5841.トランプ政権の政策とは



トランプ大統領の政策が徐々に明らかになってきている。それを見
て、今後の日本と世界を予測しよう。  津田より

0.産業・貿易政策
国境税という輸入税を掛けて輸入ができにくくする。この国境税は
関税なので、関税率を決める権限は大統領にあり、議会承認が必要
ない。すぐに実施可能である。

しかし、トランプ氏の脅しである米国企業の海外工場からの製品の
みに国境税をかけることはできないが、特定国からの特定品目全て
に同じ税率の関税をかけることはできる。ということは、メキシコ
からのすべての自動車に35%の関税を掛けることになる。

しかし、メキシコとカナダとはNAFTAという自由貿易協定があり、こ
れを破棄してから関税を掛けることになる。時間が必要である。

しかし、中国や日本などとは、そのような協定はないので、即座に
関税45%でも10%でも可能である。文句があるなら、FTAの交渉
をしろと出てくることになる。

トヨタに脅しをかけたが、メキシコ工場からの自動車ではなく、日
本からのトヨタ車には即座に関税率を引き上げることができる。

普通は、そのようなことをすると、相手国も同様な関税を米国産の
産品に掛けてくるので、米国に競争力がある産業には痛手になるは
ず。

一番痛手になるのは、中国での米企業のビジネスであり、米中貿易
戦争が起こることは覚悟しておく必要がある。日本の輸出先、1位
と2位国の貿易戦争であり、日本も大打撃を受ける。

そして、米国が率先して関税率引き上げをすると、他国も関税率を
引き上げてくるので貿易量は急減することになる。世界的な産業の
収縮が起きる。世界経済にとっては大きな痛手になる。

そして、輸入製品に高関税をかけると物価高になり、FRBは金利を上
昇させるので、金利差からドル高円安になる。しかし、いくら円安
でも企業は製品を米国に輸出できないので、日本で生産した製品は
売れない。企業は米国で生産をするしかない。キー部品を日本から
輸出して、多くの部品も米国で調達することになる。

米国はドル高にはなるが、自国製品を輸入製品から関税障壁で守る
ことになる。また、日本企業でも米国生産製品は守られる。このた
め企業利益は確保される。

米国の保護主義的な貿易政策は、戦後のWTO活動を破壊し世界の自由
貿易体制は死に、世界は管理貿易に逆戻りする。

このため、資源国や人口の多い国が得をすることになる。

よって、米国との安定的な経済関係を構築するために、早期に日米
FTA交渉を開始するべきである。米国のLNGなどのエネルギー資源を
買い入れて、貿易不均衡を起こさないことが重要になる。製品の輸
出をしないで、キー部品の関税率引き下げを行うことである。農産
品の日本の関税も、大幅な引き下げが必要になると見る。

このためには、日本は早く農協改革をして農産物のコスト引き下げ
を行うべきである。

そして、規制緩和は進む。これは共和党議会も賛成であり、温暖化
防止の規制はなくなる。パリ協定からは脱退するし、エネルギー産
業の雇用数は増えることになる。日本はパナマ運河も広くなり、米
国からエネルギーを買うべきである。しかし、温暖化は進む可能性
高くなるので、早急に防止技術の開発もしておくべきであろう。

1.FRBとの戦い
ドル高になる利上げをするFRBのイエレン議長とフィッシャー副議長
をトランプ大統領は、任期切れでの再任はない。輸出に不利なドル高
は、雇用増を目指すトランプ大統領として、認めることができない。

一方、量的緩和をしたFRBとしては、市中に大量の資金がある状態で
あり、バブルを作る可能性のあるインフレを止める必要がある。

その上に金融規制もなくなり、FRBの心配するバブルを生み出す機能
を強化するので、FRBは早期に利上げをしないといけない状態になる。

このため、FRBとトランプ政権の戦いも起こることになる。

もう1つが、トランプ大統領は、自分の政策に合わない個別企業や
トランプ氏を非難する個人・新聞を叩くために、公的にトランプ非
難ができなくなる可能性もある。米国が、独裁国家的な様相を呈す
ることにもなる。

