2780.仏教思想史8



日本文化にどう仏教思想が影響しているかを検討しよう。 Fより

江戸時代に古事記と万葉集を本居宣長が再発見して、古代日本の心
を発見する。これが国学である。

しかし、それまでは中国文化に影響された日本書紀と古今集が日本
の知識人の拠り所であった。しかし、古事記の世界と日本書記の世
界との間には、大きな精神的な断絶のようなものがある。

もちろん、平安朝の宮廷文化から江戸時代の武士文化までは、日本
書紀の世界、中国文化に影響された世界観が日本の知識人の世界観
であった。

宮廷文化に影響された仏教でも、奈良仏教と平安仏教は違うし、鎌
倉仏教以後は民衆に向かうが、このきっかけが平安仏教である。

平安密教は、役行者小角などの呪術的な山岳信仰と結びついて土着
化する。平安仏教・密教の代表的な寺院が比叡山や高野山など山中
にある意味だ。

特に空海の密教(真言宗)は、修行としている内面的な体験を通じ
て、自然と人間が一体化するという密教的な自然観を作っている。
この自然観は、呪術的な山岳信仰など日本人の伝統的な自然観を理
論化したと見る。これと同じように空海は修行と呪術と瞑想の体験
を一体化して理論化した趣きがある。

そして、呪術的な土着信仰と結びつかなかった中国では密教は廃れ
ることになる。土着の呪術と結びついたのが道教であったために、
密教的な要素を道教が吸収して、仙人道になったようだ。

瞑想と言うと坐禅と見るが、『摩訶止観』では、瞑想法には「常坐
三昧」と「常行三昧」の2つに大別できるとある。「常坐三昧」は
坐禅であるが、「常行三昧」は「運動しつづける瞑想法」だ。

天台宗の密教化は第3代座主・円仁で、比叡山に常行三昧堂を建立
した。その弟子の相応が有名な千日回峯行を創始した。回峯行とは
、1年に百日間、毎日数十キロの山中を歩く修行法で、期間は千日
と定めている。チベット仏教の五体投地礼も常行三昧である。

常行三昧とは、心の中で仏を念じつづけながら、同じ単調な動作を
一定のリズムで繰り返し、心身が疲れ果てるまでつづける運動的瞑
想法である。

私も日曜日などに、数時間歩いている。坐禅を自分一人でおこなう
と長時間雑念に邪魔されて定の状態に行けないが、常行三昧では
その雑念が少なく直ぐに定の状態になるように感じる。

この運動的瞑想法が、日本の芸道、特に武道の考え方に大きな影響
を与えた。身体運動のくりかえしを手段とした心の訓練として武道
を捉えないと、精神的な側面を説明できない。武道が精神主義的な
雰囲気をもつ理由でもある。

武士が支配階級であるために、貴族的な自己犠牲の精神である武士
の精神的な素養を武道の訓練で行ったようである。この基礎は密教
理論から出ている。武道の精神的な意味は禅からではない。
==============================
摩訶止観考(現時点、参照HPなし)

『天台小止観』の執筆者=淨弁(老僧)陳鍼(チェン・チェン)と
いう武将が、(淨弁が届けてくれた)巻物を読むという形式。
この陳鍼の弟が智。

感情を波だたせず、思考力を正しく働かせる法

第1章 練習を始める前の用意
第2章 体のそとから感情を波だたせるもの
第3章 心のなかから感情を波だたせるもの
第4章 肉体と精神の調節法
第5章 最後までやりぬく手段
第6章 自他の区別がなくなるまで
第7章 微笑みの芽が伸びはじめた現われ
第8章 ジャマするものは悪魔と思え
第9章 どんな病気もこわくない
第10章 今すぐあなたが決心をすること

<思考力>と<感情>との関係は、騎手と馬のようなものだ。
この二つは、完全に調節がとれていなければならない。

○感情を波だたせず、思考力を正しく働かせる法 
第1章 練習を始める前の用意

五つの用意
1.いつもニコニコ
2.キモノとタベモノに対して感謝の心を
3.なるべく感情を波だたせないような生活の場を
4.今までのモノの考え方を白紙にかえそう
5.純粋な人間関係だけを

