6006.ブータン紀行 その1



              平成30年(2018)6月14日(水)
            「地球に謙虚に」運動代表 仲津 英治

 去る5月11日(金)から17日(木)まで、妻の希望もあって国民総幸
福量=GNH(Gross National Happiness)の国と自称するブータン王
国へ行って参りました。ブータン国内では4泊し、国の在り方、国
民生活の過ごし方など、大いに勉強になり、こういう世界があると
いうことと強く認識できた次第です。

 ブータンは、世界の屋根ヒマラヤ山脈のほぼ東端に位置し、国土
面積は3.8万平方キロ≒九州の1.1.倍の広さ、人口約79.7万人(2016
年:世銀資料)≒福井県の人口(77.8万人 ,日本で第43位 都道府
県の人口一覧 2016 Wikipedia)の小さな国ですが、確かにブータ
ン国民は、それなりの生活レベルで平和に幸せに暮らせているなと
感じることが出来ました。

 ガイドは、ブータン人で日本語が相当できるプブ ツェリン
(Phurba Tshering)さんと言う方でした。5月12日(土)から16日(
水)まで5日間、若い運転手とともに韓国の現代社製のワゴン車で案
内してくれました。在日経験があるようで、かなりの専門用語も解
るガイドでした。
 旅行エージェントは、■GNH(Global Nation Holidays)トラベル
&サービスという東京の会社で、会社名は国民総幸福量(GNH)に
合わせられたようですね。あまり多くの日本人が訪れている国では
ありませんので、日本機械学会所属でRoyal University of Bhutan
=ブータン王立大学のジグミ・ナムゲル工業大学で昨年8月1日から
教鞭を取っておられる緒方 正則教授にGNH社を紹介して頂きました
。平成27年(2015年)3月まで関西大学システム理工学部の先生でし
た。

1.	色んなモノが無い国(良い意味で)
○	名字=姓氏が無い国
 5月12日(土)ブータンで唯一のパロ国際空港に同国のDrukair(ブ
ータン国営航空)で着陸しまして、前述のガイドのプルバ ツェリ
ンさんが出迎えてくれました。Phurba Tshering(BFH=Bhutan 
Friendship Holidays= ブータン友好旅行社)と記された名刺を見
せて、ブブあるいはツェリンと呼んで下さいとの挨拶を受けました
。「ブブが個人名で、ツェリンが苗字ですか」と確認すると、「い
やブータンには苗字=名字に当るモノはありません。皆個人名です
」との答え、これには驚きました。そして人口が80万人程度、険し
い山中の中、お互いに峠を越えて行き来することが少ない社会なら
、個人名=英語で言うファーストネイムだけで成り立つのだな、と
思った次第です。また、例えばKarchugやWangmoなど、名前一つだ
けの人もいるとのことです。

  考えて見ると、日本でも人名に名字、苗字=姓氏が無い人々が大
半だった時代が江戸時代まで続いていたのです。江戸時代の人口約
3,000万人で苗字 姓氏を名乗れたのは、公家、武士、神主の他、
特に許された農工町民だったと言います。

  また農民には名字があった家系も存在したのですが、公的には名
乗らせなかったとそうですね。苗字を名乗れた人々は人口の一割に
過ぎず。人口で太宗を占める農民は、名のみでお互いに判り合えた
ようです。例として剣豪の宮本武蔵は、美作州(さくしゅうと略称
)=今日の岡山県美作市にあった宮本村の武蔵であったと言います。
最も彼は武家の出であったようですが。
 ブータンでももちろん子供が生まれると名前を決めるところ、僧
侶が占いで決めるとの事でした。宗教はチベット仏教ですが、イン
ドに近い南部の人達の中にはヒンドゥー教を信仰する人たちもいる
そうです。国民のほとんどが敬虔な仏教徒ということでしょう。名
前を決める占いには、生まれた年月日(旧暦=農暦=太陰太陽暦?)
、時刻、星座、場所などを考慮するとのことでした。