この現象が既に始めっているような感じも受ける。米企業や報道機
関がトランプ氏の意向に沿った動きをし始めていることに危機を感
じる。

人権などの思想もない米国は、世界を主導もしなくなるし、できな
くなる。

2.外交・安全保障政策
トランプ次期大統領は、The Wall Street Journalから13日に1時間
インタビューを受けた。その中で、台湾をめぐる米中の"ひとつの中
国"の原則を尊重し続けるかどうかは、中国の通貨政策や貿易の実態
を見た上で決めるとした。また、中国に対する巨大な貿易赤字を減
らすため、中国を為替操作国に指定したいが、交渉が先であるとした。

対中強硬派のナバロ氏が国家経済会議議長になった理由もわかる。

しかし、中国の政府誌によると、一つの中国の原則を認めずに、南
シナ海の人工島封鎖をしたら、戦争も覚悟していると述べているの
で、米中貿易戦争は、本当に戦争になる可能性もある。相当に緊迫
した状態も覚悟する必要がある。

ロシアについては、対ロシアの経済制裁をある時期までは維持する
が、その後は解除することとした。プーチン大統領との首脳会談も
歓迎している。フリン補佐官がロシアと連携してIS崩壊を目指すよ
うであるし、ロシアについては関係改善の方向である。しかし、共
和党議会は反対しているので、徐々にしか進まないか。

メキシコとの国境線の壁建設はすぐに建設を開始するようである。
監視委員会を作り、そこで監視して壁の建設を行うとした。

3.インフラ投資と減税
減税は共和党議会も賛成でありすぐにできるが、米国財政が大幅な
赤字になり、多量の国債発行で金利上昇も止まらなくなり、ここで
もドル高になる。しかし、ドル高になると輸出できなくなり、米国
製品輸出ができなくなる。このため、国境税という関税など税収UP
の方策を探すこととともに行う必要があり、その検討をしてからで
ないとできない。ムニューチン次期財務長官が銀行家であるので、
どうなるのかは見通しているはずである。

インフラ投資は、財政出動を嫌う共和党議会との攻防が続く可能性
が高いし、ムニューチン次期財務長官も財政出動が難しいとわかっ
ているはず。累積米国債は10兆ドル以上もあり、金利上昇が起こ
ることに警戒が必要なためである。国債の格付けも下がる可能性も
多いにある。

このため、インフラ投資銀行を作り、有料道路化して産業投資を呼
び込むなどのアイデアが出てくるはずである。この方向の検討をす
るために、時間がかかる。一年程度の準備期間が必要なはずだ。

今までは無料であった高速道路、空港にも高い利用料金を取ること
になる。そうしないと、共和党議会を通らないと見る。

このため、11日のトランプ氏の記者会見でもインフラ投資と減税
についての説明がなかったのである。

1つだけ、日本にとって良いことは、バーゼル3を推進していた米
国が国債の格付けでリスク資産になるという規制を米国も反対に回
ることである。バーゼル3が発効しなければ、日本の破綻も少し時
間が伸びることになる。ここはトランプ政権に期待したいところで
すね。

4.今までとは違う世界になる。
第2次世界大戦の反省から出てきた、米国が主導してきた人道主義
的なリベラルな考え方の世界が、トランプ大統領で終わり国益重視
の無秩序な世界になる。ロシアや中国のような非人道主義的、独裁
的な国に米国もなるようだ。

英エコノミスト誌編集長のベドレス氏は、暗い世界が始まると述べ
ている。米ニューヨーク・タイムズも人権グループがトランプ氏に
なると、世界的に人権が守られなくなると危機を述べている。

ということで、世界的な人道危機に無頓着なことになるようだ。

その結果、米国覇権もドル基軸通貨体制も終わることになる。

5.米国覇権の終わりでどうする日本
米国の今まで確立した人権、自由な民主主義、グローバルリズムを
日本や欧州で守るしかない。特に米国が世界を理想的社会に主導し
ていたバトンを引き継ぐことである。

そして、日米同盟を堅持しながら、日本が米国のトランプ政権に入
れ知恵するとか説得して、世界的問題を提案していくしかない。

世界における日本の役割は、一層高まることになる。長期政権であ
る安倍政権のポジションでもある。

さあ、どうなりますか?

