1000.「新外交国家戦略試論」



「新外交国家戦略試論」     佐藤鴻全

東西冷戦が終わり10年余りが経ち、世界の各国はこの新たな状況
の中で勝ち抜き生残るべく経済、外交、軍事に独自の戦略を立て
その実行を開始している。
戦略無き日本と言われて久しいお人好しの我々から見ると、各国の
それは時に狡猾とも映る。
世界は、冷戦の終わりと共に半世紀前の列強によった弱肉強食の時
代に戻った。

ただ違うのは、優勝劣敗を決する主な要素が軍事から外交、経済へ
移り、血が流れる事が少なくなった事であり、本質的には変わるも
のではない。
日本も新世紀を生残るためには、国家戦略を立てこの戦いを勝ち抜
かなければならない。それは、日本が新しい世界秩序の創造に主体
的に関わるための基盤ともなる。

戦略とは、実行への決然とした意志を伴なう勝つための差別化され
た包括的シナリオ、概略作戦書であると言える。
この観点から、以下に外交を中心とした国家戦略についての筆者の
考えを述べる。

◆基本理念、基本戦略
冷戦を勝ち抜いた米国は、翳りが見えてきたとは言え金融、IT産
業により経済でも1人勝ちをした。
その勢いに乗じた経済、軍事等での独断専行的な行動に対して、
9.11の米国同時多発テロに代表されるように、イスラム勢力等
の怨嗟の標的となっている。
また、EU諸国からもその行き過ぎを指摘され始めている。
しかしながら基本的には、日本はEU諸国と共に自由経済、民主主
義という価値をアメリカと共有している。
また、米国は少なくとも今世紀初頭の10年間は唯一の超大国とし
て覇権を握り続け、そのパワーを中心に世界秩序が構成されている
事だろう。

この状況を踏まえ、ここ暫く日本の取るべき態度は、現在の対米盲
従を捨てた上での「戦略的親米」であろう。
主にEU諸国、ASEAN諸国等と結び、米国の倣岸さを諌め具体
的手段によって掣肘しつつ、自由経済、民主主義を共にする諸国と
して米国との結束を固める。
欧米に対抗した「イスラムの主張」「アジアの主張」はそれぞれに
あり得るが、自由経済と民主主義のように明確に理論化普遍化され
たものではない。
また、日本の世論の中で大きくなりつつある国益と世界秩序の姿を
具体的に示せない情緒的で単純な反米は、人情として理解は出来て
も戦略ではない。

なお、米国の独断専行を牽制するためにも国連改革、機能強化を図
り、日本はインド等と共に安保理の常任理事国入りを目指すべきで
ある。
国連の集団安全保障活動に、主体的に参加可能にするためにも第9
条を含む憲法改正を十分な議論の下、迅速に実現すべきである。
また、日本は世界秩序の変動に備え主体的役割を演じるために、例
えば「地球規模の発展と調和の同時実現」というような大構えの錦
の御旗を今から理念として掲げ世界に向け発信すべきであろう。
これが国際社会に笑われず、「現実的な理想主義」として説得力を
持つためには、軍事力を含めた一定のパワーが必要となるだろう。

◆対中国、北朝鮮
米国の行過ぎた挑発を牽制しつつも日米同盟の紐帯をより強く保ち
、ASEAN諸国初めインド、ロシアを含む周辺諸国との協力関係
を組織的に組上げ、中国の軍事的冒険主義、拡張主義、北朝鮮の突
発行動を未然に防ぎ、爆弾の信管を抜く様に徐々に自由経済と民主
主義体制の中に組み入れて行くべきである。
その中で日本が主体的に責任ある役割を果すべきなのは、言うまで
もない。

◆経済産業戦略
製造業については、生産拠点の海外移転は避けられない。国内本社
の機能としては、研究開発、生産・業務・経営ノウハウの蓄積・シ
ステム化、経営管理に特化し戦略本部化する必要が出てくる。
「アジアの生産工場」にして大消費市場の中国については、法治と
民主化の進展、対外政策、地域間の安定、水資源、食糧問題等々を
睨みながらも積極的に進出して行かないと国際競争に負けてしまう
だろう。
だが、どっぷり深入りするので無く、ある程度逃げ足を確保してお
く必要がある。
例えば、中国大陸に日本の新幹線導入をする話もあるが、譬えて言
えば満鉄の二の舞の様にならないような慎重さが必要だろう。