○鉄道の無い国 
  我々が訪れた地域は西ブータンで首都テインプーと国際空港のあ
る都市パロがある比較的開けたところでした。しかし鉄道は一本も
走っていません。高度が海抜7,000■以上の高山が北方に連なり、
人の住んでいるところは、4000■位まで。テインプーとパロの両都
市も海抜2,300■で山と山の間の扇状地にあります。山と谷が交互
する急峻な地形で、道路より半径を相当大きく取らないと成り立た
ない鉄道は建設そのものが不可能であったことでしょう。仮に出来
ても人口過少で採算は取れないと思われます。
  
  国内の長距離移動は自動車と航空機によります。そして唯一の
パロ国際空港でも、前後左右に山が迫っていました。国内にある空
港は、同空港の他3箇所です。何れも山に囲まれた扇状地に建設さ
れているとのことでした。高山地域ゆえの気象条件が厳しく、国内
空港では飛行機が飛ばないことが多いそうです。地理条件が険しく
、気流状態不安定でレーダー官制がない有視界飛行のため、ブータ
ンのパイロットは、世界一の操縦技能を持っているとか。

 ○高速道路も無い国
  道路は谷合を縫うように走っています。鉄道同様直線性を要求さ
れる高速道路も無かったように思います。購入した観光地図には
Expresswayの表記があったのですが、実際走行した限りでは、我々
が認識している中央分離帯と走行レーンが2車線ある高速道路では
ありませんでした。しかしそうした交通設備を整備しなかったこと
で、自然景観、自然環境が守られて来たと言えるのではないでしょ
うか。

○トンネルに出会わず
  今回のブータン旅行は、基本的には自動車による移動が主でした
。そして西ブータン地区のみ訪ねたのですが、トンネルに出会いま
せんでした。基本的に隧道を避けて道路も建設したと思われます。
冒頭の緒方教授によれば、最近、一般道路ではない水力発電所への
取付道路に隧道が初めて造られたそうです。西ブータンのパロ川と
ワン川と河川の合流点ではタンタク地区の旧関所の門があり、橋梁
が掛かっていました。
 ブブ ツェリンさんの話では、自動車の保有率は、人口100人に1台
くらいとのこと、多くの国民は自動車と無縁の生活を送っているよ
うです。
  石油は、全部インドのコルカタ(旧カルカッタ)からの輸入で、
トラックで運ばれて来ているとのこと、ガソリン価格は60Nu(ヌルタ
ム=インド・ルピーに等価)≒99円/■で、国民所得からすれば、割
高でしょう。

○信号機が無く、手信号か相互に注意
  人口10万人の首都テインプー市内では、結構自動車の交通量は多
かったのですが、中心部のロータリー式交差点には信号機は無く、
お巡りさんが手信号で車と人の流れを捌いていました。かつて台湾
高速鐵路公司勤務の頃の南の島、蘭嶼へ家族旅行に行った時を思い
出しました。同島も信号機が無かったのです。しかしブータンは観
光立国を目指していて、交通量が増えており、いずれは交通信号も
必要になると思われます。

 ○動物園の無い国 
 動物を檻に入れて飼い、人に見せるという感覚が無いようです。
生き物は自然の中で生かすべしという仏教上の理由とのことでした
。しかし絶滅が危惧されている国獣ターキンは一部保護されており
、テインプー近郊でモテイタン王立ターキン保護区を見学しました
。ターキンは石楠花(シャクナゲ)の多い樹木林に棲息しているらし
いですね。
 上記モテイタン王立ターキン保護区では雉の仲間と思われる野鳥
も、ケージの中で保護されていました。
 
○墓、墓地の無い国
 Wikipediaよれば、ブータンは大乗仏教のヴァジュラ・ヤーナ派
(チベット仏教の事?https://waheii.exblog.jp/19877249/ 金剛
乗)最後の砦でもあり、この聖なる地はブータンの人々の強い信仰
心とアイデンティティの中心となっているようですね。

