2801.環境先進国ドイツに学ぶ



環境先進国ドイツに学ぶ
              平成19年(2007)11月4日(日)
              「地球に謙虚に」運動代表 仲津 英治

 晩秋の候と言うには、まだ緑が残っていますね。

 さて私は、セブンーイレブンみどり基金主催の環境ボランテイアリーダー
海外研修制度に応募して、無事合格、去る10月10日から18日まで、環境問
題に先進的に取組むドイツでの研修に参画できました。基金からの随行者
1名を含めて、総員8名の一行でした。

 セブンーイレブンみどりの基金は、日本全国コンビニ店で集めている
小銭の釣銭がベースを構成しています。僅かな釣銭でも12,000店ともなれ
ば、年間3億円を超える巨額になるのです。コンビニのお客様の小さな善意
の集積が支えになっている研修制度ですから、学び得たことを多くの方にお
伝えすることが大事であると思い、報告させて頂きます。

 研修内容は行政、環境NPOの活動内容と状況、資金調達方法、人材募集
など多方面にわたっており、豊富な内容をお伝えすることは、一度には
できませんので、要点を数回に分けて報告します。
                  お付き合いことをお願い致します。

■. 行政府訪問 ラインラント・ファルツ州政府の例
1.	ドイツの環境保護 
 ライン川中流のラインラント・ファルツ州は、マインツ市を州都としま
す(ドイツは35万平方■の国土が16の州に分かれており、連邦制を敷いて
いる)。同市の都心部に州環境啓蒙センター長 ローラント・ホルネ氏を
訪ねました。同センターは、州の環境、森林&消費者保護省の大臣に直属
する重要な機関です。会合は通訳の方を介して日独語で行われました。

 まずはホルネ所長の話を伝えます。

 1−1ドイツの環境問題の歴史  
 ドイツも致命的な失敗を経て、今日のドイツがあるとの話が大変印象に
残りました。

 ■1971夏 死の川となったライン
 第2次大戦後の経済発展に際してドイツは、農業廃水、家庭排水をその
まま河川に流していました。そして決定的役割を果たしたのはライン川
沿いの大手化学メーカーBASFの化学工場からの工場廃水でした。1971年
夏マインツ市を中にしてライン川の100■に渡って大量の魚の死骸が
浮かんだのです。
             (写真 1971夏死の川ライン)

 死の川となったライン川が、ドイツ政府、国民を経済成長の惰眠から覚醒
させました。母なる川ラインの死に至る病の惨状は、当時の全西ドイツに
衝撃を与え、行政、企業、人々をして環境保護へと方向転換させたのです。
昭和50年夏(1975)琵琶湖の赤潮発生を連想させます。1972-74年頃西ドイ
ツに留学していた私は、ゴミ箱には火以外は何を捨てても良いと聞かされ
ていたものです。しかしその頃から大変革が始まっていたのですね。

■ 水質汚染の改善
 ラインラント・ファルツ州でも下水道整備が始まりました。下水道整備
は市町村長の責任で、必要により罰金をかけたりもしました。工場には廃
水処理設備も義務付けられました。
 そして十数年経ちライン川の水質は、100年前の状態に戻ったのです。
  (写真 071012マインツ市の橋の水槽
      071012マインツ氏水質表示)

1−2 その他の環境汚染
 母なる川ラインへ川へのドイツ人の思いは特別なものがあり、その水
質汚染は、他の環境問題への人々の関心を高めさせました。

■ 大気汚染 
 ラインラント・ファルツ州にあったセメント工場の排気ガスと前述の
BASFの工場からの大量の汚染物質は、洗濯物を外に干せなくするほど、
大気を汚しました。大気汚染は国境を越えます。全工場の煙突にフィル
ターの取付けを義務付ける排気規制法が制定され、飛躍的な改善が実現
し始めました。

 自動車からの排気ガスも大問題ですが、企業同士の取組みでは解決さ
れ得ません。国際競争の激しい自動車に対しては、欧州連合が共通規制
を掛けることになりました。効果は出始めましたが、排ガスの総量が多
すぎます。自動車総数を制限する仕組みが必要になってきたと思われま
す。

