6008.トランプ取引外交は大失敗か?



米国が仕掛けた貿易戦争は、米国にも大きな代償を与え始め、それ
と米朝間の非核化協議でも前進しないし、北朝鮮は新しい核施設を
作り始めた。イラン石油輸入規制の制裁も中国とインドは拒否。
さあ、今後、どうなるのか検討しよう。     津田より

0.欧州の鉄鋼・アルミに対するセーフガード
欧州は、米国への報復関税を行うとともに、鉄鋼・アルミ輸入に対
してセーフガードを発動した。米国のみならず世界からの鉄鋼・ア
ルミ輸入に対しても関税を25%に上げる。これで、欧州も保護貿
易主義にシフトしたことになる。

メキシコの大統領選挙では、反米感情を追い風に左派のオブラドー
ル候補が勝つことで、メキシコも米国に対して報復関税を掛ける方
向である。カナダも報復関税を掛けると表明した。これによりNAFTA
崩壊になり、米国の経済ブロック圏がなくなる。

次に米国は輸入自動車の関税を20%すると、欧州はセーフガード
も発動して輸入自動車に20%の関税UPを行うようであるので、世
界的な保護貿易主義になり、第2次世界大戦前のブロック経済体制
となることが、確実になってきた。

これは、世界経済を大幅に縮小させることになる。特に影響が大き
いのが日本で、今の日本は輸出で景気を維持しているので、世界経
済が痛むと大幅な景気後退になる。

1.ブロック経済体制と日本の苦難
日本が緊急に行うことは、ブロック経済体制に世界が行かないよう
にEUとの間のFTAやTPPなどの自由貿易協定を多重に結び、保護貿易
化を阻止することである。または、欧州と日本が同じブロック圏に
なり、このブロック自体を大きくして、米国と中国以外が入れるよ
うにすることである。

中国は上海機構メンバーとアフリカでブロックを築くことになると
みる。ということで、3つのブロック経済圏になるか、欧州に日本
が入れずに、環太平洋ブロック圏を作ることで、4つになる可能性
もある。しかし、どちらにしてもよい方向ではない。最悪は、日本
が孤立化し悲惨な状況になることだ。

株価も暴落するだけではなく、輸出ができずに総合収支が赤字化し
て、日銀の継続的な量的緩和と相まって、超円安方向になりハイ・
インフレになる。景気が悪いので金融緩和を止めることができなく
なるし、消費税増税もできず、地方銀行の倒産が多発する可能性も
出て、金融恐慌になるという最悪な場合も想定せざるを得ない。少
なくとも早く、マイナス金利を止める必要があるが、日銀政策委員
で、それに反対する人がいるようである。嘆かわしいことである。

日本がするべきは、最悪の危機を想定して、それでも生き抜ける仕
組みを構築することである。今、危機的な状況になり始めているこ
とを、為政者は肝に銘じることだ。

2.トランプ大統領の対応
欧州の報復関税では、ハーレーダビットソンへの30%の関税で、
ハーレー社は、欧州向け製造をタイ工場に移すと発表した。これに
対して、トランプ大統領は裏切り者と非難し、我慢して米国で製造
しろと。もし、移転するなら重税を掛けるというが、どのような法
律で、それが可能かが不明であるが、重税を取って米国優位企業を
つぶす気である。

関税UPで、製造業を米国に取り戻すというが、報復関税で米国から
出ていく製造業があることを想定していなかったようだ。政策発効
後の影響と、それに対する対応策を練っていないことが分かる。

その時々のトランプさんの感覚だけで政策を行うことで、いろいろ
な損害を米国は受けることになる。トランプ支持者の意見は感情的
であり、後先を考えていない。この意見に対して後先を考えるのが
政府の役割であるが、考える論理を放棄しているのが今のトランプ
政権である。

このことで、トランプ大統領は攻めに強く、守りに弱いことを、世
界の指導者に明確に示してしまった。このことで、世界の指導者は
、米国への報復関税が有効であることを知ったし、脅しを主とする
取引が、効かないことになる。脅しに対しては、報復でカウンター
パンチを打つ方が米国をより大きく傷つけることができると見通せ
たのだ。

苦しい時に、ポーカーフェイスができないトランプ大統領は、世界
の指導者からバカにされた始めたようだ。

その点、中国の習近平は、苦しくともポーカーフェイスを維持して
いるし、取引外交上でも優位になる。音なしの構えで、どちらでも
動ける。

4.北朝鮮の非核化
ホンペオ国務長官の訪朝が遅れている。当初、6月中旬に訪朝して
北朝鮮にある全核施設のリストを貰うはずが、北朝鮮は、何も準備
していないようである。7月上旬に訪朝するとしているが、どうな
りますか。

