5990.米国は鎖国化を進める



トランプ大統領が、とうとう本領発揮してきた。大統領選挙の公約
を完全に実行するようである。さあ、公約実現でどうなりますか?
検討しよう。         津田より

0.大統領選挙の公約
トランプ大統領ほど、選挙公約を実現している大統領はいない。そ
の対極にいるのがオバマ前大統領であり、最初の公約は保護主義的
な貿易制限であったが、一切実行しなかった。国民の期待を裏切っ
た。そのオバマの政策を批判して、トランプ氏は大統領になったの
で、公約を実現しないと、中間選挙で勝てない。

トランプ大統領の公約をもう1度、確認しておこう。

トランプ大統領は、アメリカ・ファーストにするために、
 1.製造業の白人労働者を助けるために製造業を復興する。
 2.富裕層や法人税減税で、米国企業を国内に戻すことと、海外
   企業の工場を誘致する。
 3.製造業の輸出のためにドル安にする。輸入には関税を掛ける
   か、貿易均衡化させるために、輸入した分を輸出させる取り
   決めの2国間FTAを結ぶ。
 4.インフラ投資と減税、規制緩和。インフラ投資には財政出動
   を行う。
 5.移民を制限する。メキシコ国境に壁を作る。
 6.減税による税収減小分を関税引き上げで、穴埋めする。

この公約通りの政策を行い始めた。当初は、国際派やウォール街の
意向を汲み、調和点を見つけようとしたができず、今後はトランプ
大統領の公約通りに行うことを人事面でも明らかにした。

金融・国際派幹部を更迭して、孤立派や中国強硬派の人を幹部に取
り立てている。このため、この頃のトランプ大統領は、生き生きし
ている。

そして、とうとう、中国に対して1000品目以上を輸入制限して
、総額年間300億~600億ドル(約3兆2千億~6兆4千億円
)にするという。

このように、米中貿易戦争が開始した。中国も対抗処置を取ると宣
言し、30億ドル相当の農産物を輸入制限するとした。しかし、規
模が違い過ぎであるし、米国からの輸入品がないことが明らかであ
る。今後、輸入品がないので、中国に進出している米企業への制約
が増えることが予想できる。また、米国債の大量売却をする可能性
もある。

この貿易制限で、トランプ大統領の公約実行で、支持率が32%か
ら43%に上昇している。多くの米国民の要望をやっと、実現する
大統領が出現したのである。貧富の差拡大を放置した咎が、今、米
資本家の富裕層に来ている。米企業経営的には大変なことになった。

しかし、この1年の行動を見ると、トランプ大統領のやり方は、最
初は相手に脅しを掛けるが、最後には穏便な落とし所にしているこ
とが多い。対中国貿易戦争でも、中国の出方を見ているようだ。中
国も交渉による解決を目指すという。

1.パラダイム・シフト
米国の貧富の差拡大で、世界的にグローバリズムの時代は終焉を迎
えて、次の時代になることが見えてきた。世界の貿易・産業システ
ムのパラダイム・シフトが起きる。

今後は、税金を安くする努力をしてきた多国籍企業に対して、各国
が税金を正当に払うように、生産設備を該当国で持たない場合は、
輸入関税を上げる方向で多国籍企業を締め上げることになる。特に
課税が難しいITやAI企業でも、税金逃れができないようになる。
欧州は、デジタル課税を行うこととするし、独占禁止法を厳格に適
用するとしている。

多国籍企業は、考え方をシフトする必要がある。そうしないと、そ
の国から追い出されることになる。特にトランプ大統領は、IT企
業や金融企業が嫌いである。IT企業に必要な優秀なインド人の入
国を制限しているので、米IT企業は、今のような繁栄ができなく
なる。

金融企業に対しても規制強化を行い、金融資本主義から工業資本主
義に戻すことになる。工業資本主義を行うために、安い労働力を使
った安い製品を締め出す鎖国化・孤立化を厳格に行うことになる。

