6017.日米貿易摩擦の再来か



日米通商協議が始まったが、米国は日米FTAを主張し、日本はTPPを
主張するという事前の予測通りの展開になった。トランプ政権の今
後を予測して、日本の今後を検討しよう。   津田より

0.日米通商協議(FFR)
8月9日から10日の2日間、ワシントンで日米通商協議が行われ
た。茂木経済財政政策担当大臣とライトハイザー通商代表(USTR)の
会談で、事前の予想通り、米国は日米FTAの締結、日本はTPPへの参
加を要請した。

しかし、結論が出ずに9月に持ち越しとなった。これは総裁選挙後
に内閣改造があり、その後、新体制に日本がなることを見据え、か
つ、総裁選挙に影響しないように事務方が調整した結果でしょうね。

9月以降、日米FTA交渉が始まると見た方が良い。その焦点は自動車
と農産物である。自動車は米国への輸入量と同等の米国車を買う条
件が付き、それ以上の自動車輸入には20%の関税を掛けると来る。
もう1つが、農畜産物への関税撤廃か豪州並みの関税を米国は要求
して来る。

対して、日本は米国産原油やLNGの輸入量を増やして、対米貿易を均
衡化することと、米国への1000億円のインフラ投資で、自動車
への関税を回避する方向であるが、上手くいくのかわからない。

問題なのが、自動車でしょうね。しかし、米中貿易戦争で米国車は
中国で売れなくなり、一方、日本車は中国の関税が低くなり、安く
売れるために、中国での販売が好調になる。

それと、米国で売れる自動車は、コストが高くても米国で作るしか
ないし、日本での生産台数を確保しないなら、米国工場で作り日本
への輸出も考えることである。米国車が日本では売れないので、日
本企業の米国生産車を日本で売るしかない。そして、日米輸出台数
を合わせることだ。

畜産品も米豪の競争させた方が安く買える。しかし、ここでも、中
国から締め出される米国産は安くなるし、一方、豪州産は中国での
販売が好調になり、日本市場より中国市場を優先させる。

普通に考えると、米国の味方の日本まで敵にするとは思えないが、
トランプ大統領の行動形式は、すべての国を攻撃してくるので、予
測不能で恐ろしい。日本も身構える必要がある。

しかし、日米通商交渉後の日米FTAの交渉は数年がかりになり、その
間に米国内や世界の情勢は大きく変化してくる。

1.米中貿易戦争の結果
トランプ大統領の米国と習近平の中国の両国は、経済のたたき合い
になり、両国ともに疲弊するはずだ。両国以外の国は、両国の戦争
を利用して一時的な落ち込みはあると思うが、両国企業への代替に
なり、経済的には得をすると見える。

論理無視の米国大統領の貿易戦争は、ナイキ、P&G、GE、GMや農畜
産業、水産業など従来型米国産業や企業の衰退という悲劇になるし
、欧州・日本や豪州の産業や企業の得になる。事実、米企業ナイキ
代替のドイツ・アディダスは、世界的に売上高が増大して、大幅な
株価上昇になっている。

米国ダウは、従来型企業が中心であり、大きく下落することになる
し、円やユーロに対してドル安になる。そのために、一時的に日本
は円高株安になる可能性もある。

どちらにしても、米国も早くそのことに気が付くべきであるが、一
度振り上げた拳はなかなか下せないし、対抗上、中国も貿易戦争を
止めない。しかし、米国でも中国産雑貨日用品で関税の引上げは、
これ以上できない状況になっている。雑貨日用品で、中国代替国が
ない。

2.貿易戦争の拡大
中国・習近平国家主席が折れてくるというトランプ大統領の思惑が
外れて、焦っているように感じる。

このため、関税以外の問題へトランプ大統領の焦点が移り、中国の
米国への留学生をスパイとして、トランプ大統領は見ていて、中国
からの留学生を止めるようである。最終的には、米国内の中国人の
強制退去なども起こりえるようだ。

また、中国資本の米国不動産を売却するように、米政府は勧告し始
めている。これは、米国内の中国資産の凍結も視野に入り始めてい
ることを示す。

中国が米国債を売り始めたら、中国の持つ米国債を無効化するよう
であり、貿易戦争から全面的な経済戦争になる可能性も出てきた。
ホットな戦争の直前様相になる。

しかし、戦争はできないはずであり、全面的な経済戦争ということ
になるようだ。

対する中国は、米国債の売りは徐々にしても急にはしない。中国の
手持ち米国債の無効化があるのでできないが、少なくとも新規の米
国債を買わないし、徐々にドルペッグ制を止めることになる。

貿易戦争で米国への貿易の縮小になるが、中国国内消費が増えてい
ることと中国国内インフラ投資で景気を維持する方向のようである
。米国への輸出がなくても景気を維持できる可能性がある。