■ ゴミ処理問題
 産業廃棄物の処理費用は、また激しい競争を展開している企業間にと
っては減らしたい経費です。産業廃棄物に対しても行政側から厳しい規
制が掛けられるようになりました。これは長い目で見ると必要な政策で
す。

 家庭ゴミも深刻な課題でした。多くの自治体では、市街地で集められ
た家庭ゴミは、森や谷へ運んでは捨てるだけという、石器時代と変わら
ぬ処理方法で処分していたのです。ゴミの中には電池など有毒物質も含
まれるものもあります。森や谷には臭気が漂い、地下水の汚染が始まり
ました。家庭用水を地下水に依存するドイツでは深刻な問題となってき
たのです。連邦政府の基本方針が出され、州毎に廃棄物処理法が施行され、
分別収集などが始まりました。
 これはライン川の瀕死の時と機を一にしています。

 リサイクルは進みましたが、生ゴミとプラチックが大問題でした。前
者は堆肥化するのに一部を除き採算が取れず、後者は再製品化が難しい
のです。今までの試行錯誤の結果、ドイツで出した結論は、両者を混ぜ
て燃やし熱源として活用するという方法です(仲津自身は疑問に思うと
ころですが)。もちろん排気ガス規制を課しています。

2.	三つのキーワード 
 過去の失敗と成功を含む試行錯誤から得た、環境問題における三つの
キーワードは次の通りです。
■	効率性
■	安定性
■	十分性

■ の効率性は、省エネ・省資源を目指すと言うことです。家庭、
オフィス、産業などありとあらゆる所において、エネルギー効率、資源
効率を上げることが重要です。

■ の安定性は、将来も持続できる社会にすると言うことです。石油
など化石燃料は、再生されず、永続性がありませんし、地球温暖化を
加速します。森林は再生しますし、エネルギー資源になります。そこ
で今植林も進めており、バイオエネルギーの普及にも力を入れていま
す。自然エネルギーを軸とする再生可能エネルギーの推進が大きなテ
ーマとなります。公共交通機関も充実させる必要性があります。

■ の十分性は、日本語で言えば「足るを知る」ということです。もっと
もっと上を求める仕組みと姿勢を改めることです。

 これら三つのキーワードを念頭に、行政、国民、産業が環境保護に
取り組めば、50年後の一人当たりエネルギー消費量は半分以下となり、
持続可能な社会を実現できる可能性があります。

 ホルネ氏は私の「地球に謙虚に」という言葉に賛同されました。国
と言葉の違いを超えて理解して頂けるモットーのようですね。

3.	自然エネルギー推進
 私は、色々お伺いした中でのラインラント・ファルツ州が力を最も
力を入れているのは自然エネルギーの推進であるとの印象を受けま
した。ソーラー発電、風力発電、バイオエネルギーなど自然エネル
ギー(再生可能エネルギー)を実践する個人、市民企業などから、
エネルギーを高めに買い入れ、7-8年で採算を採れるようにし、将来
比較的安価で安定したエネルギー供給を実現することを州の大きな
目標としているようでした。州政府の建物に省エネこそ最良のエネル
ギーの大看板が掲げられていたのです。広告規制の厳しいドイツで
は珍しいことです
        (写真 071011ラインラント省エネ標語
          省エネこそ最良のエネルギー)

4.	環境教育、人材育成の制度
 ホルネ氏によりますと、過去を知らない若者が、高い物価は環境
保護政策の結果であることも理解せず、物価が高いと文句を言うそう
です。
 彼らには、きれいな水と空気を保つ意味、意義を教えるようにしている
との事です。そして子供には分別収集を躾け、その意味と意義を教えるこ
とを基本としているとのことです。

