886−1.ポリティカル・サイエンス



YS/2002.05.05
       ポリティカル・サイエンス

誰も僕らをよく思っていない 僕らはその理由がわからない
僕らは完璧ではないかもしれないが 
僕らが努力していることを神様は知っている
でも古い友達までもみんな僕らをやりこめる
でかいのを一発落としてやろう どうなるか見てやろう

僕らは彼らにお金をあげたのに ありがたく思うどころか
彼らは悪意を持っている そして彼らは憎しみに満ちている
彼らは僕らを敬わない それなら彼らをびっくりさせてやろう
でかいのを一発落として こっぱみじんにしてやろう

アジアは人で溢れている ヨーロッパはあまりにも古くさい
アフリカは熱すぎる カナダは寒すぎる
南アメリカは勝手に僕らの名前を語っている
でかいのを一発落としてやろうか
僕らに文句を言うやつらを黙らせてやる

オーストラリアは救ってやろう
カンガルーを傷つけたくない
僕らはそこにオール・アメリカン・アミューズメント・パークを
建ててやろう
サーフィンだってできるように

ブームはロンドンに上陸しパリに広がる
あなた達にも僕らにもまだまだ余裕がある
世界中のすべての都市が
もうひとつのアメリカの街になるだろう
なんて幸せなことだろう
僕らはすべての人を解放してやろう
あなた達は日本のキモノを着るだろう
僕にはイタリア製の靴がある

とにかく彼らはみんな僕らを嫌っている
だから今 でかいのを一発落としてやろうか
今 でかいのを一発落としてやろう

(ランディ・ニューマン ポリティカル・サイエンスより)


■ランディ・ニューマン
 ランディ・ニューマンは、2002年アカデミー賞で16回目
にしてようやく最優秀主題歌賞を受賞した。
(作品「モンスターズ・インク」)

 ランディ・ニューマンは、最近でこそ華やかな映画の世界で知
られるようになったが、ライター&シンガーとして数多くのオリ
ジナル・アルバムを残してきた。独特のメロディ・ラインとあく
の強い作品は、華やかなヒット・チャートの世界では決して目立
つことはなかった。しかし、ミュージシャンズ・ミュージシャン
として知る人ぞ知る存在である。

 彼の残したアルバムの最高傑作のひとつが「セイル・アウェイ」
である。このアルバムに「ポリティカル・サイエンス」が収録さ
れている。リリースは、今からちょうど30年前の1972年で
ある。

■1972年 
 今年2月28日、米国立公文書館は約500時間に及ぶ電話録
音テープを公開した。この中でニクソン大統領が北ベトナムに対
する核爆弾の使用を検討、キッシンジャー大統領補佐官がこれに
強く反対していたことが明らかになった。

 1972年4月25日の電話で、まず大統領がキッシンジャー
補佐官に対して「私は核爆弾を使用したい」と提案すると、キッ
シンジャーは「それはやりすぎだと思います」と反論。ニクソン
は「君は核爆弾は嫌かね? もっとでっかく考えようや」と語っ
ている。

 大統領はさらに「君は核爆弾の使用に反対なのか」と述べた上
で「ヘンリー、君にはもっと真剣に考えてもらいたい」と、補佐
官に対し再度核爆弾使用を前向きに検討するよう求めている。

 また同年5月の会話で、ニクソン大統領はキッシンジャー補佐
官に「君は民間人の犠牲を懸念し過ぎる」と述べ、キッシンジャ
ーは「私が民間人の犠牲を恐れるのは、世界中の人々があなたを
殺し屋だと言うことを望まないからです」と答えている。
      
 結局ベトナムで核爆弾を使用することはなかったが、この会話
から数週間後にニクソン大統領は北ベトナムのすべての港湾の機
雷封鎖など、軍事的な強硬措置を実施した。 

 ランディ・ニューマンが、強烈な皮肉を込めて描いた世界が、
30年後になってようやく、それが現実のものであったことが明
らかになる。

 そしてなによりも恐ろしいのは、今またこの曲が30年の時を
越えて再び蘇ろうとしていることだ。

■2002年 
 3月9日付の米ロサンゼルス・タイムズ紙は、ブッシュ米政権
は軍部に対し、ロシアや中国など少なくとも7カ国を対象にした
核攻撃のシナリオ策定を検討するよう指示したと報じた。戦場な
どを想定した限定核攻撃用の小型の戦術核兵器の開発も検討すべ
きだと命じている。

 また翌10日付けのニューヨーク・タイムズは、国防総省が機
密文書「核戦略の見直し計画」(NPR)の中で、生物化学兵器
の貯蔵施設を標的にした核攻撃シナリオを策定するよう求めてい
ると報じた。イラクなど「ならずもの国家」の同兵器の脅威に対
し、先制核攻撃も辞さないとするブッシュ政権の姿勢が明らかに
なる。

 2月12日付けスコット・マコーネルのアンチ・ウォー・ドッ
ト・コムでの「Have the Yanks Gone Mad?(アメリカ人は気が
狂ったのか?)」、マイケル・ジャンセンのアル・アーラム誌3
月28日号での「Dropping the big one(でかいのを一発落とす)」
などでランディ・ニューマンのポリティカル・サイエンスを大き
く取り上げている。共にブッシュ政権のユニラテラリズム(アメ
リカ単独主導主義)を強く批判した内容である。

 30年前を思わせる強硬姿勢に30年前の曲を使って30年前
の反戦手法で応戦する不思議な光景が目の前にある。しかし、少
なくとも現在のユニラテラリズムの担い手達は、「モンスターズ
・インク」ではなく「ジュラシックパーク」でる。しかも彼らの
頭にはネオが付けられている。

 即ちネオコン(neo-conservative)と呼ばれる方々である。
彼らは学者集団であり、徹底的な理論武装を好む。そして素早い
行動力も兼ね備えている。非常に手強い相手である。そしてブッ
シュ政権内部で彼らの勢力が増殖を続けている。そしてついにあ
のパウエル国務長官でさえも辞任の噂が飛び交うようになった。

 彼らは伝統的孤立主義と一線を画し、単独行動を辞さず、力に
よる秩序、強力な同盟関係を重視する。そしてその勢力範囲は民
主党にも及んでいる。
 
 つい最近も日本から来た昔ながらのキモノ(平和の象徴)を羽
織った与党3党の幹事長がイージス艦派遣要請とアップグレード
された最大5億7800万ドル相当のイージス・システムの売り
込みの前にあっさり撃沈されたばかりである。

 今後もウルフォウィッツ国防副長官と「ショー・ザ・フラッグ」
のアーミテージ国務副長官のアンサンブルによるイージス艦要請
は、イラク攻撃に向けて連日鳴り響き、日本メディアを動かし始
めるだろう。

 果たしてネオコンを止めることができるのだろうか?

 民主党のロバート・バード上院歳出委員長は2月に行われた公
聴会でウォルフォウィッツ国防副長官に対し、「我々は戦争を始
めるのは得意だが、出口を探すのは苦手のようだ」と批判した。
しかし、残念ながら彼らは決して出口など考えてはいない。

欧州勢が彼らを肉食恐竜と呼んだ本当の恐ろしさがここにある。

■Randy Newman − Political Science
Reprise Records 2064-2, released May 1972
Written, composed and arranged by Randy Newman.
Produced by Lenny Waronker and Russ Titelmann
http://www.randynewman.com/sail_away.html

■HAVE THE YANKS GONE MAD?
http://www.antiwar.com/mcconnell/mc021202.html

■Dropping the big one
http://web1.ahram.org.eg/weekly/2002/579/in6.htm


コラム目次に戻る
トップページに戻る