5901.ロシアゲートは、大事の前の小事



■ロシアゲートは、大事の前の小事  
ーロシア抜きに、IS、北朝鮮、中国にどう向き合うのか?ー
                           佐藤

●「ロシアゲート」問題の背景として、米指導層の中に「ロシアは
中国よりも悪であり、害毒である」という大前提がある。しかし東
西冷戦はとうの昔に終わっており、現実を見る必要がある。
●ISの台頭、北朝鮮危機、中国の覇権拡大等の国際情勢の大問題は
、事実上の「米露同盟」を以て当たる以外に解決できない。
●ロシアと結ばない事は、即ち中国と結ぶ事を意味する。その結果
米国は、将来中国と激突するか、飲み込まれるのを甘受するかの選
択を迫られる事になるだろう。
 
◆「ロシアゲート」◆
トランプ大統領は、「ロシアゲート」で窮地に追い込まれ、弾劾の
可能性も出てきた。
ロシアゲートの発端の一つである、フリン元大統領補佐官の就任前
のロシア政府関係者との外交交渉が問題とされたのは、端的に言っ
てそれが法令で禁じられていたからである。
しかしながら、例えば北朝鮮問題で5月9日、北朝鮮外務省で対米
交渉や核問題を担当する崔善姫(チェソンヒ)米州局長とノルウェ
ーで非公式接触を開始したのは、米国の民間代表団であるとされて
いるが、これは特に問題とされておらず、このような例は米国外交
史で枚挙に暇がない。
即ちこれは、より大きな国益のためには、形式的な法令違反は問題
とされるべきではないという原則が働いたからである。
 
もう一つの大きな柱は、ロシアが、昨年の米大統領選にトランプ陣
営と共謀して干渉したとされる問題である。
これについては、ロシアが干渉したのか、したとすれば具体的にど
の様なものか、またトランプ陣営が共謀していたのか、していたと
すればどのポジションの人物が、どの様な行動をしたのかが、現時
点で具体的な証拠と共に示されていない。
この問題は、上記のフリン氏の件に比べて遥かに大きいながら、筆
者はこれについてもその違法性の大小と外交上の得失が比較衡量さ
れて判断されるべきと考える。
 
そもそも、「ロシアゲート」問題の背景として、米指導層の中に「
ロシアは中国よりも悪であり、害毒である」という大前提がある。
しかし東西冷戦は、とうの昔に終わっており、米マスコミ、上下院
議員、知識層、ビジネスリーダーは現実を見る必要がある。
 
◆中国を取るのか◆
ISの台頭、北朝鮮危機、中国の覇権拡大等の国際情勢の大問題は、
事実上の「米露同盟」を以て当たる以外に解決できない。
 
ISの撲滅の完遂は、ロシア軍抜きに出来るのか?
中東問題の解決は、イスラム・スンニー派、シーア派諸国、イスラ
エルとの複雑なパズルをロシアを外して解く事が可能なのか?
北朝鮮の核開発、大陸間弾道ミサイルの問題の解決は、平和裏に収
めるにせよ、戦火を交えるにせよ、ロシアの関与抜きに行えるのか?
 
今や世界の工場を超えて世界のマーケットとなった中国とビジネス
で繋がることは、確かに産業面で遅れているロシアと結ぶより、米
国の利益となる。
しかし、それは主にグローバル企業の、また現時点での利益である。
中国を不公正な通商でグローバル企業と共に肥え太らせて、米国民
の経済的利益と安全保障が守られるのか?
 
身も蓋もないが、「良い国と結び、悪い国を避ける」と言うのが外
交ではない。
「悪い国と、より悪い国があって、そのましな方の悪い国と結ぶ」
といのが外交の要諦だ。
形式的ながら、民主主義が取り入れられているロシアと、形式的に
も民主主義が取り入れられていない中国のどちらがましなのか?
 
残念ながら、この地球はヘブンではないので、皆等しく仲良くとい
うのは成り立たない。
ロシアと結ばない事は、即ち中国と結ぶ事を意味するのが国際情勢
の厳しい現実である。
その結果米国は、将来何れかの時点で、太平洋上で中国と激突する
か、飲み込まれるかを甘受するかの選択を迫られる事になるだろう。
No.1の軍事大国が、No.3の大国と組む事無しに、勃興する
No.2の大国の覇権は押されられないというのが、概ね古今東西の
歴史が示す所だ。
 
更に言えば、国益だけの問題ではない。
そもそも正義とは何か?
平時には、既存の秩序を守る事が正義となる。
一方、激動の時代には、既存の秩序を破壊し新しい秩序が台頭した
場合、その新しい秩序が齎す多くの人の幸福の総和から、変化に伴
う破壊と流血の不幸を差し引いたものが、既存の秩序のそれを上回
った場合に正義とされるべきだろう。
 
現覇権国である米国は、少なくとも今後数十年単位の世界秩序の具
体像を描く責任がある。
筆者は、米指導層が深い洞察の下、歴史的大局観を持ってロシアゲ
ートに対処することを望む。
 
                    以上
佐藤 鴻全



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