6081.米中通商交渉と中東紛争の行方



日経平均株価が22,100円直前まで高騰したのは、米中貿易戦争が収
束する期待からであったが、今度、どうなるのであろうか?
今後を検討しよう。         津田より

0.日米株価
NYダウは、利下げ期待で、7月16日27,398ドルと最高値を更新したが
、その後下落して、9月3日26,000ドルになっていたが、米中通商協
議の期待とFOMCで0.25%利下げから、9月12日27,306ドルと過去最高
値近くまで上昇したが、事務レベルの米中通商協議で難航したこと
で、9月20日26,935ドルと下がった。

トランプ大統領は、FRBの0.25%の利下げだけでは、足りないと、マ
イナス金利にして、量的緩和を行えと要求している。その上に、9月
17日に短期レポ金利が10%にまで上昇して、FRBは数日、1500億ドル
の資金供給をしている。そして、米中の協議が難航している。米国
株式市場の状況は暗転したようだ。

日経平均株価は、2018年10月2日24,448円になったが、以後低調で、
12月26日18,948円と暴落し、8月26日20,173円になってしたが、その
後、米中協議の期待と6兆円の売り残の買戻しで9月20日22,079円に
なった。FRBの利下げで円高になるとしたが、事実は円安状態のまま
であり、10日連騰で強く、連騰前から1400円の上げになっている。
年初来高値の22,360円まで、あと少しのレベルまで来た。そして、
日本経済の何かが変わった感じである。

しかし、中国経済の減速から、日本企業の業績も下がっている。こ
のため、米中貿易戦争が持続するとなると、買戻しが一段落で上昇
は止まる。10月には消費税増税もある。しかし、金利低下と量的緩
和の深堀が世界的に拡散すると、債券の利息低下と通貨価値の縮小
で、債券から株に資金が移り株価は上がる。このため、米中通商交
渉の行方とFRBの量的緩和開始が、今後の株価動向を決めることにな
る。

1.米中通商交渉
米中は、9月19-20日の2日で事務方の協議を行ったが、中国の代表団
は、西部モンタナ州の農家を視察する予定だったが、中止となった。
トランプ大統領がこだわる米農産品の中国輸入拡大とのバーターで
、議論が難航しているようだ。

中国は、ファーウェイへの制裁を解除するように要求しているが、
米国は先端技術での競争に勝つために、制裁解除しないことで、農
産物輸入増大とのバーターに応じなかった。しかし、決裂ではなく
、10月初旬には閣僚級協議を予定している。

そして、トランプ米大統領も、米中の貿易協議について「来年の大
統領選前に合意する必要性はない」などと述べ、中国と貿易協議で
暫定合意する可能性についても「部分合意ではなく、完全合意を求
めている」とし、交渉を急がない姿勢を示した。これにより、米中
の貿易摩擦が長期化するとの見方が改めて出てきた。

その上、貿易政策についてトランプ米大統領に非公式に助言してい
るハドソン研究所の中国戦略専門家マイケル・ピルズベリー氏は、
「大統領が貿易摩擦を激化させる選択肢を持っているかと問われれ
ば、その答えはイエスだ。関税の引き上げは可能で、低水準の関税
を50%や100%に引き上げる可能性がある」と述べた。

それと、トランプ大統領は、FRBの0.25%の利下げでは満足せずに量
的緩和を行わせるために、米中通商交渉を暗礁に乗り上げさせても
よいと思っている。中国との交渉不調で大幅に株価を下げて、FRBに
QE4の要求を突きつける。2019年年末にもQE4開始で、株価は上昇す
るので、2020年11月までには、株価が最高水準になる可能性もある。

FRBがQE4を行えば、バブル相場が再発することになり、それを期待
して株価は上がることになる。東京市場もバブル化するが、10月の
消費税増税の影響で景気後退局面になり、バブルが大きくならない
かもしれない。どちらにしても、これで株価急落になる。

日経平均も2万円割れの可能性が出る。しかし、QE4になったら、株
価は上昇する。

G7で、世界経済の減速を世界の指導者から指摘されて、早期に米
中で暫定合意をすると言っていた数週間前のトランプ大統領とは、
大きく違っている。このポジションだと、株価を高いままに保持し
て、2020年11月の大統領選挙を迎えるのかと思った。

しかし、マーク・ハーバーなどの投資専門家のアドバイスで、それ
は無理であるとわかり、再度、株価を大きく下げて、QE4をFRBにさ
せて株価を上げる方向に再選戦略を変えたのであろう。

というように、トランプ大統領の再選戦略の気まぐれによる株価動
向は、見通すことが難しいし、また、言っていることが、交渉相手
に対するブラフの可能性もあり、見通せない。今回もブラフの可能
性が高いが、中国もトランプ大統領のブラフに慣れたようだ。

