6021.欧米中の三つ巴の思惑



世界的な勢力図の変更が起きている。米国の孤立化が明確になり、
次の世界システムをどうするのか、三つ巴の思惑が交差している。
その分析。             津田より

0.中東情勢
シリアのイドリブは、最後の反政府勢力の拠点であり、このイドリ
ブにシリア軍とイラン軍、ロシア軍が総攻撃を近々に仕掛ける。

トルコはトルコ系住民が多数いるイドリブの攻撃を中止させようと
米軍の協力も得て、ロシアと協議をしているが、ロシアは攻撃準備
を着々と進めている。ロシア海軍の艦艇が15隻もシリア近海に展
開させ、シリア内にS400を配備して、米軍ミサイル攻撃を広範
囲で阻止している。

その上に、イドリブ攻撃の演習をシベリアでロシア軍と中国軍、モ
ンゴル軍で行う。30万人以上が参加した大規模演習「ボストーク
」であり、その意図の1つは、米軍やトルコ軍が反政府勢力を支援
しても無理と思わせるためのイドリブ総攻撃の演習という。もう1
つが日本に対して、中露は一体で日本を攻撃できるということを示
すことである。

トランプ大統領は、早期にシリアのクルド人地域に展開する米軍を
撤退するように指示したが、マティス国防長官がクルド人に対して
、トルコとシリアが攻撃を仕掛けるとして、反対して今も在留して
いる。

しかし、イドリブが陥落すると、シリアの次の目標はクルド人地域
の制圧となる。トルコ軍もその時はシリア・ロシア軍側に着くこと
になる。この時には、中国軍も参加する可能性がある。

米国のイラン、トルコやロシアへの制裁が、この3ケ国の結束を高
めて、その上に中国にも制裁を掛けることで、冷戦時代と同じよう
な独裁国の結束になっている。

このため、日本が進めてきた「中国包囲網」戦略が破綻した。日本
は、非常に苦しい状況になってしまった。米国の孤立化と中露結束
という冷戦構造で、日本の立ち位置は不安定になっている。

一方、北朝鮮と中国は結束して、9月には習近平国家主席も北朝鮮
を訪問するなど、アジア地域での紛争の可能性が高まってきている。
北朝鮮は非核化を行わないので、次の米韓合同演習は大規模に行う
とトランプ大統領はいうが、これでは中東とアジアの2正面作戦に
なってしまう。米軍の軍装備と人員が回らない。軍産学の影の政府
への対抗策として、トランプ大統領は感覚的に軍に2正面作戦を強
いているようだ。

今までは、このような2正面作戦を避けるように米国は戦術行動を
してきたが、トランプ大統領は、その戦術を覆して軍産学の陣営を
慌てさせている。その意味でトランプ大統領は戦術的には大成功に
なっている。しかし、戦略的には大失敗であるが。

このような状況になり、政権内に唯一残る国際協調を重視するマテ
ィス国防長官の立場が危うくなっている。

この対抗として、影の政府が目指しているのが、中間選挙で民主党
を下院で勝利させ、共和党上院の反トランプ議員と協力して、トラ
ンプ大統領を弾劾裁判に掛けて辞任させることである。そして、ペ
ンス副大統領を大統領にすることだ。

1.中国への関税UPで
北朝鮮が非核化をしないのは中国が裏にいるからという理由で、ト
ランプ大統領は、9月初めにも中国への2000億ドルの関税UP
を行うとした。しかし、上海株式総合指数は下落しているが、中国
の8月景況感指数は50以上になり、景気は良い。しかし、株式が
大幅に下落したことでトランプ大統領は、貿易戦争で勝ったと宣言
している。

中国は、今まさに、1970年当時の日本と同じように、外需依存
から内需依存の転換期であり、米国への輸出が絞られても中国の景
気が失速しないように共産党政府は、転換を促進して景気を維持す
るようである。

もちろん、このために金融引き締めから緩和方向にして、インフラ
投資を促進することであり、それは債務を積み上げ、いつ債務バブ
ルが崩壊するかかわからないことにはなる。しかし、共産党政権は
、債務不履行の国有企業の資金繰りを支えるために、人民元を大量
に印刷して経済的な下落を止めるようだ。このため、米国の要求を
拒否しても当面、大丈夫と見て、中国政府は長期の貿易戦争を想定
し始めている。

そして、イラン原油やLNGを人民元決済で大量で割安に輸入出来
、中国は当分の間、金融緩和方向になり、米国の金融引き締め方向
で新興国からドル資金が戻るが、新興国は中国に助けを求め、ドル
の代わりに人民元が世界に出ていくことになる。中国の影響力が大
きくなることを意味し、ここでも大量の人民元をばら撒くことにな
る。ということは、人民元が世界の基軸通貨になりえる。今はアフ
リカ諸国で人民元で外貨準備をしている国が多くあるが、それが新
興国まで、その方向になる。

その上、米国の人口は3億人に対して、中国は13億人であり、今
までは貧富の差が大きく裕福な人の数で、米国の方が上であったが
、この裕福な人の数も中国の方が数段上になっている。このため、
市場規模が格段に大きいので、世界の企業は、ドル決済の米国を捨
てても中国に行くことを選ぶ可能性が高くなっている。

特に欧州のブランド品企業などであるが、中間層の数も大きくなり
、自動車販売台数でも米国より中国の方が多い。そして、今後、米
国企業は、中国市場から締め出される。競争条件でも欧州企業が優
位になる。しかし、金融恐慌になる可能性はあるが。

