2774.仏教思想史7



仏教が確立した心理哲学は現在心理学に継続されている。 Fより

人がどう感じるか、その人間が平和を獲得するにはどうすればいい
のかをインド仏教は追い求めたが、残念ながら、その追求は中国で
も日本でも継続できなかった。仏教が心理哲学としての発展をしな
くなった。

このインドの仏教が求めていた心理哲学の復活は、欧州の論理主義
的な心理学を待つことになる。論理的な思考は、残念ながらアーリ
ア人が得意なのかもしれない。インド人も欧州人もアーリア人の末
裔である。

1.欧米の心理学史
欧州の心理哲学は、デカルトの物心二元論、カントの認識論、ヘーゲ
ルの観念論と発展して、16世紀後半、イギリスでF.ベーコンによ
る経験主義哲学の影響を受け、J.ロックは経験心理学を提唱した。
そして、ロックの考えを修正するかたちで、D.ヒューム、J.ミル
、H.スペンサーらにより連合心理学が確立する。

生理学の発展として、F.ガルやC.ベルやP.フルーランらによる大
脳生理学や解剖学、J.ミューラーによる特殊神経エネルギー説など
が出て、それに基づいた実験心理学を1879年ヴントが確立する。ヴ
ントは心理現象を実験的に捉えるために、意識を要素に分解し、操
作し(内観させ)、分析するという方法をとったことから、その心
理学には、意識心理学、内観心理学、要素心理学、構成主義心理学
など様々な呼称がついた。

ヴントとその弟子のE.ティチナーによる構成主義心理学に反論する
立場の心理学がJ.デューイやJ.R.エンジェルらによる、いわゆる
シカゴ学派の機能主義心理学である。その後、シカゴ学派の一人エ
ンジェルの教え子、J.B.ワトソンは、行動主義を提唱した。

別の方面から来た精神分析学は、神経科医S.フロイトによって1910
年に提唱された。精神疾患の疾病原因から探索的に人間の心を理論
化したものだった。

精神分析学の特徴は、無意識概念を体系的に理論化したこと、発達
論的立場を導入したこと、精神現象を決定論的、機械論的に捉えた
こと、性的エネルギーが人間の心の原動力になっていると考えたこ
となどが挙げられる。A.アドラーやC.G.ユングは、無意識概念で
フロイトと意気投合し、共に研究を進めますが後に離反し、それぞ
れ独自の理論を構築していった。

1960年代後半、それまでの知覚・感覚心理学に代わり認知心理
学が台頭してきたり、行動主義が退潮し、トールマンらの認知モデ
ルから見た行動科学が評価されるようになったりと、いわゆる認知
革命が起こった。

1960年代から70年代にかけてのアメリカで、主に臨床心理学
分野において隆盛を迎えた心理学が人間性心理学である。現在では
、A.H.マズローがその租であると広く認識されている。

2.仏教の影響
仏教心理哲学が影響を与えたのは、ヴントの構成主義心理学とフロ
イトの精神分析学である。精神分析学の特徴は、無意識概念を体系
的に理論化したとあるが、その方法は禅のような内観法しかないは
ずである。

事実、1939年に、ユングが禅の重要性を認識し、鈴木大拙の
『禅仏教入門』の序文において次のように述べている。「これは『
悟りの内容』について多くをわれわれに教えてくれる。悟りの生じ
ることは自我という形で限定された意識による、非自我としての自
己へのブレイクスルーとして解釈され、また公式化されると。

無意識を最初に理論化したのは、仏教の阿頼耶識であり、それを元
に唯識という哲学ができたのである。仏教思想史2で記述したよう
に、世親が世界的な第一提唱者の位置になければならないはずであ
る。しかし、その地位をユングが取っているだけである。

そして、今、人間性心理学から一歩前進した内観で見る仏教的な心
理学が欧米で急速に確立してきた。それが、トランスパーソナル心
理学である。仏教哲学の発展が、再度、欧米で復活したような印象
を受けている。しかし、あまりにも宗教的過ぎるという批判がある
が、超越性の理論などは現時点の密教理論を越える理論になる可能
性を秘めている。

しかし、それにしても日本仏教は仏教哲学発展と言う意味では死ん
でいるし、寺に若者がいない現実からも将来的には、日本の仏教は
死ぬのではないかと見ている。

3.トランスパーソナル心理学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

トランスパーソナル心理学とは、1960年代に展開しはじめた心理学
の新しい潮流で、行動主義心理学、精神分析、人間性心理学に続く
第四の心理学。人間性心理学における自己超越の概念をさらに発展
させたとされる。人間の究極的な目的とは、自己を越えた何ものか
に統合されると考え、そのための精神統合の手法を開発した。

特徴として、それは(1)意識的な状態、(2)至高または究極の潜在性
、(3)自我または個人的な自己を超える点、(4)超越性(トランセン
ダント)、(5)スピリチュアルであること。

アメリカの思想家・ケン・ウィルバーはトランスパーソナル運動を
推進し、執筆活動の初期よりトランスパーソナル運動が内包してい
た諸々の構造的な問題を認識し数々の著作をとおして、その克服の
ための提言をくりかえしている。

しかし、トランスパーソナル心理学への批判は、大きい。再現性に
乏しい上にスピリチュアリティーも扱うため宗教に近い部分もあり
、そのため宗教そのものであるとの批判がある。ユング心理学のよ
うに疑似科学であるとの批判に対し、十分な説明がなされていない
という意見が批判者では大勢である。

再現可能性、実験再現性、再観測可能性や、臨床試験を中心に据え
た研究発表が現時点では非常に少く、反駁不可能な領域に関しても
言及しようとする傾向が強いことが、批判される一因であり、現状
では科学として多数派の人たちが取り扱える分野とは言い難いよう
だ。

しかし、人間が人間を越え神になる可能性をインド密教理論を取り
込んで、かつその理論を精緻化していると見ている。果たして、そ
れが科学かと問われると疑問符がつくでしょうが、期待したい。


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