6126.メルケル首相のコペルニクス的転換



米国は世界から撤退している。欧州からも撤退を開始し、それに対
してドイツのメルケル首相がEU政策をコペルニクス的に転換した。
それを検討しよう。    津田より

0.米国および世界の状況
NYダウは、2月12日29,568ドルまで上昇して史上最高株価になった。
3月2日は26,703ドル、その後急落して3月23日18,591ドルまで下げて
、6月26日は25,015ドルで、6月29日580ドル高の25,595ドル、30日は
217ドル高の25,812ドル、7月1日は77ドル安の25,734ドル、2日は92
ドル高の25827ドル、3日は休場。

今週は米国経済の復活の週になった。ISM製造業総合景況指数は
52.6と、6月の製造業総合景況指数は1年2カ月ぶりの高水準となっ
た。6月雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比480万人増となり
失業率も11%と先月14%から減少した。新規失業者申請件数は143万件
で、前週148万件から減少している。

トランプ大統領は、米国経済はV字回復して、年末までにはGDPが12%
上昇すると宣言した。11月までには経済活動を活性化させたいトラ
ンプ大統領の思いが出ている。

しかし、米国の景気は順調に回復しているので、ナスダックは最高
値更新したが、NYダウはあまり反応しなかった。40州で、コロナ感
染拡大が起きていて、感染1日5万人で過去最多となり、経済活動
の自粛の方向になっているからだ。

NY市と加州では、店内飲食再開を凍結したし、テキサス州やフロ
リダ州ではバーの閉鎖が起きている。アリゾナ州では、バーの店主
たちが店閉鎖を知事に要求する事態になっている。

そして、ナスダックでも値上がりしているのは、GAFAMの5銘柄から
、今はAMTの3銘柄に移行している。アマゾン、マイクロソフト、テ
スラの3銘柄である。特に赤字のテスラは、時価総額で2兆円の黒字
を出すトヨタを抜いた。

もう1つ、特別給付金は7月末までであり、8月以降の動向がどうな
るのか注視が必要である。上院共和党は、特別給付を続けないとい
うので、普通の失業手当になり、週500ドルになる。特別給付は4倍
になっていた。

そして、11月に向けて、トランプ再選ができなかったときを想定し
て、ウォール街は、徐々に米国株離れを起こす可能性もあり、その
面からも注視する必要が出てきたように感じる。

1.日本の状況
日経平均株価は、2018年10月02日に24,448円でバブル崩壊後高値に
なり、2月21日は23,427円で、3月19日16,358円まで下げ、6月10日は
23,124円まで戻したが、6月26日は22,512円で、6月29日は517円安の
21,995円、30日は293円高の22,288円、7月1日は166円安の22,121円
、2日は24円高の22,145円、3日は160円高の22,306円。

日経平均株価は、22,000円台前半を上下に動くが、そこから上にも
下にも動かない展開になっている。膠着相場になっている。

日本でもコロナ感染者再拡大で、経済活動の自粛が起こると、株価
は下落方向になる危険性もある。日経平均はNYダウに連動するので
、その面からも8月の米国での特別給付の終了でNYダウが下落する可
能性を注視することが必要であろう。

2.トランプ大統領の趣旨替え
トランプ大統領が「マスク着用」容認にシフトした。今までは、マ
スク着用を非難していたから、大きな方針の転換になっている。

ワシントン大学は、国民の9割がマスク着用なら、死者数を14%減ら
せるとした。10月までに、今のままでは、死者数は17万人になるが
、マスク着用なら15万人まで減らせるとした。また、米国民の81%
がコロナ感染に不安があると世論調査に回答している。

そして、政権に多くの人を送っているゴールドマン・サックスは、
マスク着用ならGDPの落ち込みを5%軽減できるとした。政権内部から
も、このままでは危ないという声があったので、GSが代弁したので
あろう。

それと、共和党の地盤であり、テキサス州でも感染者数が激増した
ことで、高齢者層の支持を失う事態になり、マスク着用を容認する
ことになったようだ。州知事のマスク着用義務化も非難しないとい
う。早速、テキサス州アボット知事はマスク着用を義務化した。

しかし、ニューヨーク州のクオモ知事が、国民のマスク着用を義務
化する大統領令を出すよう求めていたが、トランプ大統領は、そこ
までには至らないとした。

経済活動再開が早すぎたことで、コロナ感染症拡大を引き起こして
、支持率が落ちたことに、やっと気が付いて、感染症対策の基本を
認めたということのようである。

トランプ支持率は36%程度まで落ちてきた。このままでは11月再選は
不可能の状態になっている。

3.中国の行方
香港への国家安全維持法の適用で、自由民主主義国の多くが、中国
の強硬的な外交と自由民主の弾圧を非難している。中国の孤立化が
顕著になっている。

しかし、中国の国内に目をやると、揚子江流域での洪水と、三峡ダ
ムの決壊などの問題が深刻化していることが見える。

特に、三峡ダムが決壊すると、世界最大の貯水量があり、また、土
砂が膨大に堆積しているので、決壊したときの下流域での被害は、
相当に大きなことになる見られ、上海など大都市もあり、6億人が被
害を受け、4億人程度が死亡するという。

