5853.米国における保護主義とポピュリズム



トランプ大統領を当選させたのは、共和党のどのような勢力なのか
を知りたくて、昨日は、笹川平和財団でのジョージ・ナッシュ博士
の講演会に行ってきた。

(講演)
戦後の米国の保守運動から、今回のトランプ運動を見たいと思う。
トランプ氏の運動を見て、保守は終わったという議論があるが、そ
の保守運動が、どのような経緯をたどったかを知ると違う見方がで
きる。

保守運動は、昔からいろいろな思想を持つ団体の連合体であった。
1945年の戦後には、保守はバラバラであった。保守運動は、歴
史的に間違った道にあると見られ、リベラルこそが正しくて、それ
に反対する側は間違っていると思われた。

そのとき、この保守運動に3つの運動が起こる。
1.リバタリアン
国家権力の拡大で、個人の尊厳分野に権力が入ってくる。社会主義
を払いのける必要を説いた。自由主義ということでラッファーやミ
ルトンは、真実性を守ることが重要と説いた。

2.反リベラル
エドモンド・パークやラッセル・カークが代表的で、伝統的・宗教
的なことに基づいた社会が幸福であり、その社会を目指し、国家と
個人を繋ぐこと。精神的な荒廃はリベラルによるとした。伝統的価
値の正当性をパークの書で得ていた。

3.反共産主義
共産主義に反対すること。欧米は共産国と戦う必要がある。

この3つの保守主義を結びつけたのが、ウィリアム・バックリーで
創刊した「ナショナル・リビュー」誌が機関紙である。結びつけた
のは、自由に対する敵、ソ連がいたことである。

1964年にゴールドウォーターを共和党の大統領候補にする。
ゴールドウォーターは、保守運動の本来の主張、「小さな政府」、
政府の市場経済への介入の限定化、強硬な反共路線などを直截な
言葉で訴え、保守思想を提示した。このため、彼は保守主義運動
の先導者となった。

その後に、
4.ネオコン
アービン・クリストルが、リベラルに当初参加していたが、知的に
評論して伝統主義に回帰しようと、ネオコンを始める。政治や文化
を扱う言論誌『ザ・パブリック・インタレスト』や国際関係論を扱
う言論誌『ザ・ナショナル・インタレスト』を創刊した。

5.宗教右派から社会的保守運動
道徳的な廃退が社会に蔓延して、これを変えないといけないと立ち
上がり、道徳や伝統的な生活を保持することを主張した。中絶反対
などである。

この5つの分派をまとめたのが、1980年代のレーガン大統領の
2期目であった。

そして、1989年に共産主義が崩壊し、共通の敵がいなくなった。

このため、保守運動は、分裂して、哲学の違いをお互いに批判し始
めた。繁栄の危機に直面した。各派閥がバラバラになった。

このため、保守運動には、現在でも司令塔がない状態にある。

2000年以降にインターネットが出てくると、活動が楽になり、
新しい派閥が出てくる。

6.パレコン(パレオ・コンサバティブ)
1990年、パトリック・ブキャナンがネオコンに反対して、ネオ
コンは国際主義であり、保守主義ではないとした。ブキャナン派は
ナショナリストであり、反グローバルで移民反対で、1945年以
前のモンロー主義に戻るとして、「アメリカ・ファースト」と言い
始めた。

冷戦後、分極化が起こり、世界は移動の社会になる。アメリカに向
かって、大量の人が移ってくる。毎年100万人で、この内の留学
生の1/3が中国からである。

その他に、毎年100万人の移民も入り、非合法な1100万人の
移民が現在いる。そして、これが加速化している。

このため、ポスト・ナショナルとかアンチ・ナショナルが高まり、
異文化主義や多元性、多様性などが米国の教育に入ってきている。

これらのことがおかしいと、保守主義からポピュリズムが出てくる。

ウィリアム・バックリーは、あまり教育がない普通の人たちの方が
良いというポピュリズム的なことを言っている。

レーガンは、ポピュリスト+リバタリアンの上に反エリート主義で
反政府的な政治を行い、革命であると言っている。国民目線が重要

左翼エリートはウォール・ストリートの金持ちたちで、右翼エリー
トは政治エリートたちと言い、忌み嫌っていた。

7.ティーパーティ
右派の金持ちが団結して、強い公共政策が脱線したとした。人民の
ための政府になり、人民よる部分がない。これはリベラルの傲慢で
あるとした。

そして、共和党のエリートに対しても反発して、リベラルのアジェ
ンダに対決していないとした。特に不法移民を問題化した。

2010年以降に、統治している人たちは、国民の声を聞いていな
い。これを、バニー・サンダースとトランプが同時に言い始める。
左右の2つのポピュリズムが出てきた。2008年のリーマンショ
ック不況後を説明できることを競った。

