6247.ウ軍がヘルソン市に迫る



ウクライナ戦争はウ軍がヘルソン市の奪還を目指し、29日より総反
撃を開始した。今後を検討しよう。 津田より

0.米国および世界の状況
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NYダウは、コロナで2020年3月23日に18,591ドルまで急落したが、
2022年1月4日に36,799ドルと最高値更新となり、6月17日は29,888ド
ルと年初来安値になり、8月26日は32,283ドルで、29日は184ドル安
の32,098ドル、30日は308ドル安の31,790ドル、31日は280ドル安の
31,510ドル、9月1日は145ドル高の31,656ドル、2日は337ドル安の
31,318ドル。

先週、株価は週間で約1000ドルと大幅下落となった。26日のパウエ
ル議長のタカ派発言で、市場の雰囲気は大きく変化した。利上げ継
続となり、金利差拡大でドル円も140円台と円安方向になっている。

インフレ阻止の観点からも、8月のISM製造業景気指数は52.8と、7月
から横ばいであり、8月のISM製造業価格指数でも、52.5と7月60、6
月78、5月80より低下してインフレは改善しているし、雇用統計で8
月31.5万人増と予想30.0万人増を若干上回る伸びとなったものの、
時給0.3%増(予想0.4%)が鈍化し、失業率が3.7%に上昇した。

そして、7月の製造業新規受注は1.0%減と市場予想(0.2%増)に反して
減少した。

バイデン米大統領も8月の米雇用統計を受け、インフレが緩和しつ
つある兆候だと認識を示したし、イエレン米財務長官は「労働参加
率はパンデミック前の水準まで回復した」とした。

しかし、景気後退の懸念から株価は落ちている。景気指標が良いと
FRBの利上げを心配し、景気指標が悪いと、景気後退が心配で株価が
下げる展開になっている。

しかし、この雇用統計から9月11日のFOMCも0.75%利上げになるとの
見方が多いようだ。

一方、欧州ではインフレ率が10%程度になり、ECBは9月と10月に
それぞれ0.75ポイント利上げの公算が大きい。

どうも、デフレの時代が終わり、インフレの時代になったようであ
る。世の中の見方を変える必要がありそうだ。

デフレの原因は、1つとして、安価な移民労働者の存在、2つとし
て、中国からの安価な商品供給、3つにはロシアからの安価なガス
の供給でしたが、この3つのデフレ原因がなくなる。

供給過剰時代から、供給不足時代になったことである。東西分離経
済で、農産物とエネルギー価格の高騰が続くようである。その上に
干ばつ被害もあり、食糧危機になる可能性も高い。

1.日本の状況
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日経平均株価は、コロナで2020年3月19日に16,358円まで下げ、2021
年9月14日に30,670円で31年ぶりの高値になり、2022年3月9日は
24,717円の底値になり、8月26日は28,641円で、29日は762円安の
27,878円、30日は316円高の28,195円、31日は104円安の28,091円、
9月1日は430円安の27,661円、2日は10円安の27,650円。

先週、株価は8月17日の29,222円を天井で下落し、今週は1000円の下
げになっている。

第1四半期決算で、日本企業全体では過去最高益で経常利益は
28兆3,181億円と1年前と比べて17.6%増えたが、ソフトバンクGの
3兆円を超す赤字で、EPSが2200円台から2100円台に下落したことと
、海外投資家が売り越しに転じたこと、28000円台が上限と空売りが
増えたことで、株価は下落した。しかし一番の要因はハウエル議長
のタカ派発言で、海外投資家の売りになっていることだ。

しかし、最高益でも分かる通り、日本企業の体質が変化したように
感じている。テレワークが常態化し、これに伴い企業のDX化も進ん
でいる。コロナで日本社会が大きく変化したようだ。ECの売り上げ
も増えているようであり、やっと世界基準の社会になってきた。

このため、日本での新規ビジネス・チャンスが大きくなっているよ
うに見える。

もう1つが、トヨタが日鉄に対して、鉄鋼の価格を20%程度上げるこ
とに合意したように、円安で鉄鋼価格が低い日本企業で売るより、
海外で売る方が利益が大きいと、日本企業への販売を控える方向の
ようである。このため、トヨタも鉄鋼価格引き上げを認めるしかな
いことになった。

このように、国内製造企業の価格競争力は、著しく上昇している。
このため、世界への輸出が大きく伸び、製造業の業績は、大きく伸
びている。これが好業績になっている。

現在、日本の製造業の株価が低いので、株価下落で買うことである
。市場の円安の評価がおかしい。円安を維持すれば、日本企業復活
は間違えない。日銀の金融緩和で、やっと日本復活の目が出ている
ことになる。

