環境先進国ドイツに学ぶ その6 平成19年(2007)12月10日(月) 「地球に謙虚に」運動代表 仲津 英治 この報告は、私も参加したセブンーイレブンみどりの基金によるドイツ 環境研修(10月10日―18日)のレポートの続報です。お付き合いいただけ れば幸甚です。 資金確保活動=ファンドレイジング(Fund raising) 1. 資金確保活動とは何か。 Fund raising=資金確保活動;米国で始まった社会福祉団体、教育機関、 文化・芸術団体などを対象とする、あるいはそれらが行う資金集めの方 法、活動のことです。資金調達という訳もありますが、私は資金確保活 動と訳します。 10月16日、フランクフルト郊外にあるファンドレイジングアカデミー (NPO資金調達専門学校)を訪れました。以下は、講師のトーマス・ クロイツァー氏とリッタース・ホーファー氏の講義に基づきます。 1−1資金確保活動の背景とファンドレイジングアカデミーの誕生 ドイツの社会福祉分野の最大の担い手は、キリスト教でありますが、 教会税等の減少により、財源確保が重要な課題となってきました。また 環境NPO等も連邦、州政府の財政悪化、不況による企業の経営悪化によ り、支援、寄付による活動資金に苦労するようになって来たのです。そ して新たに資金確保活動の人材育成を行なう学校として、ファンドレイ ジングアカデミーが設立されたのです(1993)。 1−2資金確保活動のウエイト 政府と従来からの財団の存在は、今も大きいですが、資金確保活動は、 NPOを支える第3の柱になりつつあります。その必要性の理由は下記の ようなものです。 ■ 非営利市場(Non Profit Market)と資金確保活動団体の存在意義 ・国家と市場に好影響を与える存在になりえます。 ・民主主義社会の本質的要素足りえます。 ・資産&財産(個人、企業、財団、他の資産提供団体)を個人もしく はNPOに橋渡しする役目を果たします。 上記のような役割を果たすには社会的組織=資金確保活動団体が必要 となってたのです。 そして今やNPO等と資金確保活動の規模は次のようなものです。 ・ NGO,NPOなど非営利団体に200万人が従事 ・資金確保活動を営む2600団体(基金になる) ・資金確保規模 寄付金;年間6−8億Euro(970〜1300億円、1Euro=\160で換算) 財団 ;年間20億Euro(3200億円) スポンサー:年間30億Euro (4800億円) これら以外に遺産の実績は、年間1300億Euro(21兆円)もの規模があり、 しかも増大して行きますので(今後10年間で2.3兆Euro=400兆円)、 これからは如何に遺産から遺贈を戴くかが、資金確保活動のポイントと なります。第4項で詳述します。 ■ 寄付対象 ドイツでは、寄付対象としては、75%が社会福祉分野であり、芸術・文 化、動物愛護、環境分野はまだそれぞれ4%に過ぎません。残る12.5%は、 教育、博物館などの分野です。 ■ドイツ人はなぜ寄付するか 複数回答のアンケート調査によれば、上位3つに「個人的な幸せ感と満足」 、「他人を助けたい」、「非常時に助けるのが当然」があがっています。 2. NPOのおかれている状況 2−1客観的状況と寄付者の意向 有力な環境NPOが多数存在するドイツでも彼らのおかれている状況は厳しいものが あります。主なキーワードを挙げて見ましょう。 ■ 経費の増大 ■ 競争が激しい(福祉、災害救助、教育、研究開発、文化、政治などの他分野と) ■ グローバル化が進展。インターネットが発達して情報が豊富 ■ 動機付けに必要な本質的情報など 結果として寄付者(遺産贈与も含む)は、寄付する対象の詳しい情報を欲します。ま た寄付者の目と耳が鋭くなってきたとも言えましょう。 2−2NPOと資金確保活動専門学校の位置づけ そこでNPOなどにとっては、下記のような組織&人材作りが必要になって来ました。 ■ 資金確保活動の担える人材 ■ プロジェクトを推進し、顧客(寄付者など)を誘導できる人 ■ 会話説得能力のある人 ■ 専門学校の知識、ネットワークを有する人 1993年資金確保活動専門学校が設立され、卒業者250人がNPO等に就職しています。 3. 資金確保活動の種類と方法 次図に資金確保活動手段の金額と成長性の予想図を示します。 資金確保活動手段の一覧図(金額と成長性) 別添参照 3−1資金確保活動の収益源 前図と資金確保手段の概要を簡単に説明しましょう。 国、州、財団などからの支援そして、献金、会費などあまり伸びが期待 できないものを除きます。 ■ 労力提供は、遺跡の発掘現場などに多い事例で、ヴォランテイアーが、 遺跡発掘作業に自費で参加して手伝います。仮に遺物を発見すると、協力 者の名前を博物館などで明示して本人の功績を讃えます。 ■ 代行サービス(相互扶助?Patentschaft)は、旧東独にあった方法で、 隣近所などで助け合いする活動を指すようです。 ■ イベントは、くじ、蚤の市、舞踏会、展示会、音楽会、スポーツ大会 など。チャリテーバザールもその一つです。