2752.閉鎖空間で生きる



題名:閉鎖空間で生きる

                           日比野

1.エネルギー争奪戦
何年か前の新聞に東京湾に海底油田が見つかるというエイプリルフ
ール記事があった。本当であれば、凄いことだけど、そんな事実は
もちろんない。

中東の石油算出もピークを過ぎたのではといわれるなか、石油から
天然ガスへの転換がどんどん進んでる。

現代文明を支えるエネルギーの供給源は、石油や天然ガスと一部原
子力。現在文明を享受する人々が増えてくれば当然、エネルギー需
要も増す。
 
近代文明を成立させるために必要なエネルギーが、地球が産するエ
ネルギーの総量を超えるときは、エネルギー効率を上げるか、人間
の数を減らして総使用量を抑えるしかなくなる。 

エネルギー変換効率をほんの少しあげるだけでも、総使用量や温暖
化ガスも減るのだけれど、エネルギーを消費することで得られた時
間と空間を、私たちは自分だけのために殆ど使ってしまった。エネ
ルギーを循環再生するどころか消費に回して、その価値をどこにも
投資できなかった。時間と空間の投資先は、エネルギー循環や再生
じゃなかった。

人間の文化的生活を享受するために、物質的豊かさを求めるのは当
然だし、節度さえ保てば、是とされるものだけど、ペースが速すぎ
て生産がおいつかない現実。

エネルギーも奪い合いになってきた。

2.床の間思考
争奪しているのはエネルギーだけじゃない。水もそう。エネルギー
は多少なくても、原始生活に戻るだけで、生きてはいける。でも水
がなかったら一ヶ月と生きていられない。

日本人は水と安全はタダと思ってると言った人がいるように、日本
は水にはとても恵まれている。

日本が水に恵まれているのは当然、山林が残されているおかげ。な
ぜ残ったかというと狭い国土に山があって、そこには大量の人は住
めなかったから。平地があって、近くに河があれば、まずそこに住
むのは普通の流れ。

でも逆にそれが、水資源の確保に繋がった。平地だらけの大陸があ
ったとして、全部開拓して水の確保とか循環とか何も考えなかった
ら、結局住めなくなって自滅する。

ヒートアイランド化がすすむ東京でも、新宿御苑の緑地によって夜
間に御苑上空高くに周囲より温度の低い空気塊が形成されていると
いう。

東京駅再開発では、隅田川から皇居へ向かう海風を遮る現在の東京
駅ビルを撤去して、海風を皇居に届かせて、御苑上空の気温の低い
空気塊を都心部に流す計画が進んでいる。

皇居の総面積は1.42平方キロだから、都心三区の総面積合計約
42平方キロに対して、総面積比でわずか3.3%しかない。そん
なわずかな皇居の緑でさえ、ヒートアイランドを緩和する効果があ
るという。

床の間ぐらいしかない空間の緑が、全体の命を支える。無用の空間
とされていたものが実は大切な空間。

わざと手を付けない空間を残すという発想は実は大切なのかもしれ
ない。

だから開発区域でも一部の空間は取っておく。手をつけない。化石
エネルギーも同じ。良い油田があっても、一部はわざと手をつけな
いで残しておく。

自らの身の破滅が目の前に迫ると人は焦る。冷静に対策を立てられ
ない。予め危機を予期して準備できる人は少数派。

だから、為政者は常に危機に対する備えをしておかなくちゃならな
い。最後の最後の切り札は取っておく。それはパニックにならない
ための智慧。

3.人類にとって地球は狭くなった
欧米発の民主主義経済は、自由と民主の鍬で地球を耕した。そして
今にも耕しきろうとしている。

もはや開墾する場所はないかもしれないけれど、耕しきる前に、共
生システムの端緒は見つけておかないといけない。

親の総取りでは、結局自らも破滅する。子の面倒をみない限りは。

そこそこの儲けで満足し、余力を残す考えが大事。自分だけよけれ
ばの考えが結局自分も滅ぼす。人にも自然にも、謙虚な態度が必要
。

砂漠の中にガラス張りの巨大な空間を作って、熱帯雨林、海、湿地
帯、サバンナなどの環境と世界中から動植物を持ち込んだ。そのミ
ニ地球で100年暮らす構想で始めたバイオスフィア計画はたった
2年で失敗した。

