6009.累積的な貿易戦争の結果は



米中貿易戦争が開始して、今後の展開が心配になっている。米トラ
ンプ大統領のディールが過激になると、累積的な貿易摩擦の結果で
世界経済は、大ダメージを受けることになる。今後、どうなるのか
検討しよう。        津田より

0.米中貿易戦争へ突入
7月6日、米国が340億ドル分の中国輸入品に25%の関税を掛
け、その報復として同額分の米国輸入品に中国は25%の関税を掛
けた。中国の輸入品の60%は、海外企業が中国で製造した商品で
あり、海外企業は中国から撤退になる。特に多いのが米国企業であ
るし、もちろん、日本企業もある。中国の人件費が高騰しているの
で、撤退の良い機会ではある。

今後も160億ドル分の最先端分野の製品に関税を増やすと、中国
での製造を諦める海外企業が増えることになる。その分、中国企業
が国内市場を取る。

そして、トランプ大統領は2000億ドル分にも10%の関税を掛
けるというので、この傾向は徐々に大きくなる。

中国企業の輸出分は、米国以外の国の市場に押し寄せることになり
、各国はセーフガードを行い、中国から直接の輸入品、第3国経由
の輸入品を阻止することになる。このことで、米国が中国だけをタ
ーゲットにしているのに、世界貿易全般の縮小になる。

このことで、自由貿易協定やFTAをしている国からの貿易だけを守る
ことになり、ブロック経済に繋がる。

最大市場は、米国と中国であるので、この2ケ国が閉鎖経済になる
と、貿易量が激減するはずで、その影響は、部品下請けや機械など
設備周りの日本企業にも押し寄せる。

しかし、日本は貿易戦争に参加せずに、多くの製品が関税免除にな
れば、影響を最小に抑えられる。日本企業の商品がオンリーワンで
あることが必要であるが、そのような商品が多くある。

1.景気絶好調の米国経済
FOMCの議事録で、2019年には利上げを止めるということで、
2.75%で止めるようである。クドローNEC委員長も金利上昇は、
米国経済にとって良くないと言ったことを受けてFRBも忖度したよ
うだ。

事実、2年米国債の金利が2.5%に対して10年米国債の金利2.8%と
金利差が縮小して0.3%しか差がない。イールドカーブのフラット化
が起こっている。もう1回利上げをすると逆イールドになる。FRBが
できるのは短期金利の操作のみで、この差が小さくなるということ
は、10年米国債を買う人が多いことを意味する。

投資資金を米国債に振り向けているファンドが多いことを意味する
。投資を減らして資金量を増やしている。

逆イールドになると景気に疑問符がつくが、足元の景気は絶好調で
ある。雇用統計での新規就業者数が21万人と順調に推移している
。FRBの利上げがなく、トランプ大統領の貿易戦争で、資産バブルと
インフレが同時に起きて、当分、景気が絶好調になる。当分の間、
ハイテク株を中心として、株価も上がると見ているファンドが多い
ようである。

しかし、バブル崩壊がその後に起きることになる。11月中間選挙
までは株価を持たせるかもしれないが、今後は危ないと見ている。
インフレが起きると、FRBは利上げを急速に行うことが必要であるが
、貿易戦争のインフレで景気が悪くなる心配があり、利上げができ
ない。

2.経済指標の相関性喪失
中国経済は、上海株が20%以上も下落している。人民元安、株安
という状態になっている。通貨が安くなると、株は上昇するのが普
通であるが、そうなっていない。中国当局が人民元安を主導してい
るとも言われるが、中国は認めない。

そして、イラン石油輸入を止めるように、米国は同盟国に圧力をか
けているためと、イランもホルムズ海峡封鎖を言っているので、石
油価格の上昇は止まらない。しかし、資源全体の国際商品先物指数
(CRB)は下落している。普通は石油価格が上昇するとCRBも上昇す
るが、そうなっていない。資源全体では下がっている。

このため、ドル・円が上昇して、資源国通貨のカナダドルや豪ドル
が下落している。新興国・資源国通貨が安いので、ドルが還流して
いるように見える。リスクオフと思えるが、金価格が下落している。

トランプの恣意的な政策の影響は、物事の相関性を失わせている。
しかし、相関性が成り立たないと正常な判断ができず、経営者は積
極的に動けない。これは景気後退につながると見て、普通のファン
ドは市場から資金を引き揚げ始めたという。この金が米国債に向か
っている。

