821−1.「悪の枢軸」論とアメリカの戦略転換



   「悪の枢軸」論とアメリカの戦略転換
                       02.2.23
                       Domoto

1月29日のブッシュ大統領が行った一般教書演説では、北朝鮮、イラ
ン、イラクが「悪の枢軸」と名指しされ、警告を発する表明が行わ
れた。この発言が問題になっているが、この外交姿勢は、「ならず
者国家」「無法国家」に対して危機管理にルーズさが多かったクリ
ントン外交・戦略を一掃したもので、クリントン政権以前の共和党
前ブッシュ政権が受け継いできた「本来のアメリカのスタンス」に
戻っただけだと思う。

三国とも核保有・開発疑惑国であり、イランは化学兵器禁止条約に
批准しているが、イラク、北朝鮮は未加盟。テロ事件後、昨年11月
にジュネーブで開かれていた生物兵器禁止条約の運用検討会議では
、ボルトン米国務次官が生物兵器開発の疑惑国としてイラク、イラ
ン、北朝鮮を、ほかにリビア、シリア、スーダンとともに名指しで
非難している。

8年間続いたクリントン政権によって、たなざらし状態であったイ
ラク、北朝鮮では、大量破壊兵器の開発がかなり進んだはずだ。
これら核兵器、生物・化学兵器の大量破壊兵器を運搬するミサイル
の、技術不拡散のための輸出管理体制は、あくまで各国の自主規制
に基づくものであるため、中国、北朝鮮などによってミサイル技術
の輸出が行われている。

ブッシュ大統領やアメリカ政府高官などが、「テロ支援国家」がテ
ロリスト集団と連携する事態を想定した発言を、たびたび行ってい
る。アルカイダのような非対称戦テロ組織に対する米国防総省の対
処能力はただでさえ低い。
http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/hitaisyou.html

国防と危機管理の立場からすれば、この新手に対する対抗策を講じ
ない方がどうかしている。アメリカ同時テロ事件以後の国際社会で
は、イラク、北朝鮮などが大量破壊兵器の国連査察を拒否した場合
、アメリカが軍事行動のオプションを取ることに、一定の正当性が
あると思う。

さて「悪の枢軸」と名指しされたイランであるが、1997年に発足し
た民主改革路線のハタミ政権は、現在も続く激しい保守派の抵抗で
、大統領の権威の失墜が続いている。国民の多くが改革派のハタミ
政権を支持しているのに、その民意が政治に反映されない理由は、
イランの政治体制の特異な権力構造にある。

「最高指導者」に国政全般の決定権があり、大統領は行政権だけを
有し、司法や軍への権限はない。ホメイニ師の死去で、1989年、後
継にそれまで大統領であった保守派のハネメイが最高指導者に就任
。同時に穏健派のラフサンジャニが大統領に当選した。大統領も最
終的にはハメネイ師の権力下にあり、ハネメイ師が、直接高官の人
事権を持つ軍や治安部隊、司法府、政府系財団、国営放送などの主
要組織は、保守派が実権を握っている。

要するに、イランのハタミ政権の権力基盤は脆弱だと考えるのだが
、それゆえアメリカは前ラフサンジャニ政権との流れで国防戦略を
考えるだろう。ラフサンジャニ政権下では核開発と軍事力の拡張が
行われ、イスラム原理主義の輸出を図ったともいわれる。

スーダン、チェチェン、アゼルバイジャン、タジキスタンなどでの
民族抗争は、イスラム教徒への強力な援助があったが、それはイラ
ンによるものだともいわれている。
また、「9.11テロ」後は、イスラエル当局が摘発したパレスチナ向
けとみられる武器密輸船がイランから出航した疑いが浮上し、また
アフガニスタンからイスラム原理主義勢力・タリバンの幹部・兵士
がイランに逃亡した疑いも出ているが、これらの疑惑にはイラン保
守派が介在しているとの情報もあるという。(2月14日 毎日)

実権を保守派が握るイランの政治体制、イラク、北朝鮮の独裁政権
をアメリカは変える必要があると考え、それが国防上重要であり、
2発目の「9.11テロ」を防ぐ一手段と考えられる。軍産複合体によ
る経済活動やCIAなどによる謀略工作が外観を錯綜させて見せる
が、日本の外務省筋が、「悪の枢軸」発言の背景には「テロ撲滅に
向けた米国の世界戦略がある」と述べた見方は正しいと思う。

欧州では、フランスのベドリヌ外相などから「ブッシュ大統領の世
界観は単純すぎる」との発言や批判があるが、20世紀の歴史を振り
返ってみても、欧州の安全保障政策には甘さが目立ち、最終的には
アメリカ軍頼みになっている。中東地域に関心を持つ多くの人が、
アメリカの中東政策がイスラム圏の貧困問題を作り出し、結果とし
て「9.11テロ」を引き起こしたと見るであろうが、アメリカの行動
は次の段階に向けて始動している。

アメリカは民主主義体制をとる国家に対しては核兵器の保有に一定
の理解を示す。共産主義体制が崩壊したロシアと政治的に接近し、
中国を戦略的ライヴァルと見るのはそのためだ。イスラエルも同様
。この考え方の根底には、民主主義国間の間では歴史上、戦争が一
度も起きていないという事実がある。

「テロ支援国家」の大量破壊兵器の開発、製造を放置しておくよう
なクリントン政権の外交政策の下で、2発目の「9.11テロ」が自国
に打ち込まれた時には、欧州も世界も、アメリカを非難するだろう
。

国際世論は変化し、その是非は歴史が決める。
1980年代はじめ、イスラエル空軍がイラクの原子炉を爆撃した時は
、国際世論がイスラエルを非難した。この時のイスラエル政府は「
防衛的先制攻撃」という言葉を使っている。

どうもと
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