環境先進国ドイツに学ぶ その4 平成19年(2007)11月17日(土) 「地球に謙虚に」運動代表 仲津 英治 この報告は、私も参加したセブンーイレブンみどり基金によるドイツ環境 研修(10月10-18日)のレポートの続報です。お付き合いいただければ幸甚で す。 ■ 環境保護団体訪問 1.BUND= Bund fuer Umweld & Naturschutz Deutschland(ドイツ 環境・自然保護連盟) BUNDは、ドイツの代表的な環境保護団体であり、その3で報告したNABU (ドイツ自然保護連盟より歴史は短いが、会員数は39万人とドイツ最大クラ スです。地球の友という言葉を 標語としています。39万人もの会員、発展 経緯、組織などに興味を持って伺いました。 マインツ市内のビルの一角にラインラント・ファルツ州支部事務所があり ます。そこで州本部部職員 ミカエル・ウルリッヒ氏のお話を伺いました。 以下はウルリッヒ氏のお話と、BUND のホームページも参照して要約したも のです。 写真 BUNDのマーク 1−1BUNDの発展の歴史 1975年、BNUD ドイツ自然・環境保護連盟として発足しました。1976年BUND に改名しています。バイエルン、バーデンヴユルテンベルク、ヘッセン、ライ ンラント・ファルツなどの既存の州単位環境保護連盟を組織統合して発展し てきています。概ね当初は原子力発電反対運動がベースになっていました。 現在、本部はベルリンにあり、16の州本部、そして2000箇所もの地区組織 があります。 1−2BUNDの目的と活動手段 1-2-1活動目的と対象 主たる目的としては記念物保護(歴史的、自然)、環境保護(景観を含む) と自然保護を規約に明示しています。具体的対象は、これらに影響を与え るもの、化学物質、エネルギー、交通、開発計画などです。また活動テー マとしてはグローバル化の問題点、地球温暖化防止、持続発展性、水域保 全(河川、湖沼、地下水など)を取り上げ、具体的な基準&標準作りにも 取組んでいます。 基本スタンスは、「将来への発展を考慮する」ということです。 1-2-2活動手段 次の8項目が挙げられます。 ■ 広報&PR ■ 法律違反時行為を指摘 ■ 土地購入 ■ 植栽(地域的環境の維持、保護) ■ 情報と経験交流 ■ 内外の環境団体との交流 ■ 消費者への情報提供 市民を啓蒙するたくさんのチラシ、パンフなどがあります。 ■ 政党、教会とは独立して活動 最後の8番の政治との関係においては、大いに関わりは持つが、政党とは 一線を画しています。具体的には緑の党とは、関係は良好ですが、一辺倒で はありません。二大政党(キリスト教民主同盟&社会民主党、現在大連立中) とも関係を保っています。お互いに勉強会に招待しています。また選挙のさ い、候補者に環境問題に関する質問状を送って、その回答を有権者に広報し ます。 BUNDの力は、やはり数が背景にあると思います。NABUもそうです。数が政 治力を発揮するのです。例としてラインラント・ファルツ州本部の代表は、 政党組織とよく接触し、その集まりにも出席します。背後に有権者がいるか ら政党もBUNDを重視するのです。 環境に影響を与える連邦官庁は、経済省と交通省です。これら中央省庁に は、直接にあるいは政治家を通じて働きかけます。 またドイツでは教会の力は大きいので、環境問題に関し協力し合っている事 例もあります。具体的には、カソリック系団体と30-50年後のドイツはいかに あるべきかを示す「持続する社会の指針」という500ページもある本を発行 しています。18Euroです。(1Euro=160-170円) 写真 Ullrich氏と未来指針 1−3組織 組織は前述の通り、地域グループ、州本部そして連邦本部と3段階制を敷いて います。 連邦本部(ベルリン)と州本部の関係は、全体方針はベルリンの本部が決め、 州、地域はそれぞれの地方の特状を考慮して、方針を決め活動しています。最 大の州本部はバイエルンで169,000人もの会員がいます。 2.ラインラント・ファルツ州本部 BUNDより先の1973年に発足しています。(BUND全体が設立される前に州単位で 環境・自然保護連盟が誕生している)概ね反原発運動、原子力発電所廃止運動 か原点で、その後高速道路建設の中止、拡充反対などに活動が発展して行きま した。 