2786.「槍の穂先論」と「国連錦の御旗論」



■「槍の穂先論」と「国連錦の御旗論」 −アフガンテロ対策に於ける国益と大義−

◆テロ新法と国際貢献◆
11月のテロ対策特措法の期限切れに伴うインド洋沖給油活動中止・継続を巡り、与
野党の攻防が激しくなっている。

政府与党は、新法を通しOEF(不朽の自由作戦)に参加する多国籍艦船への海上自
衛隊による給油活動を、中断を挟みながらも継続したい考えだ。

一方、小沢民主党代表は、給油活動は集団自衛権の発動に該当し憲法違反のため中止
とし、代わりにISAF(国際治安支援部隊)への参加を含む国際貢献を模索してい
るが、国連の要請決議があれば武力行使部隊の派遣も可能とする小沢理論について
は、民主党内からも躊躇する声が強く、具体的な対案としては民生支援中心の案に落
ち着きそうである。

解散総選挙を睨みながら、与野党の世論の支持獲得競争と衆参両院を跨ぐ駆け引きが
行われどのような決着になるか予断を許さないが、外交戦略としては、そういう生臭
い政局を離れた国際貢献を巡る本質の議論が必要である。

先ず、外交とは「長期的な国益の追求」であるが、その実現のためには「国際的な大
義」を背景に伴わなければならない。さもなくば短期的な国益は得られるかもしれな
いが継続的足り得ない。

国際貢献については、民生支援をその内容の中心とするも、国際情勢の一層の流動化
と我が国の国力を考えれば、原則的態度として何らかの形での危険を伴う自衛隊等の
出動を最初から全くの禁じ手にして拒否する事は国際社会の中で許されないだろう。

国際貢献を巡る本質的な論点は、自民党政権が従来から主張する後方支援は憲法の禁
じる集団的自衛権の行使に当たらないとする「槍の穂先論」と小沢氏の主張する国連
の要請決議があれば憲法に抵触せずに武力行使も可能とする「国連錦の御旗論」の対
立である。

「国際的な大義」とは、概ね地球全体の繁栄と調和の実現である事は異論のない所で
あろうが、その具体的な内容は当然ながら俄かには断じ難い。

また「長期的な国益」については、今後の国際情勢が大きく影響する。

今の我が国の議論に一番欠けている物は、国際情勢の分析とそのオプションに基づく
戦略決定工程である。

◆今後の国際情勢をどう見るか◆
我が国の「長期的な国益」を左右する最大の要素は、@米国のパワーが今後どうなる
のか、Aそれに伴い米国がどのような行動を取るかであろう。

筆者は、相対的に米国経済が衰退するのは避けられないと見る。

繁栄期を経て生活水準と賃金水準が上がり、EUや勃興する中国、アジア諸国との競
争力を徐々に失って行くと見るのは自然な見方だろう。

米国が一時のITの様に革新的な技術を編み出し、世界経済をリードするという考え
方も成り立つが新規分野で一人勝ちを長期的に維持し、かつ連発させる事は難しい。

これに対応して米国が世界経済を急激に縮小させないように緩やかにドルの為替レー
トを下げて行けば米国経済は軟着陸して行く。

しかしそれを続ければ、一旦世界最高に上がった生活水準を大きく切り下げ続ける事
になり米国の有権者がすんなり納得する事は難しいだろう。

また、大幅な財政赤字を国債に依存しているため、ドルの為替レートを切り下げ続け
て行けば何れ引き受け手が居なくなり、ドル暴落の恐れもある。



勢い、米国指導層が突出した軍事力を背景に石油等の資源利権を確保し、ドル石油決
済体制の維持を図ろうとするのは自然な流れだ。

イラク戦争に引き続き、イラン核施設を自ら攻撃するかイスラエルによる攻撃を支持
し中東全体の石油を確保、一方北朝鮮と融和し中国の押さえの一つとし、ロシアと中
国の離反を計りながら中央アジアの石油を押さえ、ドル石油決済体制の維持を実現す
る。

例えばこんなシナリオを米国指導層のコアな部分が考えていたとしても不思議はない
だろう。

現在、米国ではイラク厭戦の気分が強いが、多くは米兵の犠牲者が数千人になり未だ
増加し続けている事と、莫大な戦費が使われた上に国際世論により石油利権が制限さ
れた事によるものであり、例えばイラクの子供たちが空爆とテロの犠牲になった事に
よる要素は大きくない。

この事は、例えば地上軍を派遣しないイラン空爆ならその開戦理由次第では米国世論
は賛成する可能性が強い事を示す。

これは、共和党政権から民主党政権に移っても同じである。

ヒラリー・クリントンが、イランの核開発を止めさせるためには、あらゆる手段を除
外しないと発言している事にも表れている。

◆日本の選択◆
筆者は難しいと思うが、もちろん、米国が国民の生活水準を落としながら緩やかに覇
権国家の地位を退位し、平和裏に多極化世界が実現するとの見方も成り立つ。

「槍の穂先論」は、ガラス細工の様な部分はあるが、世界情勢が比較的安定していれ
ばコストパフォーマンスの点でメリットがあるだろう。

一方、「国連錦の御旗論」は、その硬直さ故に国際社会への説明と他の手段での貢献
を欠くと孤立する危険があるが、国際情勢が荒れた時、特に米国が単独または少数の
有志同盟だけで断続的に軍事行動を起こす場合には、他に軍事同盟を持たない我が国
が従属せずに是々非々を持って対応するための一つの論拠に成り得る。

繰返すが、外交は国際的な大義を伴った長期的な国益の追求である。

今回のアフガンテロ対策を機に、国際貢献の原則を打ち立てるべきである。

何れを選ぶにせよ、今後の国際情勢への展望を欠いては国家の進路を誤る。
                                   以上

佐藤 鴻全


コラム目次に戻る
トップページに戻る