2819.米国NIE報告について



イラン核問題に関する米国家情報評価(NIE)が発表された。
この報告書を検討。          Fより

イランと戦争になる直前に、米国は戦争回避の方向にシフトした。
米中央軍は石油備蓄を倍化し、イランへの軍事行動の準備を終えた
段階で、攻撃命令を待つばかりという段階に来ていた。
しかし、米国防総省内で深刻な内部分裂を引き起こした結果、NI
Eの発表になったと感じる。

NIEでは、イランは2003年後半の時点で核兵器開発計画を停止し
ていたとの分析を明らかにした。このNIEを発表したのは、ステ
ィーブン・ハドリー大統領補佐官、ディック・チェニー副大統領、
ジョン・ネグロポンテ国務次官である。どちらかと言うと、イラン
の核問題でイランを孤立化させて、戦争に導いてきた人たちである。
この面々がイランとの戦争を中止したことになる。

イラン核問題を先導したのはネオコンであるが、ここに来て国防総
省を仕切っているのは、ロバート・ゲイツ国防総省長官、マイケル
・ヘイドンCIA長官、マイケル・マッコネル国家諜報部門長官など、
みな実戦で鳴らした制服組の軍事・諜報の生粋のプロたちである。

そして、国防省の制服組は新しい戦争に反対していた。このため、
ペンタゴン国防総省の官僚や米中央軍総司令部の司令官、そして米
国諜報機関の各局長クラスが、イランとの戦争を開始した途端に一
斉にそろって辞任するだろうというとんでもない事態が起ることが
予想できた。米国防省のクーデターである。

事実、四日付の米紙ニューヨーク・タイムズに、米軍の退役将軍ら
五人が連名で、イランに対する武力攻撃をやらないようブッシュ政
権に求める全面広告を掲載したことでも明らかである。

また、ブッシュ大統領は新しい紛争を起こすのに必要な米国一般大
衆の支持を得ていない。イラク戦争に疲れている国民を新しい戦争
に巻き込むことは、不可能である。

しかし、世界的に米国大統領の威信は失墜したことになる。そして
今後、米国の情報に対して、世界は信用しなくなる。米国と行動を
共にしようとする国家は無くなるのではないかと感じる。

この勝者は、イランのマフムード・アフマディネジャド大統領、ロ
シアのウラジミール・プーチン大統領や国連原子力監査委員会IAEA
のモハメド・エルバラダイ会長である。イランはウラン濃縮の権利
を得たことになり、エルバラダイ会長も「国際的監視体制の下で、
イランはエネルギー用のウラン濃縮化をある程度認められるべきで
ある。」としていた。米国の権威が下がれば、ロシアの選挙で圧倒
的な支持を獲得したプーチン大統領の権威は、益々上がることにな
る。

米国と同一歩調を取ったアラブ諸国は、イランとの関係修復として
湾岸協力会議(GCC)の首脳会議にイランのアハマディネジャド
大統領を招いて、イランから提案がある安全保障、経済協力の新た
な協定締結や機関設立の提案を「精査する」とした。

直前に開催した中東和平会談で、イランを孤立化させて、アラブ・
スンニ派諸国とイスラエルが一同に介したことは無価値になってし
まったようだ。

中東和平会議の趣旨とあまりにも違うNIE報告を国際的な陰謀と
見る評論家もいるが、米国はイランとの戦争は出来ないことになっ
たことだけは確かだ。
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米中央軍が石油備蓄倍化、軍事行動準備か―米紙(nikkei)

【ロサンゼルス1日宮城武文】米ウェブ紙ストラテジック・ダイレ
クトがこのほどアブダビからの報道として伝えたところによると、
イラクやイランに対する軍事作戦で責任を持つ米中央軍は、湾岸地
域における石油備蓄を倍増する指令を出したという。情報筋の話と
して、「何かが起きる始まりだ」とし、対イラン軍事作戦開始の可
能性を指摘している。
 中央軍の備蓄増量指令は、米第5艦隊との協力の下で行われ、欧
州方面からタンカー数隻をチャーターするなど、湾岸地地域の艦船
の燃料に必要な2か月分の備蓄を進めているという。