会員数はピーク時に16000人いましたが、現在停滞状態なので、会員募集のキャ ンペーン展開中です。 2−1運営組織 州本部には、理事会がおかれ、代表、理事で会合を行っています。他に州代表 者会議(年1回)を開きます。これには郡&市グループや、町村グループの代 表が参加します。 特別目的を持ったプロジェクトチームを作ることもあります。 州本部のスタッフは9人いまして、次のような構成です。 代表 1人 副代表 1人 財務担当理事 支部(3箇所)と青年部(BUND-JU)も所管。 職員;広報1名常勤、環境保護1名(1/2パート)、自然保護担当1名 FoeJ(自由意志環境一年研修制度=環境ボランテイア一年研修制度(2002 年から兵役忌避者に課す代替義務に環境NPOなどでの1年間の研修制度が加え られた))二人;テーマを持っている。 彼らは全員有給ですが、FoeJの二人は連邦政府からの支給されています。 州本部&3支部の下に、34郡市グループと60以上の町村グループがありま す。 2−2BUND全体の財務状況 BUND(連邦本部の数字) 金額 割合 寄付 5,411,688 Euro 42.1% 会費 4,726,989 Euro 36.8% 遺産寄贈&罰金など 607,418 Euro 4.7% プロジェクト賛助金 (連邦、州、財団など) 887,619 Euro 6.9% 団体収入(書籍販売等)810,694 Euro 6.3% その他 399,102 Euro 3.1% 合計 12,843,510 Euro 100.0% (約20.5億円)!Euro=\160 寄付と会費がメインです。最近遺産寄贈が増えつつあります。(21億円とは凄 い金額ですね)。 コメント;ちなみに(財)日本野鳥の会は、平成18年度予算によりますと総収入 12.4億円ですが、事業収入(受託事業、物販など)が6.3億円で半分強を占め、 会費収入は僅か1.8億円、寄付金収入は1.4億円です。 2−3ラインラント・ファルツ州本部のテーマ 下記のようなテーマに取組んでいます。 ■ 自然保護のため土地を購入 ローゼンガルテン自然保護地区の採石場 ■ 河川の自然回復 ■ 環境破壊を伴う開発プロジェクトへの態度表明と運動 州本部も連邦本部と連携をよくとっています。具体的には軍用飛行場の拡張計 画が持ち上がったとき、反対して結果連邦、州との間で裁判にまで発展した。結 果中間的結論がでました。 ■ 環境教育 ゲーム機などの普及で自然を知らない、馴染んでいない子供が増加しています 。環境教育を通じて、自然に親しむと自然を大事にするようになります。 ■ 遠足 体験学習と会合など ■ 広報 環境庭園作りと展示会など ■ エネルギー関係 特に風力発電が課題です。再生可能エネルギーを得ることができますが、景観 損傷と生態系(特に野鳥)に影響します。色んな意見があり、それらを集約し て纏めます。 ■ 電波障害 受発信への影響、人体&生態への影響 移動無線に関しては、ラインラント・ファルツ州は重視。時間のかかるテーマ です。 ■ 持続可能性 BUNDの重要なテーマ;政治家、選挙民にも長い視点を持つよう働きかけ ■ 地球温暖化防止とエネルギー 30年前、原子力発電所整備計画があったが、国、州の方針とも一致して計画中止 になりました。今日、原子力発電に代わり、電力会社は石炭火力発電を推進しよう としています。全ドイツで22箇所もあります。 ラインラント・ファルツ州環境大臣(女性)も石炭火力発電に賛成しており、鋭 意交渉しているところです。BUNDは反対運動を展開しており、他団体、NABU(ドイ ツ自然保護連盟)、グリーンピース、KOMA(石炭の無い街マインツを という市民 団体)とも連携しています。 写真 北極と南極 融氷 ■ 太陽光発電の推進 屋根を活用して太陽光発電装置を事業として設置&運営。これは実際の個人が共同出資して、 村の公民館に設置したケースを案内します(できれば追って詳報)。 写真 ソーラーで未来を その4 終わり 仲津感想;ミカエル・ウルリッヒ氏は、大学卒のインテリですが、勤務先として環境 NPOの事務員を選んでいます。薄給ながら情熱を持って取組む姿勢には感心しまし た。 =============================== 環境先進国ドイツに学ぶ その5 平成19年(2007)11月25日(日) 「地球に謙虚に」運動代表 仲津 英治 ようやく比良山の高みに白銀が望め、琵琶湖畔で紅葉が楽しめる候となりま した。 