2788.江戸の思想4(宮崎安貞)



江戸時代は、農業技術の発展と農産物の商品化で繁栄した。Fより

私の家の歴史を見ると、祖先は小倉藩の郷士であったようだ。細川
さんの祖先の話が出てくる。細川家は熊本に転赴したが、Fの祖先
は郷士のために、そのまま小倉にいて、明治維新を迎える。

江戸の農学者の多くも、武士から郷士になった人達である。江戸初
期、世の中が平和になり、武士の大リストラで不本意ながら農業を
やる事となった人で、自分は武士であるという誇りから農業指導を
しなければならないといった使命感と、世に名を残したいという悲
願から農書を著したのであろう。

宮崎安貞は、元和9年安芸の国広島に生まれた。父は、宮崎儀右ェ
門という浅野藩主で、200石食み山林奉公を勤め、安貞はその次男で
、25才のとき、福岡藩主黒田忠之に200石で召し抱えられたが、やが
て官を辞し、九州を始め山陽道、近畿、伊勢、紀州の諸国を巡歴し
、各地の篤農家を訪ね、その経験を聞いて種芸を学び農の集成と中
国の農業書を読んで研究を積んだ。福岡の志摩郡女原に帰ってから
は、一農民となって自ら鋤鍬をとり、周りの人々と農事改良と、農
民生活の向上に心魂を傾けた。

また、殖産事業にも力を尽くし、私財をなげうって荒地を開墾し、
風防の植林や貯水池づくりに努めました。宮崎開(びらき)と呼ば
れている6.5ヘクタール余の田畑はその遺業ですが、元禄10年7月23
日、全書の発行を待たず75才で生涯を閉じた。

そして、当時は本草学も発展していて、その応用先として農業を目
指していた。この第一人者が貝原益軒であり、当時の本草学を中心
としたベストセラー作家でもあった。

この貝原益軒と、宮崎安貞は62才のときに再び黒田藩に迎えられ、
親交を得た。そして、宮崎の農業全書を貝原益軒が見て版元に売り
込んだ。予想通り大ベストセラーになり、江戸時代に重版を繰り返
していった。この全書を水戸藩主徳川光圀も読破し、農事に欠くこ
とのできない農書だと激賞したという。

また、この『農業全書』を読んで啓発され地方の篤農家が、自分の
農業の方法を現した。それが越前での「農事覚書」や「耕作蒔種令
時録」である。「耕作蒔種令時録」が書かれた江戸末期になれば、
外にも様々な農書が著されている。

このように「農業全書」の価値は、啓発されて農業技術を研究する
人たちが輩出したトリガになっていることである。その基礎的な技
術は本草学に求められるので、本草学の発展が、農業技術の発展に
繋がっている。貝原益軒と宮崎安貞の関係がそれを物語っている。

江戸時代の三大農学者とは農業全書を著した宮崎安貞、多くの実地
的な書を著した大蔵永常、異端といってもいい人物佐藤信淵である。
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宮崎安貞 江戸前・中期の農学者
−日本農学の祖−         井 上   忠
http://www.lib.fukuoka-u.ac.jp/annai/kanpo/no017/1703.html

戦後の急激な化学肥料使用の結果は、当然の結果として随所に食品
公害をもたらすに至った。ここに各地で自然食品への復帰運動がお
こると同時に、江戸時代の農書を再検討しその遺産を吸収しようと
いう運動も生まれ、現代語訳による「日本農書全集」(社団法人、
農山漁村文化協会編)が企画・刊行され始めた。元禄期の筑前で完
成した宮崎安貞の 『農薬全書』 も本双書に加えられ、上下2巻に分
冊され、目下鋭意成稿中と聞く。
 次に 『農業全書』 が大成されるまでのプロセスと、その意義に
ついて考えてみよう。

 後期封建社会といわれる江戸時代もその初期は全くの農業社会で
、農民はきびしい収奪の対象とされていた。本書出現の前に数種の
農書も出されたが、それは主として支配者側が農民統治策をのべた
農政書に類するものであった。元禄期には貨幣経済の農村浸潤も次
第に著しく、農民側からも技術的改良や商品作物の栽培法を求める
声がたかまってくる。こうした要求に応じたのが本書である。

 本書の著者が安芸国広島藩の山林奉行をつとめる200石取りの武
士の家に生れた人であることは、上述の社会情勢からみて無理では
ない。父の代に禄を失い浪人生活をするが、その間彼自らも農業に
従ったのではあるまいか。25才の時につてを求めて福岡藩に仕え
200石を得たが、どうした理由か数年後には辞職している。本書自
序によれば各地(畿内・中国・九州)を巡遊してその地方の農業を
視察し、老農に尋ね、種芸の方法を研究したという。そして糸島郡
周船寺村女原字小松原(現在福岡市に編入)に腰をすえて自ら農業
に専心し、村人の指導や殖産興業に努めた。貞享4(1687)年62才の
折に再び仕えて20石6人扶持を得ている、土着の儘の勤務であろう。
彼のこの地での業績は「安貞開き」と称する4町余の新田開発や防
風林として遺っているばかりでなく、その遺徳を慕う人々により毎
年「安貞さん祭り」が行なわれていると聞く。

