883−2.中国のメディアの現状について



       中国のメディアの現状について   漢語迷

皆さん、こんにちは。現在、中国の武漢に留学中の漢語迷と申しま
す。昨年、一度だけ投稿させていただいたことがあります。先日、
KENさんが「 体験と情報収集」 の中で、              

>このコラムで私がひとつ期待したいのは、議論や意見交換のみなら
>ず、各自の経験に基づいた情報の提供です。
>このコラムの参加者には数多くの海外居住者が居られますし、色々
>な分野の職業の方が居られます。お互いのPRIVACYの尊重に気を付け
>て極力客観的な実地体験の情報を提供するのも議論の内容を深める
>大事な材料と思います。

とおっしゃられ、中国のメディアの現状にも触れられていましたが
、私は中国のメディアに対して、少し違う見方を持っているので、
投稿させていただくことにしました。

>多分にして中国情報などは政府が書きたいことを書いて、うそは少
>ないまでも意図的な情報選別で、(新華社などは)自国以外の日本
>やアメリカ、台湾の情報は敢えてその国のカッコ悪いニュースを
>徹底的に集めて並べ、自国に関しては「明るい未来、発展」などと
>いった記事ばかり並べている。
>
>日によって違いはありますが、はっきり言って反日、反米、反台湾
>の記述が多く認められます。不愉快ではあります。

もし、中国のメディア総体について言うならば、このようには言え
ないと思います。

例えば、ブッシュ大統領が訪中する前、中央電視台の人気ドキュメ
ント番組『焦点訪談』は、米中国交回復30周年を記念して、米中関
係30年を振りかえる番組を特集しましたが、そこでは、当時はあれ
だけ大騒ぎした、中国大使館の「誤爆」事件や、戦闘機の衝突事件
についてはほとんど触れられず、まるで、この30年間、米中が一貫
として仲良くやってきたかのように編集されていて、驚いたもので
す。

日本についても、「カッコ悪いニュースを徹底的に集めて」いると
は言えません。もちろん、靖国参拝や教科書問題は、日本のマイナ
ス面として報道されます。一方、科学技術に関しては、プラスの報
道が数多くなされています。例えば、中央電視台のニュースでは、
「ソニーがこういう新しいロボットを開発した」といったニュース
が頻繁に流されています。ここには、日本の進んだ技術に学ぼうと
いう姿勢が見られます。皇太子妃の出産についても、明るい話題と
して報道されました。小泉首相が盧溝橋に行ったことも、そこで
発表した談話も、もちろん報道されています。

次に、国内報道についていうと、日本やアメリカの報道と比べたら
、プラス面の報道が多いのは事実ですが、「自国に関しては「明る
い未来、発展」などといった記事ばかり並べている」かと言ったら
、メディア総体について言うと、そうとは言えないと思います。

例えば、中央電視台の『焦点訪談』『新聞調査』『今日説法』と言
った人気番組は、地方政府の腐敗や様々な社会問題など、主に中国
の政治や社会における負の面を取り上げた番組です。人気の週間新
聞『南方週末』は、政府や司法機関の腐敗の暴露で有名で、かなり
の読者数を誇っています。

実際、いくら中国のメディアがプラスの面だけを取り上げても、
国民は腐敗の存在をちゃんと知っているわけですから、むしろ、
こういった問題を積極的に取り上げて、解決を図ることで社会の
安定を保つ必要があるというのが、中国政府の考えだと思います。

>一言で言えば、バラバラになりそうな13億という人口を纏め上げ
>るための仮想敵を作る戦法でありますが、多分反日トーンが高いと
>きほど国内のまとまりが悪いときであるとか、大きい国内問題を抱
>えているとか隠したい事情がある。

中国政府が国内問題から国民の目をそらすために、反日・反米感情
を煽っているという考えは最近よく目にしますが、私が思うに、
むしろ逆で、国内問題がたくさんあって大変だからこそ、あまり
外交分野で事を起こしたくない、というのが中国政府の本音のよう
な気がします。

例えば、北京大学国際関係学部の葉自成氏と馮菌氏は『現代米中関
係の八つの特徴』という文章の中で、次のように書いています。
(『南方週末』2002.2.21)

「中国外交における米中関係の重要性は、アメリカ外交における
米中関係の重要性を上回っている。したがって、米中関係における
問題は、常にアメリカ側が引き起こしたものである」