そして、一方、中国との関係をこのままにすると、米農家の倒産が
増えて、農家の不満で選挙戦に入ると、トランプ再選は無くなる。
このため、株価を上げても、中国と選挙前のどこかで納める必要も
ある。このため、12月にFRBがQE4を始めたら、直ぐに、米中通商交
渉は暫定合意に行くと見る。

中国は、今までの立場を変えていない。民主党バイデン候補が親中
的であり、中国にやさしいことが期待できる。このため、今、急い
で米国との交渉を妥結する必要はない。しかし、中国経済は、雑貨
まで関税を上げられた影響で、減速しているので、これ以上の悪化
を止める必要もある。企業債務も限界まで来ているので、企業収益
が大幅赤字になると、倒産が出てきて、ミンスキー・モーメントに
なる可能性が出てくるので、良い条件なら取引に応じる。

2.中東戦争になるか
当初、イエメン・フーシ派のドローン攻撃でサウジの石油施設が爆
撃されたと思ったが、サウジの情報によると、ドローンと巡航ミサ
イルは、イラン南西部から飛んできたという。当初、ポンペイオ国
務長官は、イランからの攻撃なら、イランの石油施設を空爆すると
言っていた。しかし、トランプ大統領が戦争には消極的であること
を知り、経済制裁すると言動を変えている。

今の米国には、新しい戦争を始める余裕がない。中国との我慢比べ
をするか、イランを叩くかの選択であるが、トランプ大統領は、軍
産複合体が喜ぶ戦争を選択しないと明言した。

23兆ドルの国家債務がある状態で、国全体の債務を含めた債務全体
では60兆ドルもある米国に中東全体の戦争を戦える余裕はない。石
油が自国で供給可能であり、中東戦争にメリットがないことも大き
い。その上に中間層への減税を行うとしているので、益々、赤字は
増えることになり、債務が増えることになる。戦争は無理だ。

現状でも年間1兆ドルもの財政赤字であり、政府の国債発行額が大き
く、その上にFRBが米国債を売る資産縮小で、短期レポ金利が急騰す
る事態である。米国の財政は火の車であり、それに伴う金融政策も
綱渡りの状況になっている。

このため、トランプ大統領は、早くQE4をFRBが実施することを願っ
ている。国債を吸収してくれるので、大きな赤字予算ができるし、
株価も上がることになる。MMTが米国には必要なのである。

中国との関税拡大では、税収が米国政府に入るが、戦争では支出し
かないので、中国との通商戦争の方がトランプ大統領としても選択
できるのだ。トランプ大統領は、経営者であり、財政赤字で債務を
増やすだけの何のメリットもない戦争を選択しない。

その上に、交渉のプロであるが、軍人でも戦略家でもないオブライ
エン氏を安全保障担当の大統領補佐官にして、軍産複合体の人間を
排除した。この選択は、イランに対しての戦争放棄を明言したこと
になっている。ボルトン補佐官の時には、イランも戦争になる見て
攻撃を控えたが、ボルトン補佐官を止めさせたことで、イランは米
国をなめている。

イランのザリフ外相は、このような動向を見て、米国やサウジアラ
ビアがイラン石油施設に軍事攻撃を仕掛けるなら、イランは「全面
戦争」で応じると表明。イラン石油施設攻撃なら、中東戦争になる
ことが明らかになった。というより、米国が戦争をしないと見て、
サウジの暴走に対して、恫喝した感じである。

サウジは、イラン攻撃をする可能性があるが、サウジアラビアも自
国内の産油量の落ち込みを補うため、原油・石油製品を輸入しよう
と外国業者を呼んでいる。サウジも人手と資金不足で、イラン攻撃
は、米国の支援がないとできない。

そして、原油不足になるかと思いきや、現時点でも原油は余りぎみ
であったことと、米国の石油備蓄を放出すると言ったことで、1バー
レル60ドル以下とそれほどには上がっていない。
その上に、9月末までに被災石油施設を復旧すると、できるかどうか
わからないが、サウジは表明した。

しかし、フーシ派は、次の攻撃目標はUSEの石油施設を指定して、
今後も、ドローン攻撃を継続するとしている。急遽、米軍の防空部
隊をサウジに派遣したが、ドローン攻撃に有効的な防御方法がない
。ということで、イラン有利になったことが判明し、今後も攻撃が
続くことになる。

そして、もう一方の中東戦争の主役になるイスラエルの総選挙で、
ネタニエフ首相のリクードが負けて、穏健派のガンツ氏が政権を取
ることになった。強硬派のリクードを排除するというので、中東情
勢は変化することになる。

当面、米国はイラン中央銀行などへの経済制裁を行うというが、ト
ランプ大統領が、超弱腰であることが明確化して、イランの行動範
囲が拡大したことだけは確かである。

それに対して、中国はイランとの4千億ドル分の原油取引を人民元で
契約した。ドルと原油のリンクを切り人民元での取引で、人民元を
国際通貨にする野望のもと、中国はイランを裏で支えるようである。
しかし、中国は、サウジ国王にも電話会議で支援を表明して、中立
的な立場を明確化している。