 最後に私から伺ったのは、良心的兵役忌避制度と代替義務の成果です。
ドイツは、西ドイツ時代から、第二次欧州大戦における敗退にも関わらず、
兵役義務を男子に課しており、現在は原則18歳で9ヶ月間軍隊に入ります。
同時に良心的兵役忌避制度も設けており、以前は代替義務として1年間の
社会福祉部門(福利厚生機関など)のみを対象としていましたが、環境
問題の高まりとともに2002年連邦法の追加改正により、環境部門もその
対象に加えました。
 環境活動の充実とそれら分野での人材育成に大いにこの制度は生きてい
るようです。このことは後に続く、環境NPOを訪問したときも伺いました。   
                           以上 
==============================
 環境先進国ドイツに学ぶ その2
                  平成19年(2007)11月7日(水)
                「地球に謙虚に」運動代表 仲津 英治

 この報告は、私も参加したセブンーイレブンみどり基金によるドイツ環境
研修のレポートです。
 またこのE-Mailは、名刺交換などでご縁を頂いた方にお届けしています。
今後不必要の場合は、その旨お知らせください。勝手ながらよろしくお願い
します。 

■ 行政府訪問 マインツ市の例 
 1992年リオデジャネイロの国連環境開発会議で採択されたアジェンダ21に
基づき、ドイツは2002年4月「持続可能性国家戦略」を策定しました。これ
に続いて各州でも持続可能性戦略が策定され、州内の市町レベルでもローカ
ルアジェンダを策定しています。ローカルアジェンダで、重要な要素は市民
参画です。マインツ市での実例をまとめました。

 1.マインツ市環境情報センターと環境教育
 10月11日午後、都心にあるマインツ市環境情報センターを訪ねました。以
下出迎えてくれたマインツ市都市開発事務所のグレシュ女史とペンゼルアド
バイザーによります。

 同センターでは、今年はゴミ問題をテーマとし、何故分別収集が必要か、
その意義と、また分別収集されたものがどのように役に立っているか、環境
教育を実践しています。センターには多くの事例の展示、ポスター、分別ゴ
ミ箱などがありました。
                写真 マインツ市環境情報センター
                   環境情報センター内CD集積箱
                    (パソコンの外枠などに再利用)

 今年度の具体的な例として、子供たちには、
■	古紙の回収と再生紙の活用
■	生ゴミの回収と堆肥化、微生物の役割
■	ゴミが土に還っていく時間
などを実物体験も交えた教育を行っています。

 これらには、森林団体の協力を得て、子供たちに森林体験させ、またマイ
ンツ市自然博物館と連携して見学会などを開催しています。さらに学校の教
育カリキュラムに環境教育を組み込むことを推進しており、環境NPOの協力も
大いに得ています。

 次に重点的に取組んでいるテーマは、エネルギー問題です。
 省エネ・省資源に取組む環境NPOとタイアップして、大人、子供たちに暖
房代、電気代、水道代などを節約する方法をレクチュアーし、実践してもら
っています。

 ドイツの連邦政府の方針もあり、エネルギー対策が昨今の最重要課題とな
っており、マインツ市としても5年毎に省エネ進捗状況の報告義務も課せら
れています。これから5年間で炭酸ガスを10%削減することを目標としてお
り、市民に納得してもらい、実行してもらうため、情報提供に努めています。

本情報センターには年間3万人もの来訪者があり、成果は上がっています。
省エネ・省資源の効果は、市の広報誌(3ヶ月に1回)に掲載し、各家庭に配
布し、PRしています。子供たちにはクイズも出して賞品を取りに来させるな
どして、相乗効果をあげています。

2.マインツ市郊外 空き地の緑地化
 続いてローカルアジェンダの具体例を報告します。
 グレシュ女史が路面電車でマインツ市郊外リンデンミューヘの自然観察園
へ案内してくれました。以下は、グレシュさんとそこで待機していた「自然
に近い緑」サークルリーダーのハインツ氏等の熱心な説明をまとめたもので
す。

 マインツ市は、そのリンデンミューへの市所有地を緑地化することとし、
「自然に近い緑」を復活させる取組みをしている環境NPOに委託したのです。
そこは黄色い花を咲かせる例の北米産セイタカアワダチソウが群生していて、
違和感のある風景でした。

 17名から成る「自然に近い緑」サークルは、色んな各方面のボランテイア
ーが会員で、彼らが知恵を出し合って、地元の植物を植え、マインツ市内で
消滅した中欧の植物をなるべく自然な形で復活させる試みをトライしたので
す。2001年スターとして2004年には、200種を超える地の植物が混生する
「見せる自然植物園」ができました。整然とした幾何学模様の欧州庭園とは
随分と異なります。

