787−1.Bトロンで行こう



Take BTRON - Bトロンで行こう きまぐれ読書案内 坂村健「情報
文明の日本モデル」(PHP新書、2001年)

これはコンピュータ業界の過去を知る著者が、未来を予測した本で
す。坂村先生はコンセプトが実にしっかりとしておられるので、読
んでいて安心感があります。
TRON(The Real-time Operating system Nucleus)プロジェクト自体
、実に正しい思想に基づいていたのだと感じます。

TRONは、日本が開発したOSです。この本の著者である坂村健さんが
中心となって1980年代初頭に世界に先駆けて提唱したリアルタイム
OSです。TRONはリアルタイム、つまり実時間に対応し、オープンで
、社会生活のあらゆる分野に入り込み、数十万文字ある漢字の表記
にも適しているソフトウエアです。

どうしてそのようなソフトウエアがあまり知られていないか。それ
はアメリカ通商代表部が「不公正貿易リスト」にTRONを挙げたため
に、日本のメーカーがTRONから撤退したためです。ソフトバンクの
孫正義氏などは、TRONのプロジェクトに対して、ありとあらゆる手
段を使ってTRON潰しを画策したそうです。

TRONはパソコンのOSとしては、日の目をみることはありませんでし
たが、フリーでオープンなOSであることから、iモード携帯電話や、
各種電化製品や、自動車などに採用されていて、いまや世界で一番
採用されているOSになっています。このTRONの思想を今あらためて
学ぶことは、日本経済再生を考えるときのヒントになるのではない
でしょうか。ITバブルが崩壊した今、次世代IT戦略にとって欠かす
ことができないのがTRON、あるいはTRONの思想だというのが、著者
坂村健さんの意見です。

TRONにご興味のある方は、パーソナルメディア社から「超漢字BTRON
」(25,000円)という製品が発売されていて、これには電子メールや
ウェブビューアやワープロのアプリケーションも含まれているそう
です。WindowsやMacOS以外の発想を身に付けるためにも、超漢字を
使ってみてはいかがかと思います。使ってみて、文句があればそれ
をメーカーに連絡してあげると、「超漢字」はますます発展し、
日本経済を救済する一助となることでしょう。

「ギークス ビル・ゲイツの子供たち」、「エニアック 世界最初
のコンピュータ開発秘話」、LINUXを開発したリーナス・トーバルズ
の伝記「それがぼくには楽しかったから」などなど、本書中では、
コンピュータ業界の最先端で長年活躍されてきた坂村さんが選んだ
本も何冊か紹介されていて、参考になります。

http://www.personal-media.co.jp/
http://www.chokanji.com/
得丸久文(2002.01.20)
==============================
 OSとビジネスに関する所感
tmasuya 
得丸氏の寄稿「[fuku41:1387] Take BTRON・・・」に関連して若干
感ずる所を述べたい。

[1]TRONが表舞台に立てなかった理由。
 孫正義がTRON潰しを画策したのは事実だが、TRONがパソコン
OSとして日の目を見なかった事は、アスキー(西和彦)とソフトバ
ンク(孫正義)間の「パソコンビジネス競争の結果」と見るべき。
過去に色々な記事も出たが、孫の立場から見た経過が「孫正義起業
の若き獅子(講談社:1999年8月出版)P285〜P294」に書いてある。
興味のある方は読まれたい。(敬称略)

 私も当時は「アメリカが何の横槍を」と腹を立てたが、日本をパ
ソコン鎖国状態にしなかった事は、国際的に進展する急激な技術の
発展を国内で享受し得る現状を考慮すれば、結果として良かったの
ではないかと思う。国外のサイトから外国製ソフトを自分のパソコ
ンにダウンロードして、そのまま動かす事ができるという事は、素
晴らしい事だと認めざるを得ない。
 OSにはUNIX/MAC/Windows/Linuxなど色々あるが、グローバ
ルであるからこそ、世界各国で開発されたソフトウエアを、そのま
ま流用して活用できる。

 昔、太平洋戦争開戦論者に対して非開戦論者が「アメリカへ行っ
て煙突の数を数えて来い」と言ったとか・・・
世界各地で作られるソフトの数は国内で作られるソフトの数より
圧倒的に多い。共通OSの基で作られる多数のソフト資産をそのまま
他者が活用できる環境は、それを利用する者達の技術進展をさらに
加速する。好むと好まざるとに関わらず、グローバルな環境を利用
できない立場の者は相対的に遅れる結果となり、ビジネス競争に負
けてしまう事にもなりかねない。
これはソフトだけの話ではないはず。