なお国内政策としては、国家としての重点育成分野の選別と明示
および事業規模、採算ベースの面で、民間セクターが手を出せない
高度に先端的な研究開発、インフラ整備の部分への先行投資として
の国家予算を大胆な支出が必要である。
また自由貿易協定等を推し進め、貿易立国の戦略をより明確に打ち
出すべきである。
農業については、食糧安保等の観点から国家戦略の一部として位置
付け、進んでは国際社会で一定の範囲での「食糧自給権」を確立す
べく日本は働きかけるべきである。それと共に、食糧安保に関係の
薄い作物については、長期的には基本的に自由貿易の原則に従うべ
きである。

経済政策全体としては、まず一定範囲のナショナル・ミニマムを伴
った、規律ある自立社会の建設をビジョンとして掲げるべきである。
その上に立ち、地方分権社会の確立、消費税の福祉目的税化、規制
緩和の包括的実現、公共投資の効率化、デフレ対策としての短期的
な財政支出等により、デフレスパイラルに陥らせる事無く数年の内
にGDPの安定的3%以上成長の実現を図る必要がある。
合わせ、抜本的な少子化対策および移民政策の具体的組み立てを行
う必要があろう。

◆アジア戦略
中国、北朝鮮への牽制強化、また米国等へ日本の発言力を増すため
に、ASEAN地域フォーラム、APEC(アジア太平洋経済協力会
議)、AFTA(ASEAN自由貿易圏)等の多様な話し合いの枠組
を強化すべきである。
これらには、それぞれに中国、北朝鮮、米国が加入、参加している
ものもあり警戒感を与えずに日本の安全保障を高める事が出来る。
アジア諸国には、中国への警戒感と米国への反米感情がほぼ共通し
て存在する。
一方日本に対しては、各国によって違うが技術立国化に成功した
日本に対する憧憬や期待と、第2次大戦での流血や服従に対する
反日感情の両方が内在する。
従来政府が取ってきた単なるアジアへの反省、謝罪を超えた、近代
以降の日本を含む列強の植民地主義を歴史的に総括するとともに、
アジア地域の発展と調和を織り込んだ未来指向の方策を打ち出す事
により、アジア諸国を味方に付ける事は可能である。
これらを通じて、将来像として日本がアジアの代弁者として米国や
中国と切り結ぶ形のリーダーとなる事を目指すべきである。
また、日本に対する憧憬や期待は、イスラム、アラブ諸国にも見ら
れる。
米国や中国を警戒させずに、これらの国々の信頼を勝ち得て行く事
は、国益に適うのみならず、将来の可能性としての米国の衰退や
中国の増長のような世界秩序の変動を安定させる役割を担うだろう。

◆北方領土
北方領土問題解決には長期的な戦略が必要である。
4島一括返還、4島返還に含みを持たせての2島先行返還等戦略
のバリエーションは様々考えられるが、現状ではどれも行き詰まり
である。
そもそも北方領土問題を分解して考えると、歯舞、色丹の二島は、
主にクリル諸島の定義の問題であり、完全に日本の主張に正統性が
あり返還を実現させる事は比較的容易である。
(1855年の日露通好条約および1875年の樺太・千島交換条
約の条文の解釈に基き、歯舞色丹は北海道の一部であるが、国後択
捉はクリル諸島に含まれることが終戦時の国際的な合意である。)
一方、国後、択捉は主にサンフランシスコ講和の内容自体の是非の
問題に還元される。
2島返還に甘んじることなく、4島返還を実現する事は、理論上は
サンフランシスコ講和条約の内容を一部覆す事を意味する。
このため、2つの基本戦略が考えられる。
@正攻法で、侵略戦争を禁止した1928年のケロッグ=ブリアン
条約(パリ不戦条約)前はおろか1855年の日露通好条約で日本
の領土と確定された北方4島を放棄するサンフランシスコ講和の
内容自体の不当性を国際社会に訴えて行く。
サンフランシスコ講和の骨格部分でなく、不適当な一部についての
「見直し」である事を米国等連合国側を初め国際世論に納得させる
には、様々な仕掛けが必要となろう。
Aロシアの経済的利益を提示して、実質的に国後択捉2島の買取を
図る。
このためには、ロシア国民の民意を味方に付け、プーチンの国内的
立場も損ねない綱渡りのようなアプローチが必要となる。
さらに、ロシアの安全保障上の懸念も考慮する必要がある。
ロシアと米国の接近は、この件に関しては有利に働く。
国際情勢、国際世論の変化の兆しを視野に入れつつ、この2つを組
み合わせて行い、即ち「理」と「利」の2正面作戦によって、@を
進めながらそれを梃子にAで落とす等、機会を逃さない長期のかつ
フットワークの軽い戦略が必要である。