事実、ホンペオ長官は、康京和・韓国外交部長官と電話会談し、北
との交渉が難航していることを明かにした。中国の王外務部長にも
経済制裁をしっかりやってほしいと要請している。逆に、この状況
は中国の思い通りである。中国は国境での密輸監視を緩めているの
で、北朝鮮は一息つける状態になっている。労働者の輸出もできて
いる。

中国の経済制裁が緩み、北朝鮮経済が崩壊する危機からは脱してい
る。それと、米国の言うとおりにするなという習近平主席の言葉を
金正恩委員長は忠実に実行しているようである。

そして、寧辺核施設では新しい核施設を作り始めているし、拉致問
題を協議する日本との日朝協議も拒否したままである。また、日本
軍は世界最強であり、その攻撃から身を守るために中距離核ミサイ
ルは破棄しないと、金正恩委員長は言い始めている。

これは、日本とボルトン補佐官が心配していた状況になっている。
この状況は、ドンドン完全な非核化はしない方向になっている。こ
の「不都合な現実」をトランプ大統領がどう捉えるかで、北朝鮮の
運命は変わることになる。

第2次朝鮮戦争の可能性が出てきたようにも感じる。韓国も北朝鮮
との軍事・経済協議を中止しないといけなくなる。トランプ大統領
の米朝首脳会談は、大失敗であったと明確化できた。国務省の専門
家たちによる事前交渉を十分しないで、首脳会談をした咎が来た。

しかし、北朝鮮の意志が早い段階でわかり、日本は金だけをむしり
とられなかっただけ、よかったかもしれない。

5.米中貿易戦争の行方
日本の経済評論家たちは、米中は貿易戦争を回避するために協議を
しているはずと論じる。それは世界1位、2位の経済大国が貿易戦
争をしたら、世界経済は大きく後退することが確実であり、かつ、
中国の米国向け輸出の方が断然多いので、中国の方が損害が大きい
ので、中国は譲歩するというのである。

しかし、米国のテリー・ブランスタド駐中国大使は、中国が通商問
題に関して早期に十分な前進をする意思があるとは思わないとした
。協議はしているが、進展はないようだ。

トランプ大統領が守りに弱いことを知った中国は、当分貿易戦争を
して、米国民が悲鳴を上げてから交渉する方が、取り分が大きくな
ると判断したようだ。米国内で、中国からの雑貨類の大幅値上げが
確実であり、2%以上のインフレが起こり、米国民からの不満が大
きくなるまで待つようだ。

トランプ大統領の取引外交は、国内政治的に中国より米国の方が国
民の不満が大きいと見る冷静な判断から、7月6日で貿易戦争を開
始して、米国が音を上げるのを待つという政策のようだ。

トランプ大統領のツイードは、いろいろなことを中国に教えている
。特にトランプの怒りが米国優位企業に向くことは、良いことと、
中国は見る。自国優位企業を潰すトランプ外交は、米国にとっても
大きな損失になる。米国の優位企業と競合関係にあるのは、ほとん
どが日本企業である。ということで、日本企業は報復を受けないの
で、米国優位企業の代替になってしまう。GEやキャタビラーなどが
米国優位企業の候補である。

3.米国のイラン制裁でブロック化が加速
米国は、イランにも永久的な核放棄を求めるために、イランの石油
輸入制限を同盟国などに要請しているが、中国やインドなど上海機
構加盟国は、米国の要請を拒否する方向である。

米国のイラン制裁ですでに、中露を中心とした上海機構は、一致し
て対応し始めている。イラン非核化でも米国は取引外交を失敗し始
めているような感じだ。

その上、中東地域での覇権はロシアとイランが握り、米国は中東か
ら撤退の方向である。米軍は、シリア南部の反政府支配地域の基地
から撤退した。世界最大の石油産出国になった米国は、中東の石油
を必要しないのに、米軍の死傷者が増えるのは米国内の支持を得ら
れなくなっている。

このように石油をめぐっても経済ブロック化の方向に世界は動いて
いるように思う。中国のブロック圏が明確になりだし、米中貿易戦
争で、この傾向が益々、明確化するような気がする。

4.トランプ取引外交は
どちらにしても、米トランプ大統領の取引外交は、すべて、うまく
いっていない。しかし、それを取り戻すべく感覚的な外交が続く。
7月にはロシアのプーチン大統領とヘルシンキで、首脳会談を行う
としている。

ここで、中東での米軍撤退問題や中露を分断することや、北朝鮮の
非核化への協力を依頼すると思うが、また、クルミアや東ウクライ
ナ占領を認めてしまい、トランプ大統領はGIVEのみでTAKEのない外
交取引になる可能性が高い。国務省の専門家を無視した政策は、十
分な検証もしないから、有利な取引ができないようだ。

さあ、どうなりますか?



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