このため、大型減税により米国の財政赤字が膨んで10年米国債発
行量は増えるも、買い手である中国が買わないので、金利は上昇し
て、新興国に対してドル高になる。世界的な嫌米の上に、益々米企
業の輸出は難しくなる。

この米国債を買う条件を出して、日米通商交渉を切り抜ける可能性
も出てくる。あまりにも米国の経済通商政策は近未来を予見してい
ないし、現実に起こるまで対応しないようなので、交渉を引き延ば
していると、日本の提案の価値がわかることになる。

今のトランプ政権は、予見可能なことでも予見しない。このような
ことをしていて、中間選挙まで、景気が持つのであろうか心配。景
気が悪化すると、民主党に流れが傾くことになる。そうすると、2
年後の大統領選挙も当選の目がなくなる。

3.米国の経済制裁国拡大
米国トランプ大統領の経済政策は、戦略的な観点でも理解できない。
あまりにも多くの国に対して経済制裁を掛けている。ロシアにも経
済制裁を掛け、トルコにも経済制裁を掛け、イランにも経済制裁を
掛け、中国とは大規模な経済戦争を行い、敵の数を増やしている。

米国の同盟国でもあるカナダにも自動車関税を引き上げると脅し、
メキシコにも同様な脅しを掛けているが、両国ともに米国の要求を
のまない。インドもアルミ・鉄鋼の高関税に対して米国への報復関
税を掛けて対抗している。本来、中国包囲網を築くべき諸国にも経
済制裁を掛けているので、米国の友好国でも離れていくしかない状
況を生み出している。

このように米国が多くの国に制裁を掛けて敵の数を増やしたことで、
北朝鮮も米国との非核化合意を無効化しても大丈夫と見て、とうと
う、ICBM・核開発を進め始めた。

そして、欧州、カナダや豪州、ニュージーランドも米国から離れ、
米国の孤立化は仕方がないが、日本の針路にも大きな壁となってき
ている。

安倍首相がトランプ大統領に示した友情を仇で返すなら、日本も離
れることである。信義を重んじない人や国とは、それ相当の付き合
いしかできない。2年後の次の大統領になるまで、いろいろな交渉
なども引き延ばすしかない。米国との間で何も決めないことである。

4.トルコ・エルドアン大統領の野望
米国とトルコの話し合いも物別れになり、米国はトルコからのアル
ミ・鉄鋼輸入に50%の関税を掛けた。このため、トルコリラが大
暴落している。

今までも米国との関係を棄損して、ロシア寄りにシフトしていたが
、米国の経済制裁で、NATOから脱退して米国とは敵になり、米軍が
支援するシリア内のクルド族を攻撃できることになる。地政学的な
リスクを誘発させかねない。

もし、エルドアン大統領の野望であるオスマントルコ実現のために
トルコがクルド族と米軍を攻撃すると、中東での均衡が一気に崩れ
ることになる。米トルコ紛争は大変なことになるが、一番問題なの
は、米国の味方であるイスラエルとサウジになる。

イラン、トルコ、シリア、ヒズボラなどの多数の周辺国と中国、ロ
シアが中東に揃い、カタールにある米国の中東軍を叩くと米軍は、
孤立無援になる。イスラエルに逃げ込むと、イスラエルへの攻撃が
起こり、黙示録の予言が現実化することになる。心配だ。

5.日本の状況
大成建設などの建設株が大幅に下落して、オリンピック景気の剥落
が起こり始めているようである。しかし、米国の景気絶好調に支え
られて、日本企業の現時点の収益は2割ほど増加している。機械受
注も依然順調な状態にあるし、4-6月期のGDPは1.7%も増加したとい
う。しかし、1-3月期のGDPはマイナスであり、6-9月期も極暑と西日
本豪雨災害、貿易戦争の影響でGDPがマイナスになる可能性が高い。

東証に対する空売り比率も45%と依然高いままである。海外投資
家の日本売り、空売りが止まらない。新安値銘柄の方が、新高値銘
柄より断然多くなっている。PBR(総資産比率)が1以下の銘柄が、
全体の2/3もある。これは、急激な人口減少の日本に魅力がないから
である。

日経平均株価は維持しているが、寄与度の高い一部銘柄が日銀の買
い入れで、上がっていることによる。多くの株は下落している。

その上に、トランプ政権の経済外交政策の失敗で、米国経済が下落
すると、日本経済も下落することになり、景気後退が押し寄せてく
る。その上に来年10月には消費税増税である。

しかし、景気後退で、日銀の量的緩和の拡大を期待したいが、今ま
でに限界まで量的緩和をしているので、これ以上には量的緩和はで
きない。ということで、日本の景気が悪化しても、その対応策もな
いことになる。

さあ、どうなりますか?



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