5896.米国に自動車社会の限界を見る



米国に自動車社会の限界を見る その1
             平成29年(2017)5月8日(月)
             「地球に謙虚に運動」代表 仲津 英治

  去る平成29年(2017)3月13日〜22日、米国に妻と共に講演&観光
旅行に出かけました。訪れた大都市は西岸のロス・アンジェルスと
東岸の首都ワシントンD.C.でした。私の印象では、片や自動車依存
型道路交通都市(地下鉄もあります)であり、もう一方は、自動車
重視&地下鉄網拡充都市であります。
今回は、ロス・アンジェルスの状況を纏めて見ました。

1.	ロス・アンジェルスとその郊外(典型的な自動車社会)

 1.1高速道路の交通渋滞
 まず、訪問しましたのは、ロス・アンジェルスの郊外サウザンド
・オークスという街でした。ロス・アンジェルスの都心から西北西
へ約80キロの所にある住宅都市です。人口12万人の静かな田園都市
でした。知己を頂いたのは、同市のラング ランチ小学校の児童が、
小学校高学年向け雑誌Times for Kidsの2016年春頃の刊を見て、「
自然に学んだ」新幹線電車のことを知り、女性先生のノードシュト
ロームさんが彼らの質問を纏めて照会して来られたのが切掛けです。
 それがご縁で、上記ラング ランチ小学校の他、ロス都心にあるカ
リフォルニア州立大学、オーテイス芸術工科大学(私学)において「
自然に学ぶ」と題して500系新幹線の開発・走行試験の講演をさせて
頂きました。3日間掛けての講演です。

 両大学へは、ノードシュトロームさんのご主人にマイカーで送り
迎えしてもらいました。片道2時間掛かりました。
距離は約80キロですから、平均時速40キロにしか過ぎません。
 二日間とも往復に4時間を費やしたのです。
片側5〜6車線のFree Way(片道三車線以上の高速道路を指し、
Highwayは片道2車線以下の道路を指すとのこと)を乗用車を中心と
する車群が双方向とも、ぎっしり埋め尽くしておりました。一時停
止することもありました。

  周辺の乗用車を観ると殆どが運転者一人です。中央分離帯寄りの
レーンは、二人以上の車両のみOKです。三人乗りの我々はその車線
を主に走りましたが、焼け石に水の感があります。
 道路脇にはInterstate Freeway(州間高速道路)の表示がありまし
た。
     
 1.2 時間の浪費と道路維持費の財源難そして大気汚染等

  往復とも送り迎えしてくれたご主人ノードシュトローム氏の話で
すと、平日は毎日同様の混雑状態だそうです。土日、祭日は多少マ
シだとか。サン・フランシスコ〜ロス・アンジェルス間約640キロの
間に同様のFree Wayが3〜4本あるそうですが、各高速道路とも似
たような状況だそうです。
 Wikipediaによれば、ロス・アンジェルスの市域面積は1,302平方
キロ、人口は379万人(2010)で、日本で都道府県最小の大阪府の1,893
平方キロ&886万人(平成25年(2013)に比べ、人口密度がかなり低い
ことが判ります。多くの人が広く薄く住んでいるのでしょう。そし
てロス・アンジェルス広域都市圏の人口は1,525万人を数え、そこか
ら自動車通勤している人が多いとのことです。 

  ご主人の弁によれば、もっと高速道路と車線を増やせとの声があ
るそうですが、行政側にはそれに応じる姿勢はなく、軌道系の交通
機関の整備を検討中とか。電車網の発達した近畿圏のJR大阪環状線
を例に取ると、8両1編成の電車にラッシュ時2,000人は乗っているで
しょう。これを道路で運ぼうとすると、一人乗りの乗用車なら2,000
台要ります。
1車線で1時間掛かる通行量です。

  ご本人も高速道路を縮減してでも鉄道の復活・整備が必要だと言
っていました。道路整備には大きな課題があるからです。
 まず、財源難です。高速道路は無料ですが、それら建設費・維持
費の財源は、鉱油税と車両重量税とのことでした。
これらが頭打ちし、道路の新規建設、増強どころか維持費の確保も
難しくなりつつあるのです。

  そして大気汚染です。ご本人が案内してくれた、石油王ジャン・
ポール・ゲティが残した遺産で建設・運営されているJ・ポール・ゲ
ティ美術館のある小高い丘からロスの都心方向を眺めました。汚れ
た大気で都心の高層ビル群が霞んで見えました。