つまり、中国にとってアメリカはとても重要な国なので、中国側
から関係を悪化させることはできない、中国は強く出られない立場
にあるということです。だから、中国政府としては、反米感情を煽
ったりして、アメリカとの関係を悪化させるようなことがあっては
困るというのが本音なのではないでしょうか。先ほど紹介した『焦
点訪談』の内容にしても、江沢民の専用機に盗聴器がしかけられた
事件をめぐる対応にしても、こうした本音が表れていると思います。

日本についても、同様なことが言えると思います。中国にとって、
日本の位置はアメリカほど重要ではないにしても、やはり、関係を
うまく保ちたい国の一つだと思います。今回の小泉首相の靖国参拝
に対するかなり抑制した反応にも、それが垣間見られます。

中国と言うと、一党独裁の国なので、どうしてもマスコミ=政府の
宣伝機関、それに煽られる国民、という上→下という見方で見られ
がちですが、こうした見方は一つ重要なことを見落としていると思
います。それは、市場経済下の中国では、マスコミも売れる新聞・
番組を作らなければならないということです。つまり、消費者に
とって面白いものを作らなければ、中国の新聞だって売れないし、
テレビだって視聴率が落ちてしまうのです。

ですから、中国メディアが反日・反米的なことを報道するとしたら
、それは政府が煽っているのではなく、むしろ中国の国民の感情の
反映と見るべきなのではないでしょうか。実際、中国人の中には、
現在の中国政府の日本やアメリカに対する態度を「軟弱」と考える
人たちもかなりいます。中国の新華社や『人民日報』などのメディ
アは、本音ではあまり強硬な反日・反米報道をして、日本やアメリ
カとの関係を損ないたくないが、あまり穏やかな報道をして、
「軟弱」という非難を浴びるのを恐れているので、いちおう問題が
起こったら、反日・反米的な報道もせざるえない。しかし、その後
には、先に挙げた『焦点訪談』のような報道をして、フォローをす
る。この方が実情に近いというふうに思います。

もう一つ、中国のメディアの現状について言うと、日本のメディア
では、中国の主要紙というと『人民日報』や『中国青年報』などが
よく取り上げられますが、これらの新聞を読んでいる中国人は決し
て多くありません。中国人だって、面白くないと思っているのです
。そもそも、これらの新聞は、街頭では売っていません。みんなが
買っているのは、先ほど取り上げた『南方週末』や、地方紙です。
(ただし、人民日報社が発行している『グローバルタイムス』とい
う、国際ニュース専門の新聞は、街でも売っていますし、読者も多
いと思います)

ですから、『人民日報』に書いてあるような記事が中国国民の世論
をリードしているとは必ずしも言えないということを見ておく必要
があると思います。

もちろん、中国は一党独裁の国であり、政府がメディアに対して
様々な規制をしていることは疑いのない事実です。たとえ『南方週
報』と言えども、例えば、台湾独立論などを掲載するのは絶対に不
可能でしょう。中央政府に対する批判も制限があると思います。

ただ、私が言いたいのは、「一党独裁=国内報道はプラス面ばかり
、外国報道はマイナス面ばかり」とか「一党独裁=メディアは政府
の宣伝機関、それに洗脳される国民」といった単純な見方で見るの
ではなく、現代中国のメディアの多様な姿と言うものを正確に見る
必要があるということです。

ただ、この意見も、私の狭い中国体験に基づいているものですから
、不正確な点もあろうかと思います。異論がありましたら、ご意見
をいただければと思います。

中国のメディアについては、私の『漢語迷の武漢日記』というコラ
ムでも何回か取り上げているので、よろしかったらご覧下さい。
http://www1.odn.ne.jp/kumasanhouse/kangomei/index.html
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(Fのコメント)
これはいい記事です。要するに、中国も一面で捉えるのではなく、
中国を多面で捉える必要があるということでしょうね。
このような中国語ができ、そして現場にいる人の情報が価値がある
と思う。中国から見た意見をどんどん、このコラム投稿して欲しい
ものです。そして、真にどうするべきかを検討した方が、日本に
とってもいいはずです。

海外に生活していらっしゃる日本の方や日本語ができる方たちの情
報を尊重します。英語でもかまいません。日本は6年以上英語教育
を受けていますから、ある程度、英語ができます。できるはずです
から。


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