、<金>の配分の執行権は米国以外に渡さないぞといいうも
のだ。(これだけでも、今度の戦争の正義を疑うに十分だ。)

「国連は、本当はたいした機構じゃない。」とは、今回の戦争を通
じて、盛んに喧伝されてきた。確かに、そういう側面はあるだろう。
しかし、例えば<憲法>という概念は、強すぎる王権や、国権に制
限を加えようという立場から、考えられてきた一種の制御装置でも
ある。われわれは、21世紀に、確かな制御装置を必要としてるの
だ。

世界が、これから全力を傾けなければならないのは、イラクの復興
という問題に対して、世界の各国が積極的に関与することなのだ。
そして、国連は、現在世界が、集結した意志をみせることのできる
唯一の場所なのである。
これは、単に遠い一国の問題ではない。世界の統治方式にかかわる
問題なのである。

「アメリカ問題」と人は言う。しかし、同時にアメリカは、世界で
最もふところの深い国でもある。健全な批判精神が生きていること
を、アカデミー賞の受賞式では、見せてくれた。何と言っても、
民主主義を一番愛し、重要に思っているのは、彼等ではないか。
<自由への憧れ>を我々に教えてくれたのは、アメリカの人々では
ないか。我々は信じよう。彼等の、根っからの善意を。
だから、世界は、彼等に対し、もっともっと発信していかねばなら
ないのだ。

世界は多様である。そして、共に未来へ歩くつもりであると。

                  まとり
==============================
米国の民族体質    S子
              ==日本の選択==

連日のように報道されているイラク戦争は、そこに生きる人々の命が
関わっていることを思えば、この地球上に共に生きる人間として暗澹
たる気持ちにならざるを得ない。
テレビの向こう側に映し出される非日常的な出来事と、
何事もなく平穏無事に日常を過ごしている自分の姿とがあまりにも
対称的であることに語る言葉さえもない。

ところで、この度の米国による先制攻撃は、これまでの米国の好戦的
生き方とは少し手法が違ったように思えるがどうだろう。
自国民を犠牲にし自作自演を装い、「お前がやったんだろう!」
と正義を振りかざしつつ敵を攻撃し、国際社会の同情を買い
自らを正当化させてゆく。

好戦的ではあっても常にそこに大義らしきものが存在していたがゆえに、
国際社会は表だって声を大にして米国を批判することはできなかった。
しかし、今回イラクを「悪の枢軸国」として名指しし、
今すぐそこにある危機でもなく、いずれは脅威となり得るかも
しれないであろうと想定し、遅かれ早かれやらねばならぬ戦争であるのなら、
先にやってしまえという大義もない、それこそ無謀な論理で一方的に
突っ走ってしまったのである。

更に驚いたことには、このイラク戦争がいつの間にか9・11テロ事件と
リンクしており、これをどうしても正当化させたい米国の思惑が浮かび上がった。
しかし、国際社会の反戦、反米の声は日を追うごとに大きくなり、
人間の盾としてイラクに残る人々も現れ、何とかしてこの戦争を
止めさせようと必死である。

が、一度始まってしまった戦争はそう簡単に終えることはできない
であろうことは明白だ。ブッシュは何年かかろうがこの戦争に勝利すると
長期戦も辞さない構えでいる。米国内は既にメディア統制下にあり、
国民の70%はブッシュの戦争を支持容認している。
米国民を前に演説するブッシュはまるでキリスト教というカルト教団の
教祖と化し、国民は狂信的なまでにブッシュに喝采を送っている。
不気味なほどに病んだ米国の姿が見てとれる。

このような米国の姿をみて、一体何が彼らを戦争に駆り立てるのだろうか
という疑問がふつふつと湧いてきた。私達人間がその体質を容易に変える
ことができないのと同じように、国家としての生き方に民族体質というものが
大きく関わっているのではないかと思い始めたのである。

遊牧民族や牧場的民族である米国は、動物を殺しそれを食糧として
生きてきたという残虐性を生来持ち合わせている。
一方、稲作民族である日本は食糧としての稲を自ら育て、
収穫できるまで待つという気長な性質を持っている。
収穫までは自然との闘いであり、様々なことを学びつつ自然との
共生をはかって行く。

仏教が何の抵抗もなく受け入れられたのも、こういう民族体質と合致した
のかもしれないと考える。多神教であるがゆえに寛容になれる。
共存共栄の精神は私達のふところの深さでもある。
一神教であるキリスト教とはあまりにも対称的であり、排他的、
押し付け的な生き方しかできないような米国が、自由と民主主義を
標榜すること自体が無理なのである。

グローバリゼーションとは不道徳性の連鎖であるといったことがあるが、
所詮米国のやっていることは言葉の力を借りて上手くすり替えている
にすぎない「偽り」であるということだ。
今回イラクへの先制攻撃で米国はその正体をむき出しにしている。

もう、私達は米国の言う事なりやる事なりを信じることなどバカらしくて
できないだろう。これで米国の権威も地に落ちたことは明白であり、
世界から孤立してゆくのは避けられないとみた。

こんな米国に私達は一体どこまでついてゆく気でいるのか。
確かに戦後日本は経済大国として見事に再生し、平和を享受してきた。
しかし、その代償も知らず知らずに受けていることも忘れてはならない。
戦争に代償があるのは誰にもわかり切っていることだが、
平和にも代償はあるのである。

この半世紀あまりを平和の恩恵に預かりながら私達は武士の魂を
見捨ててきた。それによる精神の空洞化現象で私達は今真の自由を
得る事ができないでいる。常に米国の呪縛におびえ、
何もできないでいる情けない日本がある。

先の大戦において、士気の上がらない特攻隊員に向けて一人の大尉が
説得した言葉は、未だに私の心に衝撃となって残っている。
「進歩のない者は決して勝たない。負けて目覚めることが最上の道なのだ。
日本は進歩ということを軽んじすぎた。・・・敗れて目覚める。
それ以外にどうして日本が救われるか。・・・俺達はその先導になるのだ。
日本の新生に先駆けて散る。まさに本望じゃないか。」
(NHK 人間講座 「戦場から届いた遺書」
 辺見 じゅん 著 )

彼らが今生きていたなら今日の日本の現状を何と言うだろうか。
みせかけの新生日本をどう思うだろうか。
私達国民一人一人に真の平和と自由を強く願う気概があるのなら、
新生日本に向けて新たな生きる道を探る必要がある。
このまま米国盲従では、日本もまた米国と同じような運命を辿る
ことは目に見えている。

今日、米国にブッシュという大統領が登場し、日本には小泉という
首相が登場した。一体歴史は私達に何を教示しようとしているのか。
歴史の大きな転換期に日本もまた生きるか死ぬかの選択を
迫られているようにも思える。
それには私達国民一人一人の生きる気力にかかっているのは、
先人の生き方を知れば実に明らかだ。

参考文献  「ローマ人への20の質問」塩野 七生 著
     「国家戦略と民族体質」 杉山 徹宗 著
     「NHK 人間講座 戦場から届いた遺書」 辺見 じゅん 著


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