2705.ハダカの定義、絶対平和論



ハダカの定義、絶対平和論
From:得丸公明

皆様、

「絶対平和論」を少しずつ読んでいます。

敗戦国、属国日本の厳しい現実を、真正面から引き受けて言語化した保田與重郎
を、無視し、忌避した日本社会の責任は重いなあと思いつつ。戦後民主主義が、
あだ花であったのもそのためでしょう。

浪漫とは、原罪の対義語でしょうか。戦争や差別といった悲劇を乗り越えるため
には、近代文明を拒否するだけではなく、対極にまったく別の価値観・行動基準
にたつ、自然と親和する文明を構築する他はないのだということを、しみじみと
思います。

現代日本で憲法改正論議がさっぱり深まらないのも、改正する側も、反対する側
も、皮相的で物質欲・自然支配欲を絶対とする近代憲法の枠組みを一切問い返さ
ないからでしょう。 

だから、憲法を改正しても属国状態が悪化するだけだし、改正反対といっても、
崩壊寸前の世界資本主義の製造工場の工員としてつかの間の虚飾の繁栄をむさぼ
るだけで終わるのだと思います。

 「現代という芸術」をお届けいたします。

得丸公明


現代という芸術  ハダカの定義:皮膚も薄くて、毛も薄い

 書店で写真集のコーナーにいくと、たくさんのヌード写真集が陳列されている。
 若い女性の、ピチピチした身体から衣服を剥ぎ取ると、なぜそれが芸術とよべ
るのかわからないが、男たちがお金を出して買っていくから、少なくとも市場性
はあるのだろう。
 新明解国語辞典によれば、裸とは「おおい包むべきからだの部分がまる見えの
状態」だという。つまり辞書の定義では、おおい包むべきという道徳規範に反す
る道徳概念になる。医学的あるいは生理学的な概念の定義はない。

 先日、上野動物園で、ハダカデバネズミを見てきた。東アフリカの草原の地下
にトンネルを作って生活する、人類以外で唯一裸の哺乳類だ。

 成獣になっても体毛のない、しなびたフランクフルトソーセージみたいな体
で、地下トンネルを模したプラスチック・チューブの中を前に後ろにグルグル走
り回っていて、部屋の角やトンネルの壁を、どんどん伸びてくる長い前歯でガリ
ガリ削っていた。このネズミは、狭いトンネルの中で生涯暮らすためか、前に進
むのと同じくらいのスピードで後進できる。誰かとぶつかりそうになると、巧み
に上下に分かれて行き交う。

 寝室では、まるで佃煮か一口羊羹の折り詰めのように、大人も子どももいっ
しょに折り重なり合って寝ていた。暖かいアフリカ高地の、栄養や酸素が有限な
地下で暮らすためか、変温動物だという。肌と肌を合わせるのも、体温を逃がさ
ないためなのだろう。(さいたま子供自然公園の飼育記録によれば、「食べる量
は体に比較して非常に少なく,一日で10頭がわずかに35g (略)。体重が半分しか
ないハツカネズミでももっと食べ」るという。)

 寝室の一番奥に、一番図体の大きい女王ネズミがいた。出産と授乳は女王のみ
が行うことになっている。働きネズミの管理も女王の仕事だ。アリやハチと同じ
真社会性、階級制度をもつ。

 飼育係によれば、上野では4年前、前の女王ネズミが死んでしまい、その後2
年間、複数の雌ネズミによる凄惨な女王位争奪戦が繰り広げられたという。そこ
ここで出産が行われるとともに、お互いの子どもを食い殺しあっていた。

 暗いトンネルで暮らすためか、鳴き声を使って音声コミュニケーションがとら
れている。18ほどの鳴き声が使い分けられているほか、女王だけに許された声
や、自分を表す鳴き声というのもまであるという。

 このネズミの写真を、かかりつけの皮膚科の先生に見せながら、本来おおい包
むべきという道徳規範を持たないネズミたちを裸とよぶためには、新たな裸の概
念を構築する必要があると訴えた。

 彼女には何度かこの問題で相談していたので、すでに彼女の中で答えは用意さ
れていた。「クジラやイルカは、厚い皮があるので、それとの違いも定義しなく
ちゃいけないわね。でも簡単。『皮膚も薄くて、毛も薄い』でいいわ」といった。

 人類とハダカデバネズミは、皮膚も薄くて毛も薄い、珍しい哺乳類だ。おまけ
に、真社会性、音声コミュニケーション、ゼノフォビア(部外者嫌い)というとこ
ろまで似ている。

 人類が裸になり、言語、階級制度、戦争を生み出したのは、洞窟の中だった
と、私は確信するようになった。

(2007.7.7)



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