金額も集まり、ライオンズク ラブ、ロータリークラブなどとの人脈作りにも良い手法ですが、行政当局、 警察、保健所などの協力を必要とし、天候に左右されることも多いです。 ■ スポンサーは、企業広告の一環ですが、目的と業種の合致が重要です。 例として肺がん撲滅運動のスポンサーにタバコ会社は頂けません。 ■ ドイツではかなり以前から、交通罰金、脱税違反金などが、NPO活動 の支援財源となってきました。 ■ ドイツでも冠婚葬祭の際に参列者が、当事者にお金を渡す慣習があり ます。誕生日、結婚式、洗礼、記念祭、創立式典、葬式などが対象になり ます。普段から地域情報、個人情報を把握し、または新聞などに冠婚葬祭 報知等に着目して情報を収集しておき、タイミングを合わせて寄付をお願 いするのです。 ■ 遺産の遺贈は、前述通り、非常に大きな可能性のある財源です。第4 項を起こして説明しましょう。 4.遺産;これからの資金確保活動のメイン対象 資金確保活動のターゲットあるいは手段として、遺産市場とインターネットがメイ ンとなって参りましょう。ここでは、遺産に焦点を絞ります。 4−1遺産市場 ドイツでは年々遺産金額が増大してきています。下記にこの20年間の遺産総額の実 績と見積もりを挙げましょう。 ドイツの遺産総額 1990-1995; 4,280億Euro( 68.5兆円) 1995-2000; 5,998億Euro( 96兆円) 2000-2005; 8,191億Euro(131兆円) 2005-2010;11,487億Euro(183.8兆円) これらの金額は、日本でも個人金融資産が1,200兆円あると言われていますから納得 の行く数字ですね。 そして実際下記の通り、一人当たりの遺産も増大しています。実績と今後の可能性は、 次のとおりです。また、NPO等に遺贈する場合に税額控除などで非課税とするなど、 国が免税制度を導入している点も重要なポイントでしょう。 一人当たりの遺産額 1980; 43.7千Euro (699万円) 1995;119.6千Euro(1914万円) 1998 ; 147.3千Euro(2357万円) 2000;164.3千Euro(2629万円) 2010 ; 293.7千Euro(4699万円) 4−2なぜ遺産から遺贈を頂くことが大事か 遺産は今や年間21兆円もの金額に達しており、資金確保活動の対象として は一番大きな可能性を秘めています。 理由は下記の通りです。 ・ まず、資産の一部を公益のために提供して、社会に還元したい希望 者が増加してきました。 ・ 国家や州など行政組織が、全ての重要な社会的課題をこなせる存在 ではないとの認識ができてきました。 ・ 多くの公開討論を通じて、寄付金が上記課題に役立つ可能性がある ことを市民が知るようになりました。そして寄付に基づく基金が支援活 動に理想的な手段であることも知ったのです。 遺産寄付のピラミッド 別添参照 4−3 遺贈して頂くには 普段からの故人とのつながりが大事で、NPO活動の趣旨をよく理解して おいてもらうことが肝要です。遺贈者は、多くの場合、三角図に示す通り、 生前からある団体へ寄付することを継続しているケースが多く、その意味 でNPOが信頼される団体で、その活動力が確固としていることが、不可欠 です。 資金確保活動の方法としては、資産の保有者に対して、まず手紙でNPOの 趣旨、意義、活動内容、実績などをお知らせし、協力依頼することです。 そして今日では、ウェブサイドで常に活動内容を発信し、E-Mailで情報提 供することです。熱意あるコンタクトが大切で、仮に寄付いただいた場合 は、お礼をすること、E-Mail、手紙などで情報を提供すること、クリスマ スカードを送ること、ご本人の誕生日、記念日には、必ず祝い状を届ける など、最低年に数回連絡を保つことです。また意思を確認した上で、寄贈 に対応する名誉的な扱いをすること、つまり功績評価、成果報告の中で故 人名を挙げることです。遺贈していただく場合は、ご本人の希望を把握し て、その遺志にそって表示などを行なうことです。 最後に資金確保活動には、法律知識、倫理、IT技術の活用、データベース 化は欠かせません。 講義は資金確保活動の次の基本原則で講義が締めくくられました。 資金確保活動活動(ファンドレイジング)の基本法則 People give to People. 人々が人々に与える。 仲津 英治感想;今回の資金確保活動の講義の中で、一番印象に残ったのは、 行政の限界という認識、そして寄付と遺贈のことです。これからNPOにとっ て一番期待できる資金源とのことですが、日本の実情に照らすと、社会文化 を変える必要があると思われます。遺産市場なる言葉すら、日本には存在し ません。しかし可能性はあると思います。皆様いかがでしょうか。 また環境NPOとしても企業並みの組織力と実績を持って、世の中に答えてい く力量が要るでしょう。私自身、仮に寄付するにしても、今所属している団 体では、自らの反省を込めて申し上げると「心もとない」と言わざるを得ま せん。 以上 ******************* 仲津英治 「地球に謙虚に」運動代表