○感情を波だたせず、思考力を正しく働かせる法
第2章 体のそとから感情を波だたせるもの

<物質的な欲>をすてる
第一、<見たい欲>がおこったとき
第二、<効きたい欲>がおこったとき
第三、<ニオイをかぎたい欲>がおこったとき……徒然草にある
第四、<味わいたい欲>がおこったとき
第五、<さわりたい欲>がおこったとき

世間の人間の悩みの多くは、何かが欲しいためのイライラか、何か
を失いたくないためのビクビクか、何かを失ったためのクヨクヨな
のだ。

○感情を波だたせず、思考力を正しく働かせる法 
第3章 心のなかから感情を波だたせるもの

第一、欲望
第二、怒り     ……怒りは敵と思え(とうしょうぐん遺勲)
     ……怒りが始まったら、思考力が正しく働かないだろう
第三、ぼんやり
第四、フラフラとクヨクヨ
第五、疑い

○感情を波だたせず、思考力を正しく働かせる法 
第4章 肉体と精神の調節法

第一、飲食物の調節法
第二、睡眠の調節法
第三、肉体の調節法
第四、呼吸の調節法
第五、心の調節法

呼吸のしかたには四種類ある。
 風のような呼吸 気が散りやすい
 あえぐような呼吸 憂鬱になる
 勢いのはげしい呼吸 疲れやすい
 静かな呼吸 これが正しい呼吸、上の3つはよくない。

 腹の底に注意をあつめ、体全体をゆっくりとらくにし、空気が全
 身の毛穴から自由自在に出入りしているような気持ちになること。

○感情を波だたせず、思考力を正しく働かせる法 
第5章 最後までやりぬく手段

第一、目標をはっきりとたてる
 人生最高の幸福を自分が掴み、全人類に一人残らず掴ませたい。
 願望をもつことが、すべての根本。
第二、目標に到達するまでは、途中で少しも休まない
第三、朝から晩まで、目標に向かって邁進すること以外は何も考え
   ない
第四、あらん限りの知恵をしぼって、目標に到達する方法をねりに
   ねること
   世の中の地位も名誉も財産も、手に入るまではイライラする
   し、手に入れば失うまいとビクビクして、失えばいつまでも
   クヨクヨする。だから、そんなものは苦しみばかりで、実が
   ないのだ。
第五、目標に到達する方法が決まったら、一心にただそればかりを
   実行して、わき道には一切入らないこと。

○感情を波だたせず、思考力を正しく働かせる法 
第6章 自他の区別がなくなるまで

第一、静かな所で一定の時間、じっと座って練習をする方法
第二、いつでも、どこでも、感情をしずめ、思考力を正しく働かせ
   る練習法
 <どこでも>に六種類
 歩いているとき、立ち止まっているとき、じっと座っているとき
、横になっているとき、何か仕事をしているとき、話をしているとき。
 <いつでも>に六種類
 何かを目で見ているとき、何かを耳で聞いているとき、何かを鼻
 でかいでいるとき、何かを舌で味わっているとき、何かを体が感
 じているとき、何かを心で思っているとき

○感情を波だたせず、思考力を正しく働かせる法 
第7章 微笑みの芽が伸びはじめた現われ

第一、本当の意味での<微笑みの芽が伸び始めた現われ>とは何か?
 死後のありさまの想像のしかた(九つの場面)
(1) 膨(ふく)れあがった様子
(2) 皮膚や内臓が腐って崩れ始める様子
(3) それが破れて血膿(ちうみ)が流れ出す様子
(4) 全身が膿爛(うみただ)れた様子
(5) 風に吹かれ日にさらされて皮膚が変色し青黒くなった様子
(6) ウジ虫がわき鳥や獣(けもの)に食い散らされた様子
(7) 手足や首が胴体から離れて散らばった様子
(8) 白骨になった様子
(9) 焼かれて煙になり灰になって終わった様子
     ……鴨長明の『発心集』にあった。僧都が美しい女性を
       しばらく眺める話。
第二、本物と偽物の見分け方
 偽物を見破る法
 本物を見定める法
第三、折角の<微笑みの芽が伸び始めた現れ>を、<感情を波立た
   せず、思考力を正しく働かせる練習>によって、さらに力強
   く伸ばしていくこと。