イランも継続的に湾岸地域の石油施設攻撃をすると、米国国内から
トランプ大統領は弱虫という評判になり、トランプ再選に不利にな
る。トランプ大統領が、どこまで耐えられるかの勝負になる。軍産
複合体とトランプ政権の米国内権力闘争も起きていることに注目す
る必要がある。

3.日本経済の変化
そして、経済システムが変化しているのに、それが経済指標に反映
されていない可能性がある。景気は良いのに、インフレが起こらず
、製造業が減速しても、消費が好調である。今は、アマゾンなどの
インターネット通販が主流になり、低価格で物が買えるようになり
、需要予測精度が上がり製造業も在庫が少なくなり、ロボット化で
人件費もなく、販売コストが掛からないことで、定価が下がってい
る。

一方、ホテル代などは値上がりして、観光もピンキリの値段がつい
ているが、インバウンドの効果もあり、ピンの値段が上昇している
し、高級路線が成功している。若い消費者にも変化が来ているよう
だ。高級リゾートの予約がいっぱいである。

昔は、製造元売価の倍の値段を消費者定価にして、卸売業者に売っ
てたが、インターネット通販業者の手数料は30%程度であり、消
費者定価を下げることができる。このため、インフレが起きにくい
し、リアル店舗がインターネット通販に負けることが起きている。

リアル店舗が勝つには、業務スーパーやニトリ、ユニクロ、無印良
品などのような製造小売業か大創、セリアなどの低価格大量小売り
、厳選した物を高く売る「こだわり」の店しかないかもしれない。

このように経済の仕組みが変わったので、インフレのガイダンスを
変更する必要がある。1%インフレも起こらないかもしれないし、3%
インフレは絶対ないのではないか?

ソフトウエアなどの売価を決めるものは、流通コストや原料原価が
ないので、初期開発投資しかない。そして、販売先は世界である。
このため、ある個数を売ると、後は儲けになり、莫大な利益を生む
ことになる。徐々に日本企業も世界的ビジネスに慣れてきたようで
ある。そのよい例がゲーム企業のコロプラである。

そして、衣食住が足りて、観光などのコト消費やゲーム、キャッシ
ュ決済などのソフト消費が拡大してきている。この業種は、原材料
がないので、インフレしにくいようである。

このような経済システムの変化で、経済指標の見る目を変える必要
になっている可能性があるようだ。

そして、日本は、不十分ながら数次の社会改革で、人口減少に適合
した社会を作り、経済をおう歌し始めている気がする。製造業の景
況感が下がっても、全体景気は好調のままになっている。製造業の
日本経済に与える影響が低下したと考えるしかない。

東証株価も一度下げたが、思っていた以上に日本企業の業績が良い
ため、株価を戻した。この理由は、日本企業の利益が、中国経済の
下降でもドイツ企業に比べて落ちないことによる。日本の何かが大
きく変化したようだ。

今後は、製造業も重要であるが、よりコト消費業、ソフト業、イン
ターネット通販業への投資にシフトすることが必要なのであろう。
製造業中心資本主義からコト消費業中心資本主義になっている。製
造業は、基礎商品化したことで、世界に出て地産地消すればよい。

その原因として、若い娘夫婦の生活を聞くと豊かである。娘も夫も
非管理職でそれほどには貰っていないが、夫婦共稼ぎでは給与が倍
になり、昔の私のように夫だけが働いていた時の収入とは雲泥の差
がある。家庭の財布以外に、娘も自分の財布を持ち、自由に好きな
物を買っている。

というように、多くの平均的な共稼ぎ夫婦は、自由な時間は少ない
が豊かになっいるので、それに合わせて流通業も変化している。時
間短縮のオイシックスなどの高い半調理済みパックやインターネッ
ト通販ゾゾ、こだわりの店などが好調の理由でもある。昔のレベル
での富裕層が、大きく増加しているような気がする。

子供も産みたいというし、保育施設も充実してきた。娘と同じ職場
の女性たちも、子供を産んでいるという。共稼ぎ夫婦中心社会に大
きく変化してきているようだ。子供を産んでも、職場は確保されて
いて、1年程度の育休が取れるので、安心して子供を産めるし、3
ケ月で保育園に預けることができる。

そして、年金生活の高齢者や母子家庭、非正規社員も安いものを買
えることで生きていくことが可能である。しかし、引き続き、この
人たちを助ける社会改革は必要であるが、社会が2極分化している。

この人の割合は7割以下と見るが、この割合を下げていくことが必要
であるし、最低賃金を上げて、この層を引き上げると日本は、本当
に豊かになる。

ということで、今後も日本は、社会改革が必要である。それを推進
しないと日本の将来は、ないことも確かだ。特に社会保障改革であ
る。

さあ、どうなりますか?


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