◆パレスチナ和平
パレスチナ問題の根本的な原因として、イスラエル側が国連決議に
反しヨルダン川西岸やガザ地区を占領し入植を続けている事がある。
一方、パレスチナ側の問題としては、テロが占領に対する弱者の
抵抗という面がある反面、過激派が主導権を握り自分達の地位や
生活を守るためオスロ合意に基いた平和が安易に訪れないように
テロを続けるという側面は否定できない。
さらにその背景には、占領による貧困と機会の不平等があるという
堂堂巡りの状況がある。

問題解決のためには、イスラエルの占領終了とパレスチナ側の実効
あるテロ取締り開始の同時進行が必要だろう。
そのためには、先ず支援を続けてきた米国がパレスチナ自治区から
のイスラエル軍即時撤退を現在支出している多額の援助の停止をち
らつかせて迫る必要がある。
それに引き続き、撤退を担保するためと治安維持のためにアメリカ
は多国籍軍派遣の安保理決議で拒否権を行使しない必要があるだろ
う。
ブッシュ政権と米国民に向け、日本を含む国際世論がこれらを要求
し圧力をかけ続ける必要がある。

◆対イラク攻撃への対応シナリオ
ブッシュ政権は、中東の石油支配と湾岸戦争後失敗したフセイン排
除実現による威信回復等のために今秋以降にイラク攻撃を実行しよ
うとしている。
アメリカの行き過ぎが懸念される一方、大量破壊兵器を保有、行使
する可能性の有るイラクは世界秩序への脅威で有る事も事実である。
まず、イラクの国連査察受け入れおよび、米国の国連決議等の手順
を踏んだ慎重な対応を取らせるべく、日本は主にEU諸国と結んで
両国に粘り強く働きかけるべきである。
仮にイラクが査察受けを入れせず、経済制裁等も効果が無く国連で
多国籍軍によるイラク攻撃が決議された場合には、法的整備等を
前提に後方支援等の軍事協力も視野に入れるべきである。
実際に日本が軍事協力を行うかは、世界秩序維持と国益を勘案し
主体的に左右を決めるべきである。

なお、十分な国連手続が取られない上でのアメリカ単独攻撃は、
集団安全保障活動では無いので、日本は協力すべきではない。また
、仮に多国籍軍へ軍事協力をした場合には、事態の推移に対し主体
的に対応し停戦の過程及び戦後処理で「調停者」たる資格を維持し
て置くべきである。

佐藤総研 http://www.asahi-net.or.jp/~EW7K-STU/
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(Fのコメント)
米国のお粗末なイラク攻撃の論理より、世界世論構築が米国から英
国、フランスの言論界・シンクタンクに移っているような気がする。

英国の研究者と話すと、米国を徹底的に田舎者とバカにしている。
そして、ナイもスコウクロフトも英国のガーディアンやインデペン
デントで、まず発言している。このため、ヨーロッパとの関係を述
べないと、今後の日本外交戦略としては、いただけない。また、
現時点のアジア諸国の意見があまり反映されていない。もう、アジ
アは日本より中国を見ているよ。このため、最新というより、10
年前の外交戦略の匂いがするが??
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件名:国益優先へさらに変身を  
国益優先へさらに変身を (産経新聞から抜粋)

【外務省改革】

 川口順子外相が私的諮問機関「変える会」(座長・宮内義彦オリッ
クス会長)に求めた外務省改革のねらいは、「国益を守る強靱(きょ
うじん)な外交ができる体制づくり」にあった。その「変える会」が
提示した処方箋(せん)を基に、外務省の実施する改革の「アクショ
ンプラン(行動計画)」がまとまったが、国益重視の外交力強化に向
けた改革への決意は伝わってこない。

 機密費詐欺事件や鈴木宗男衆院議員と外務官僚の歪んだ関係など
続出した不祥事を覆い繕うだけでは、改革の名に値しない。腐敗の
根を断ち切り、閉鎖的で脆弱(ぜいじゃく)な体質を根本的に改め、
国民に信頼される外務省に脱皮するための本格改革に、引き続き取
り組む必要がある。