土壌中の微生物の働きが不十分だっただけで、すべてが連鎖して酸
素も食料も不足した。

自然の力を甘くみた結果。人間理性で全てを理解できるまでには、
まだまだ時間が必要。いつか全てを理解できる日がくるとしても、
それまでは、保険として手付かずの間を取っておくべきだと思う。

ガンダムの世界だと人類は簡単にスペースコロニーで生活してるけ
れど、本当にそうなるのは多分ずっと先。

それどころか、今は人類が増えて、環境破壊が進んで、地球自身が
バイオスフィアみたいな閉鎖空間になりつつあるのではないかとも
思える。

閉鎖空間で生きるという自覚をもって、その準備をすべきと思う。

島国で、ほぼ自給自足できていた時代を持つ日本は、ある意味閉鎖
空間で生きてきたといえるのかもしれない。

昨今、エコロジーブームで、江戸時代の見直しの声もあるけれど、
当時の日本人口は3000万人くらいで、人口増加もほとんどなか
った。

先進国では人口減少傾向だけど、地球規模では爆発的に増加を続け
てる。今のほうがずっと状況は厳しい。

最低の労力で、最高のリターンを得られる社会構造にもう少しシフ
トする。効率を上げる。無駄にしない。もったいないの心が大事。

4.地産地消都市モデル
年がら年中、好きなものを食べられるのは幸せなことかもしれない
けれど、その反面、元々の幸せを捨てている面もある。桜や紅葉を
愛でるのだから、食べ物の旬をもっと愛でてもいい筈。

遠くから輸入したり、旬を外して無理に栽培してコストを掛けてい
る今の生活。

食糧自給とか、直ぐにはどうしようもない問題もあるけれど、いま
のうちから少しづつでも何かやっておく。ごく一部でもいいから、
地産地消のモデル都市を考えてもいい。

たとえば、海沿いの温泉街に超高層ビルを建てる。1,2Fはスー
パー。3,4Fはショッピングモールに飲食店。5F以上は主に水
耕栽培をメインとする畑。

海には養殖場を併設、周辺の防波堤の内側には、光ファイバー敷設
してそこからビル内に光を供給する。

ここを訪れる客で、健康に気をつかう人は、予め自分の健康診断結
果を登録しておいて、自分の健康管理データが入ったカードをもっ
ている。

飲食店のメニューは、ネットリンクしたタッチパネル。個人健康カ
ードに入っている個人データを読み取らせると、その人の健康状態
に合わせた専用のメニューが出てくる。成人病気味の人には、きち
んとカロリーコントロールされたメニューが出てきたり。

清算時にはカードに今食べたメニューをデータとして書き込む。蓄
積されたデータは次の健康診断時の補完データとして使えたりする
。

メニューにはQRコードがついていて、読み取れば、生産地(大抵
はビル内)、出荷日が分かるようになっている。

基本的に旬のものしか売らないし、扱わない。場合によっては、さ
ばく魚も指定できたりする。

殆どをその場で自己完結させるスーパーにすることで、コストと安
全性を両立させる。

その地域で出来る限り、作物自給を考える。季節では旬を明確に打
ち出す。

最も輸送コストミニマムで、安全性最大で、美味しさも極大。選択
の乏しさはあるかもしれないけれど、健康に配慮もしてる。

その場で旬のものを生産して、コストを最小にする。美味しさとい
う点では旬のものは価値最大の筈。だから食材の価値の減衰が最も
少ない方法。やっぱり採れたてが一番旨い。

限りなくその場で自己完結する、地産地消都市。

半分以上は机上の空論だとは思うけれど、実現したら、多少高くて
も住みたいと思う人もいるのではなかろうか。

(了)


コラム目次に戻る
トップページに戻る