6045.カンボジア内戦の深層



From:tokumaru
 なぜポルポト派による虐殺の犠牲者を慰霊できないのか?
皆さま、
アジア言語人類学会で、「言語的人類の三段階デジタル進化」につ
いて発表するために、カンボジア王国の世界遺産アンコールワット
があるシエムリアップに月曜日から来ています。

僕は、世界遺産にはそれほど魅力を感じません。過去に造られて、
森林のなかに放置されていた壮大な寺院よりも、今、每日勤
行の行われている小さな寺院に、興味があります。

それでもせっかくアンコール遺跡近くに来たので、昨日はアンコー
ル・ワット、アンコール・トム、タ・プローム寺院という現在使用
されていない遺跡を訪れてみました。 

そのなかでは、タ・プローム寺院が一番良かった。巨大な木が、寺
院建物を呑み込むように生えていて、すがすがしい廃墟でした。

アンコール・ワットもアンコール・トムも、再び森の中に隠したら
よいのかもしれません。

さて、カンボジアといえばキリングフィールド。1975年に権力を握
ったクメールルージュによって、知識人を中心に300万人のカンボジ
ア人が、殺されたことは、記憶の片隅にはありましたが、きちんと
整理して考えたことはありませんでした。

近藤紘一の「戦火と混迷の日々」は読んでいましたが、今回カンボ
ジアに来る前に、内藤泰子さんの「カンボジア、わが愛」を読みま
した。

でも、何を読んでも、何故ポルポト派があそこまで徹底的に、自国
民を苦しめる必要があったのかが、理解できないでいました。
昨日、アンコール遺跡群に行く前に、シエムリアップにある「ワッ
ト・トメイ」(Wat Thmei)にお参りしました。

ポルポト派が虐殺を実行した刑務所で、遺骨が出るので、その一部
をお堂に入れて祀ってあるもの。
韓国人が団体旅行の訪問地に含めているらしく、団体客がいくつか
入れ代わり立ち代わりきてました。でも、他にお参りにきている人
を見かけませんでした。

僕は日本からお線香を持参したのですが、現地にはお線香もロウソ
クも売っていません。
カンボジア人は、何故お参りに来ないのか?
ホテルで、「ワット・トメイに行きたい」というと、みんな一瞬顔
がこわばり、その後は全く関係ないそぶりをします。

恐らくカンボジア人のなかで、ポルポト派による虐殺事件は、きち
んと意味付けされていないのでは?と、思いました。でも、何故?

中国は、メコン川上流に巨大なダムを建設し、国内に電力を供給し
ています。
その影響で、下流にある東南アジア諸国は、川の流量が減り、様々
な環境悪化がおきています。しかし、それに対して、きちんと対応
しきれていない。

あくまでひとつの仮説ですが、ポルポト派によるカンボジア人虐殺
は、長期的には上流にある中国の政治的利益をもたらしています。
そして、ポルポト派の歴史を明らかにすることは、中国の利益には
ならず、今日であっても社会的に許されていないことかもしれませ
ん。

ポルポト派のやり口は、紅衛兵に近かったような気もしてきます。
国内政治だと思っていたものが、実は国際政治であるというのは、
日本の自民党政権にも当てはまることかもしれません。

それにしても、国際政治には、血も涙もないのか。
内藤泰子さんや、細川美智子さんの手記は、一部の図書館で読める
ようですが、彼女たちのほかに一体どれだけの証言が行われたのか? 

カンボジアの悲劇は、すでに歴史の闇のなかに飲み込まれてしまい
、跡形もないと感じたカンボジアの一日目でした。
アジア言語人類学会は、今日から始まります。

得丸久文


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