1131.未来なき利権政治へのわかれ歌を



                         得丸

 紅白歌合戦で中島みゆきが黒四ダムから生中継するという。プロ
ジェクトXの主題歌を歌うそうだ。旧年の垢を落とし、すっきりとし
た新年を迎えるための年の夜に、黒四ダムからの中継が本当に適し
ているのだろうか。

 日本の高度成長時代の逸話を、無理やり輝かしい美談にもちあげ
るプロジェクトXという番組は、見終わってどこか悲しい。過去の栄
光にひたって悦に入るムナシサといおうか。なにより悲しいのは、
そこに未来が感じられないからだ。現代に生きるわれわれには過去
の「物語」は参画のしようがなく、ただ過去の栄光として聞く以外
にない。落ち目の時代の落ち目の国民が、番組の中で美談に仕立て
あげられた成功話につかの間いい気分に浸る。(美談に仕立てすぎた
おかげで、関係者からクレームがついて、再放送できない番組もあ
ると聞いた。)

 時代の転換期だからこそ、しっかり前を向いて進まなければなら
ないのに、後ろ向きの感傷に浸って立ち止まっているトンチンカン
さを感じる番組だ。

・モダン→ポストモダン→ニヒリズム を呈する日本の政治状況

 前を向いて進まなければならないときに、後ろ向きであるのは、
なにもプロジェクトXに限らない。現代日本の政治状況も同じだ。

 自社55年体制が崩壊して10年、離合集散の結果民主党と自由党と
自由民主党という似たり寄ったりの名前の政党に落ち着いてしまっ
た。民主党にも自由党にも、ましてや自由民主党にも、まったく活
力がなく未来のにおいがしない。現代の難問に立ち向かう真摯さが
感じられない。

 おとといできた保守新党に及んでは、新たに何を保守しようとい
うのか。長続きしそうにない政党名だ。参加した政治家たちの理念
のなさが、そのまま感じられる。

 東西冷戦が終焉したあと日本で自社55年体制が崩壊し、それから
日本新党、新党さきがけ、フロムファイブ、青雲、新進党などの新
しい政党が生まれた。少なくとも政党の名前はモダンからポストモ
ダンへの移行であった。

 そのときに、気づいてもよかったはずだ。55年体制は、東西冷戦
構造の中で、自社対立を装うことによってカメレオンのようにうま
く擬態をほどこし、対外的には何もしない何も考えない体制であっ
たことに。国内政治は、田中角栄がシステム化した、土木工事に関
連する利権を配分するだけの土建国家システムにすぎなかったこと
に。
自由も民主も社会も、単なるお題目に過ぎず、内実は空っぽであっ
たことに。

 そして、もっと悩まなければならなかった、新しい時代の政治と
は何かについて。
21世紀に向けて新しい価値を生み出す政治。世紀末の難問が直視
されて、それと立ち向かう政治が生み出されなければならなかった
。民主でも自由でもなく、ましてや保守なんぞではありえず、現実
の問題に即応した新しい政治を生み出すための中味のある新しい政
党名が考案されるべきだった。

 しかしながら、結局落ち着いたのが民主党と自由党。誰も民主も
自由も信じていないのにもかかわらず、使い古されて賞味期限の切
れたモダンへの回帰。それがよかったからではなく、それが通用し
ていたからというだけの理由で。 これだと政党の存在理由を問わ
れる心配がないから、説明する必要がないから、余計な頭を使わな
くていいから。これは虚無的な選択であり、モダニズムの衣を着て
いるが、実はニヒリズムにほかならない。

 後援会の集票上の便宜が優先された結果、本人のやる気や適性と
無縁に二世や三世の議員ばかりとなった日本の政治は、そのように
安きに流れるしかなかったのだろうか。

 日本人が旧態依然とした土建国家システムに決別できるのはいつ
になるのだろう。

 どうせ歌うなら、過去に決別するための「別れ歌」あるいは「生
まれ変わって歩き出す」ための「時代」を、中島みゆきには歌って
ほしい。

得丸久文
2002.12.26


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