このような状況でも、中国政府は心配がないと宣言している。コロ
ナウィルス感染拡大の初期と同じような対応をしている。

コロナ不況での国内の不満を海外に目を向けさせることで、解消し
ようとしているが、三峡ダムが決壊したら、そういうわけにもいか
ないはず。

被害が膨大であり、海外からの支援も必要になる。その時に支援で
きるのは、経済規模が大きな自由民主主義国群しかない。

しかし、今、香港の自由を奪い、自由民主主義国から非難を受けて
いるので、現政権のままでは支援を要請できないことになる。

もし、三峡ダムが決壊したら、中国の習近平独裁政権は倒れて、自
由民主主義国群の支援を受けやすい政権に代わる可能性もあると見
える。

それまでは、中国強硬外交は変わらないでしょうね。

4.メルケル首相の決断で、世界の構図が決まる。
2015年のシリア難民の大量受け入れで指導力を失っていたドイツの
メルケル首相は、コロナ感染症の初動対応が評価され、支持率が上
昇して力を取り戻した。

その勢いで、メルケルはマクロン仏大統領との会談で、「新型コロ
ナで疲弊したEU加盟国を救うために、5000億ユーロの基金(復興基
金)を立ち上げる。その原資は初のEU国債を発行して集める。以上
を欧州委員会に提案する」ことで合意した。

ドイツを中心して、他の加盟国のために低利で起債しようというこ
とであり、インフレを恐れて、財政赤字につながる南欧諸国救済に
反対していたメルケル首相がコペルニクス的転換をしたことになる
。ドイツが欧州の盟主としての役割をやっと演ずるようである。

一方、トランプ大統領のドイツたたきは執拗で激しい。「ドイツは
巨額の対米黒字にもかかわらず、ロシアから天然ガスを輸入し、米
国のシェールガスは買わないし、国防費が2%以下でロシア軍対策は
3万5000人の在独米軍に頼り、その費用は十分支払わない」という。

事実、2019年のドイツの国防支出は、NATO目標2%に対し、GDP比で
1.38%と推定されている。

対して、メルケル首相は、6月に予定されていた米国主催のG7首脳会
議を欠席するとしたことで、会議自体が延期になってしまった。

そして、それに怒りトランプ大統領は、ドイツから米軍9500人を撤
退するとして、米独間の不仲説を裏づけることになった。

ドイツとフランスは、EUを足場に「米国でも中国でもロシアでもな
い」勢力で民主主義を守る中軸勢力となることを宣言したようなも
のである。

これは、メルケル首相がいう「米国衰退後の世界を見据えた対応」
の一環である。米国に頼らないドイツを作ることにしたようだ。

この状況を予測して、欧州連合の政策執行機関である欧州委員会の
首班(欧州委員長)に、エースである前ドイツ国防相のウルズラ・
フォン・デア・ライエンを送り出している。徐々にEUを中心にして
ドイツも含めて統合化させる方向で動き始めたようだ。

しかし、メルケル首相は、復興基金についてのEUの次期予算を巡
る交渉で、加盟国の隔たりは依然大きいと語った。まだまだ、その
道のりは遠いが、着実に米国離れを行い、イタリアなどの中国依存
国家を再度EUに統合して、民主主義の中軸勢力にするようである。

日本は、豪州、台湾、インドなどとアジアでの民主勢力を糾合して
、ドイツを中心とするEU諸国と連合して、民主主義を守る必要があ
る。

このドイツの方向を確認して、ロシアもロシア国民投票で改憲を承
認され、プーチン大統領の長期続投を可能にして、世界の構図の中
で、ロシアを強国に位置づけようとしている。ロシアは、世界の指
導国家の1つになることを目指しているので、ドイツなどEUと協力
できる道を探ると見る。

一方、米国は自国のことで手いっぱいになっている。米国はコロナ
に負けて失業者も多く、経済再建のために米下院は、道路や鉄道、
学校の建設・補修などに向けた1兆5000億ドル(約161兆円)規模の
インフラ整備法案を可決したが、上院共和党は、気候変動対策も盛
り込まれているこの法案に反対している。

国内が分断した状態であり、コロナ感染症拡大も止められずに、海
外の米軍を撤退させる事態であり、トランプ政権の米国は、急速に
覇権力を失っている。

11月以降もトランプ政権が続くと、世界は米国中心の構図から中国
、米国、EUなど多極化した世界の構図になるようだ。しかし、トラ
ンプ政権ではなく、バイデン政権では、再度、米国を中心とした世
界の構図にするべく外交を転換することになる。

その時、メルケル首相の構想は、どうなのであろうか?

5.日本の外交姿勢
日本は、国家安全法を施行され自由を失った香港からの移民受け入
れもせずに、優秀な人たちがシンガポール、台湾、豪州に行くのを
見ているだけである。これでは中国に配慮したためと見えるが、日
本は世界の構図変化に対応できていない。

世界は、コロナ感染症よる米国の衰退と米国のドイツなど同盟国へ
の仕打ちがひどく、その上で中国の強硬な外交などで急速に変化し
ている。

この中国の強硬な外交で、中国の孤立化も起きているので、中国に
配慮した日本は、世界の孤児に迎合する国となり、世界でサブ的な
位置になってしまう可能性がある。

ここは毅然として、強硬な中国に対応するべきである。自由民主主
義を守る国として、ドイツなどと手を組み、インドや豪州などとも
組んで強硬な中国へ対応することが必要である。

原理原則を重視した外交戦略を取ることが重要だ。習近平国家主席
の訪日を実現しようと、配慮するのは、日本の世界的な位置づけを
棄損することになる。

日本は、世界の指導国として、毅然とした対応を取り、衰退する米
国との関係も重視しつつ、ドイツ・フランス・豪州・インドなど民
主主義を守る国とも連携して、世界の人権・自由を守る国として、
位置づけをはっきりして、中国の独裁的な権威主義に対応するしか
ない。

そして、三峡ダムが決壊して、中国に自由民主主義的な政権が出来
た時には、大規模な支援をすることである。それを事前に宣言する
ことも必要なのであろう。

さあ、どうなりますか?


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