○感情を波だたせず、思考力を正しく働かせる法 
第8章 ジャマするものは悪魔と思え

悪魔の仕業(四種類)
第一、人間を精神的に苦しめ、悩ます。貪(むさぼ)り、怒り、
   愚かさ、疑いなど。
第二、生きているものが、死と闘って生き延びようとするもがき。
第三、死そのもの。
第四、修行を妨げるための悪魔の仕業
 「あれが欲しい、これが欲しいは、悪魔の先陣」「ビクビク、ク
  ヨクヨは第二軍」「食べたい、飲みたいは第三軍」「惚れた、
  はれたは第四軍」「ぼやぼや居眠り第五軍」「恐怖が第六」
 「疑い第七」「怒り第八」「カラ宣伝が第九」「うぬぼれと人を
  見下す心が第十軍」

悪魔を追い払う方法二つ
一つ、感情を波立たせないように努めて追い払う方法
二つ、思考力を正しく働かせて追い払う方法

○感情を波だたせず、思考力を正しく働かせる法 
第9章 どんな病気もこわくない

第一、病気の原因のつかみ方
 病気の原因は二つ
(1) 人間が生きるためにとっている栄養と、人間を構成している
  組織、つまり熱(火)と、水分と、空気と、、土壌(肉や骨)
  の組み合わせが調和していない。
(2) 人間が生きるために働いているいろいろな器官、つまり内臓
  などが故障していること

 病気の原因は二つ(重出)
(1) 外からの原因。何かの食べ過ぎか、飲み過ぎか、食べたりない
  か、飲み足りない場合。あるいは、寒さや、暑さや、雨や風や
  、湿気や、かわきすぎに不注意だった場合。
(2) 内からの原因。怒ったり、悲しんだり、恐れたり、何かに執着
  してワクワクしたりして、感情が波立ってしまう場合。

 病気の原因(さらに別な見方)
(1) 栄養の不調和や器官の故障
(2) 自分の周囲の環境に対して適応できない場合
(3) 本人の責任でない事故や遺伝のための肉体的な故障

第二、病気の根本的な治療方法
 言われていることいくつかを次に。
「感情を絶対に波立たせず、落ち着いて横になっておれば、大抵の
 病気は自然になおる」
「ヘソの下、数センチのところを印度ではウタナと言い、中国では
 丹田という。丹田のあたりばかりに注意して、病気のことを一切
 考えないでいると、大抵の病気は自然になおる」
「動いていようが、じっとしていようが、寝ていようが、いつも足
 の裏ばかり注意を集中して、ほかのことを一切考えないようにし
 ていると、大抵の病気は自然になおる」
この足の裏は、===いつも「栄養が足りないのではあるまいか?
 」「不調和なのではあるまいか?」「体のありこちの器官が故障
 しているのではあるまいか?」などと気にしすぎるのも病気のも
 とだ。そんな場合には「自分の足の裏に注意を集めれば、他のこ
 とを気にしなくなって病気もなおってしまう。
「自分の心を偏見のない宇宙の<正しい心>と一致させて、自他の
 区別をなくしてしまえば、自分一人が病気で苦しんでいるという
 気持ちもなくなる。そうして、感情を波立たせずに静かにしてお
 れば、大抵の病気は自然になおる」
つまり、心を朗らかにして「病気も、また楽し」という気分になれ
 ば、大抵の病気は治るものだ。
なにごとにも執着しないということが大切。

