770−2. 得丸コラム



新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し
上げます。

昨年来いろいろと問題提起ばかりしていて、申しわけありません。

年末年始にかけて、考えてみたのですが、「持続的開発」あるいは
「持続可能な開発」というのは、概念矛盾ではないでしょうか。
つまり、言葉としては成立するが、現実には存在しえないのではな
いでしょうか。

もちろんこの言葉の定義を行わないことには、結論を出せないので
すが、たとえば「人類が開発行為を継続しながら、人類の居住に適
した環境を維持しつづけること」という定義だとしたら、やっぱり
ありえないのではないかと思うのです。

つまり、すでに地球上で温暖化に伴う異常気象現象が多発している
こと、環境汚染(とくに水質)が後戻りできない規模に広がってい
ることを認めるならば、開発をしてはいけないのではないかと思う
のです。

この時点で「持続可能な開発」などという美辞麗句にしたてあげて
開発を行うことは、現実から目をそらすだけのような気がします。

サミットでこのような問題提起はできないでしょうか。
得丸久文@環日本海環境協力センター

PS 本日NHK教育テレビで午後11時半からのサイエンスアイ(45分間
番組らしい)が、環境ホルモンのことを取上げる予定だそうです。

PS2 どちらのMLに送るべきかわからないので、両方に送ります。2通
受け取った方にはお詫び申し上げます。
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きまぐれ読書案内 

いただいた年賀状の中で最近一番面白かったと推薦されていた桂英
史著「人間交際術 コミュニティ・デザインのための情報学入門」
(平凡社新書、2001年)を読んだ。

1 本書の内容
タイトルはものものしいが、著者の問題意識は21世紀に私たちはど
のような図書館を作り出し、どのように運営すればいいのだろうか
ということに尽きる。

第一章の情報化についての議論や、第二章のデータベース、消費財
としての文化(この考えには若干疑問があるが)という議論に続く
第三章は、「『戦後復興』は終ったのだろうか」というタイトルだ
が、ここが一番面白い。戦後の教育や日本のメディアの体質につい
て、鋭い分析が試みられている。

まず、教育委員会や図書館は、GHQが戦後改革として手をつけたのだ
が、結局占領期が終ったときに途中で投げ出したものだという。
その後を引き継いだのが文部省で、結局文部省の官僚たちが権限を
握ったのだった。
「地方分権を想定して始まった教育改革は、いくつかの修正を重ね
ながらも長期的なヴィジョンと財政的な措置を欠いたまま、各自治
体に教育委員会という組織だけ残るというきわめて中途半端な体制
が確立し」、それが現在もまだ続いているのである。

これによって、「『知ること』と『伝えること』を引き受ける役割
をもつ図書館サービスが地域の知識社会を作り上げるチャンスが消
えた」と著者はいう。このような理想的な意見に出会ったのは久し
ぶりだ。「戦後民主主義純愛派」というのだろうか。
戦後改革がきちんと行われていたならば、日本はいい国になってい
たに違いないという素朴な信念を感じる。

さて、第三章の第二の論点は、マスコミがいかに政府に取り込まれ
たか、まるで国営企業並だということの指摘だ。

60年安保のときに、マスコミの影響力の大きさを思い知った「
池田内閣は、マスコミ各社を財務面から政府側に取り込んでいきま
した。」つまり「事業税免除、特別償却制度、輸入新聞用紙の免税
、郵便・国鉄輸送の低料金制度、国有地払下げ」などによる新聞各
社への経済的な優遇措置(特恵措置)をおこなって、さらに「政府
広告や政府広報番組の増大を約束し、広告収入を約束し」た。

また、「政府が主催する審議会や調査会へマスコミ幹部を登用し、
マスコミ幹部と政府・自民党首脳部との定期的な懇談が開かれる」
た。

この優遇措置は現在までずっと続いており、知識人も大学人も何の
行動も起こすことができなかった。

図書館運動も、このような歪んだ言論統制の中で行われたことに悲
劇があった。貸し出し至上主義は、「知る権利」を極端に単純化し
ている。
図書館が本を選定する作業も、取次ぎの推薦にしたがっているとこ
ろがあり、主体性がない。

章のタイトルに応ずる結論は、中途半端な戦後復興の状態が今も続
いているて、問題であるということだ。

第四、五章は、著者も関わっているインターネット上の無料本屋
「青空文庫」や、せんだいメディアテークにおける試行錯誤の報告。

現在の図書館の問題は、図書館がお役所によって運営されているこ
とであり、人と金とその使い方が硬直化していることである。

それをのりこえるには「互酬」と「贈与」を基本方針とする図書館
を作り出さなければならない。宮崎シティライブラリや高知子ども
の図書館のようなNPO図書館を作り運営することに著者は希望を見出
す。