 TRONもその後、産業用OSとして普及した事は、ある意味では良か
ったのではないか? 表に現れる市販パソコン用OSは、ある意味で
は素人向けOSであり、産業用は玄人用OSとも言える。
原価競争の厳しい産業機器にWindowsのような冗長なOSは使えない。
専門分野の機器を開発する会社は皆、その分野に適した効率の良い
OSを選ぶか、或いは自社で開発している。
企業の存続に必要な機器に組み込まれるソフトの類は、いくら優秀
であっても、(いや、優秀だからこそ)表に現れる事は無い。
という観点に立てば、あまり表面的な勝負にこだわる必要も無い。

[2]国際間の金融戦争に関する書籍を紹介したい。
(1)マネー革命@(巨大ヘッジファンドの攻防)
(2)マネー革命A(金融工学の旗手たち)
(3)マネー革命B(リスクが地球を駆けめぐる)
上記3巻は1999年に出版されたものであり、NHKで放送された
「NHKスペシャル マネー革命」を本に纏め直したものである。
但し、本になったのが1999年だから、放送はその前、取材内容は
さらに前という事に留意されたい。

 著者が巻を進めるに従って、戦争とは武器を使うものだけではな
いと気付く経過が読み取れる。せっかく1980年代に蓄積した日
本の国富を米国が仕掛けたマネー戦略によって収奪された事は、国
際間のマネー戦争(形を変えた第三次世界大戦?)に日本が敗れた
事を意味する。周到な戦略と、情報技術(コンピュータネットワー
クと、ソフトウエアによる自動処理)の徹底的な活用と、上に立つ
者の決断力を持って大国が他国に狙いを定めた時に、当事国の指導
者がのほほんとしていると、どうなるかという事例でもある。知ら
ない内にマネー戦争を仕掛けられて、知らない内に収奪され、しか
も国民はマネー戦争に負けた事にさえ気付かないなどという事は、
情けないというより滑稽でさえある。
過去を踏まえて今後に当たれという警告を著者が発していると理解
した。
 著者が(後に示す)「電子立国シリーズ」に続いて、「マネー革
命シリーズ」を著したのは、富の最終形態であるマネーの収奪戦争
に、「情報戦略」が不可欠である事に気付いたからでもある。
即ち、事の帰趨を決するには(国でも会社でも)最高責任者の判断
による所が大きいが、的確な情報をいかに迅速に自動収集するか、
或いは不明確な判断要素を事前にシミュレートするにはどうするか
、というようなシステムを準備している所のみが勝ち残る趨勢にな
りつつある。
 結論として、経済を主担当とする立場の者は特に、情報システム
を有効活用して、的確な判断を下せるようにしておくべきである。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉は、今も有効で
ある。この「マネー革命」シリーズを読むと、大前研一/落合信彦
両氏の著書に時折現れる「日本の政治家に対する痛烈な批判」の背
景が実感として理解できる。

[3]電子技術の進展と各技術の概要は以下の書籍で把握できる。
(1)新・電子立国第1巻(ソフトウエア帝国の誕生)
(2)新・電子立国第2巻(マイコン・マシーンの時代)
(3)新・電子立国第3巻(世界を変えた実用ソフト)
(4)新・電子立国第4巻(ビデオゲーム・巨富の攻防)
(5)新・電子立国第5巻(驚異の巨大システム)
(6)新・電子立国第6巻(コンピュータ地球網)
(7)新・電子立国第7巻(ソフトウエア・ビジネス)
これらは1996年から1997年にかけて出版されたもので、NHKで放
送された「NHKスペシャル 電子立国 日本の自叙伝」を本に纏
め直したものである。若干年月が経っているが、コンピュータ関連
技術の概要と歴史をバランス良く平易な文書で書いている。
これは「マネー革命」を読むための準備運動、或いは読んだ後の背
景確認としても有用である。

[4]日本が誇る個別の産業技術を紹介する本
(1)「メタルカラー」の時代 (山根一真著:小学館発行)
1993年に第1巻が発行され、今は第6巻まで発行されている。
これは1991年から週間ポストに連載された記事のまとめであり、
「こんな会社がこんな事を!」と感心する記事が多い。
日本が誇りとするに足る産業技術の知識を広げるのに役立つ。

以上 (M)


コラム目次に戻る
トップページに戻る