参考資料:
Planet Trump
With Donald Trump as America’s 45th president, 2017 will mark
 the beginning of a new and darker global order, 
warns Zanny Minton Beddoes
http://www.theworldin.com/article/12577/planet-trump?fsrc=scn/tw/wi/bl/ed/

Trump Open to Shift on Russia Sanctions, ‘One China’ Policy
http://www.wsj.com/articles/donald-trump-sets-a-bar-for-russia-and-china-1484360380?mod=e2tw
WSJとのインタビュー

Human Rights Group Portrays U.S. as Major Threat, Citing Trump
https://www.nytimes.com/2017/01/12/us/politics/human-rights-watch-trump.html?smid=tw-share&_r=0

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2017年 01月 14日 09:49 JST 
コラム:トランプ政策、中心は強いドルと国境税の組み合わせか
田巻 一彦
[東京 13日 ロイター] - 11日のトランプ次期米大統領の記
者会見に世界の市場関係者は失望した。最も知りたかったマクロ経
済政策の全貌が不明のままだったからだ。
これまでの発言から、あえてその全体像を描けば、「強い米国」と
「強いドル」を標ぼうし、世界から米国にマネーを吸い寄せ、イン
フラ投資などに投入する一報、ドル高の弊害は「国境税」(ボーダ
ータックス)で遮断するというポリシーミックスだ。
『前代未聞』のこの政策が果たして継続できるのか、今のところ全
くわからない。しかし、当面は日本に円安と日本株高をもたらし、
新しい「何か」をするための「時間」を与えてくれるだろう。この
時間を無駄にせず、政府と民間は一丸となって、潜在成長率・ゼロ
%からの脱出を図るべきだ。
<会見で明らかにしなかった強いドルとその効果>
マーケットには、トランプ氏の保護主義的な発言を懸念し、ドル安
/円高になるとの見方が根強くある。
確かに国境税のところだけを取り出してみれば、円高材料にみえる
だろう。しかし、トランプノミクスの本質は、この会見で言及しな
かったところにあると考える。
トランプ氏が米大統領選で訴えてきたのは、大幅な減税、インフラ
投資、規制緩和、医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃など。特
に市場が注目してきたのは、減税とインフラ投資、規制緩和の部分
だ。
米の昨年12月の失業率は4.7%、時間当たり平均賃金の伸び率
は前月比2.9%増と7年半ぶりの高水準となっている。
労働需給がタイトな中で、大幅な財政出動が展開されれば、米長期
金利と期待インフレ率は上昇。これがドル高のエンジンとなり、同
時に財政出動の効果で名目国内総生産(GDP)は跳ね上がり、米
株高の要因にもなる。
こうしてマネーは、米国に向かって流入し続ける構図ができる。集
まったマネーを国内のインフラ投資に振り向ければ、米政府は自ら
の財政資金を100%投入しなくても、海外からの資金でインフラ
を更新。関連したビジネスで雇用が生まれ、不満が蓄積していた中
間層をなだめることが可能になる。
<ドル高の弊害遮断する国境税>
ただ、ドル高は米製造業の競争力を削ぐ効果も持つ。11日の会見
でトランプ氏が貿易赤字に言及したため、ドル高懸念の発言が出る
のではないかとの観測が市場では根強くある。
しかし、それは国境税などの存在を否定した「自由貿易主義」が前
提の話ではないか。国境税で安い輸入品を遮断すれば、ドル高の弊
害を少なくとも米国内に持ち込むことを防げる。
また、国境税は米国内での輸入品価格を押し上げる要因になるが、
ドル高効果でそれをある程度、相殺することも可能だ。
つまり、強いドル政策と国境税の組み合わせは、短期的に米国に「
富」を生み出す構図を造り出す。
<アメリカ・ファーストの影>
だが、それは典型的な近隣窮乏化の政策とも言えるだろう。すでに
一部の新興国では、通貨と株価の下落が継続。景気後退のリスクを
承知で金利引き上げに踏み切っている例もある。特に非資源国では
、このスパイラルを止める手立てが見つからない。
そのうえ最大の市場である米国が、国境税で輸出障害の「壁」を造
れば、通貨安のメリットを生かす場も失われる。
「アメリカ・ファースト」の政策が、アメリカだけ繁栄する政策に
なりかねないリスクを内包していると言える。
果たして、私の想定通りにトランプノミクスが展開されるのか、今
の段階でははっきりしない。しかし、その兆候は確かにあると指摘
したい。
<日本に与えられた猶予期間>
日本にとって最大の関心事の1つである為替は、米国のマクロ政策
が大きな方向性を決めるため、ドル高/円安が次第に進むと予想す
る。保護主義への懸念で円高方向に振れる局面があっても、大きな
トレンドを形成するのは難しいと考える。
円安が進めば、株高も同時に進行するのではないか。日本政府がさ
したる努力をしないまま、円安・株高を享受できる構図が完成する
ことになるだろう。
ただ、この「絶好機」を無為に過ごしては、「悔いを千載に残す」
ことになりかねない。今の日本経済は、潜在成長率が0.1%台ま
で低下し、少子高齢化の基調にも変化がない。生産労働人口の減少
基調が変わらないまま、生産性の伸びが高まらなければ、長期的に
経済規模の縮小に直面するリスクが高まる。
AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)への投資では
、日本企業は米、独などに大きく水をあけられている。「リスク」
ばかりを言い訳にしていては、次の大きなショック発生時に本当の
意味での「老成国」になってしまうだろう。
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トランプが企業を恫喝する「国境税」 本当にできる?
2017年1月11日(水)11時27分
 トランプ次期米大統領は最近のツイッターへの投稿で、米国向け
製品を製造する海外工場を拡充すれば多額の国境税を課すといくつ
かの企業を威嚇したが、政策の詳細は明らかにしていない。
 トランプ氏の真意や採り得る課税強化策について探った。