なぜNPO図書館がいいのか。それは利用者の立場にたってものを考え
ることができるからである。悲しいかな、それはお役所にはできな
いのだ。ただ、あまり利用者の立場に立ち入ると、今後はプライバ
シー保護の問題も出てくる。そのあたりけっして簡単には解決され
ないだろうが、試行錯誤によって解決されることを期待したい。
試行錯誤することそれ自体が、コミュニティーづくりだろう。

2 私の感想
1) 戦後民主主義純愛派からの脱皮を
私もかつては自分自身『純愛派』に属していると思っていた。
しかし今は、戦後改革の不徹底が問題なのではなく、むしろ占領軍
が徹底的に行った日本の教育システムの解体(たとえば旧制高校)
や神道への徹底的な弾圧などが日本をダメにしたのではないかと思
っている。つまり、戦後初期に占領軍が行った、日本人が伝統的に
築いてきた生活のあり方や文化継承の技の徹底的弾圧によって、
日本人は根無し草になり、文化継承を止めてしまったのだ。

神道や古い日本的なものに対する知識人やマスコミや人々のアレル
ギー的な反応は、戦争によって作られた心の傷がまだ癒されていな
いということの現れだ。(土居健夫さんの「続・甘えの構造」を読
まれたし)

著者のような純愛派は、そろそろ復古派へと脱皮するべき時ではな
いか。

図書館のなかった時代に、日本人はどのようにして知恵を継承して
いたのだろうか、と問うてみるといい。混沌とした現代に答えがみ
つからなければ、過去にお手本を求めるべきである。

2) 情報を求める身体
本書でちょっと不満が残るのは、「情報を求める身体」への言及が
なかったことである。
本来情報とは、与えられるものではなく、求めるものである。人か
ら「これ面白いから読みなさい」と言われた本にはなかなか手がい
かないが、自分の興味の対象であれば、いくら分厚くても、英語で
あろうと、真剣に読む。これが人間と本(情報)のそもそもの関係
ではないだろうか。

人がどのような情報を要求するかということが重要である。図書館
には何万の本があるが、そのどれを選ぶかは人次第である。娯楽本
しか探さない・読まない人もいれば、料理や冠婚葬祭の実用本を求
める人もいる。あるいは東洋の思想や最新の地球科学の本を求める
人もいる。

情報要求は、自発的でなければならない。情報要求は人から与えら
れるものではない。人は既に知っていることしか、新たに知ろうと
しない。

より高度な情報、より深遠な知恵を得るためには、まずそれを求め
なければならない。どうすれば自分の世界を広げることができるの
か。どうすれば自分は何を知らないかを知ることができるのか。

「情報を要求する人間」の存在あるいは形成についても踏まえてお
かなければコミュニティーデザインとしては片手落ちになるのでは
ないだろうか。
(2001.01.05、得丸久文)
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きまじめ読書案内 吉田松陰の心に迫る漫画

内藤春雪作・井出智香恵画
「心鳴りやまず いま、吉田松陰とその母」
1999年11月21日発行 蒼馬社(TEL 03-5261-0884, FAX 03-5261-2215
)、952円 ISBN 4-88388-041-9

http://www.mmjp.or.jp/naito-net/new/kokonari/kokonari.html

元旦に松陰神社で見つけた「心鳴りやまず いま、吉田松陰とその
母」を入手したので、さっそく読んでみた。

この本は、漫画だが、なかなか心に迫り来るものがある。おそらく
作者内藤さんの危機意識が、その力の源泉なのだろう。

あとがきにある内藤さんの言葉をご紹介する。
「日本という国は現在、政治、教育、経済等あらゆる面において時
代の大きな節目を迎えている気が致します。

戦後よりの教育によって自分本位な考えかたが主流になり、「周り
の為」という考え方が少なくなってきた事がその原因なのでしょう
か。

そこで時間を160年前に遡り、吉田松陰という人物の人生と思想
を見直してみたくなりました。ただひたすらに国を想い、私心無く
献身努力してゆく後姿に若者たちが感銘を受け松下村塾において次
第に大きな力となり、やがて維新回天の大事業を成してゆく。また
母滝も家の為、息子のため自分のことを二の次に尽くし大きな愛情
を送り続ける。その姿に松陰は勇気づけられる。