このように、火山のような爆発力があるポピュリズムが出てきた。

ジョージ・ウォレスが、1968年に大統領選挙に独立党で出る。
反グローバル+アメリカ・ファースト+移民反対と言って、選挙の
結果、アラバマ州、アーカンソー州、ジョージア州、ミシシッピ州
、ルイジアナ州でトップを取り46人の選挙人を獲得した。

このジョージ・ウォレスの流れが、次のブキャナンになる。

8.トランピリズム
このブキャナンやトランプは、国際主義と自由主義から離れている
ので、イデオロギー的には共和党主流とは違う。グローバルは社会
を豊かにしないと思っている。

よって、トランプが怪物と見られているのは、イデオロギー的な革
命だからでしょうね。

また、左派と右派の2つを融合している。福祉国家+移民反対であ
り、左右の政治課題を掲げている。上下の分断で、中産階級と貧困
階級から支持されている。

もう1つがマスコミの分断が起こっている。通信の発達でトークラ
ジオやSNSが人民の声を大きくしたことによる。トランプ氏は、
このSNSのFSやツイッターを使い、革命を起こした。

大きな雑誌や放送は、トランプを批判したが、トランプは、SNS
やトークラジオ、ブライトバート・ニュースで自分の主張を訴えた。

2016年、保守の内戦が起こり、保守主流派はトランプ氏と折り
合いをつけようとしたが、労働階級が、現在の政治に怒りを持って
いたので、折り合えなかった。

トランピリズムは、保守派と2つの障害を持っている。2つは思想
的な対決をすることになる。

1つが、保護主義で反グローバル、経済ナショナリズムで白人至上
主義のスティーブン・バノンがいる。もう1つが、国際主義、ウィ
ルソン主義を批判している。

共和党下院院内総務のポール・ライアンは、穏健派ジャック・ケン
プの下で育ち、移民や少数民族に理解を示している。国際派でもあ
る。バノンの白人至上主義とは大きく違う。

2017年、トランプが大統領になり、どうなるのか?
共和党主流は、トランプをオルトナ・ライトであり、白人至上主義
の民族主義であり、騒がしく、キチガイと見ている。ネバー・トラ
ンプという。

しかし、トランプはニューディールと同じで100日で仕事を完成
するとしている。このため、共存できる可能性はある。

1つに、共和党の思想に沿う仕事を共和党とトランプでこなしてい
くこと。

もう1つは、分断が大きいが夢や敵がいれば団結できる。
このため、民主党が大きな反対運動をすると、団結する可能性が出
てくる。このため、民主党は大きな反対運動をしないことで、声で
思想を訴えることである。

思想としては、社会のスピードが早く、グローバリズムとしても移
住+旅行は大きくなっている。これは抗し難いこと。

政治エリートが人々を強制的にしている。そして説明責任を持たな
い。このため、階級闘争化したので、それらがトランプ飛躍の元で
ある。よって、説明責任と聞く耳の問題を解決することである。

Q:移民社会の米国で、統合することには何が必要か?
A:米国人は、共存していく能力を失っているように感じる。この
ため、答えはない。経済成長があれば、いい雰囲気になるとは思う
が。

Q:国際社会の関与はどうなるのか?
A:どう進めるのか、まだわからない。閣僚の任命がまだであり、
誰がアドバイスするのかもわからない。しかし、バノン上級顧問が
いるので、そこから読み解くことになるかもしれない。
トランプ氏は、2国関係で考えるとしている。1対1、個人関係の
対話が好きであり、特に友人間の会話が好きである。国連のような
雰囲気が嫌いであり、そこでも解決はないはず。

Q:トランプ大統領は1年以上持つのか?
A:本人は2期やるつもりでいるので、自分から1年で辞めること
はない。



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