環境NPO人材育成制度 自由意志環境一年研修制度=環境ボランテイアー一年研修制度 FOeJ=Freiwilliges Oekologisches Jahr ドイツには、連邦及び州による環境ボランテイアー研修制度があり、次世代の環 境ボランテイアーを育成しています。これは環境NPOにとっては自らの努力以外 に、公的制度が人材を育て、供給してくれる有難い制度のようです。ドイツが国 を挙げて、環境問題に取組む具体例として、税制、再生エネルギー高価買取制度 など財政面の他、人材育成制度も整備しているのです。1年間公費で研修生を環 境保護機関に勤務させて、知識、見識を体験会得させる制度なのです。 元々ドイツには1950年に自由意志社会研修推進法という連邦法が定めた、社会福 祉ボランテイアー研修制度があり、今もそちらの方が量的には多いようです。本 人の意思で厚生施設、福祉施設で1年間研修(一部短縮&延長可)して、社会福祉 に貢献する精神を会得するのです。当初は女性の応募が圧倒的に多かったようです が、この制度に加えて、兵役義務のある青年男子(現在18歳以上で9ヶ月)が、良 心的に兵役を忌避する場合、代替責務として、社会福祉ボランテイアー研修制度に 参画することが義務付けられ、男子も増加しました。 そして環境問題の高まりとともに1996年に環境ボランテイアー研修制度が設けられ、 さらに2,002年3月の上述連邦法の追加改正により、兵役忌避者に環境ボランテイア ー研修制度が代替責務の対象に加えられたのです。今や男女ほぼ同数の1800人の環 境保護機関で1年間研修を受けています。 日本では働きもせず、学びもしない、職業訓練も受けないニートなる若者が100万人 近くいるとの報道に接しますが、この連中に社会的義務を課す意味でも意義のある制 度かと思います。ドイツでもこれらボランテイアー研修制度によって就職先とか自分 の人生の方向付けをする若者が多いとのことだからです。 1. ラインラント・ファルツ州の環境ボランテイアー研修制度 10月13日(土)、ラインラント・ファルツ州環境ボランテイアー一年研修事務所 (FOeJ)を訪ねました。本来休みの土曜を変更して応対して頂いたようです。ここ からは、事務所のリーゼ女史と、アルブレヒト女史の話を私なりに理解したことに 基づいています。 1−1環境ボランテイアー一年研修制度の組織と体制 他と同じく3段階制の組織体制となっています。 連邦環境・厚生省 ラインラント・ファルツ州環境・森林省 環境ボランテイアー一年研修事務局 他 省政府が直結している団体 環境NPO団体との連携 代表例 BUND=ドイツ環境・自然保護連盟 NABU=ドイツ自然保護連盟 GNOR=ドイツ自然保護協会 等各ラインラント・ファルツ州本部 連邦政府及び州政府から公的資金が出され、BUNDなど各環境NPOへ、研修生が派遣さ れます。派遣先は研修生が応募要綱を見て、自ら希望して相応が了解すれば、1年間そこ で環境NPOの一員として常勤します。BUNDなど大きな環境NPOは、さらに「森の幼稚園」 などの地区環境組織と契約しており、それらの窓口になっています。 写真 環境ボランテイアー研修制度受講中の風景 1−2環境ボランテイアー一年研修制度の意義 ドイツでは国、州など行政組織の義務及び国民である市民の義務の概念があります。 15歳までは、市民が納めた税金を元に州政府が市民に義務教育を施し、公としての義務 を果たします。そして16歳を過ぎると今度は市民が公に対して義務があるとの考え方で す。例として兵役もその一つですが、社会的貢献(福利厚生部門)なり、環境保護に貢献 する機会を与えるので、それらを果たしなさいというところでしょう。環境ボランテイア ー一年研修制度も義務教育修了者を対象にしています。上限は26歳までです。 連邦、州政府として若者に自然と環境に関心を持たせるために環境ボランテイアー一年 研修制度を発足させたのです。そして社会貢献義務を果たすか、環境保護貢献を果たすか は、本人の選択で決めることになります。外国でも可能だし、また外国人もOKです。 (思うにドイツ国民が納める税金で、外国出身の環境ボランテイアー研修を認めるのです から、度量が大きいと言えましょう。現に日本の若い女性研修生と会いました) 2. 