Q:トランプ氏が米企業に対して独自の輸入税(import tax)を課
すことは可能か。
A:できない。米国の憲法によれば税法を作成するのは議会であり
、連邦政府の歳入の調達権限は主に下院に与えられている。

Q:トランプ氏が独自の輸入関税(tariff)を課すことは可能か。
A:できるだろう。ただし法的な面で困難に直面する公算が大きい
。ニューヨーク大学ロースクールのダニエル・シャビロ教授は「特
定の企業を標的にすれば、法的にも政策的にも懸念を掻き立てるの
は必至」と指摘。企業ごとに選択的に関税を課せば、世界貿易機関
(WTO)を通じて異議申し立てを受け、報復措置を受けるだろう
と述べた。
 ブルックリン・ロースクールのレベッカ・カイサー教授も最近の
ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、トランプ氏は大統領令で5
─10%の輸入関税を課す考えを打ち出しているが、歳入調達の権
限は議会にあり、こうした措置は憲法に反すると主張した。

Q:トランプ氏は、議会が取り上げている国境税への支持を示唆し
ているのか。
A:専門家の中には、トランプ氏の投稿は、下院共和党が提案した
輸出促進のための国境における課税調整を支持しているとの見方が
ある。輸出による売り上げへの課税を免除する一方、輸入にまつわ
るコストの控除を禁止するこうした調整をめぐっては、米国への投
資を押し上げると支持する声がある半面、議会の承認が得られるか
疑問視する専門家もいる。

Q:トランプ氏の投稿は議会で浮上している国境での課税調整策と
歩調がそろっているのか。
A:そうとは限らない。トランプ氏は雇用の海外流出を招いた米企
業に懲罰的な課税を課す可能性に言及し、不安を煽った。一方、下
院案は製造したのが国内企業か海外企業かに関係なく、すべての輸
入品を平等に扱う内容となっている。