しかし、資金投入が減り市場が薄くなると、株価が動きやすくなる。
ここを狙うのがヘッジファンドである。

そして、空売りが50%と東京市場でも増えて、ヘッジファンドが
活躍し始めている。長期投資ではなく逆張りの短期投資が増えて、
イベント通過で、株価が逆方向に動くことになる。今回の米中貿易
戦争の開始でも、空売りの買戻しが起きて株価が上昇した。

世界全体が、覇権国指導者の恣意的経済政策で操作されて、景気を
悪くされる。国際経済が国際政治の下であることを意識して行動す
るしかなくなる。このため、トランプのツイードを経営者も投資家
も見て予測するしかない。株価がトランプさんのツイードで、上下
に大きく動くことになる。米中ともに政経分離でない嫌な時代が来
たことだけは確かである。

3.トランプの貿易戦争劇場
そして、貿易戦争のターゲットを中国に絞るようだ。欧州やアジア
からの輸入自動車にも20%の関税を掛けるとしていたが、ドイツ
に対して、欧州の自動車関税をゼロにするなら、20%の関税を掛
けないと妥協案を示した。この提案に独メルケル首相は、即座に乗
った。

今までは、中国が米国の要求通りに譲歩したら、11月中間選挙ま
での人気取りの演劇ができなくなるので、人気取り用演劇の保険の
ために欧州や日本に対してのシナリオを準備していたが、中国が拳
を振り上げたので、11月まで中国を相手に演劇ができることにな
り、保険が必要なくなったということのようだ。

という意味では、やっと、中国にターゲットを絞り込め、アジアや
欧州をターゲットにしないということか。その意味では、少し安心
した。

よって、トランプ大統領は、中国に対して多方面から圧力を加える
ために、北朝鮮やロシアにも手を出して、中国から離れることを画
策することになる。

ディールでは、政治経済軍事の区別なく、つながっているので、中
国が譲歩するまで、いろいろな手を打ち続けることになる。11月
中間選挙までは、特に強力に行うのであろう。

米国は、ロシアとの首脳会談で、上海協力機構を中国が経済ブロッ
ク化しようとしているのを阻止するようである。

マティス国防長官は、貿易戦争が本当の戦争になると危機感を感じ
て、北京に行って、軍事的な緊張緩和を行ったが、トランプ大統領
の反応が見えていない。しかし、軍事面でも圧力を掛けたいトラン
プ大統領は、あまり良い気分ではないと見る。

その証拠にマティス国防長官の辞任の噂が出始めている。ケリー筆
頭補佐官も辞任の噂があり、この軍人出身の2人は、そのうちに辞
任であろう。

しかし、中東地域、特にシリアでのイスラエル、イランの激突が起
こる可能性があり、その裏に米国と中国がいる代理戦争になる可能
性がある。貿易戦争後には、本当の戦争が起きるのが、歴史の教訓
である。マティス国防長官は歴史をよく知っているので戦争の可能
性を見ているようだ。

4.日本の行動
日本は、貿易戦争に参加しないで、世界の調整役に徹することであ
る。それしか、日本の生き残る道はない。米国とも仲良く、欧州と
も仲良く、中国とも経済関係を結び、世界の巨人の中国と米国の激
突を見ているしかない。そのうちに、巨人の米国と中国ともに疲れ
て、戦争を終結する必要になる。

しかし、孤立してはいけない。TPPやFTAを多くの国と結ぶことで、
日本の周りに自由貿易圏を作り、生き残ることである。

しかし、国内経済の縮小を世界経済の拡大でバランスさせてきた日
本は、世界貿易が減り続けると経常収支が赤字になる可能性がある。
もし経常赤字になったら、円暴落を起こす可能性が出て、ハイ・イ
ンフレになる非常事態が起きる。

この時は、統制経済化を行うことだ。日銀の量的緩和による国家予
算ファイナンスは、一挙にその収支決算を行うことになるが、この
時は、物価統制などの施策を行い、インフレを緩やかにすることも
考えることだ。ここまで来ると、量的緩和を急には止めることがで
きないし、ETF買い入れも止められない。

しかし、ハイパーインフレになり、国債の重みは大きく軽減される
ことになるが、貯金などが大きく目減りして高齢者の苦しみは大き
いことになる。

さあ、どうなりますか?



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