2.欧州の動向
ドイツのメルケル首相は、イラン核合意を維持するべく、前回も述
べたようにドル以外のユーロなどの複数通貨による国際決済システ
ムを作ろうとしている。この目的はドル基軸通貨から離れることだ
。そのためには、軍事力も米国を離れる必要がある。この面から欧
州軍を創設した。

そして、トランプ大統領もNATOから離脱する意向を述べている
ので、欧州は本気で米国離れをするしかない。そして、軍事力のサ
ポートが必要なくなると米国の要求を聞く必要もなくなる。

しかし、トゥスクEU理事会議長は、米国との協調を目指して交渉
中である。メルケル首相は米国を捨てて、中国市場を狙い、基軸通
貨をユーロにした方が良いと思っているので、トゥスクEU大統領
に不満があるようだ。このため、次期EU大統領は、ドイツ出身者
にする方向で活動を開始した。それにはECB総裁を諦めることに
なる。このため、EUは今後も金融引締めではなく緩和維持の方向
になったようだ。

このようなEUに対して、トランプ大統領が言うには、EUは中国
と同程度の通貨操作をして悪いので、懲らしめてやると。このため
、EUからの自動車関税ゼロ提案も拒絶し、自動車への関税UPを
温存する。

ドイツ・メルケル首相も中国・習近平国家主席も、トランプ大統領
が中間選挙で勝てば、本格的に欧中が組んで、脱米国の路線を進む
ことになる。

3.NAFTAの合意
メキシコと米国の交渉は決着して、自動車部品の75%を域内で作
り、16ドル以上の賃金を払う工場の部品を40%使うという新し
い合意になった。しかし、その上に250万台以上には、関税25
%を掛けるという。メキシコの自動車生産を、今計画されている以
上には、大きくさせないようである。

この75%の部品使用で、日本の自動車メーカーは、日本で作って
いたエンジンと変速機の工場を米国に建てるしかないようである。
このように自動車企業のサプライチェーンの変更が必要になってい
る。しかし、まだ全体構造が見えないので行動に移せない。どちら
にしても地産地消を推し進めるしかないことだけは確かである。

しかし、今回の合意事項に移民問題がない。トランプ大統領もメキ
シコからの農業従事者(移民)が居なくなると、米国の農業が立ち
いかないことを知ったようだ。

しかし、カナダとは交渉で合意できていない。自動車以外に畜産品
の輸入制限を盛り込む方向であり、そこがカナダと合意できない理
由のようである。

米国としては、NAFTAの合意を受けて、次に日本やEUとの交
渉に向かうつもりである。

4.中間選挙に向けて
中間選挙で、共和党下院は劣勢にある。そして東海岸、西海岸は民
主党の牙城であり共和党も諦めているが、南部は共和党の牙城であ
り、そこは盤石である。問題は中西部、北部工場地帯などの地域で
あるが、この地域では保護貿易は有効な票取りができるテーマだ。

この切り札カードが中国輸入品や自動車輸入への関税25%である
。この政策で一気に人気が出ることになる。民主党も労働者への保
護から反対が難しい。特に昔の工場地帯での得票という意味では保
護主義が、有効なカードになる。

その上に、景気が好調であり、バブルが生成されている。11月ま
で、バブル崩壊がないようにトランプ大統領は、株価が高くなると、
株高を冷やすために、関税UPなどという暴言を吐いて、株価を下
げてバブル崩壊を遅らせている。これを感性で行うのがすごい。

今、6つのバブルがあり、1つに新興国バブルは崩壊した。ドルが
還流中。これで金利上昇が抑えられている。2つにビットコインバ
ブルで、これも崩壊した。3つに不動産バブルで、崩壊が表面化し
ていないが不動産株が大きく下落している。4つにハイテク株で、
FANG株であるが、まだバブル生成中。5つにジャンク債バブル
であり、まだ表面化していない。6つにインデックス投資バブルも
バブル生成中。というように株価が上昇していることで、まだ、バ
ブルが生成中であり景気が好調のままである。

5.日本の対応
日本も覚悟した方が良い。日米FTAを結ばないというが、米国が
納得するはずがない。もし、自動車関税がいやなら、代わりに農畜
産品の輸入関税の大幅な減額が必要になる。安倍首相の農産品を犠
牲にしないという国内アピールは、米国をいら立たせている。

もう1つ、日本が中国寄りになっていることである。また、イラン
との関係を維持しようとしていることもトランプ大統領には気に入
らない。日本は米国の忠実な部下であるべきというのがトランプ大
統領の考えである。

このため、韓国情報機関の仲介で行った日朝接触も米国に秘密で行
ったとCIAがリークしたが、今までと違うのは、日本のマスコミ
がこの接触を非難しない。日本に対しも、米国の影響力が大きく制
限されている。

日本は、米国産LNGを大量に買い赤字をなくす方向で交渉するの
が良い。その分、カタールなどの中東からのLNGを減らすことで
ある。ホルムズ海峡封鎖を回避するには、米国と豪州のLNGを増
やすべきである。

しかし、世界的に混沌としてきて、中間選挙でトランプ大統領が勝
ったら、日米同盟を基軸とした安全保障という盤石の体制が揺らぎ
、日本も独自の安全保障体系を持つ必要になってくる。

そして、世界の再編成が加速する。脱米国で次の世界システムがテ
ーマになるはずだ。

さあ、どうなりますか?



コラム目次に戻る
トップページに戻る