Q:トランプ氏の政策の詳細はいつ明らかになるのか。
A:トランプ氏がいつでも説明可能で、11日の記者会見で明らか
になるかもしれない。専門家の間では、下院共和党は2月末に税制
改革の素案を発表するとの見方がある。共和党がトランプ氏の政権
移行チームと改革案について協議し、この日程がずれ込む可能性は
ある。
[ワシントン 9日 ロイター]
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BLOGOS
NEXT MEDIA "Japan In-depth"2017年01月14日 09:38
【大予測:自動車業界】トランプ氏のツイートで激震
遠藤功治(株式会社SBI証券)

■トランプ氏の真の狙いは日本からの輸出車
トランプ氏の真のターゲットは、本来別のところにあるのではない
か、そのような気もします。それはTPP後の日本との貿易交渉です。
米国はTPPから離脱するというのは、トランプ氏の公約の1つですが
、仮に離脱したとして、その後に起きることは、それぞれ各国との
二国間交渉になる可能性が高い、ということです。

米国から見れば、相手がメキシコ製であろうと、日本製であろうと
、海外から米国国内に入ってくる自動車は全て輸入車です。メキシ
コ製だけにBig Border Taxの35%関税を課し、日本製の車には現行の
2.5%関税というのが、トランプ政権にとって納得がいくものなのか
。本来ならこの2.5%の関税は25年をかけて、段階的に撤廃する、と
いうのがTPPでの合意内容だったのですが、トランプ政権がTPPから
脱退した場合、この約束は破棄されます。否、それどころか、日本
からの輸入車にも、Big Border Taxをかけるべき、との意見が出な
いとも限りません。(ちなみに、米国から日本へ輸出される自動車
への関税は、既にゼロとなっています)。

次の表は、米国で販売されている自動車のうち、米国及びカナダで
生産されている車の比率・米国外から輸入されている車の比率を示
したものです(2016年、1月-11月実績値)。

この表で、米加生産車とあるのは、各社が米国内で販売した台数の
うち、米国とカナダで生産された車両台数、それ以外輸入車は、米
国とカナダ以外での生産車であり、これはメキシコ製を含む台数で
となります。勿論、日本製の車もここに入ります。

結果、何がわかるかと言うと、米BIG3全社、及びホンダが、全体の
90%以上が米国・カナダ産であるということ。トヨタ・日産自動車は
70%強と、4分の3程度は米国・カナダ製、反対から言えば、20-25%が
メキシコを含む輸入車である、ということです。前述のように、日
産自動車の場合はメキシコ生産が多く、トヨタ自動車の場合は非常
に少ない。つまり、これをNAFTA製(米国・カナダ・メキシコ製合計
)とすれば、トヨタ自動車がなお、日本からの輸入車に20%以上、依
存しているということになります。富士重は60%日本車、マツダはこ
の表では100%輸入車ですが、メキシコ生産車が多いことを考えると
、日本車比率は約50%程度と推定されます。実際、日系企業で、米国
・カナダ以外からの輸入台数が最も多いのは、トヨタ自動車という
ことになります。

仮に、日本製自動車に対する関税を、現行の2.5%からBig Border Tax
の35%に引き上げると、当然のこととして、日本から米国への自動車
輸出は大打撃を受けることになります。日米間の自動車摩擦は過去
、何度も起きていますが、最大のものは1981年に開始された、日本
車の対米自主規制でしょう。年間168万台(その後、徐々に引き上げ
られた)という枠をもうけ、日本製の輸出車(米国からみれば輸入
車)の数量規制に踏み切った訳です。

後から振り返れば、日本車はこれでぼろ儲けをする(需要がある所
で供給量を規制する訳ですから、日本車の実勢価格が上がる)ので
すが、その規制発効時点では、日本各社にとっては、国内の工場稼
働率という点で厳しい状況を迎えます。