 当時の知識階級である武士出身の彼の眼からみれば、農民はその
勤勉さにも係らず収穫がそれに伴わない場合がしばしばあった。
まず優良種の多収穫には最も合理的な方法が選ばれねばならぬのに
、はげしい労働に疲れた農民にはそれだけの頭を働かせる余裕さえ
乏しい。そこで彼の表現に従うと「其術(技術)委しからずして其
法(方法)にたがふことのみ多し」という状態の農民に「義理」
(当時の芝居や浄瑠璃のテーマであった義理人情といった意味での
封建道徳ではない。これはもっと根源的な人間と自然との関係、即
ち人間が自然に働きかける方法)を教えよう。農民はその技術を農
業上に採用すればまず一応の成功は疑いなしという方法を樹立しよ
うと計ったのである。また保守的な農民が旧来の方法になずんで彼
の指導を無視しないよう次のように忠告している。即ち技術は奇術
・魔術より遥かに平易で万人の味方なのである。

「是皆平生、農家のいとなむわざにして、よの常のことなれば、彼
の放下(田楽から転化した曲芸)・幻術の雑事、これを習ふこと久
うして後、其事熟し、奇異の巧をなして、人の目を驚す類よりは、
其効を得る事、甚以てたやすかるべし。」
 本書には土・肥料・種子などにつき述べた総論に続いて150種に
わたる作物および家畜の栽培・飼育法が説かれている。内容を窺う
と表現は古いが蓄積された経験は力強く、たとえば土地を耕し返す
ことにより作物が空気中の窒素を吸って根の養分とすることは「凡
そ土は転じ易ふれば陽気多く、又執滞すれば陰気多し」とのべられ
る。とくに科学的な内容をもっているのは糞についての記述で、彼
は地味を知るために土塊を口に含んで味わっていたというエピソー
ドさえある。

 ところで地もとにおける彼の資料は甚だ乏しいが、先年筆者が貝
原益軒の資料を調査した際に若干でてきた。
本書の成立、出版に至る各段階、即ち(1)先進地区の視察、(2)中
国農書を参考にする、(3)1、2での収得知識に基ずき実地栽培して
取捨選択する、(4)10巻というこの大部の原稿の出版屋を見つけ
ること。このどの段階にも益軒が関係しており、とくに2、4では大
きい。安貞が益軒という年下ではあるが、よい指導者をもったこと
は甚だ幸いしたわけである。安貞は本書の完全出版をまたず元禄10
年7月末に75才で歿するが、その10日ほど前に3里をへだてた益軒宅
をわざわざ訪ねていることが注目される。

 本書を出版したのは京都の新興出版柳枝軒こと茨木屋多左ヱ門で
あった。その後裔による研究では、本書は初版初刷より木版磨滅ご
とに再版し、版権も移動したが、江戸時代を通じて
総計2,400〜3,600部以上を出したと推測される。これが当時のベ
ストセラーの冊数であり、且つ本書は明治以後も出版され郷土が生
んだ最大のロングセラーでもあった。
(人文学部 教授) 
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農業全書
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

農業全書(のうぎょうぜんしょ)は、元禄10年(1697年)刊行され
た農書。出版されたものとしては日本最古の農書である。全11巻あ
り、1巻から10巻は、元福岡藩士の宮崎安貞著。11巻は貝原益軒の兄
貝原楽軒著で付録である。序文は貝原益軒。刊行には貝原一族が深
く関わっていた。明治に至るまで何度も刊行され、多くの読者を得
た。水戸の徳川光圀も、「これ人の世に一日もこれ無かるべからざ
るの書なり」と、絶賛し、八代将軍徳川吉宗も座右の書に加えたほ
どであった。日本の農業に与えた影響は計り知れず、以後、本書に
影響・刺激を受けて執筆された農書は数多い。また、明治期にも出
版されている。

1.概要
最も体系的な農書という評価を得ている。明の『農政全書』に多く
知識を得ながらも、日本の事情に合うように執筆されている。自ら
の長年にわたる体験や見聞をもとにして、農業の仕事や作物の栽培
法などについて詳しく述べている。ただし、近畿から西日本の知識
に偏っている。

2.目次
農事総論  90条 
五穀之類  99種 
菜之類   96種 
菜之類   923種 
山野菜之類 98種 
山草之類  91種 
四木之類  94種 
菓木之類  97種 
諸木之類  95種 
生類養法  93種 薬種類 922種 
付録 
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日本の農書
http://www1.cds.ne.jp/~room/muryouan/ten/ten_kongetunohonn_2007_12.html

農業全書    著者:宮崎安貞
菜譜      著者:貝原益軒
農業類語    著者:陶山吶庵
田法記     著者:岸崎佐久治
隣民撫育法   著者:西山六兵衛
地方竹馬集   著者:平岡直之?
若林農書    著者:若林宗氏・利朝
才蔵記     著者:大畑才蔵
民間省要    著者:田中丘隅
百姓袋     著者:西川如見
勧農固本録   著者:万尾時春
田園類説    著者:小宮山昌世
農家貫行    著者:蓑笠之助
県令須知    著者:谷本教
地方落穂集   著者:武陽隠士泰路
農隙余談    著者:利根川教豊
地方凡例録   著者:大石久敬



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