976.動乱の中東情勢



米国内の動きと、アラブ諸国の動きを整理しよう。事態は流動的で
整理しないと見えない。   Fより

米国のハト派パウエル、テネットと米国軍制服組の連合が、米国軍
背広組チェイニー、ラムズフェルド、ウォルフォウィッツとタカ派
ネオコンの攻撃に抵抗している。
特に5万人規模の攻撃やバクダットを最初に攻めるという作戦計画
がリークされているが、この作戦のリスクは高いと制服組は考えて
いる。しかし、ラムズフェルドは、25万人規模の作戦の考えは古
いと頑固に主張している。制服組は、しかし5万人規模の作戦では
リスクが高すぎると反対しかつ、案自体をリークしている。

パウエルはアラブ周辺国の理解がないとイラク攻撃は無理と考え、
パレスチナ問題の平和的な解決を目指しているが、ここでもネオコ
ンやイスラエル支持者たちは、パレスチナ人のテロと妨害する。
このため、パウエル辞任説が時々出ることになる。しかし、本人は
辞任を否定している。

米国議会もイラク攻撃に肯定的になっている。特に影響が大きいの
が民主党で、党がこの問題で二分された。攻撃派と慎重派ですが、
どちらかというと攻撃派が多数のようです。

そして、全体的には徐々に米国タカ派の方向に傾いている。ブレア
ーは自国のストロー外相には、米国タカ派とは違う動きをさせてい
ながら、不本意ながら首相自身はブッシュに英国軍を出すと言って
いる。英国のグルカ兵を出せと、ブッシュから言われて、しぶしぶ
軍をだすようだ。すでにグルカ兵はアフガンからは撤退している。

英国でさえ、このような状況ですからEUではソラナ上級委員のよ
うに米国のイラク攻撃を徹底的に否定するような雰囲気になってい
る。しかし、EUの弱点は、それでは米国に変わって、世界の面倒
を見るかと問われると、NOになってしまうことのようですね。
NATO軍やEU軍の範囲は、ヨーロッパとその周辺しか考えてい
ない。そのことは、ソラナ委員も十分承知している。

そして、パレスチナ紛争が拡大しているため、ヨルダンやエジプト
などの親米諸国でさえ、イラク攻撃支持を表明できない。アルジャ
ジーラのある立憲君主国家カタールやイラクの脅威があるクウェー
トなどは、米国軍のイラク攻撃に基地を貸しているし、イラク攻撃
を支持している。しかし、サウジなどの周辺諸国からカタールは強
い抗議を受けている。特にアルジャジーラの米国寄りな放送には、
周辺諸国からのクレームが多いようだ。

それと、サウジの動きが反米になっているような感じがする。
アラブ連盟には、イラクも加盟しているが、サウジを盟主にした動
きをしている。この連盟がサウジに引きずられて、だんだん、反米
的になっている。それはサウジの調停案を米国とイスラエルが一方
的に拒否したためでしょうね。

焦点はトルコであるが、トルコは揺れている。NATOには加盟し
ているが、EU参加の道を探している。EUから人権問題を指摘さ
れて、その国内法を整備している。特にクルド族の問題には、頭を
悩ませているが、米国はイラクのクルド族地域を自治政府化して、
そこを拠点としてイラク攻撃を行う方向であるが、トルコがイラク
攻撃を支持しないと、クルド族のゲリラがトルコにも押し寄せるぞ
と脅している。これは大きな脅しになっているようだ。トルコは
最終的には、米国のイラク攻撃を支持すると思う。

イラクはイランとイライラ戦争で、関係が悪化していたが、その
修復を急速に図っている。イランは原子力発電所をロシアの援助で
既にできている。このため、当然核物質を持っている。これがイラ
クに渡ると、ミサイルに積み込み、イスラエルが狙えることになる
。米国が攻めると、米国軍には化学兵器を打ち込み、イスラエルに
は核兵器を打ち込むことになる。これは間違いない。イランとの
連携は、米国がイランをも敵であると宣言したため、促進するでし
ょうね。

それと、イラクと敵対関係にあったアルカイダが、対米国戦で連携
し始めた。イラク国内にアルカイダの基地ができている。この連携
で、米国国内でのテロ活動を起こすようだ。

イラクの米国戦準備が整い始めたため、ミサイル攻撃を事前防止す
るため、高性能なスパイ衛星をイスラエルは打ち上げている。
この衛星の目的は、イランとイラクの原子力発電所と化学工場の動
向を調査するためのものです。この衛星は米国の衛星より高性能の
ようです。イスラエルはモサドとこの衛星で万全の体制にしている
ようです。