メキシコからの輸入車に35%関税をかけると、米国内での自動車価格
が2,000ドルから5,000ドル上昇するという指摘もあります。日本か
らの輸入車にBig Border Taxをかける、ないしは数量規制を実施す
ることも、米国国内での日本車価格の引き上げにつながります。燃
費とガソリン価格高騰及び品質の点から、1981年当時は、日本車の
優位性がはっきりしていましたが、現在ではその優位性は揺らいで
おり、日本車の競争力を更に毀損させることは明らかでしょう。ト
ランプ次期大統領の真意が、対米輸出される日本製自動車にあると
すれば、日本メーカーにとっては、大きな脅威となる可能性があり
ます。日本からの輸出を止めて、税金が下がる米国で生産せよ、
tweetの次に来るのは、こういった“悪魔のささやき”かもしれませ
ん。
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「バーゼル3」の完全導入が難航しているワケ
トランプ次期大統領の就任でリスクに
ハワード・デービス :パリ政治学院教授 2017年01月14日TK
2008年の世界金融危機によって、国際的な銀行監督基準を定めるバ
ーゼル銀行監督委員会が世界中の金融界の注目の的となった。各国
政府は銀行の危機が国境を越えて広がるのを防ぐため、従来の基準
だったバーゼル2に代わる、より厳格なグローバルルール(バーゼル
3)の策定に躍起になった。

その結果として2009年4月、従来の金融安定化フォーラムを拡大・強
化する形でFSB(金融安定理事会)が創設された。そのポイントは主
要ルール策定にG20(先進20カ国・地域)の全代表を含める点にあっ
た。メンバーシップ拡大により、銀行システムの資本増強に対する
政治的な支援拡充を期待したのだ。この変革は有効だったといえる。

そして2013年から新銀行規制のバーゼル3が段階的に導入された。バ
ーゼル3では、個別の銀行に義務づける資本の規模を2倍以上に増や
し、資本の質を向上させた。その結果、銀行システムの安全性がや
や高まったように見える。

ゴール寸前でつまずき
だが2019年のバーゼル3完全導入を前に、最終的な取りまとめが難航
している。これは危険な兆候だ。

FSB発足の前、関係者の多くは組織の拡大が障害になるとの見方を示
していた。金融危機まで日米欧にカナダの代表者を加えた十数人だ
ったルール決定メンバーが20人以上へと増え、合意形成が困難にな
ると見ていたのだ。しかし、この点は大きな問題ではなかった。

問題はむしろ、米国と欧州との意見の食い違いにあった。米国は銀
行の内部管理の厳格化や、銀行がリスクに応じて資産を減らすこと
に制限を課すよう求めてきた。

一方で欧州当局は、銀行の企業への融資リスクは本質的に低いと主
張してきた。EU(欧州連合)加盟各国の銀行の融資先には、米国の
資本市場を活用できる高格付けの大企業が多い、というのがその理
由だ。また住宅ローンの証券化が進んでいる米国ほどには、銀行に
とって不動産融資のリスクは高くないとも主張してきた。

このため、2016年11月にチリのサンティアゴで開催されたバーゼル
銀行監督委員会の会合は、バーゼル3の最終的な取りまとめには至ら
ず、2017年に再度開く会合に結論を先送りした。これでグローバル
スタンダードの未来は、従来よりも不透明になった。

バーゼル3の取りまとめに向けてはほかにも課題がある。ひとつは各
国の独自ルールとの調整である。

2008年の危機以来、多くの国々は表向きにはグローバルルールの厳
格化を支持しながら、一方では自国独自の金融システムを保護する
策を講じてきた。それは金融機関が破綻した場合、後始末はその金
融機関が拠点を置く国々の当局に委ねられるからだ。銀行が世界中
に支店だけを置けばよいという時代はとうの昔に過ぎ去ったのだ。

課題は山積しているが
ドナルド・トランプ氏が米国の次期大統領となることも障害になり
そうだ。トランプ氏は国際協調に懐疑的で、「米国を再び偉大にす
る」と標榜してきた。彼が率いる次期米政権が、グローバルな銀行
規制強化に前向きになるとは考えにくい。