吉田松陰の重んじた「縦筋の筋目」は万古不易であると思います。
昭和の時代まで生きた門人の一人、天野御民氏は松陰のことを「先
生門人に書を授くるに当り、忠臣孝子、節に殉ずるとの場面に至る
と声を震わし、甚だしきは熱涙点々と書にしたたるに至る。逆心欲
しいままにする時は、怒髪天を突き、ゆえに門人も同様に涙し怒っ
た。
しかし普段は寡言、精励、愛深き人であった。」と語りました。そ
んな日本人が忘れかけている思想や生き方、また教育に対する情熱
を表現することができ、読者の皆様に少しでも感銘を受けていただ
ければ大変幸せに思います。」

本書がすぐれている点は、
1 松陰の和歌を多数紹介しているところ。詩を読むことによって
、松陰の思いが伝わって来る。(漫画なのにここまで和歌を紹介し
ているとは、心にくい)

2 母滝の松陰への愛情と愛にもとづいた行為と松陰の母への気持
ちを紹介することによって、松陰の心の暖かさや思いやりの深さが
実感できる。(たとえばどんなにつらくても自殺してはいけないと
いうことを、松陰は母から学ぶのである。)

3 松陰の幼少のころや藩校での兵学師範時代の様子についても生
き生きと描いている。これらの時期の松陰のことをここまで詳しく
紹介している伝記はあまり多くない。

などである。おそらく幾多の松陰紹介本の中でもとくによく書けて
いる本ではないかと私は思う。松陰という人物を知りたければ、ま
ず手に取って読んでみるべき一冊であろう。

得丸久文(2002.01.05)
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元気な父さんの宅配システム
今日、夕方突然かつて取引先として大変お世話になって友達付き合
いしている50歳の男性から電話がかかってきて、今晩お暇ですか
という。顔をあわせるのも一年ぶりだったので、自宅での夕食を土
壇場でキャンセルして、2時間ほど居酒屋でお付き合いした。

彼の勤めている会社は、一部上場の大手電気会社なのだが、彼の属
している部門は、昨年やはり大手の別の会社と合弁になり、これか
ら大規模なリストラが始まるのだという。これからどうしようかと
暗い顔だ。

得「仕方がないですよ。宇宙産業は、世界中で不況産業なのですか
ら。宇宙産業の中で転職先を探すのは無理ですね。それより割増退
職金は出ないのですか。」

さすがに大企業だけあって、退職前の2年間は休職にすることがで
き、その間給与の70%が保証されるというのだ。

得「それは恵まれていますよ。第一あなたのところはお子さんもも
う大きいし、奥様も共働きだし。何の心配もないじゃないですか。」

得「そんなときこそ、人々が何を求めているかを探って、ボランテ
ィアなり廉価サービスを提供して、最終的には新しいビジネスを創
り出してみてはいかがですか」

で、僕が即興で考えたのは:
最近父親が自殺したり事故で死んだりあるいは離婚したりで、父親
の存在を知らない子供たちが増えている。孤児院でも、父親のボラ
ンティアをする人が減って困っているという新聞記事が出ていた。
その隙間を埋めるのだ。「元気なとうさん」という会社を作って、
お父さんの時間貸しをするというのはどうだろう。

それぞれ得意分野を登録しておいて、子供たちから電話がかかると
、出かけていっていっしょに遊んであげるのだ。スポーツ、工作、
囲碁将棋チェス、料理、アウトドア生活、勉強をみてやる、あるい
は肩車するだけとか、ブランコやヒコーキしてあげるといったこと
でもいい。

住んでいる近くの共同体にも、きっと家庭内暴力や折檻で苦しんで
いる子供がいるはず。そのような家庭を探し出すという隠密業務を
兼ねてもいい。

誰もやらないけれども、誰もが求めている仕事を、最初のうちは無
給でもいいからとにかくはじめるのだ。そうすればあなたは第一人
者となって、きっと一年もしないうちに次々と仕事がくるだろう。

料金はたとえば一時間1000円にして、指名がかかると1時間
1200円とかにする。キャンプに一晩付き合うのは5000円と
か。クラブみたいに指名料を取るなんてのもありかな?

もしかすると自治体から補助金がでるかもしれない。
会社は、各人の一時間の給料から、一時間あたり100円を紹介手
数料としてもらうことできるかな。それで運営する。なんとかなる
かな。

お給料はそんなに高くないけれど、自分が目の前の子供たちを楽し
ませたり安心させたりできるということがわかると、それだけで
うれしいし、自分も成長する。

元気なお父さんというのもなかなかいないかもしれないから、普通
のお父さんを元気にするための養成コースをつくってもいい。それ
だけでも商売になるよ。

得丸


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