6024.地経学で見る米中貿易戦争と中東情勢



今週も米中貿易戦争やシリア内戦で大きな動きがあり、その検討を
継続する。 津田より

0.「日本4.0」
エドワード・ルトワックの本「日本4.0」を読んだが、1.0の
江戸幕府で平和の構造ができ、2.0の明治維新で西洋文化を取り
込み、3.0の戦後体制で軍事から経済にシフトして発展してきた
日本が、今変革の時を迎えている。米国が世界の覇権を放棄して、
日本は自分で自分を守る必要になり、独自の戦略が必要になってい
る。「日本4.0」は。その変革をどのように考えたらよいかの提
案である。

日本は敵国に侵入して情報を取る情報機関や少人数で作戦ができる
特殊部隊が必要であるが、米国のような大掛かりな特殊部隊ではな
く、イスラエルのような少人数で犠牲を覚悟した作戦ができる部隊
の育成が必要であるという。

もう1つが、政治軍事の地政学より、地経学の時代になるという。
大規模な軍事作戦ができない状況になり、経済的なツールによる外
交が重要になっているという。

この地経学の戦いが米中間で始まった。それが貿易戦争であるよう
だ。この本の内容は、このコラムで議論したことばかりであるが、
ルトワックの良さは、そのネーミングの仕方でしょうね。

詳しく知りたい方は、エドワード・ルトワックの本「日本4.0」
を読んでください。

1.米中貿易戦争の第3弾
米国は、第1弾を7/6に半導体など340億ドルに25%の関税UP、
第2弾として8/23に化学品など160億ドルに25%の関税UP、そし
て、今回第3弾を9/24に日用品など2000億ドルに10%の関税UP
を実施する。中国が対抗処置を取ったら、2370億ドルの輸入品に
も10%の関税UPを行うと警告した。

対して、中国も第1弾、第2弾までは同額の処置を取ったが、第3弾で
は600億ドルに10%関税UPと米国と同額にできなかった。輸入
量が1300億ドルしかないので、追従できなくなってきたことに
よる。それと警告を無視し、かつ米国との通商交渉も拒否した。

今後を見ると、米国は、2370億ドル分の輸入品への関税UPや為
替操作国指定や投資制限、留学生制限、国有企業への制裁などがで
きる。特にドル決済を使わせないことで、国際決済を難しくできる。

対する中国は、米国債売却という大きな武器がある。その他に米国
企業製品への不買運動、人民元通貨圏を拡大して、国際決済ができ
ない制裁を掻い潜るために、米国の地経学上の武器であるドル基軸
通貨制度を崩壊させる方向になる。

米国債の売却は不利益もあるが、新規米国債を買わないだけで、米
国債の金利上昇が起きる。事実、最近10年国債の金利が3.4%
になり、もし、本格的に米国債売却が始まれば、金利6%になると
アナリストは言う。米国債の暴落が起きる。

米中貿易戦争は、中国も大変なことになるが、米国の経済も弱める
ことが確実である。貿易戦争に勝者はいない。血みどろの戦いにな
るだけだ。

2.工場再編
そして、中国は経済会議で、米国と血みどろの戦いを覚悟した。そ
れが、通商交渉の拒否である。李克強首相は、人民元を下げないで
価値を維持し、人民元通貨圏を拡大するようだ。米国の為替操作国
指定を恐れているわけではないと感じる。

米国企業は、中国産部品を使えなくなり、世界的なサプライチェー
ンの再構築が必要になる。今回の関税UPで日本企業の中国工場から
米国への出荷も少なくなる。このため、日本企業も工場の再編が必
要になる。そして、次に中国の輸入品全部に25%の関税UPになり
、米国への輸出品は、どこで作るかという問題が起きる。

米国は、輸入品を撲滅するべく、同盟国からの輸入品に対しても関
税UPをするというので、欧州も日本も、中国と米国の中間に立つし
かない。そして、人民元・ユーロ・円通貨圏拡大のいうドル基軸通
貨圏を侵食することを共同で行うことになりそうだ。地経学では、
基軸通貨を取ることが勝つことになるので、米国の衰退を加速させ
る。