この上、中国の地政学的リスクが増大している。中国での生産から
国内生産にした方がリスクが少なくなるし、コストも安い。時代が
変わった。グローバルから分断の時代になった。これを見ない経営
者は失格である。

日本は新興国並みのコストで製品を生産でき、今後の東西分離経済
の時代で、先進諸国に製品を届ける役割を果たすことになる。

勿論、日本人は相対的に貧乏になったが、日本にいる間はわからな
いので、安全保障上では大きなメリットがある。農業、エネルギー
などの国産化ができることになる。耕作放棄地の再耕作補助金など
で農産物の増産を行うことである。

ESGも一時的に減速することである。東西経済分断で供給不足に
なり、特にエネルギーや農産物は、優先的政策課題になってきたか
らである。統制経済にして、危機の時代を乗り越えることが、今の
政府が行わなければならないことである。

2.ウクライナ戦争の推移
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ウクライナ独立記念日の8月24日後の29日から南部ヘルソン州のドニ
エプル川西岸地域の奪還に向け、ウ軍は総反撃を開始した。

この反撃とともに、引き続き、ウ軍はクリミア半島やヘルソン州、
ザポリージャ州のロ軍の弾薬庫や兵站拠点、司令部、空軍基地など
を撃破して、ロ軍の補給をなくす動きをしている。

ロ軍は、戦争資源が枯渇してきたので、ドンバス方面に優秀部隊を
集めて、この地点での突破を志向しているようだ。このため、ロ軍
はイジューム西のノバ・フサリフカから突然、ドネツ川の橋を破壊
して、対岸まで撤退した。

イジューム周辺の優秀な正規兵をドネツク周辺に移動させるようで
ある。この正規兵の代わりに募集兵を充当するので、防衛の難しい
地点を放棄するようだ。その募集兵も少なく、この地域は手薄にな
っている。

そのため、ウ軍は徐々に前進している。偵察隊を出して、ロ軍の空
白地帯を見つけて、そこに浸透する方法で前進しているようだ。

プーチン大統領はドネツク州の完全制圧の期限を8月31日から9月15
日に延期して、ロ軍に絶対命令を出したという。このため、ドネツ
クへの兵員増強がロ軍も必要になり、イジューム周辺やハルキウ周
辺、スラビアンスク東側から多くの経験豊富な正規兵を移動させて
募集兵に置き換えているようだ。

この2週間を見ると、ロ軍が前進できたのは、ドネツク近郊のピスキ
ーだけであり、一度は押し戻したウ軍は、耐えられなくなり完全撤
退した。

しかし、ピスキーから先に攻撃できない程ロ軍も消耗したようであ
る。この情報でプーチンが動いた可能性がある。ドネツクに兵員を
集めろと。現地指揮官と直接連絡しているので、全体戦局を見ずに
、一部地域の戦術レベルで動員の命令を出したようだ。

これに関連して、多大な犠牲を払って前進したので、ロ軍は休戦を
ウ軍に申し出たが、時間稼ぎのような気もする。ドネツクに部隊を
集める方向でロシア軍は動いているので、危ないような気がする。

このような動きから見ると、ロ軍の戦略は、南部も捨て、イジュー
も捨て、ドネツク市周辺を確保ということになる。

一方、ウ軍は、ドニエプル川のヘルソン市とノバ・カホフカの中間
地点のリボグのポンツン・フェリーを破壊した。アントノフスキー
橋やその付近のフェリー、カホフカ橋や付近の船橋も攻撃して、ド
ニエプル川西岸への補給を止める攻撃を継続しているが、フェリー
の破壊もできるようになったようである。

これは、射程70Km、誤差1mの「ボルケーノ」GPS誘導弾がウ軍に供給
されて、PZH2000の155mm榴弾砲から打てるようになったことで、こ
の弾は最後の段階で。熱追尾ができるので動く目標でも狙えるから
である。これで、ロ軍の補給は完全に止まることになる。

クリミア半島に補給している兵器・弾薬は、ヘルソン州に送れずに
ザポリージャ州のトクマク付近に蓄積したが、ここもHIMARSで破壊
されている。しかし、ロ軍はドニエプル川西岸への大量の補給・援
軍を諦めて、ザポリジャー州で新たな攻撃をするのではないかと見
られている。新しく編成されたロ軍の第3軍団もザポリージャ州に正
規部隊を送り込んで、募集兵はハリキウ近郊やイジュームに送って
いる。

このことでは、ドイツ軍ツォルン総監が、ロシア陸軍には第二戦線
を開く余地があるとし、西側諸国はロシアの軍事力を過小評価すべ
きでないと警鐘を鳴らしている。まだ、ロシア軍は豊富な兵器を持
っているということだ。