そして、今回の輸入制限は恒久的な処置という位置づけであり、今
までの時限的な輸入制限とは大きく違う。トランプ大統領は本気で
ある。

これがトランプ革命で、その思想は、地産地消経済だ。

2.米国の鎖国で、世界・日本はどうなるか?
米国は、自国内ですべての物品が生産できる。このため、鎖国がで
きるが、世界でこれができる国は米国以外にない。このため、米国
のまねのできる国はない。

もう1つ、米国は中ロ対抗の軍事拡張は行うが、基本的には自国に
引き籠ることで、世界的な軍事バランスが崩れることになる。しか
し、ネオコンのジョン・ボルトン補佐官就任で、交渉上不利になる
と戦争を仕掛けることになる。最初に米朝首脳会談不調時に米朝戦
争になるか、会談成功で在韓米軍の撤退なるかわからない。自国の
安全保障では強気で交渉してくる。

中東のアフガニスタンからは撤退になるが、シリアの増強もあり得
る。福音派の聖地イスラエルを守るためだ。中国・ロシアの軍事的
優位になっているが、欧州や日本の米軍頼りの防衛ただ乗りを防止
しながら、中ロ対抗の軍事拡張は行う。

このため、米国抜きの世界的な互恵貿易、互恵防衛体制を引くしか
ない状態になっている。その米国抜きのTPP11が成功した立役
者が日本であり、米国のトランプ大統領としては、出し抜かれたよ
うな感じになってきた。

しかし、米国以外の国は、貿易をして、自国に足りない物資を他国
から供給してもらう必要があり、仕方がないことである。日本も現
時点では、食料とエネルギーを他国に頼る必要がある。

このためかどうか、トランプ大統領は「日本の安倍首相らは『こん
なに長い間、米国をうまくだませたなんて信じられない』とほくそ
笑んでいる。そんな日々はもう終わりだ」と言い、米朝首脳会談決
定から日本に冷たくなっている。日本も中国やロシア同様の敵と認
識しているようである。TPP11の成功が原因のような感じで、
米国はお株を奪われたように感じているかもしれない。

しかし、日本は、米国のお株を奪うしか生きていけないので、仕方
がないのだ。

3.日本企業の行動は
これらのことで、23日から始める鉄鋼・アルミ輸入の適用除外国
に日本は指定されなかった。もう1つが、米国で生産している日系
鉄鋼企業が日本も輸入制限対象にしてほしいと依頼したからである。

JFEは、米国のCalifornia Steel Industries, Inc. (CSI)とAK Steel
 Corporationに資本参加して、日本でしかできない鉄鋼最終製品を
作っているが、日本からの輸入製品との戦いで苦戦していた。この
ため、鉄鋼製品の輸入関税を上げて、競争できるようにしてほしい
と依頼していたようである。

このように米国生産をしている会社にとっては、輸入制限は重要な
ことである。日系企業は米国で生産して、保護貿易の恩恵を受ける
方向で活動するべきである。

今後も、日本企業は米国で生産することで、トランプ大統領の革命
を支援する方がよい。それが米国民の期待でもある。売り手よし、
買い手よし、社会よしの三方よし経営をしないといけない。今の米
国では工場を建てて、米国の国民を雇用して米国経済に貢献するこ
とである。失業率は低いが、サービス業の給与より製造業の給与の
方が高いので、米国民の収入増になる。

4.株暴落
このような貿易戦争で、金曜日の株価は一時1000円以上の下げ
を演じた。為替も104円前半と円高で、株価も2万円近くまでな
り、今年の最安値を付けた。海外投資家の売りが強く、日本から逃
げている。空売り比率も50%を超えている。来週は2万円割れの
可能性も高い。

米国でも、金融相場から業績相場に移る時期であり、その時に鎖国
化政策を取ることで、米輸出企業の業績に心配が出ているために、
株価が大きく下落している。一週間で1400ドル程度も下落した。

今の日本企業は、汎用品市場では中韓企業に負けて、独特な部品や
材料しか海外で売れていない。競合しているのは、日本企業同志で
あり、それほど、日本企業の製品は強い。世界の景気が減速して販
売量も減り円高で利益は減少するが、製品の競争力は維持するはず。

それをどう見るかでしょうね。

さあ、どうなりますか?


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