そして、どうも米国軍事研究とイスラエルの軍事産業や研究は繋が
っているようですね。国防研究の一体化が進んでいる可能性が高い
。イスラエルの軍事技術は米国より高度の物が多い。それと、米国
の高度軍事技術の会社の多くがイスラエル国策会社の子会社になっ
ている。
1990年から2001年まで、クリントン時代に米国軍事費が削
減されて、高度軍事技術を持つ会社が成り立たなくなり、米国はイ
スラエルに会社を売却した可能性が高い。英国でさえ、売却に安保
上の理由で拒否しているのにですよ。軍事がイスラエルと米国は一
体的になっている。そのため、イスラエル国防大臣はイスラエルの
中では、ペレス外相と並んで穏健派になっている。

ロシアはなぞですね??
ロシアは米国と協調して、テロ戦争に参加している。特に中央アジ
アのテロ対策には、協力したが、どうもイランの原子力発電所の建
設中止を米国から強く求められているが、これに対しては拒否のよ
うです。石油の増産をして、中東での紛争が起きても、最小限度の
需給関係を保障するようであるが、イランとの関係は維持するよう
ですね。ロシアは最後の外乱要素になる可能性があると思う。

イラク攻撃時期ですが、最終的には来年の2月か3月でしょうね。
イラク攻撃では、化学兵器の使用を想定しないといけないため、
その防護服を着ないといけない。このため、夏の攻撃はないようだ
。ラムズフェルドや背広組のいうバクダッド奇襲攻撃や5万人規模
の攻撃ではなく、制服組のいう25万人規模の攻撃になるでしょう。
そうすると、人員や装備の準備にはこれからまだ、数ヶ月かかるし
、航空攻撃開始も爆弾の準備から、まだ当分期間が必要になる。
航空攻撃開始が10月か11月で、陸上攻撃は来年の2月か3月で
しょうね。これはあくまでも予想ですから、あしからず。
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件名: 日本人作家、テロと彼らの被害者を分析する  
村上春樹、日本で最も人気のあるフィクション作家、によると、
現在のテロリズムに対する抵抗は文明の衝突でもなく、クルーセイ
ド(聖戦)でもない。

小説家の視点から、アメリカとその同盟諸国の、アルカイダのよう
な断続的なテロリストグループに対するこの戦争はむしろ、両立し
えないネットワークの衝突という関係、もしくは、それぞれのサー
クル(グループ)が抱くリアリティーへの懸念がお互い調和がとれ
ない、物質と反物質の関係、としてあらわされる。

「開かれたサークルとはこの社会。そして閉ざされたサークルとは
イスラム過激派やオウム真理教のような宗教的狂信の世界」と村上
は言う。「かれらは一つの見方をすれば全て同じだと思う。彼らの
世界は完璧だ、なぜなら彼らは完全に閉ざされているから。」

狂信の宇宙では、Mr.村上は言う、「もし誰かが質問すれば必ず誰か
がそれに答えを与える。ある意味、物事はとても簡単でクリアーで
、そして信じている限りあなたはハッピーだ。」

しかしながら、我々の世界では「物事はとても不完全だ」、東京の
ファッショナブルな街、表参道にある、本で埋め尽くされた小さな
オフィスでインタビューに答える。
「多くの混乱があり割れ目がある。そしてハッピーになるかわりに
、多くの場合において我々はフラストレーションやストレスを抱え
る事になる。しかし少なくとも、物事は開かれている。あなたには
チョイスがあって、どう生きるのか自分で決められる。」

Mr.ムラカミの考えは、長年の自由意思に対する哲学的ディベートだ
けでなく、冷戦時代の開かれた社会、閉ざされた社会各々の相対的
アドバンテージへの議論を思い起こさせるものだ。しかし、彼の考
えはもう少し興味深い。なぜならば、彼は西欧社会出身ではないし
、さらにその社会は1995年3月20日にオウム真理教による化
学兵器の脅威を体験しているからだ。

「スプートニクの恋人」や「ねじまき鳥クロニクル」などの小説の
中で、著者は二分化の特異性をあらわす。気まぐれな登場人物たち
は、単調と秘密、不思議と脅威、といったような二つの世界を行っ
たり来たりする。しかし、彼は最近の、初めてのノンフィクション
からの実験を経、学んだことによってテロリズムと我々の世界の衝
突について、自信を持って語ることができるという。