ウ軍の主力部隊がいる南部ヘルソン州では、29日より総攻撃になり
、3方向で反撃している。1つにはヘルソン市の北からロ軍に占領
されたブラホダトネを奪還し、高速道路M14を一直線でキセリフカ、
そしてヘリソン市郊外のチェルノバイフカまで攻撃が及んでいるよ
うである。

この攻撃軸にウ軍はかなりの戦力を投入している。HIMARSも昼から
チェルノバイフカへの攻撃に使用している。しかし、チェルノバイ
フカから先のヘルソン市方面は要塞地帯になり、ここからの攻撃は
容易ではないし、配備のロ軍も多い。しかし、ウ軍の攻撃がすごい
ことにロ軍は、ビックリしたようである。

この攻撃と同期して、ヘルソン市内の特殊部隊も市内で銃撃戦を開
始しているが、市内の銃撃戦は収まったようである。

ヘルソン州中北部のロゾベの橋頭保からロ軍を攻撃して、スクイー
・スタボクを奪還し、コストロムカも奪還でT2207号線で両軍が激戦
中である。ロ軍の戦車中心BTGが集中しているので、ここではウ軍の
前進速度は遅いことになっているが着実に前進している。

ヘルソン州北東部では、アルハンヘルスク、オリヘネを奪還して、
ビソコピリアで激戦になっている。しかし、ここのウ軍は攻撃し奪
還した地点を再度、ロ軍に奪われるなど、苦戦もしているようだ。
しかし、ロ軍がヘルソン州東中部のゾルイ・バクカに砲撃をしてい
るということは、ウ軍が10qも南下した可能性がある。

しかし、このヘルソン州全体でウ軍もロ軍も情報統制しているので
よくわからない。両軍の攻撃地点やSNSの情報等で推測するしかない。

そして、混戦模様でもある。広い範囲に1万8千人のロ軍では、点し
か守れていないので、ウ軍が進撃しても、ロ軍陣地を避ければ、前
進できる可能性が高い。

どちらにしても、ドニエプル川西岸地域のロ軍30BTGの1万8千名分の
補給ができなくなっているが、それでも、ロ軍は、今までに貯め込
んだ大砲や戦車、ヘリコプター、迫撃砲と弾薬を大量に持ち戦って
いる。ウ軍兵士は「奴らの装備は豊富だが兵士は少ない」という。

補給は、ウ軍戦闘機に見つからないように、クリミアから輸送ヘリ
2機と護衛の攻撃ヘリ2機の4機編隊で細々としているようであるが、
非常に少ない。補給線を維持できずに空からの補給になっている。
それと、孤立したロ軍が多数存在しているようだ。

このため、長期の戦闘になると、ロ軍の大量投降になる可能性が出
てきた。いつまで、ロ軍が持つかという問題になっている。

事実、ロシアの独立系メディアThe Insiderによるとロシアはすでに
誘導ミサイルをほとんど保有せず、戦争がこのまま維持されれば、
砲弾と装甲車両は2022年末までにほとんどが払底するという。

そして、戦車ですが、ロ軍の車両損失合計は5415両だが、1756両(31
%)がロ軍放棄でウ軍が鹵獲したものだ。これを修理して戦線に送り
出しているようだ。ロ軍戦車のメンテナンスがないことで故障率が
高いことになっている。

最後に、敗走するロ軍は、フェリー乗り場に押し寄せることになる
が、ドニエプル川西岸地域では3ケ所のフェリーや橋しかない。後
は川を泳いで渡るしかない。重火器は放棄することになる。

それと、AGM-88対レーダーミサイルでロ軍の防空レーダーが破壊さ
れて、ロ軍のS300は機能しなくなっている。このため、バイラクタ
ルTB2が偵察活動や対砲兵戦で、ロ軍の火砲を攻撃できるようになっ
てきた。TB2でT-72戦車を破壊する動画も出てきた。

特にドニエプル川左岸のヘルソン市などの西側の一帯では、ウ軍が
制空権を確保した可能性があり、この地域でロ軍戦闘機の活動は、
非常に少なくなってきた。

このため、ウ軍攻撃機もロ軍地上部隊を空爆できるので、ウ軍陸上
部隊は、砲兵と空軍の支援を受けて、ロ軍を攻撃している。これで
、ヘルソン市郊外までウ軍は到達した模様である。

それでも、ロ軍の待ち伏せ攻撃で、ウ軍戦車隊などが被害を受けて
いるようであり、相当な犠牲を払って前進している。

しかし、全体的には、ロ軍が不利な戦いになり、戦意の低い部隊は
、ウ軍の攻撃ですぐに逃亡している。前線にいたドネツク109連隊は
、ウ軍が攻撃開始したら、即撤退した。しかし、これも待ち伏せ攻
撃の誘導の可能性もあり、注意が必要である。