六通りの息の吐き方
1 フウッと唇を丸くして、熱い湯を吹いてさますときのような息
  の吐き方
2 フームと口を軽く結んで、鼻から出すふつうの息の吐き方
3 フフフフと口をあまり開けずに、クスクス笑いのときのような
  息の吐き方
4 アハハと口を開いて、大笑いをするときのような強い息の吐き方
5 ハーと唇の力を抜き、寒いときに手に息を吐きかけて、暖める
  ときのような静かな息の吐き方
6 ヒーと空気が歯にぶつかって軽く音になるような息の吐き方

十二種類の呼吸の仕方を活用すると大抵の病気は治る
1 うわずったような気持ちでする呼吸(気持ちが重苦しく、沈み
  がちのとき)
2 引き下げるような気持ちでする呼吸(何かが気になって仕方の
  ないとき)
3 腹を一杯にするような==(やせ衰えたとき)
4 少し咳きこむような==(体がむくんで、腹がはっているとき)
5 ゆっくりと力を抜いた==(疲れ切ったとき)
6 沈みがちな==(張り切りすぎて、感情がたかぶっているとき)
7 あたたかい==(肌寒いとき)
8 冷ややかな==(暑苦しいとき)
9 突き進むような==(あちこちが詰まって、うまく循環しない
  とき)
10 じっと押さえつけるような==(体が引きつって、ブルブル
   ふるえるようなとき)
11 穏やかな==(体全体の調子が、何となく狂っているように
   感じるとき)
12 補い助けるような==(体全体を丈夫にするため)
前の六つは生理的な現象、後の六つは心理的な呼吸法

「仮に心の中で、ある状態を想像することによって病気を治すこと
 ができる」 例えば、寒いときに体の中に火が燃えていると想像
 して、寒さを気にしないように努めるのと似ている。「それはみ
 な自分の心の持ち方一つ」と気が付けば、どんな病気でも自然に
 なおる。

「徹底的に感情を波立たせないようにして、思考力を正しく働かせ
 れば、この世の中に<病気>などというものは存在しない」ただ
 、あるのは栄養の不調和や、体温や血液や呼吸や肉体の一部分の
 変調か、そうでなければ部分的な器官の故障か、あるいは精神的
 な苦しみや悩みだけなのだ。

十ヵ条
1 信じること
2 実行すること
3 徹底的に努力すること
4 いつも、そのことばかり考えること
5 病気の原因をはっきりつかむこと
6 あらゆる手段を工夫すること
7 飽きずに続けること
8 治療法の効き目をよく見定めること
9 あせって無理をしないこと
10 無駄口をきかぬこと


○感情を波だたせず、思考力を正しく働かせる法 
第10章 今すぐあなたが決心をすること


『摩訶止観』の内容(原本の目次)

(巻第一の上)
序  章
 第一節 序  分
  第一項 縁  起
  第二項 三種の止観
 第二節 繰  叙
第一章 止観の大意
 第一節 発  心
(巻第一の下)
(巻第二の上)
 第二節 修  行
  第一項 常坐三昧
  第二項 常行三昧
  第三項 半行半坐三昧
   一 方等三昧
   二 法華三昧
  第四項 非行非坐三昧
(巻第二の下)
 第三節 果  報
 第四節 裂くべき網
 第五節 帰すべき処
(巻第三の上)
第二章 止観の名義
第三章 止観の体相
(巻第三の下)
第四章 止観に一切の法を摂す
第五章 止観に偏と円あり
(巻第四の上)
第六章 止観のための前方便
 第一節 五縁を具えよ
  第一項 持戒清浄なれ
  第二項 衣食を具足せよ
(巻第四の下)
  第三項 静処に閑居せよ
  第四項 諸の縁務を息めよ
  第五項 善知識に近づけ
 第二節 五欲を呵せ
 第三節 五蓋を棄てよ
 第四節 五事を調えよ
 第五節 五行を行ぜよ
(巻第五の上)
第七章 正しく止観を修す
 第一節 陰入を観ぜよ
  第一項 坐禅のなかに修す
   一 不可思議の境を観ぜよ
   二 慈悲の心を起せ
   三 善く巧みに心を安んぜよ
(巻第五の下)
   四 法を破すること遍ねかれ
(おわり)


コラム目次に戻る
トップページに戻る