12人を殺害し、約5500人を負傷させた東京の地下鉄への攻撃
の後、かれは一年間を「アンダーグラウンド」の作成のため、62
人の被害者へのインタヴューに費やした。作品は、事件の日の彼ら
の経験と、その後に続いた典型的な完全回復の見込みのない長い
一月の記録である。

後にでてきた批判に驚かされ、Mr.ムラカミはもう一年を「約束され
た場所で」、オウム信者の日常の徹底的な調査レポート、の作成に
あてた。「僕は小説家です。だから人々は僕がオウムカルトの側を
擁護するだろうと予想しました。それは、オウム信者がよそ者であ
り、小説家は常によそ者たちに同情的でなければならないと考える
からです。」Mr.ムラカミは言う「しかし、普通の人々のストーリー
こそ、いわゆる"純粋な人々"よりも重要であり深くあるので、僕は
「アンダーグラウンド」を書いたのです。僕は正しい事をしたと信
じています。」

「一年後、僕はオウム信者側をについて書きました。根本的にそれ
らは二つの違った本です。いまでも、僕は被害者の全員の顔と声を
覚えています。しかし、僕はオウム信者たちのそれを覚えていない
。」被害者のストーリーは、運命によって不吉に変えられた、毎日
の決定であふれている。衝動的に電車をいつもと違うルートに変更
したり、年に一度のミーティングで疑ってもいない人物を、化学兵
器攻撃の疑いにかける。

また、ある被害者は、彼らに起こった事に意味を見出せるように
数ヶ月働いた。ある被害者は事件翌日、病院での反応にこうもらし
ている:「あぁ、私は平気だ。私は丁度爆心地にいたみたいだ。け
れど、死亡者数に戦慄するかわりに、私はむしろあるテレビ番組を
みているように感じ、それはまるで誰か他の人におこった問題のよ
うに感じた。それから、僕はなんて冷淡な人間なんだ、と感じ始め
るまでかなり時間があったように思う。私は爆発するかのように怒
り狂うべきだった。秋になって始めて、徐々にそういう感情が起こ
り 始めた。」

「例えば、もし誰かが僕の目の前で倒れたのであれば、私は私が助
けるべきだった、と思いたい。」

それはまた、哀感(pathos)で満ちていた。サリンガスによって、
妹が成長機能に支障をきたすようになってしまったある男は言う。
「ガス攻撃の前夜、家族は夕食を囲みこんな事をいっていた。「「
なんて私たちは恵まれているのでしょう。皆でよい時間を過ごして
いる」」それは質素な幸せだった。次の日、それはあのばか者ども
によって破壊された。あの犯罪者たちは我々のちっぽけな幸せを奪
った。」

これらのストーリーから、何が人々をこのような理不尽な破壊行為
へと導くのか、を理解しようと努めている誰もが、オウムの弁明が
いかにただの装飾であるかがわかるだろう。さらに、9月11日に
WTCとペン タゴンに突っ込んだ飛行機のハイジャック犯たちが、い
かなる筋の通った遺言も残していないことをみてもそのことは明ら
かだ。

最初に読者の注意を引くものは、悪人たちの平凡さである。オウム
のメンバーはほとんどこの世界の 感覚からしてみて普通である。
将来に何のみこみもないドロップアウトたちから、ねずみ競争につ
かれた、 高学歴のプロフェッショナルたちまで。

どこにでもみられる、宗教的狂信と連結させた自爆行為への信仰、
だけでなく、この世界での疲労と険悪を謳った冷淡な方針に、カノ
・ヒロユキ、事件当時30歳のコンピューターエキスパート、は
オウムの誘惑におちた。

「私が小学六年のころ、考え始めたあるリアリティーがある。」Mr.
カノ、サリン事件には関わりのない一人のオウムメンバー、は言う
。「私は自分の手に握られたはさみを見つめていた。そして突然、
ある考えが私を打った。何人かの大人たちはそれを創るために一生
懸命働いてきた。しかし、それ(一組になったはさみ)はいつか引
き離されてしまうものだ。それは人間についても同じ事だ。最後に
は、ひとは死ぬ。すべては破壊にむけてまっすぐに突き進んでいて
、何も後戻りできない。このことを、他の見方で考えれば、破壊そ
れ自体が宇宙の支配する原則なのである。」

彼がオウム真理教(仏教から派生したカルト教団、"救済"への近道
を説く)に入るなり、存在は意味をもちだした。「オウムでの生活
は俗世間よりもずっとタフなものだった。」、カノは言う。「しか
し、タフというのはより充実しているように感じる。私の内面的奮
闘は終わりを告げ、私はそこにおいて幸福だった。」

