6223.ロシア戦術核攻撃の可能性



ロシアはウクライナに侵攻して、3週間以上がたちキエフ包囲を目
指したが、将官4人も戦死するなど損害も多く、停戦交渉も進まな
い。前回に続き、この戦争の展開と世界構図を検討しよう。
                         津田より

0.米国および世界の状況
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NYダウは、コロナで2020年3月23日に18,591ドルまで急落したが、
2022年1月4日に36,799ドルと最高値更新となり、3月8日は32,632ド
ルまで下落したが、11日は32,944ドルで、14日は1ドル高の32,945ド
ル高、15日は599ドル高の33,544ドル、16日は518ドル高の34,063ド
ル、17日は417ドル高の34,480ドル、18日は274ドル高の34,754ドル。

3月8日が当面の底であることを確認できた。3月16日のFOMCで0.25%
の利上げで、年7回の利上げをする方向であることも分かったが、株
価は、ウクライナとロシアの停戦交渉進展で大幅な上昇を続けてい
る。ドットチャートから、2023年末には金利が2.75%になることを示
された。原油価格も100ドル割れになり、インフレへの懸念が和らい
だ。

FRBの利上げより、ウクライナ情勢の方が株式市場には影響力が上で
、停戦に向かう期待から、株価は上昇方向のようである。停戦によ
り、ニッケルや小麦、原油価格の高騰を止め、インフレ下の景気後
退を抑える効果が大きいからだ。

しかし、停戦交渉は徐々にしか進んでいないようにも見える。両方
の停戦条件は、大きく違う。

もう1つ、ロシア軍がぼろ負けすると、核戦争の危険性が出てくる
。その危険性が出れば、勿論、市場はパニックになり、一層の株価
下落になる可能性も出てくる。

中国は、中立的な立場でロシアに対面している。ロシアは反対に、
中国の支援を期待している。特に軍事物資の提供を期待しているは
ずである。

しかし、中国国内は、ロシアのウクライナ侵攻で、習近平国家主席
の唱える「中国の夢」を取るか、資本主義的な経済発展で国民の豊
かさを実現するかの論争が巻き起こっている。

このため、中国政府としては、論争が決着するまで完全な中立を保
つことを選択したようである。しかし、経済的関係は維持する。

この意味することは、ドローンやトラックなどの民生品の輸出は行
い、それの軍事転用は起こりうることになる。中国はロシアの味方
もしないといいながら、ロシア寄りだ。

このため、習近平氏は停戦を支持しながらも、自分でロシアに働き
かける意志は乏しいようで、米、NATOがロシアと話し合うべきだと
いう立場である。後でその理由を述べる。

もう1つが、弾薬の提供をロシアは期待するが、残念ながら、中国
の兵器体系とロシア兵器体系は、大きく違うので援助できない。も
し、援助するなら、兵器体系を変更して長期の軍事訓練も必要にな
る。このため、ロシアは期待しない。ということで、軍事支援では
なく、経済関係の維持でよいのである。

もし、弾薬の援助を要請するなら、インドである。インド軍装備は
ロシア兵器体系であり、弾薬も共通である。この提供阻止で、岸田
首相は、インドに飛んでいる。ロシアへの弾薬供与を阻止するため
である。

サキ米大統領報道官は、日本の岸首相が、この戦争のリーダーだと
指摘したが、このインドの説得やロシア軍の脅しなどの役割を日本
に期待したからである。

兵器体系が同じ軍隊は、その制作国が勝つという原則をウクライナ
でひっくり返した。

この原因は、米国が2014年から軍事支援して、兵器体系を一部米国
製に置き換えたからである。しかし、電子装備までは、手が回らず
に、ロシアはウクライナ軍の通信網をジャミングで遮断した上で、
侵攻をした。しかし、このウクライナ軍の通信網をイーロン・マス
クが宇宙衛星で補完したのだ。

このため、ウクライナ軍の使用する電波に対するジャミングが起こ
せない。逆に、ロシアの使用する電波に対しては、ウクライナ軍は
ジャミングを行い遮断した。このため、部隊間通信できないことで
、連携した作戦ができない。困って、通信に携帯電話を使い、情報
がウクライナ軍にタダ漏れにもなっている。

このようなことで、ウクライナは、ここまで善戦しているようであ
る。この立役者も判明している。ビクトリア・ヌーランド国務次官
である。

2013年からウクライナに対する内政介入を行い、親露派勢力の排除
を画策し、80億ドル規模の親米派勢力への援助と、親米派政権にし
てからウクライナ軍に米軍の兵器と訓練支援を行い始めた。この成
果が、今出ている。共和党もウクライナへの軍事援助を賛成してい
る。このため、米国では、ヌーランド女史が英雄視されている。