欧州にも、EUから離脱する英国とユーロ圏との関係をあらためてど
う規定するかという問題がある。ECB(欧州中央銀行)はこうした英
国の問題に加え、イタリアの銀行危機にも対処する必要がある。

このような事情で、バーゼル3の取りまとめには難題が山積している
。しかしグローバルスタンダード策定の取り組みが後退すれば、長
期的に皆が苦しむのは自明の理だ。

新規制の取りまとめを主導するBIS(国際決済銀行)、FSB、そして
バーゼル委のトップは2017年、いずれも入れ替わる。新たなBIS総支
配人となるカルステンス氏(現メキシコ中央銀行総裁)ら3人には、
あらゆる外交手腕が求められる。
(週刊東洋経済1月14日号)
==============================
記事
飯田香織2017年01月14日 12:31
【習近平からトランプへのご挨拶】
トランプ次期大統領のインタビューをどこが取るのかしら、と思っ
ていたらThe Wall Street Journalが13日に1時間 にわたってインタ
ビューしたと自ら報じました。

タイトルはDonald Trump Sets a Bar for Russia and China(トラ
ンプ氏、ロシアと中国に条件を示す)。以下の2点を強調しています。

■オバマ政権が発動した対ロシアの経済制裁を「少なくても一定期
間(at least for a period of time)」維持するものの、その後は解
除することを示唆。

■台湾をめぐる米中の"ひとつの中国"の原則を尊重し続けるかどう
かは、中国の通貨政策や貿易の実態を見た上で決めるとして、見直
しもあり得ると示唆。

プーチン大統領率いるロシアとの関係改善は、ブッシュ(息子)大
統領にしても、オバマ政権のクリントン国務長官にしても同じだと
WSJは指摘しています。

確かに振り返ってみると、ブッシュ大統領はプーチン大統領と2001
年に会った際に「目を見つめたら、魂を感じ取った」と述べて、の
ちのち「人を見る目がない」と批判されたし、クリントン長官もロ
シアとの関係を再構築するための"リセットボタン"を押している姿
(2009年)が批判されました。

そのロシアに対してアメリカは去年12月、サイバー攻撃を理由に経
済制裁を発動していますが、トランプ次期大統領はWSJに「仮にロシ
アと仲良くなってロシアが我々を本当に助けてくれているのであれ
ば、すごくいいことをしている国になぜ制裁なんて必要なのだろう
か?(If you get along and if Russia is really helping us, 
why would anybody have sanctions if somebody’s doing some 
really great things?) 」と述べ、条件しだいでは制裁を解除する
としています。

プーチン大統領についても「向こうが会いたいと言っているらしい
ので、私としてはまったく問題ない(I understand that they would 
like to meet me, and that’s absolutely fine with me) 」と述
べて、会談に意欲を示しています。

一方、中国については、従来の"ひとつの中国(One China)"の原則を
尊重し続けるかどうか聞かれて「ひとつの中国の原則を含めてあら
ゆることが協議の対象だ(Everything is under negotiation 
including One China)」と述べて、見直しもあり得るという考えを
示しました。

また、通貨・人民元について選挙期間中は「就任初日に中国を為替
操作国に指定する」と明言していましたが、インタビューでは「ま
ずは(中国と)話す」と述べています。

「中国が為替操作しているのは間違いないが、それ(初日に指定)
は考えていない(Certainly they are manipulators.  But I’m not 
looking to do that)」と少しトーンダウン。

しかし、「アメリカ企業は中国企業と戦えない。というのはドルが
高すぎて死にそうだからだ (Our companies can’t compete with 
them now because our currency is strong and it’s killing us)
」と釘をさすことも忘れません。

外交とは別に、1兆ドル規模のインフラ投資を進めるにあたって15か
ら20の建設業者やエンジニアを集めた特別委員会(special council)
を作って、道路や橋などの建設プロジェクトを監視するとも発言し
ています。リターン重視だとも強調。

中国に批判的なトランプ次期大統領ですが、中国の習近平国家主席
から届いたという季節の挨拶状(holiday greeting card)をインタビ
ューした記者に見せたそうです。その光景が想像できる気がします!



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