ナミムラ・アキオ、一人のオウムメンバー、はムラカミに言う。
「私が高校を卒業したとき、私には、世界と断交するか、死ぬか、
二つに一つだ、と感じた。」

彼は結局オウムに入り、グループの鍛錬に参加するためにならば
どんなことでもやった。グループの創始者であるアサハラ・ショウ
コウの説教をテープを通じて聞くコースのなかで、アサハラは"最後
に解放された人間"とされた。$3000が彼に支払われたが、信者
たちは彼に言う、「力を得るには、安い金です。」

Mr.ナミムラがグループの攻撃について尋ねたとき、あるメンバーは
説明した。
「我々が攻撃されようと、されまいと、我々の身に何が起ころうと
、主との関係がある人間はいつでも祝福される。もし仮に我々が地
獄へ落ちることがあっても、彼は必ず我々を救い出してくれる。」

Mr.ムラカミは言う、「この錬金術的な論理を聞いていると、そこで
はどんな行為もどんな状況も説明されてしまい、彼を変わった具合
に己の仮説の中に送り返してしまう。」

神戸地震から地下鉄サリン事件まで、1995年に日本でおこった
事件の質のすべては、Mr.ムラカミ が深い後悔をこめてあらわすよ
うに、平凡化され、また、彼の言葉を使えば「メディアの海に消化
され てしまった」。

今こそが、彼が見るところでは、小説家の役割が社会の中で問われ
ている。彼の小説は、日本人の日常生活から、想像力を大いに発揮
した彼の小説の中で出来上がったキャラクターたちの恐れや夢へと
読者を移行させることによって、巨大な大衆のトラウマを生活の中
のわずかな変化につなげようとしている。

「僕が書いたことは、ヒーローがこの混沌の世界の中で正しい道を
模索する事です。」彼は言う、「それが僕のテーマです。それと
同時に、もう一つの世界、アンダーグラウンドがある。あなたは
この心の内なる世界にアクセスすることができる。僕の本のほとん
どの主人公たちはこの二つの世界を行ったり来たりする。この現実
世界とアンダーグラウンドの世界。」

「もしあなたがトレーニングを積めば、二つの世界の行き来できる
道を見つけ出すことができます。この閉じられたサーキットへの入
り口を見つけることは簡単で、出口を見つけるのは難しい。多くの
指導者たちは無償でこのサーキットへの入場を提供する。しかし、
出口は示さない、なぜなら彼らはついてくるものたちを罠にかかっ
たままにしておきたいから。こうした人々は命令されれば戦士にだ
ってなる。これは非常に、飛行機とともにビルに突っ込んだ人々の
身に起こった事と似ていると僕は思うのです。」 

国内のアタックと、最近のハイジャックには連続性がみれらない
日本の経験と、アメリカの経験は互いにこのMr.ムラカミの言う“新
しい世界的カオス”の時代に多くの教訓で満たされている。

「日本で、多くの人々は、今回のテロはアメリカの問題と考えてい
る。」、Mr.ムラカミは言う、「アメリカは世界最強の国であり、
イスラムの人々はアメリカが好きではない。だからテロが起こるの
だ。」

「しかし、これは違う。同じ事はどの瞬間にも起こりうる。東京で
も、ベルリンでも、パリでも。なぜなら、これは閉じたサーキット
と開いたサーキットとの間の争いだから、心のなかの違い。これは
国家についての問題ではなく、宗教の問題でもなく、心の中の問題
だ。

アメリカへのメッセージは、彼は言う、国家の軌道は、このような
予想不可能な事柄から、根本的に変更されうる。「僕は1949年
に生まれ、僕が十代の頃、この国はどんどんリッチになっていった
。そして、我々は全員、リッチになれば幸せになれる、と信じてい
た。」彼は言う、「しかし、それは違っていた。そして、それが本
当の転機だった。」

「ニューヨークの悲劇はアメリカ社会を違った段階へと導く。」
Mr.ムラカミは言う、「これは始めてのアメリカ 本土への攻撃であ
って、人々は攻撃されうることを知る。物事はもう同じではないの
だ。」

「正直言って、僕には物事が良くなるか悪くなるかはわからない。
しかし、ベストの方向に進む事を望む。僕たちは成熟し、新しいカ
オスに慣れなければならない。シンプルな、明確な解決策などない
。最も重要な事は他者への思いやりと敬意だ。僕たちのネットワー
クと彼らのネットワークの争いの間にも、これら(思いやりと敬意
)はずっと続いていけるものだ。」
Kenzo Yamaoka
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「自爆テロ」はどこから来るか 監修朝日新聞社