このインフレによる景気後退期に、ウクライナ軍事援助で軍事産業
が大儲けすることで、米国経済を下支えすることになる。このため
、景気後退は起こらないと、パウエルFRB議長も断言する。米国経済
が大丈夫であれば、日本経済も大丈夫である。

1.日本の状況
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日経平均株価は、コロナで2020年3月19日に16,358円まで下げ、2021
年9月14日に30,670円で31年ぶりの高値になり、2022年3月9日は
24,717円の底値になり、11日は25,162円で、14日は145円高の25,307
円、15日は38円高の25,346円、16日は415円高の25,762円、17日は
890円高の26,652円、18日は174円高の26,827円。

3月9日が当面の底であることを確認した。ウクライナとロシアの停
戦交渉で進展があったことで、期待感から株価は上昇している。

もう1つが円安になり、119円台になった。米国の10年国債金利が
2%であるのに、日本の10年金利は0.2%で、金利差が大きくなり、か
つ、黒田日銀総裁は、金融緩和継続ということで、金利差が拡大す
るとみられて、当分円安方向である。1ドル125円の可能性もある。

原油高騰などから、原発再稼働などの必要性も議論されることで、
エネルギー価格の高騰を抑える必要があり、経済的にも合理性があ
るので、進めるしかないはずである。

中国経済の落ち込みに対して、中国政府は経済活性化を行う方向を
明言したことで、中国ハイテク株も株価が上昇したし、日本企業に
も良い影響を与えることになる。

2.ウクライナ軍の反撃開始と停戦交渉
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ロシア軍は兵員と物資が足りなくなり、一方でウクライナ軍は、自
国民の多くが志願したことで、兵力の増強ができ、欧米諸国からの
兵器も届き、増強されている。

この欧米支援物資の兵站を切る目的で、リビウ周辺へロシアの誇る
超音速ミサイル攻撃を行うが、それ以上の攻撃はできない。制空権
がないことで、高高度での戦闘機の侵入もできない状況である。

地対空スインガーミサイルは、高高度で飛行する戦闘機には有効で
はなく、東部ハリコフなどでは爆撃機を飛ばせるが、新しく地対空
の大型ミサイルを英国が供与したことで、西部やキエフでは高高度
でも戦闘機が安全ではなくなっている。それと、トルコのロシア製
S400も供与されたようで、普通のミサイルも打ち落とされるので、
超音速ミサイル攻撃となる。

トルコは、レーダーシステムが米国製であり、S400をそのシステム
に繋げられずに、運用が開始できなかった。しかし、ウクライナの
防空システムはロシア製であり、S400が有効に運用できる。

それとミグ戦闘機の優秀なパイロットが多数のロシア軍機を撃墜し
ているとも聞く。このため、ミグ戦闘機の供与をウクライナ政府は
要求している。ウ軍とロシア軍では練度の違いが大きいようである。

このため、キエフ包囲のロシア軍は孤立して、徐々に排除されてい
る。逆に、南部ヘルソンのロシア軍攻撃ために、ウクライナ軍は2
方面から進撃を開始した。

そのため、進軍拠点の1つミコラーイウの基地をロシア軍は砲撃し
て、80人のウクライナ兵を殺した。

この砲撃は、クリミア半島から南部ヘルソンのロシア軍への増援砲
兵部隊であろうが、ロシアはこの地域に増援部隊を送っている。今
後、この地域の争奪で、激戦になりそうだ。

しかし、ヘルソン占領後、港湾都市オデッサへの攻撃を計画してい
たが、ロシアは、それどころではなくなっている。ヘルソンのロシ
ア軍撤退になると、次はクリミア半島が危なくなる。その次は東部
になる。形勢逆転の局面になり、非常に危ない状況で、ロシア軍は
早期に第2次攻撃部隊を編成しないと危ない。

兵力17万人ではなく、当初から50万人の派遣が必要であったと、米
軍は見ていたが、兵員不足で兵站の脆弱さが際立っている。占領後
の守備隊の兵員も十分ではなく、そのため、奪還される可能性も出
ている。守備隊に対する兵站も維持しないといけなく、兵員不足は
大きな問題となっている。

ロシア軍は、兵力全体で28万であり、今回17万の兵力でウクライナ
へ侵攻したが、兵員の消耗が大きく、追加でウクライナ侵攻への兵
員を送る必要になっている。

地上戦闘を担う「大隊戦術グループ」の75%を投入したが、今後はシ
ベリアや極東の地域守備兵を削減して攻撃部隊を作るか、シリアや
イラクからの雇用兵やアルメリア兵を募集し、ウクライナに送る必
要がある。そして、10万の兵力で第2次総攻撃であろう。