 丘陵地&山地でよくダルシンと呼ばれる白い旗を見かけました。
ブブ ツェリンさんによれば、死者を弔うためのもので、死後暫く
立てているそうです。そして、日本では普通の墓、墓地を見かけま
せんでした。ブータン人は、輪廻転生を信じており、自分の前世、
現世そして来世(後世)を認識しているそうです。生まれ変わるため
には、自然に戻るということが大事で、墓を作って、死者を弔うと
いうことはしないようですね。墓を持たない国民、民族は少なくは
無く、タイ、インドのヒンドウ教徒もそのようですね。

 葬儀の仕方は自然葬、具体的には、鳥葬、魚葬の風習が残ってい
るとのことです。鳥葬は、遺骸を野鳥に捧げる方式で、テレビでも
見たことがあり、実際ワシタカ類が遺骸を食するようです。魚葬は
初めて伺いました。綺麗な水が流れている河川には鱒の魚影が見え
ました。彼らに人の遺体を食べさせるというのです。しかし多くは
火葬であり、遺骨は火葬場の近くの川に流すとのことでした。少数
ながら土葬もあるとのこと。
 これらどの葬儀の方法にするかは、僧侶の占いで決めるとのこと
でした。
 前述の白い旗=ダルシンの他に粘土で固めた円錐と円筒をくっつ
けた形の小さな容器が岩陰や、マニ車(摩尼車)のそばに置かれてい
ました。ツァツァと呼ばれています。これらが墓の代わりの役を担
っているとのことです。
       
 墓が無いのは、チベット仏教の特徴とのことですから、今は中国
領になっているチベットにも当然同様の風習があることでしょう。  

 ブータンの寺院などには必ずと言っていいほど、鳥、兎、猿&像
を描いた絵がありました。
ブブ チェリンさんの解説で記憶している通り書くと:荒涼とした土
地に鳥が草木の種子を運んで来た。草木は芽を吹いて成長⇒ウサギ
が草を食み、糞が植物の栄養となり、木の実も運んだ⇒猿が木の実
を食べ、さらに多くの樹木を育て、像が住めるようになった。年長
者を敬うべしとの仏陀の教えだそうです。

インターネットで検索すると下記のような記述がありました。
https://ameblo.jp/reem2/entry-12274508233.html
四獣因縁
『年若い者は年長者を敬うべき』。
象が言った、「ボクが小象だった頃、この木は同じ位の背丈で、よ
く体をこすったものだ」。すると猿が「俺が小猿だった頃、この木
にはまだ遊べるほどの枝もなかった」と言った。次に兎が来て「わ
たしが小兎だった頃、この木は小さくて、よく跳び越えたものよ」
と言った。最後に鳥がやってきて「この木は自分が上を飛んでいる
ときに種を落としたのだ」と言った。それで鳥は木が生える前から
生きていたので最年長であり、果実を一番先に食べる権利がある。
長幼の序列を重んじよというのが伝統的な解釈だそうです。

 私には、生命の循環も説いているとの印象を持ちました。皆様如
何でしょうか?

〇医療費無料&自営の農業従事者には税金無し
 ブブ チェリンさんから、医療費は無料であり、農民には税金が
掛からない、その財源は豊富な水力発電電力のインドへの売電収入
です、との話がありました。帰国後確認すると下記の情報を見つけ
ました。
https://4travel.jp/travelogue/10351038
1.医療制度について
ブータン国民は全て無料で医療を受けることが出来る。ブータンで
は受けられない高度な医療を外国で受ける場合でも無料である。外
国籍の者がブータン在留中に医療機関で受けた治療費は本人負担な
しである。
2.税制
・勤務者の所得税は所得により税率は異なるが、最高税率は8%(日
本は50%)である。
・自営の農業従事者には税金は課せられない(専従農家への非課税
制度は日本にはありません)。

 ブータンの国家財政を支える電力収入は(国家収入の半分)、半
世紀以前からの日本の援助により水力発電設備が整備されてきたか
らであり、ブータン人は、日本と日本人に対し、大変感謝している
とのことでした。

ご参考;【国際協力60周年】ブータンへの協力開始から50年、これ
からの支援に向けて?朝熊由美子JICAブータン事務所長?
https://www.jica.go.jp/topics/scene/20141114_01.html
 長文お付き合い、有難うございました。 次回をお楽しみに
                      以上 その1 

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