それと、米中が血みどろの戦いになると、欧州と日本は中国市場の
攻略という意味では、米国企業の抜ける分だけ有利になる。漁夫の
利になる。13億人の市場を米国は放棄することになる。それによ
り、米国企業の衰退を加速させる。

そして、米企業のバーゲンセールが来る。内部留保を積み増してい
る日本企業は、積極的に買うことだ。ダウ株価も大幅な下落になる
。地経学の基本を無視したトランプ大統領により、米国は衰退を早
めることになる。

3.日米通商交渉の武器
米国の問題点が明確化してきた。税金を低くしたことによる米国の
財政赤字が拡大して、より一層の米国債を発行する必要があるが、
最大の購入者である中国が少なくとも買わないことになる。次の購
入者は日本であり、本来は日本に通商交渉では強く当たれないはず。

それを強く当たるなら、日本も米国債を買わないし、売却も考える
というしかない。米国債金利上昇が起き、米国経済は逆回転して、
11月までに景気が後退することになり、中間選挙も負けることに
なる。このため、トランプ大統領は11月までは交渉を継続して、
景気後退を避けるはずで、交渉を引き延ばせるはずだ。

米国が、目標を中国に定めたなら、日本を米国の味方にするべきな
のである。という意味では、米中貿易戦争が血みどろになったこと
は、日本にとっては良いことになる。

もう1つの問題点は米国産農産物、LNGなどの米輸出品の売却先確保
である。この部分でも関税的には日本の工業製品の関税は0%であ
り、米国は2%で、畜産物の関税は、日本は平均約35%、米国は
平均25%であり、TPPレベルの関税にすると米国と同等程度になる。

非関税障壁での安全性能などについては、安全性に問題がないなら
、法律を変える必要がある。畜産品は消費者の選択の幅を確保する
ために完全自由化するべきである。

4.イスラエル対ロシアの戦いか?
シリア内戦で、トルコとロシア、イランの間でイドリブ総攻撃を中
止して非武装地域を作り地域を分離して、トルコとロシアが共同で
非武装地域の監視を行い、両者でアルカイダ系武装勢力をせん滅す
るという合意ができた。

しかし、イスラエル空軍機がシリアのイラン軍を空爆、その戦闘機
へのミサイルがロシア偵察機に命中して墜落した。ロシア兵14人
が犠牲になった。シリア軍の防空システムは、北朝鮮製であり精度
が悪く、イスラエル空軍機はロシア偵察機を盾にしたようである。

それと、イスラエルはシリア攻撃場所を事前にロシアに通報するこ
とになっていたが、攻撃1分前に通報したことで、ロシア偵察機が
回避行動を取れなかった。

このため、ロシアのショイグ国防相は、イスラエルのリーベルマン
国防相に対し、報復措置を検討すると伝えた。

これにより、この地域でトルコ、シリア、ロシア、イラン対イスラ
エル、米国の戦争が起きる可能性が出てきた。サウジなどはロシア
を敵にしての戦いには参加しないので、実質、イスラエル対ロシア
の戦いになる。そうすると、ロシア軍が使用するイスラエル製レー
ダー部品を、どう回避するか見物である。イスラエル製半導体の代
わりに日本製半導体を使う可能性がある。

米海軍は、イスラエルの軍港を使わず、中国海軍が使用しているな
ど、トランプ大統領はイスラエルを支援するが、マティス国防長官
などは、イスラエルから離れている。しかし、トランプ大統領は、
イスラエル支援のためにシリアに駐留する米軍を長期に滞在させる
としたが、特殊部隊2000名しかいないので、メインにはなれな
い。クルド人部隊もロシアを敵にしないので、参加しないと思われ
る。

イスラエルの孤立化という嫌な感じになってきた。そして、相手が
ロシアであり、今までの中東戦争とは様相が大きく違うことになる。

さあ、どうなりますか?



コラム目次に戻る
トップページに戻る