 J・ポール・ゲティ美術館
https://ja.wikipedia.org/wiki/J%E3%83%BB%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B2%E3%83%86%E3%82%A3%E7%BE%8E%E8%A1%93%E9%A4%A8

  次のようなニュースがあります。
  大気汚染:LAとロングビーチが最悪 (2015年5月1日)全米肺協
会が4月29日に発表した最新の調査結果によると、ロサンゼルス、ロ
ングビーチを含む南カリフォルニア地区が全米でもっとも大気が汚染
されている地域であることが分かった。(ここでLA=ロス・アンジェ
ルスの略号です)。

 1.3 通学と高齢者対応

  米国では州によって差異はありますが、概ね自動車運転免許証は
16歳から取得できるとの事。今や米国は高校まで義務教育だそうで
、高校生の通学のために16歳から免許資格を与えているとのこと、
さぞや事故も多いことでしょう。
 また、ロス付近は、自動車なくしては生活出来ない地域ですが、
自動車の運転が難しくなった高齢者への配慮など交通弱者対策をど
うするのか、あまり情報を得る時間はありませんでした。最近研究
開発が進んでいる自動運転技術もまだ、先のことでしょうし、根本
的解決になるのでしょうか。

 1.4 路面電車の廃止と地下鉄路線

 私が主宰しています「地球に謙虚に運動」のホームページの代表
発信欄のN.023 (2007/04/14)に 「路面電車を崩壊させた米自動車
メーカー」という一文を掲載しています。http://www5f.biglobe.ne.jp/~kenkyoni/
 これは、米国出身でコンピューターソフト会社■アシストの会長
トッテン、ビル氏から伺った話をベースにしています。トッテン氏
は2006年9月、日本に帰化されています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%86%E3%83%B3

 概略、下記のような内容です。
 1930年代、ロサンゼルスの空気は年間を通じていつも澄んでいま
した。当時は静かで汚れを出さない3,000両の路面電車が各地区間
で年間8,000万人もの人々を輸送していたのです。 
 ロサンゼルスは自動車ではなく電車が発達していたために、今よ
りもきれいな環境の中で栄えていたといえましょう。
 ところが、ゼネラルモーターズ(GM)をリーダーとする、石油会社
、タイヤ会社、自動車メーカーなどが結託して鉄道システムを崩壊
させたというのです。

 路面電車網は廃止されてしまいましたが、地下鉄網(地上&高架
のLRT線を含む)は1990年頃から整備されつつあります。今回地下鉄
に乗る機会と時間はありませんでしたが、Wikipediaには路線図と車
両写真が掲載されていました。
 
  地下鉄の建設・運営組織は、ロサンゼルス郡都市圏交通局=LACMTA
であり、交通事業者としては、アメリカ合衆国として二番目の規模
を誇り、その運営地域は1433平方マイル≒3670平方キロ、ピーク時
に運行するバスの台数は2000台にのぼるとのことです(Wikipedia情報)。
  地下鉄路線(地上&高架のLRT線を含む)は、同じくWikipediaに
よれば、2009年時点で営業中の路線数は5路線、駅数は79駅のようで
、その内レッドラインとパープルラインは5駅を共用しています。利
用者数は一部公表されていませんが、かつての路面電車以上の利用
客数はあるでしょう。

  また、工事中の2路線があり、2014年に連邦政府がパープルライン
に総額12億5千万ドルの補助金と8億56百万ドルの低利ローンを交付
しています。国も都市交通には鉄道が必要との認識を持つに至って
いるようです。
ただ、上述のノードシュトロームご夫妻によれば、今までニューヨ
ーク&ワシントンDCに居住したことがあり、そちらでは地下鉄を大
いに利用したが、ロス・アンジェルス近郊に住むようになってから
は、一度も地下鉄に乗ったことがないとのことでした。Wikipediaの
情報から推計しますと、路線延長は131キロで年間利用客数7,400万
人≒1日僅か20万人です。130キロの路線なら1日少なくとも200万人
が欲しいところですね。

  自動車オンリーで生活できる便利な街、言い換えれば、自動車無
しでは生活できない街、それが広域ロス・アンジェルス地区なので
しょう。

 道路混雑とそれによる時間ロス、貴重な都市空間に道路、駐車場
、自動車整備工場、給油所等に供される多大な面積&体積、膨大な
石油消費、それに伴う炭酸ガスなど地球温暖化ガスの排出、そして
健康を害する大気汚染、大量に発生する交通事故さらには高齢者も
自動車を手放せない生活空間等、深刻なマイナス面を自動車依存社
会は、もたらしていると改めて感じました。

  次回はワシントンD.C.です。お楽しみに。       以上 





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