 これも湾岸戦争以来、アメリカは「敵」を人格化し、「顔」を与
えてそれを「悪魔」化する。「テロリスト」という言葉も、事態を
単純化するのに役に立つ。「悪」と「善」との色分けをして「恐怖
と憎悪」を組織する。だがこのことは、「なぜテロが」というもっ
とも重要な問いを忘れさせるのだ。とりわけ「自爆テロ」には、「
狂気」のせいと決めつけるだけではすまされない構造的な理由があ
る。「自爆テロ」は自分が死ぬことを前提にしてする行為だ。少数
の「狂信者」たちがいるのではなく、彼らの「信念」を支える広範
な人々の怒りや絶望が見えないかたちで広がっている。その背景に
ある怒りや憎悪に何らかの対処をしないかぎり、「テロ」をなくす
ことはできないだろう。

 誰もが思い浮かべるのはイスラエルとパレスチナの抗争である。
「自爆テロ」が頻発する舞台もここだ。とはいえイスラエルには、
和平に踏み出す首相(ラビン)を殺害するテロリストは現れても、
「自爆テロ」に走る者はいない。「自爆テロ」はパレスチナ人の
いわば専売特許だ。欧米諸国はそれを「イスラームの野蛮さ」に
解消しようとする。
 だがパレスチナ人が「自爆テロ」に走るのは、いっさいを奪われ
もはや失うもののないからこそであり、もともとは宗教や「文明」
の違いなどには関係がない。

 「パレスチナ問題」として語られるこの紛争は、実は「イスラエ
ル問題」と呼ぶべきである。というのも、ことの発端は、ヨーロッ
パ諸国の後押しでシオニスト・ユダヤ人がこの地に強引にイスラエ
ル国家を作ったことにあるからだ。それまで「パレスチナ人」とい
う民族はいなかった。イスラエル建国によって住んでいた土地を奪
われ追放された人々が、住むところのない「難民」として締め出さ
れることになり、それが「パレスチナ人」と呼ばれるようになった
のだ。

 パレスチナ人には国家はない。だから彼らの権利主張を合法化す
る権力はなく、生存権も含めてその権利は保護されない。当然、パ
レスチナ人はイスラエルと敵対するが、それは国家に対する民衆の
戦い、つまり始めからの「非対称的」でかつ「非合法」なゲリラ戦
になる。あえてその類型を探せば「植民地独立闘争」ということだ
ろう。この抗争に関して、国連は何度もイスラエルの一方的な行動
に非難決議を出してきたが、そのたびにアメリカの拒否権によって
反故にされてきた。そしてパレスチナ人の権利要求は放置され、
反抗の表明は「テロ」と呼ばれ、国際社会に黙殺されたあげく、
湾岸戦争後に尾羽打ち枯らして受け入れたのが「オスロ合意」だ。

 ところがイスラエルはその「合意」にもとづく「和平プロセス」
さえなし崩しにしようとする。それに対する反発には、圧倒的な
軍事力と警察で対応する。その果てにニ度目の「インティファーダ
ー」が起こる。イスラエル軍は発砲する。再び「テロ」が起こる。
 だがイスラエルに一人の死者が出れば、一〇人の殺害で応酬され
る。そしてついにイスラエルはパレスチナの要人暗殺(つまりテロ
だ)まで公然とやりだしたのである。パレスチナ人が生存権を主張
するかぎりイスラエルはそれを「脅威」とみなす。だとしたら、パ
レスチナ人の「最終的消滅」なしにイスラエルの「安全」はないと
いうことになる。
 このような境遇をパレスチナ人はすでに半世紀も生きてきたので
ある。

 日々抑圧と軍事的脅迫のもとに生き、自分たちの生存の権利まで
踏みつけにされ、それに対する抗議が「テロ」と呼ばれてまた圧殺
される。そんな境遇におかれ、国際社会に「正義」の保証を期待す
ることもできず、不当さに対する憤りのなかで窒息し、人は未来に
何を夢見ることができるというのだろう。多くの子供たちが「自爆
テロ」を志願すると言っている。それをイスラエルは、パレスチナ
人の学校では「テロリスト」を育てていると非難する。だが、自分
の存在と尊厳を表明する途としてもはや「自爆テロ」しかないよう
な生存状況に、彼らを追いやっているのはイスラエル国家なのであ
る。
Kenzo Yamaoka

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