 なるべく手入れをせず、剪定もしないようにしています。湿地もあって昆
虫が生息するようになり、それらを求めて小鳥が飛来、小動物が住み着くよ
うになって来ました。かつての空き地は、市民憩いの場となり、幼稚園、小
学生らの教育実践の場になっています。費用は市当局が支出したのですが、
同サークルメンバーの熱心なボランテイア活動の他、共鳴した業者の協力も
ありました。市の下水道部も河川に流す処理水を自然観察園に供給してくれ
ました。市民からの寄贈、寄付も頂きました。自然植物には無縁だった素人
もいまや専門家となり、講演、催し物に呼ばれるようになりました。
           写真 マインツ市郊外自然観察園にて
              同自然観察園ビオトープ(自然湧水による)

 私たちが訪れたとき、はるか日本から来た環境研修団体ということで地元
新聞の取材を受けました。ニュースになると、市役所にとっても「自然に近
い緑」サークルにとってもプラスになるはずです。またさりげなく報道され
ると、一般家庭でも外来種の花木の多い自分の庭を見直して、ドイツ在来種
の草木を植えようとするかも知れません。
                  
 マインツ市は、この「自然に近い緑」サークルの他、色んな環境、健康、
消費者サークルなどと連携して協同プロジェクトを遂行しているとのことで
した。

 日本人訪問者として行政の働きかけとサポートそして市民活動の大切さを
感じたしだいです。       
                               以上

==============================
 環境先進国ドイツに学ぶ その3
                    平成19年(2007)11月10日(水)
                 「地球に謙虚に」運動代表 仲津 英治
 先日、住い近くの曼荼羅山を逍遥しておりますと、小鳥の混群にであいました。
ヤマガラ、シジュウカラ、コゲラそしてメジロ達です。小鳥が枝にとまると葉が
落ちます。秋ですね。
   羽ばたきに さらりと落ちる 枝葉かな

 この報告は、私も参加したセブンーイレブンみどり基金によるドイツ環境研修
のレポートの続報です。お付き合いいただければ幸甚です。

■ 環境保護団体訪問
 1.NABU=Naturschutz Bund(ドイツ自然保護連盟)
 ドイツ自然保護連盟(略称NABU以下同じ)は、ドイツの代表的な環境保護団体
であり、長い歴史を誇っています。1899年野鳥の母とも呼ばれるリナ・ヘーンネ
夫人が興したドイツ野鳥保護連盟にBundes fur Vogelschutz (BfV)が発展してき
たものです。会員数は何と40万人、ベルリンに本部そして全国に16の各州に支部
があります。10月12日、ラインラント・ファルツ州支部を訪ねました。私の属す
る(財)日本野鳥の会は日本最大の自然保護団体と自称していますが、会員数は
5万人を切っています。40万人もの会員、果たしてどんな組織かと興味を持って
伺いました。

 マインツ市内のビルの一角に事務所があり、そこで州支部代表のジークフリー
ト・シューホ氏のお話を伺いました。以下はシューホ代表のお話を要約したもの
です。

1−1NABUの発展の歴史
 1899年、野鳥保護を主目的に約3500人の会員で設立されたドイツ野鳥保護連盟
は、急速に会員数を増やし、1939年には既に53,000人の規模に達し、同年ライン
ラント・ファルツ州支部ができています。当初から野鳥保護のため、野鳥の生息
域の土地を購入するなど活動は積極的でした。

戦後西ドイツにその組織は継承され、旧東ドイツ5州を吸収合併した1990年には、
14万人に達し、そのとき東側の要望を入れて野鳥のみならず、自然の生き物を全
て対象とする団体に変わりました。1999年には団体名をNABU=Naturschutz Bund
(ドイツ自然保護連盟)に改称しました。20005年に会員数は40万人に達し、全国
に5000箇所の用地を購入・保持し、100箇所の自然保護センターを管理運営して
います。約1500の地域グループが、地域に根ざした活動を続けています。

