5895.北朝鮮危機3つのシナリオと日本の備え



北朝鮮危機3つのシナリオと日本の備え 
ー北爆、核容認、ロシア亡命
                         佐藤
●トランプvs金正恩の対決の行方は、共に特に国内に弱みを見せる
と政権崩壊を招きかねない事情を抱えているため、軍事衝突に至る
可能性が高い。
●米国に届く長距離弾道ミサイル開発を破棄する事を条件に、トラ
ンプが一転、北朝鮮の限定的核保有を容認する可能性も、排除出来
ない。
●金正恩がロシアへ亡命するシナリオも考えられるが、プーチンの
ロシア側に直接的メリットは乏しいため、国際社会の対露制裁解除
等の対価を要求してくる事も想定される。
 
◆北朝鮮征伐◆
4月6日の米中会談のデザートの最中にトランプはシリアへのミサイ
ル攻撃を知らせ、習近平と世界を驚かせた。
トランプはシリア政府の化学兵器使用に対する報復と言っているが
、化学兵器をシリア政府が使った客観的証拠は示されておらず、反
体制派の自作自演や、反体制派の化学兵器貯蔵庫が攻撃を受けた可
能性が残る。
それにも関わらずトランプが攻撃に踏み切ったのには、死者10名以
下でロシアへ事前通告済での基地攻撃なら、たとえ後で化学兵器使
用の反体制側のやらせ等が判明しても、人道に関する緊急避難的措
置だったと言い訳できる範囲だという計算がある。
その目的は、北朝鮮への牽制と、それへ圧力を掛けるように中国へ
の尻叩きだというのが、大方の見方だ。
そして今、カールビンソン空母打撃群が日本海で日本と、次いで韓
国と合同軍事演習を行い、米国、北朝鮮の対決ムードが高まってい
る。
 
トランプにとって、北朝鮮が米本土に届く大陸間弾道弾を完成させ
る事は受け入れられない。
一方、核を放棄したリビアのカダフィーが消された事を見ている金
正恩が、核開発を放棄する事はほぼ有り得ない。
 
筆者は、トランプvs金正恩の対決は、共に特に国内に弱みを見せる
と政権崩壊を招きかねない事情を抱えているため、軍事衝突に至る
可能性が高いと考える。
 
米国による北朝鮮攻撃は、斬首作戦、ミサイル発射台破壊、広範な
基地等破壊の何れかに関わらず、難民が鴨緑江を渡ってくるのを防
ぐため、トランプ・習近平会談とその後の電話会談と調整によって
中国の地上軍投入とセットで考えられているとの予測が有力だ。
また、駐留米軍が中国と国境を接する事は習近平としては許し難く
、韓国が北朝鮮と統一することも韓国側の経済がもたないため、軍
事作戦後の戦後処理は体制変更した上での中国による属国化が想定
されているのではないか。
トランプとしても、中国が完全コントロールして核とミサイルが廃
棄されるなら許容できる範囲だ。
 
◆限定的核容認とロシア亡命◆
一方、米国に届く長距離弾道ミサイル開発に限って破棄する事を条
件に、トランプが一転、金正恩の限定的核保有を容認する可能性も
、高くはないが排除できない。
 
北朝鮮攻撃に対する反撃によって韓国、日本、在日米軍基地に甚大
な被害が及ぶ事が今後米国内でも大きく報道されるようになると、
世界経済への影響懸念も合わせ、厭戦ムードが強くなり、米国世論
はトランプに妥協を求めるかも知れない。
あるいは逆に、事態の膠着状態に米国民が焦れ、開戦ムードが高ま
るかも知れない。
北の今後の挑発の度合い、トランプの国内基盤の揺らぎ具合等とも
絡みどちらも考えられる。
 
日本に目を転じれば、既に前大阪市長の橋下徹が、日本への被害の
可能性を考えたら北の核保有を国際社会が容認し、核保有国家とし
て位置付ける事が国益に適い、それをトランプと国際社会へ働き掛
けるべしと主張し始めている。
橋下は、日本維新の会の実質的オーナーであり、その日本維新の会
は野党ながら安倍政権の盟友である事を考えれば、この動きは軽視
できない。
加えて、仮に5月9日に投開票を迎える韓国大統領選で文在寅(ムン
・ ジェイン)が勝利すれば、この流れは国際的に加速するだろう。
 