しかし、シリアなどの海外兵は作戦参加に限度があり、それほど活
躍ができないか、ある方面全体を海外部隊に任せるしかない。東部
や南部戦線を海外部隊に任せるようである。キエフ侵攻部隊は、ロ
シア兵主体であろう。既存部隊がロシア兵主体なので、海外兵を送
り込めない。

このシリア・イラク兵はゲリラ戦に慣れているので、市街地戦では
大きな戦力にはなる。

良い例としては、チェチェンのカディロフの私兵部隊は、現在東部
のマリウポリの戦闘に従事している。当初、脱走兵の処罰をしてい
たが、現在はロシア正規軍が負け、直接、戦闘に参加しているよう
である。ロシア語の理解は、シリア兵より高いので、ロシア軍との
連携も可能である。

この部隊はゲリラ戦に対する実戦経験が豊富であり、マリウポリで
はロシア軍というかチェチェン軍が優勢である。

しかし、シベリア・極東の守備隊削減で問題なのが、北方領土返還
を要求する日本への対応である。北方軍の大幅な兵員がいなくなり
、日本がロシアへの攻撃を開始すると、持ちこたえることができな
い。

このため、ロシア軍は、ミサイル演習や太平洋艦隊の示唆などをし
て、日本へ威嚇を行い、第2正面になって、兵力分散を起こさない
ようにしている。

このことから、日本の去就が焦点になる。この意味からも米サキ報
道官は、日本がリーダーだというのである。日本人は、その意味を
分かっていない。

米国は、NATO軍がロシア軍と対峙したときに、自衛隊の北方領土奪
還作戦を仕掛ける可能性が出る。日本がイヤでも米軍が攻撃して、
ロシア軍が日本攻撃の可能性もあるからだ。米軍はNATO軍でもあり
、シベリア攻撃は十分あり得る。日本は遠いヨーロッパでの戦争と
みているが、そうではないことを肝に銘じる必要がある。

・停戦交渉
この状況でロシアも、ウクライナの無条件降伏を諦めて、東部2州
の独立とクリミア半島のロシア主権容認とウクライナの中立化の要
求で、もう1つが、ロシア軍の完全撤退で欧米の経済制裁解除であ
る。

しかし、経済制裁解除はウクライナでは決められない。ゼレンスキ
ー大統領は、今のところ、東部2州の独立もクリミア半島の放棄も
認めないと宣言している。現状の形勢はウクライナ軍優勢であり、
ミンスク合意を破棄する方向の合意を取り付けたいのであろう。

そして、経済封鎖をする米国やNATO諸国は、停戦交渉参加に前向き
ではない。あくまでもロシアとウクライナの問題であるという立場
だ。停戦を遅らせることで、米国の景気対策ができることと、ロシ
アの消耗を待つ作戦のような気がする。

しかし、プーチンは戦争に負けたと国民が考えた時点で命が危ない
ので、このロシア提案の停戦条件であれば、当初の目的としたドン
バスとルハンスクへのウクライナ民兵排除ができたので、当初目的
を達成したから撤退するという名目がたつ。しかし、これ以上の譲
歩はできない。

しかし、気になることが続く。ロシア国営テレビでは、オフシャン
ニコワさんの反戦映像やプーチン氏演説の放送中断など、局内や監
督する情報機関で、反戦、反プーチンの感情を持つ人が増えている
ように感じる。戦争でロシアはダメになると心配する人の増加は無
視できない。

3.ロシアの戦術核攻撃へ
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対して、ゼレンスキー大統領は、ウクライナ国境の変更を認めない
との立場であり、停戦交渉は長引き、その分、ロシア軍の消耗が進
み、兵站や通信などの多くの問題解決の糸口も掴めていない状況で
は、時間がたつとロシア軍にとって不利になる。

このため、ロシアが最後に形勢逆転を目論むのが、戦術核兵器の利
用や化学兵器の使用である。

この使用に対して、ポーランドはNATO軍が関与せざるを得ないとい
うが、そうなると、核戦争になり、ヨーロッパとロシアで多数の命
が犠牲になる。日本も巻き込まれる可能性もある。

しかし、この方向に徐々に向かっているように見える。非常に恐ろ
しい事態であるが、プーチンも必至であろう。特に、クリミア半島
にウクライナ軍が攻め込んできたら、その時には核を使う可能性も
ある。

このため、プーチンは、ウラル山中にある、核戦争時の司令部を整
備し始めている。軍幹部や官僚などが移り始めている。

これは大変なことになりそうである。

どちらにしても、プーチンの経済力のない国が大それた「大ロシア
復活」の夢というのは無理であった。世界秩序を壊す可能性は、習
近平の「大中国の復活」の夢だけになる。しかし、この時点でも、
多くの犠牲者が出ることは間違えない。

さあ、どうなりますか?



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