連盟の目的は人間と自然との共生であり、次世代へ美しい水と空気を有する生命
空間を残すことにあります。

1−2会員と組織
会員は活動会員と会費会員で構成され、活動会員は約5%しかいません。残りの95
%の会員は、自然保護に関心があり会の趣旨に賛同するが、時間的、物理的に活
動にあまり参加できないので会費を納めることにより活動に協力する、言わば会
費会員とも言うべき人たちです。(私には、活動会員はこの会費会員のお陰で、
積極的な活動もできると思えます。この点会費会員をあまり有していない日本の
NPOは財政基盤が弱いと言えましょう。会費もそう高くなく、広く賛同者を募る方
法は見習いたいものです。これらの点は後述するBUND=ドイツ環境保護連盟と共
通するものがあります。)

組織は地域グループ、州支部そしてベルリンの本部と3段階制を取っており、民
主的に選ばれた会員が、地域グループ代議員、州代議員となり、本部の会合に参
加しています。ほとんどの会員が無給でボランテイアですが、本部スタッフ、州
支部、自然保護センターには専任の有給スタッフがいます。ちなみにラインラン
ト・ファルツ州支部では、代表を含む5人が有給職員、2人がパート職員です。彼
等の俸給は、会費と追って述べる公的支援、寄付金などで支えられています。
活動会員は、野生生物の専門家ではないが、自らの職業をこなす傍ら自由意志で
環境保護、環境政策、自然観察会、環境教育、広報、啓蒙活動、動植物保護など
の活動に従事しています。
               写真 NABU事務所にて
               写真 NABUの象徴 コウノトリの剥製

2.NABUラインラント・ファルツ州支部
2−1州支部の会員と組織
NABUラインラント・ファルツ州支部の会員数は、25,000人にも上り、大きな州支
部の一つです。州域全域に60グループが存在し、現地に根ざした自然保護活動を
行っています。

州支部の事務局にはシューホ代表を含め5人の職員、2人のパートが勤務していま
す。その他に2人の自由意志環境一年研修制度による若者がいます(2002年から兵
役忌避者に課す代替義務に環境NPOなどでの1年間の研修制度が加えられた)。

シューホ代表は、常勤しており、主な役割は、催し物の企画主催、参加の他、州
政府への要求、交渉、政界、経済界等との関わりです。最近のNABUは、自然保護
活動に限らず、交通、都市計画部門にも関わり、再生可能エネルギーの推進など
活動対象を広げています。

2−2自然環境に影響を与える工事計画への意見具申
ドイツの環境保護団体の役割は、政治&産業分野に対しても大きくなりつつあり
ます。2002年 改正された連邦自然保護法とラインラント・ファルツ州自然保護
法(各州で制定されている)によって、立法と行政機関が、自然環境に影響を与
える工事計画が企画される際、資格認定された自然環境保護団体の意見を照会す
ることが謳われたのです。

具体的には、まず道路、鉄道、空港などの整備建設、都市開発、河川改修、農地
開発など工事プロジェクトの際、ラインラント・ファルツ州議会が公聴会を開催
して認定された環境保護団体が招待され、そこで積極的に意見を述べることがで
きるのです。もちろん、平素からの政党、政治家、経済界などへの働きかけを行
なっています。

続いて行政当局は、プロジェクトの計画段階において、環境保護団体も含め、利
害に関係する団体を召集する公聴会を開くことを義務付けられています。ただ、
プロジェクトの最終決定は、行政当局が行いますが、自然環境に大きな影響を与
える場合、NABUなど自然保護団体はは訴訟に持込めます。もちろん相当の資料と
裏づけ証言が要ります。

上記法律により連邦政府、もしくは州政府に認定されるためには、団体は、規約
に自然保護目的を明記すること、州全体を活動範囲(連邦なら2州以上)とするこ
と、3年以上の活動履歴があること、相当と認められる実績を有すること、非課税
認定団体、法律家の会員の在籍等の条件をクリヤーする必要性があります。認定
団体になると、連邦政府、もしくは州政府に登録され、プロジェクトの計画の段
階で、必ず公聴会に招待されます。