 石油の供給源としては、サウジアラビアが見込まれているが、同
国は米軍に対して2006年には150万バレルを供給していたが
、今年度は800万バレルに跳ね上がっている。情報筋によると、
タンカーは石油をカタールやアラブ首長国連邦など湾岸協力協議会
諸国の港からバーレーンに輸送するという。

 米海軍は湾岸地域に攻撃空母2隻を配備しており、11月には対
機雷、潜水艦作戦の軍事演習を行ったばかり。米政府としてはイラ
ンの核開発問題で「外交交渉による解決」を強調しているが、軍事
作戦を選択肢の中から排除してはいない。
2007/12/2 17:00 
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イラン、03年に核兵器開発停止=米国家情報評価
12月4日8時1分配信 時事通信

 【ワシントン3日時事】米政府は3日、イラン核問題に関する国家
情報評価(NIE)を公表し、イランは2003年後半の時点で核兵器開発
計画を停止していたとの分析を明らかにした。ブッシュ大統領は、
イラン核武装の恐れを警告し続けてきたが、NIEの新たな分析により
、大統領が必要以上に危機をあおっていたのではないかとの疑念が
強まりそうだ。 
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ブッシュ大統領「イランは今も危険」 機密報告受け会見(ASAHI)
2007年12月05日07時38分

 ブッシュ米大統領は4日、イランが核兵器開発計画を03年から
停止しているとの米情報機関の機密報告について、「イランはなお
ウラン濃縮の知識を得ようとしている。イランは危険な存在だった
し、今も危険であり、核兵器を製造するのに必要な知識を獲得する
ことがあれば、今後も危険だろう。報告書は『アメとムチ』が有効
だと述べている」と語り、イランが脅威で、今後も圧力をかける必
要があるとの認識には変わりないと主張した。 

 記者会見で記者団の質問に答えた。「外交が最も有効なのは、す
べての選択肢を捨てない場合だ」と述べ、軍事オプションを放棄す
るかどうかは明言を避けた。 
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「イラン大統領の提案精査」GCC首脳会議が異例の声明
(nikkei)
 【ドーハ=加賀谷和樹】カタールの首都ドーハで開かれていた湾
岸協力会議(GCC)の首脳会議は4日、会議に初参加したイランの
アハマディネジャド大統領が示した安全保障、経済協力の新たな協
定締結や機関設立の提案を「精査する」との声明を発表した。イラ
ンに対するGCCの声明としては異例の前向きな表現。

 声明はイラン案を精査する理由を「ペルシャ湾岸地域の安全保障
と安定のため」と指摘した。イランが2003年に核兵器開発計画を中
断したとの米国家情報評価(NIE)が明らかになったことで、米
国の抑止力が弱まると判断、融和を打ち出したとの見方がある。

 イランはイスラム教シーア派が指導部を掌握する。一方、GCC
に加盟する6産油国はいずれも同教スンニ派政権で、イランと断交中
の米国と近い関係を続けてきた。だが、GCCは今回の首脳会議に
イラン大統領を初めて招待、独自の関係構築を模索していた。
(10:20) 
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イランへの武力攻撃反対/米元将軍ら 政府に意見/“イラクの過
ちくりかえすな”/米紙に全面広告(しんぶん赤旗)

 【ワシントン=山崎伸治】米国の反戦連合体「戦争なしの勝利」
は四日付の米紙ニューヨーク・タイムズに、米軍の退役将軍ら五人
が連名で、イランに対する武力攻撃をやらないようブッシュ政権に
求める全面広告を掲載しました。

 名を連ねたのは米陸軍のウィリアム・オドム中将、ロバート・ガ
ード中将、ジェームズ・トンプソン中将、ジョン・ジョンズ准将、
空軍のリチャード・クラス大佐の五人です。

 広告はブッシュ大統領とチェイニー副大統領の顔写真を配し、「
イラクで終わりのない戦争と悲嘆にわれわれを引き込んだのと同じ
一味が、同じことをイランでやろうと脅している」と警告。

 イラク戦争は失敗であり、「もう一つの戦争が数十年も長引くこ
となどわれわれはまったく必要としていない。国を愛する全米の人
たちに、ブッシュ大統領がイランを攻撃しないよう、議会に対して
ともに呼びかけることを求める」と訴えています。