英国と米国のウ軍軍事顧問団も、ウ軍の総反撃の前進速度を早める
と、損害が多くなり、継戦能力を低くすることに警戒している。数
か月という侵攻速度にして、ロ軍の弾薬を枯渇させるべきであると
いう。それと、ポーランドの全戦車PT-91も、まだ届いていない状況
であり、攻撃兵器も十分とは言えないことも考慮しているようだ。

現在、オランダから供与された兵員輸送装甲車YPR-765APCsが多く、
T-72、T-64などの戦車の台数が少ないことがネックである。この戦
車の多くをヘルソン市奪還作戦に投入しているが、それでも損害が
多いと数が足りなくなる。

このため、ウクライナのアレストビッチ大統領顧問によると、政府
は多くのウ軍兵士が命を落とすことを望んでいないとし、ウ軍がロ
軍に対し素早く勝利することを期待しないで欲しいとした。

しかし、ウクライナのレズニコフ国防相は、冬まで戦争を続けると
、援助疲れで、EUからの支援がなくなることを心配している。この
バランスが必要になっているようだ。

これに対して、ドイツのシュルツ首相は、冬の燃料について、確保
できたと言っているが、多くの国では冬の燃料の不足が心配な状況
である。

プーチン大統領は、欧州への天然ガス供給を止めて、欧州でのエネ
ルギー不足から停戦をウクライナに要求するのを待つ方向である。
このため、ノルドストリームを止めた。

しかし、南部ヘルソン州のウ軍総反撃の経過で自信を持ったゼレン
スキー大統領は、ウクライナ東部の紛争解決のための交渉グループ
における同国の代表団を廃止し、戦争で決着させるという。

このため、ゼレンスキー大統領は、ドイツに対して、ウクライナか
ら電気の供給を行うとして、欧州のエネルギー不足を緩和して、支
援の継続を図りたいようである。

そして、このウ軍の総反撃で、占領地のロ連邦編入のための住民投
票は、統一地方選と同日の9/11に実施するのは不可能で、次の候補
は11/4の「国民団結の日」になるのではないかと言われている。

一方、ザポリージャ原発には、IAEAの査察団が到着した。これで、
ロシアは自分が占拠する原発への攻撃を控えると、期待したい。

この矛盾した根拠が出てきた。IAEAが「なぜ原発に飛んできたミサ
イルはロシアが打ったような方向を向いているの?」と言う質問に
対して、ロシア側の担当者は、「着弾する際にミサイルが180度方向
転換するからだ」と真顔で答えたという。

このようなロ軍の行動監視に、IAEAのグロッシ事務局長は、ザポリ
ージャ原発にスタッフ2人を常駐させると発表した。

そして、ロシア軍が占拠するザポリージャ原子力発電所の安全性に
関する報告書を9月9日までに発表すると述べた。

ショイグ国防相は、ウクライナが「核テロ」を実行していると非難
し、ロシアが同原発に重火器を配備したというウクライナと西側諸
国の主張を否定し、国連安保理でも、ロシアは原発の安全をウ軍が
阻害したと、議題提案があり、IAEAの報告書後、審議されることに
なる。ロシアの嘘が、国連安保理でも暴かれることになる。

ロシアは9月1日から大規模な軍事演習「ボストーク」を、ロシア極
東や北方領土、日本海などで行い、兵士5万人以上のほか航空機140
機や艦船60隻が参加する。中国、アルジェリア、インド、ラオス、
モンゴル、ニカラグア、シリア、アルメニア、アゼルバイジャン、
ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタンが参加す
る。

この狙いは、ウクライナ戦争でも、ロシアは中国とともに。米欧や
日本への対抗ができると見せつける狙いがあるとみられるが、反対
に、中国は艦船の参加もさせて、台湾進攻時にロシアの支援を得る
狙いがあるようだ。

ロシアは、極東ロ軍もウクライナに70%程度送っているので、参加人
数は1万人レベルのようである。恒例の大演習を行うことで、ロ軍が
余裕あることを示したようだ。

世界は、確実に東西の分離になってきている。先進国群と専制主義
国+新興国+発展途上国群の2つに割れている。温暖化防止などの先
進国の規制で、新興国の発展は阻害されている。

それを嫌がる新興国は、両方の中間に位置することになる。そのよ
い例がインドだ。インドは、「ボストーク」に参加することで、欧
米に対する不満を表しているように感じる。

さあ、どうなりますか?



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