環境ボランテイアー一年研修制度の内容と場所 2−1研修目的 次の8項目を研修目的に掲げています。 ■ 自然&環境実習 ■ 環境知識の向上 ■ 環境基礎知識 ■ 人間形成(社会人化教育、人間として何をして良いか分らない若者がいる) ■ 職業選択教育 ■ セミナーに参加して発表、他研修者と交流させる。 ■ 団体訓練 ■ テーマ学習 研修期間は8月から翌年の7月まで1年間であり、研修場所は、ラインラント・ファルツ 州の場合、州内ファルツ郡など3地域の他フランスに分かれています。今年は約80人で した。 研修する機関は、 ■ NPOの事務局 ■ 環境センター ■ 自然公園 ■ 農家 等です。 それぞれの研修機関同志で相互交流も行なわれます。 A4で厚さ1センチはあるラインラント・ファルツ州環境ボランテイアー一年研修のガイド ブックを見ますと、研修先として、農家、園芸家、養蜂家、ワイン農家、森林管理所、 自然センター、博物館、森の幼稚園(幼児を建物の中ではなく、森で預かる幼稚園)、 自然環境保護団体事務所、自然保護官公庁、環境技術組織(省エネ・省資源住宅団体、 省エネ技術団体等、再生可能エネルギー団体等)、動物園、環境研究機関そしてフラン ス、ベルギーなどが記載されています。全部で160箇所はありましょう。 3. ラインラント・ファルツ州の環境ボランテイアー研修事務所での研修内容 現に二人の若者がその事務所で研修勤務しています。 3−1研修テーマ ■ 自然保護の実務作業 ■ ビオトープでの自然観察とデータ記録・編纂 ■ 環境教育の実践、広報、アドバイザー ■ 事務所の管理業務 ■ 動物の世話(野鳥の保護など) ■ ワイン作り ■ 森林管理 また環境ボランテイアー研修事務所では、セミナーを開催しています。 毎年テーマが変わりますが、例をあげましょう。 ■ 森林の自然保護 ■ 環境農業と薬草類&栄養学、料理法等 ■ 地球化、世界化の状況 ■ エネルギー(特に再生可能エネルギー) ■ 自然循環(干潟学習、実際オランダ、北海の干潟へ観察に出かける) いずれの場合もセミナーは座学だけではなく、実際箇所を見学するメニューが盛り込まれ ています。 環境ボランテイアー研修生の俸給 前述の日本人研修生に伺うと、彼女は宿舎が要るので、その分手当てが出ているとのこと です。食費が103Euro、住居費が154Euroそして小遣いが154Euro合計月額411Euro(約 6万7千円(1Euro=\162で換算)の由。物価の高いドイツではぎりぎりでしょうか。こ の手当ての分担は、連邦、州、引受け先がそれぞれ三分の一づつです。引受け先の負担 があるのは、研修生をある程度戦力として使えるからでしょう。 環境ボランテイア講習 記念写真 3−2 この後質疑の時間がありました。主なポイントを列挙しましょう。 ■ 参加者の公募手段 ホームページ、新聞広報、学校訪問 ラインラント・ファルツ州では、応募者を面接して、希望先に応じてBUND,NABUなど の環境NPOに紹介します。数日実習してみて研修先を決めます。 ■ 社会ボランテイアー研修制度の方の歴史が古く(1950年開始)、環境ボランテイアー研 修制度は、1996年スタートなので、まだまだ社会ボランテイアーを選択する若者が多いよ うです。 ■ 環境ボランテイアー研修制度の目的、使命 環境意識をレベルアップし、一生持ち続けるようにさせたいので、研修後のフォローも 行なっています。職業選択にもプラスになっており、受け入れ側の評価も高いものがあ ります。 仲津感想;日本は戦前、義務重視社会であったと言えましょう。国家が国民に兵役を始めと する義務を課し、国民の権利がかなり犠牲になった社会であったように思います。戦後はそ の反動で権利が強調される社会になりました。そして時計の振り子は必ず振れ過ぎます。 国民としての、社会人としての公(おおやけ)に対する義務が軽視されて、このままでは 国が共同社会が溶解するのではないかとも懸念されています。 その意味で兵役の復活も私は論議されて良いと思っている一人ですが、これはかなりの論 議を呼ぶテーマでしょう。しかしドイツのような社会奉仕、環境保護への貢献などにおいて、 義務教育を終えた若者に一定の公的義務を課す制度があってよいと考えます。 以上 ******************* 仲津英治 「地球に謙虚に」運動代表