2692.慰安婦決議と赦す力



題名:慰安婦決議と赦す力

                           日比野


1.罪の意識

慰安婦決議案が米下院外交委で可決された。ただマイク・ホンダ議
員の案から修正され、「日米同盟がアジア太平洋地域に占める重要
性の確認」や「日本の首相がこの問題で公式謝罪すれば、これまで
繰り返された日本側の声明と誠実さへの疑問を解く助けとなる」−
などが盛り込まれた。 

これら修正条項の中でも、特に「日米同盟がアジア太平洋地域に占
める重要性の確認」という点に注目している。

アメリカ側の日本が過去の戦争を正当化し、歴史修正の動きに出て
いるのではないのかという懸念を示していると同時に、アメリカか
ら離れるつもりなのかという警鐘が含まれている。

要は日米同盟を大事に思うのであれば、戦前の日本が悪の権化であ
り、それをアメリカに開放してもらったのだ。日本の歴史修正は認
めないという立場を宣告しているということ。

その根源には、日本に対する罪の意識がある。

慰安婦問題に関する米議会調査局の報告書の中で、決議案の日本側
へのこれ以上の謝罪要求に懐疑を示した上で、諸外国が日本にいま
公式の賠償を求めれば、「日本側は戦争中の東京大空襲の死者8万
人や原爆投下の被害への賠償を求めてくる潜在性もある」と指摘し
ている。

これらは、アメリカが東京大空襲や原爆投下などが人類に対する罪
として捉えていることを示している。

だから東京裁判史観を押し付け、戦前の日本を悪であったとするこ
とで、原爆投下も止むを得なかったと自分自身の罪の意識を誤魔化
している。


2.孤独のアメリカ

小泉前首相がブッシュ大統領との最初の首脳会談(二〇〇一年六月)
で、有名になったハイヌーン外交にもその心理が垣間見える。

ハイヌーンとはゲーリー・クーパー主演の映画、邦題「真昼の決闘」
のこと。

主人公は、保安官役のゲーリー・クーパーと相手役のグレース・ケ
リー。二人の結婚式の当日、自分が捕まえた悪漢たちが町に戻って
くる。クーパーは、保安官を辞めていたが、戦うことを決意する。

町の人々は、尻込みして誰も手をかそうとしない。ケリーまで町を
でていく。クーパーはひとりで悪漢に立ち向かう。

という有名なストーリーだけど、小泉前首相は、ブッシュと会うな
り、開口一番、

 小泉  「ドゥ・ユー・ノウ・ハイヌーン?」
 ブッシュ「ン?」
 小泉  「ゲーリー・クーパー」
 ブッシュ「オオ」

とやった。その瞬間に日米同盟はOKだ、何も問題ないとその場に
いた一同スタッフはみな確信したという。

「いとしい人よ私を見捨てないでほしい」で始まる主題歌に当時の
アメリカの心理が現れている。そして、イラクに苦しむ今も。

その意味で「日米同盟がアジア太平洋地域に占める重要性の確認」
という一文は「日本よ、アメリカを見捨てないでほしい」というメ
ッセージにも聞こえる。


3.アメリカを救う方法

戦前の日本を悪と決め付けることで、自らの罪を誤魔化す孤独なア
メリカ。でも、それではいつまで経っても、罪の意識は消えない。

そこに”赦し”がないから。”赦せる”のは、日本だけ。

だから、日本はアメリカを赦すと宣言すればいい。

「慰安婦決議案に関して、それが事実かどうかは歴史学者に任せる
問題だ。真実は歴史が証明するだろう。一意見広告ごときに乗せら
れて、事実だったかどうかは兎も角、60年前の、しかも謝罪が済
んでいる事象を云々するのが正当な行為なのであれば、過去すべて
の遺憾な出来事に対して謝罪し続けなければならない。

日本は東京大空襲や原爆投下について、言おうと思えばいくらでも
言える。しかし、我々はそうしない。イエスも汝の隣人を愛せ、罪
を赦せと言ったではないか。我々はそれに習って、アメリカの過去
の罪を赦した。日本はアメリカを罪に定めない。

広島・長崎は確かに悲しい出来事ではあったが、その後はアメリカ
の協力のもと、見事に復興し、日本は新しい民主国家として立ち直
った。アメリカは日本を復興させたことで、その罪を購った。日本
は決してアメリカにブローバックしたりはしない。

日本と日本人はアメリカを赦しており、これからも赦し続ける。同
盟国として世界秩序の維持と発展に共に貢献しよう。」

こう宣言すればいい。

実際はこんな宣言で核も戦争もはなくなりはしないけれど、この宣
言によってアメリカの日本に対する深層意識が変わる。従軍慰安婦
問題はアメリカにとっては他人事だけど、原爆と民間人虐殺の罪を
赦すという宣言はアメリカに直接届く。

東京裁判史観に対して何も反論しないことは、アメリカ側の善悪判
断を受け入れていることと同じ意味になる。でも、それが逆に、ア
メリカから贖罪の機会を奪っている。

アメリカ側に善悪があったように、日本側にも善悪はあった。それ
をお互い認めた上で、互いの善悪を超えて赦すといえばいい。日本
から。アメリカを罪の意識から救えるのは、実は日本なのだ。 


4.赦す力

この日本がアメリカを赦すという宣言は世界に計り知れないインパ
クトを与える。アメリカ自身がこの宣言を受け入れるか否かは実は
あまり関係ない。

非キリスト教国であり、且つ有色人種である日本が、イエスの赦し
を実践した、という事実が限りなく重い。
 
イエスの教え自身が全世界的に普遍なものであることを証明すると
同時に、本家であるキリスト教国にイエスの教えの根幹を問い直す
ことになるから。

この宣言は、キリスト教の教義を何一つ傷つけることなく、同時に
アメリカのこれまでの行動を内省させる力を持つ。

グローバルスタンダードの名のもとに、自国の価値観を他国に押し
付け教化しようとする行為。その考えが傲慢ではなかったか。そう
いう深層意識をこの宣言は炙り出す。

ヨハネパウロU世は自身の暗殺未遂事件後「私が赦した、私の兄弟
のために祈ってください」と人々に語り、実行犯を赦した。今度は
、日本が赦したアメリカのために祈ってくださいと世界に宣言する
。ローマ法王が説く、世界はひとつであること、宗教を超えて平和
を実現すべきというアピールと同じものがそこにある。
 
この宣言はキリスト教国以外にも強烈なインパクトを与える。

やられたらやりかえすのが普通の世界で、「赦し」を行うことで報
復の連鎖を断ち切ることができるということ。
 
原爆を二発も落とされたにも関わらず、「報復」を捨て、焦土から
世界有数の大国になった日本。この事実が宣言に説得力をもたらす。

文明が衝突し、紛争が耐えない地域にとってはひとつのアンチテー
ゼとなる。

アフリカ諸国にとっては、有色人種がイエスの教えを実践した事実
が、人種平等の証明と世界への宣言となり、彼らのわだかまりを解
く力となる。

日本攻撃のプロパガンダを繰り返す国にとっても、この宣言はアン
チテーゼとなり、他国、とりわけアメリカでのロビー活動の効果が
なくなるだろう。

世界を救う鍵は日本が握っているのであり、人類にとって日本の存
在そのものが福音なのだと思う。

(了)


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