2721.現代という芸術 − 爆風の中で



現代という芸術 − 爆風の中で
得丸公明

 5年前の3月に、日本海の海洋汚染を取り上げたシンポジウムで短い発表を行っ
たものが、このほど他の方々の発表といっしょにまとめられて出版された。「つ
ながる日本海 新しい環日本海文明圏を築くために」(現代企画室、2500円)

 私の発表は「地球規模海洋汚染深刻化の背景にある文明と文化の不適応」とい
う題目だった。人口爆発と工業力の発達によって人類の文明は著しく破壊力を増
したにもかかわらず、個々の人間はいまだに地球や海洋が無限であると誤解し
て、海にゴミをすてている。65億人にとって、地球全体の海水といえどもけっし
て無限ではないと教育して、もうこれ以上ゴミを捨てさせてはいけないという内
容であった。

 残念ながら、この5年間で、海洋汚染はますます深刻化しているにもかかわ
らず、政治家やジャーナリストも含めて、人々の意識はまったく変わっていない。

 このシンポジウムには、新潟大学で歴史を教えておられた故・古厩忠夫教授も
参加されており、休憩時間に話しかけられたことが印象に残っている。

「私は長い間、人類は核戦争によって滅びるものだと思い込んでいましたが、最
近は環境問題で滅びるのかなと思うようになりました。」

 今日起きている地球規模の環境破壊・環境汚染は、核爆発と同じに考えてもよ
いのかもしれない。

 核爆発であれば、爆発が起きるとすぐに高熱と目に見えない放射線がふりそそ
ぎ、生物の器官や遺伝子を破壊して死にいたらしめる。後遺症や遺伝障害もおき
る。また、地球は核の冬状態になって寒冷化するとともに、、長期間にわたって
放射線汚染の影響が続くことになる。

 環境破壊は、核爆発ほどは短い時間のできごとではないが、たかだか百年の間
に起きたことだ。地球上の天然林はすべて切りつくされ、汚染物質が大地や地下
水や海洋に撒き散らされる。野生動物は餌場を失って絶滅し、汚染物質を体内に
取り込み病にかかる。

 そして、環境破壊の元凶である、無邪気で増えすぎた人間たちも、自らの生存
基盤を破壊しつくして滅んでいくのだ。

 まだ気づいていない人が多いけれども、すでに環境破壊爆弾の爆発は起きて
いる。異常気象で増えた台風や温暖化で沈んでいく南洋の島、絶滅していく
鳥や獣たちが、まず、その最初の爆風に当たって死んでいっているのだ。

 あと数年すれば、もっと大きな爆風が地球を覆うことになる。そのときに「私
は知らなかった」といっても、誰も助けてはくれない。




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