更には、金正恩が対米開戦を避けロシアへ亡命するシナリオも考え
られる。
トランプが引かなかった場合に、金正恩が開戦して金王朝が滅亡す
るのか亡命するのか究極の選択に迫られた時、亡命を選択する可能
性は残る。
その場合の亡命先は中国だろうとの予測が有力だが、筆者は、金正
恩としてみれば、2013年末にパイプ役の張成沢(チャン・ソンテク
)を処刑する等で関係が悪化した習近平に今更頭を下げるのはあり
得ないのではないかと考える。
 
また金正恩はスイスに留学経験があるとは言え、北朝鮮とは繋がり
が希薄で人権問題に敏感な欧州諸国も国内の反発を恐れ亡命受け入
れには二の足を踏むであろうし、正恩自身もリビアのカダフィー殺
害を黙認したとも言われる欧州各国への亡命はリスクを伴うと考え
るだろう。
ましてや、かつてのフィリピンのマルコス大統領の例に倣い、トラ
ンプの懐に飛び込み米国に亡命してハワイ等に居住するのは、正恩
としてはトランプ政権後にどうされるか分からず考え難い。
 
その場合、北朝鮮の生みの親で中国の制裁以降、万景峰号による定
期航路を開く等関係性を高めているロシアが亡命先として浮上して
くると思われる。
 
4月27日の日露首脳会談の際に、北朝鮮への影響力行使を要請された
プーチンは、6カ国協議の重要性を強調して、それをかわした。
これは、「ロシアゲート」で政権基盤の揺らぐトランプとのバイの
取引は避け、6カ国協議なり国連なりの国際的枠組みからの正式な要
請なら動く用意はあるという事だ。
仮に金正恩の亡命を受け入れた場合、プーチンには朝鮮半島への発
言権を確保し中国を牽制するインセンティブは有るものの、直接的
メリットは乏しいため、国際社会に対露制裁解除を決める事等の対
価を要求してくる事も想定される。
 
◆日本の備え◆
筆者は、トランプvs金正恩の対決の行方は、以上述べた主に3つに絞
られると考える。
クーデターによる金正恩暗殺や核の完全放棄と改革開放も考えられ
るが、前者は確立されたと見られる密告制度と粛清体制のため、後
者は叔父の張成沢や異母兄の金正男を処刑、暗殺し手を血で染めた
金正恩を儒教文化が根強く残る北朝鮮国民が許す事は考え難く、可
能性に乏しいと思われる。
 
現時点で考えれば、それぞれの蓋然性は、(1)トランプによる北
朝鮮征伐60%、(2)大陸間弾道ミサイル開発破棄と核保有容認30
%、(3)ロシア亡命10%以下と言ったところではないか。
(1)のトランプによる北朝鮮征伐は、前述したように日本が返り
血を浴びるリスクが高い。
また(2)の大陸間弾道ミサイル開発破棄と核保有容認について、
前述の橋下徹は米露中が核を持っている現状下で北朝鮮の核保有が
加わったとして然したる違いはないと主張している。
しかし、その後の北朝鮮が米国の先兵として中国に対する刃(やい
ば)ともなり得るかも知れぬが、逆に中国のアジア侵略の走狗とな
るかも知れぬ等、余りにも不確定要素が大きいため、筆者は橋下の
主張は的を射ていないと考える。
 
何れにせよ、トランプの言うようにあらゆる選択肢がテーブルに乗
っている以上、日本は最低限、ミサイルに対する早急な防空訓練の
実施、防空体制の更なる充実、米国の核ボタンのシェア(所謂レン
タル核)への道筋作りが不可欠である。
 
また、前述の中で最も日本の国益に適うのは、最も可能性は低いが
(3)のロシア亡命である。
日本は、直接間接にあらゆる場面でこの実現のために国際社会で労
を取るべきだろう。
筆者は、プーチンがトランプと金正恩の間を仲介する用意があるな
ら、日本はその仲介の仲介、ロシアと国際社会の橋渡し役を買って
出るべき時と考える。
(敬称略)
 
                    以上
佐藤 鴻全



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