環境問題に関わらず、この公聴会制度は戦後民主主義国として西ドイツの発足した
当時からあります。頂いた認定団体リストには、例としてNABUのほか、10団体の名
前が挙がっており、ドイツ環境保護連盟=BUNDなど自然保護団体の他、釣りスポー
ツ連盟、狩猟団体、エコ旅行団体などもありました。
NABUは、年間700-1000件の開発プロジェクトに関わり、具体的成果として、計画
変更、縮小、中止などに持ち込んでいます。かなりの実力と発言力がないと達成
できないレベルでしょう。

2−3自らの自然保護プロジェクト
 ラインラント・ファルツ州支部では上記のような工事プロジェクトにブレーキ
をかける他、自らも自然保護プロジェクトを企画立案し、具現化しています。

 ・鷹狩り用に鷹が密猟されぬよう、巣の周りで交代看視を続けています。

 ・フクロウ用の大きな巣箱を整備(フクロウは大きな立ち木のムロに巣作り
をする。巨木が無いとフクロウは繁殖できない)を進めました。300組のフク
ロウツガイのうち、実に220のカップルが人口巣箱で雛を育てることができま
した。

 ・大きな取組みとして、シュタインビュール地区に 野生馬、野生牛の復活
と保護区作り を進めています。そこの管理運営をNABUが引き受けるのです。

 ・コウモリの保護:マイエンというところにローマ時代からの石切り場があ
り、そこの人工洞窟に10万匹ものコウモリが生息しています。石切り場全体の土
地を購入して業者を補償することにしたのです。連邦政府が60%、州政府が33%も
負担してくれることが決まったのですが、残る7%をNABUラインラント・ファル
ツ州支部で賄うよう求められました。金額にして34万Euro(5600万円)です。既
に寄付で20万Euroを集めましたが、残額はこれから4年かけて活動費の中から支
弁する積りです。

このコウモリの保護プロジェクトは、1グループの提案を、州支部としてまとめ、
連邦政府、州政府に歴史的遺産の保護の意味も加味してプレゼンテーションし、
実現にこぎつけた最近のものです。

2−4事業会社作り
 NABUは、営利事業を行うことはできませんが、自ら会社を興して事業を営んで
いる事例があります。在来種のリンゴで商品価値が低いが、昆虫類がそのリンゴ
と樹木を好み、結果野鳥などが多数生息できるリンゴの林があるのです。そのま
まにしておくと、農家は商品価値の高いリンゴの木か、他の果樹に切り替えてし
まう可能性があります。そこで在来リンゴを市価の3倍で高値買取し、ジュース
にして販売する会社を立ち上げたのです。この事業により野鳥の豊富なリンゴ園
が守られているのです。
 このリンゴジュースは我々研修団一同プレゼントされ、日本でおいしく賞味し
ました。 
                 写真 在来種リンゴの実
                 写真 NABUマーク入りリンゴジュース

2−5日常活動(地区毎 南部、ラインヘッセン地区など)と年間計画
会員、一般者にも参加を案内する催しは、60グループを地区4箇所に分けて、まと
め、一般に公開して参加者を募っています。月例回など定期会合、探鳥会、自然
観察会、野生生物観察会、草木見学会、自然講習会、旅行会などの通年計画が実
に緻密に組まれています。

手元にある2007年の年間計画の折りたたみパンフを見ますと、日時 集合名所 
担当者、照会先など詳細かつコンパクトに纏められています。台湾の野鳥の会で
も同様の緻密な案内パンフを見ましたが、3ヶ月単位でした。ホームページにも
同様に詳細な催し案内が掲載されています。
大変な組織力を持っているなと、感じ入ったしだいです。パンフレットには入会・
寄付案内も記され、また地元の企業広告もあります。

 そしてNAJU(Naturschtz Jugend)という青年組織が、NABU内にあり、積極的
に活動しているようです。リーダーの養成など人材育成の場にもなっています。
その一人ゲースさん等から現場での活動振りを伺う事ができました。
                         この項終わり

*******************
仲津英治
「地球に謙虚に」運動代表


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