 七月下旬に「変える会」が示した改革案は十二分野百六十六項目
に上る。外務官僚の抵抗で当初の意気込みからは後退した面もあっ
たが、完全に実行すれば外務省改革は大きく前進することが期待さ
れた。

 川口外相が発表したアクションプランは、「変える会」の改革案
のうちほとんどの項目について実施計画を定めている。だが、「変
える会」が求めていた事務次官を最終ポストにし、次官の大使転出
の慣行をなくす案が、「適材適所の観点から公正・厳格な判断が必
要」として除外されるなど、既得権を温存しようとの意図がのぞく。

 改革案の目玉である大使に民間など外部やノンキャリアの専門職
からそれぞれ二割を登用する案も、外部の対象に他省庁も加えて、
民間人よりも他省庁からの登用を多くし、既得権の共有をはかる
可能性もある。実績と信念を備えた民間人を米国や中国、ロシアな
どの主要国の大使に起用するといった目に見える形で、改革の実を
示すことが必要だ。

 キャリア外交官のエスカレーター式の本省課長職昇任慣行の見直
しや職員による幹部評価制度なども運用面で骨抜きにされる恐れが
ある。「身内の改革」に限界があることは否めない。

 外務省改革については、自民党も組織見直しを提言し、民間シン
クタンク「構想日本」も、外交戦略会議設置などを求めている。
政府開発援助(ODA)の内閣一元化などの問題も含め、さらに抜本
改革が急がれる。
Kenzo Yamaoka
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件名:全く理解出来ない。  
日本の交渉のまずさは何処が原因だろう。甘い交渉で北朝鮮の「誠
意を感じるた」はなんだろう。またまた産経新聞の産経抄を引用し
たが、この論説はまともであると私は思う。
交渉の甘さは日本政府だけでない、日本人のお人好しの性格が問題だ。

戦前の日本人はそれなりの信念を持っていたように思う。日赤代表
団にはがっかりした。
日本政府はもっと厳しく北朝鮮に対応してもらいたい。切に希望する。

肝心かなめの拉致日本人十一人については“回答ゼロ”の北朝鮮に
対し、「誠意を感じる」とした日赤代表団の表明は全く理解できな
い。ましてや「一定の評価」を与えた政府・外務省の太平楽に至っ
ては、話にも何にもならない。

こんど北朝鮮が消息を通知してきた六人の日本人は、元神戸市外大
生、有本恵子さん=当時(二三)=ら問題の十一人とは何の関係もな
い人たちである。自分の意思で北朝鮮に渡った五人と、一人の在日
朝鮮人なのだ。つまり北朝鮮の回答は何一つ拉致問題の進展を示す
ものではなかった。


“微笑と脅し”はあらゆる手段と駆け引きを交渉にもちこむ旧ソ連
の外交戦術だったが、北朝鮮もまたそれを踏襲している。今回はそ
の微笑戦術によってコメ支援や国家賠償を引き出す狙いは明々白々
だった。

何もかもが見え見えであるのに、“誠実”を感じたり、“一定の評
価”を与えたりする。
何というナイーブ、何という脇の甘さだろう。相手が引いてきたら
押す、押してきたら引く。ポーカーフェースで“大不満”を表明す
るのが、外交に限らずすべての折衝ごとのイロハではないか。

「よど号」グループの元妻という女性が書いた本では、「私が有本
恵子さんを誘拐しました」と告白。手前勝手な言い分だったが、「
北朝鮮は男にあてがう慰安婦として女性を獲得する作戦だった」と
証言していた。どこからみても北の犯罪は明白なのである。

その拉致問題の解決(せめて進展でもいい)なくして日朝友好などあ
りえない。そのためには相手の出方に対し、決して甘い顔など見せ
てはならないのである。来週始まる日朝局長級協議の政府間交渉で
は、じらしたり、脅したり、誘ったりの老練さを見せてもらいたい
が…。
Kenzo Yamaoka
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巨悪に挑戦
初めての訪問です。楽しく拝見させていただきました。
私も社会に氾濫する巨悪を一刀両断すべく、HPを開設しておりま
すので、よろしくお願いします。
柏 理水
http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Bull/8069/


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