 また同日夜、「戦争なしの勝利」はワシントン市内でタウンホー
ル・ミーティングを開催。広告に名を連ねたガード氏のほか、ロー
レンス・ウィルカーソン氏(パウエル氏在任時の米国務長官首席補
佐官)、トム・アンドルーズ元下院議員(「戦争なしの勝利」全国
理事)が訴えました。

 ウィルカーソン氏は、前日公表されたイランの核開発に関する「
国家情報評価」(NIE)報告について、「ブッシュ政権の主張と
は驚くほど異なっている。イランとの外交、対話に転換する好機だ
」と指摘。対北朝鮮と同様の働きかけが必要だと強調しました。
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 通巻第2022号 

 米国情報評価(NIE)の「イラン核開発停止」報告はどこまで
信憑性があるか
     ブッシュ政権の中東政策は混乱の極みに陥没するのか

 イランが原子力の「平和利用」を標榜し、ウラン濃縮プロジェク
トを推進している。地下の秘密工場を十数カ所に分散して分厚いコ
ンクリートで堅め、IAEAの完全な内部査察を許さない。
だからIAEAの報告では「核兵器開発の疑惑は解けない」とした
。フランスとドイツは国連でのイラン制裁強化をまとめようとして
いた。ブッシュは08年1月9日にイスラエル初訪問の外交日程を
明らかにしようとしていた。

 このタイミングだった。
国家情報評価(NIE)が発表した「イランが2003年秋の段階
で核兵器開発計画を停止していた」という分析は国際的な衝撃をも
たらした。
 米情報機関は2005年報告で「イランは「核兵器開発を決断し
ている」と分析していたのだが、基本方針を逆転させているのだ。
ブッシュ大統領は10月にも、「第3次世界大戦を回避したければ
イランに核開発させてはならない」と武力行使も辞さない強硬論を
ぶち揚げていた。

 NIE報告は「イランはコストと利益を考えて決断を下した」と
分析する一方で、かといって「イランは計画を停止していても核兵
器製造に転用可能な能力をつけてきている」。つまり「中断」では
っても、「中止ではない」と指摘した。
「ウラン濃縮活動を継続中だから2010〜15年に核兵器製造に
十分な高濃縮ウランを生産することは可能」ともNIEは指摘した
が、このことをマスコミは小さくしか伝えていない。

 この報告にホワイトハウスはとまどいを隠さない。ようするにタ
カ派攻撃なのだから。直ちにブッシュ米大統領は記者会見し、NIE
報告に関して発言。「イランが依然、核開発に転用可能なウラン濃
縮活動を継続している」。だから「核兵器製造に必要な知識を有す
る限り、イランは過去も現在も将来も危険だ」と強調した。
「米国はイラン攻撃を含むすべての選択肢を残しておくのが効果的
な外交だ」とブッシュ大統領は発言し記者会見をしめくくった。

 ▼ 背後に国際謀略の影が。。。
 こうした一連のイラン核疑惑騒ぎを眺めていて、いくつかの疑問
が残る。
 第一はブッシュ政権のなかにイラン政策を変更させようと策する
グループが存在すること。明確にブッシュー・チェイニー路線に弓
引く意図をもつ。

 第二は、その派がロシア情報機関と「提携」している可能性もあ
る(INSニュース、7日付け)。NYタイムズはNIEの評価換
えは「イラン高官とイランの軍幹部との会談を盗聴し、その結果、
偽情報ではない、と判定したから好評に踏み切った」と情報の出所
を推測したが、それも怪しい。

 第三はイスラエルに対してブッシュ政権からの背信的なパンチに
なって、イスラエル初訪問を前に米国とイスラエル関係に効果的亀
裂を生まれさせた。
 オルメルト(イスラエル首相)とアッバス(パレスチナ自治政府
)首相とを米国アナポリスに呼んで、中東和平についてブッシュ政
権は真剣な和平への妥協を探ろうとしていた矢先でもあり、やはり
、冒頭にのべたように、一種国際謀略の臭いが紛々としているので
ある。


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