2662.水環境を破壊する水上バイク



水環境を破壊する水上バイク
 −琵琶湖市民大学の報告を聞いて−−
                    平成19年(2007)5月23日(水)
                「地球に謙虚に」運動代表 仲津 英治

 私が平成11年(1999)頃、静かな湖畔の環境を求めて滋賀県湖西の地を選ん
で居を定めたとき、その期待を見事に打ち砕いてくれたのは水上バイクでし
た。水上バイクは、水辺破壊、空気汚染、水質悪化、騒音どれをとっても許
せない存在です。

 去る4月14日琵琶湖市民大学の主催で、『琵琶湖の水上バイク』と題して、
調査結果報告会が大津でありました。この報告会の概要をお知らせし、問題
提起を改めて行ないたいと思います。
 琵琶湖市民大学は、琵琶湖・淀川流域の環境問題について取り組む市民の
ネットワークです。詳しくは下記ホームページをご参照下さい。私の所属す
るびわ湖自然環境ネットワークはその関係団体の一つです。
    

1.	調査時期
 平成17年(2005)と平成18年(2006)の2年間(2006年は5、8&10月の3日曜日)
2.	調査場所
 滋賀県大津市 琵琶湖柳が崎湖岸(湖西側)
3.	調査項目
 琵琶湖の水質と周辺環境へ与える影響(水質と騒音問題)
4.	水上バイクの問題
 4−1構造上の問題として様々な点が指摘されています。
・1,000CCを越える大型エンジンを搭載しています。軽乗用車を軽く越える排気
量です。ガソリンを撒いて捨てるほど要るとは、実際の経験者の弁です。
・ジェット水流を水中に放出して前に進みますので、水底の堆積物を巻き上げ、
水質を悪化させます。そのジェット水流は水草や水生生物の生息環境を破壊
します。水際と浜辺は命の揺り籠と言われるほど、多くの生物を育むところです。
・まだ従来型2サイクルエンジンを搭載した水上バイクが多く、未燃焼の排気ガ
スを空中と水中に放出します。2サイクルが排出する炭化水素(ベンゼン、トルエ
ン、キシレンなど揮発性有機化合物=VOC)、窒素酸化物(NOx)、未燃焼オイル
は、4サイクルなどに比べ、5―10倍多いのです。

4−2水上バイクで遊び回る連中のマナーの悪さも大きなものがありますがここ
では省略します。
 2サイクルエンジンの水上バイクは、平成18年(2006)年4月に滋賀県琵琶湖のレ
ジャー利用の適正化に関する条例(通称;琵琶湖ルール03.4施行)により、禁止
されるはずでしたが、平成20年(2008)3月まで延期されました。水上バイクメーカ
ー、同レンタル業者、同所有者などが県と県議会への働きかけた結果です。

5.	調査結果
 水上バイクの走行は、春ごろから始まり秋まで続きます。時間帯は朝の8時頃か
ら夕刻6時前後まで、夏場には約60台が浜辺を占拠し、常時10―20台が走っていま
す。琵琶湖ルールで湖岸から350m以内は禁止と決まりました。しかし滋賀県の巡
視船が来たときは守る者もおりますが、巡視船が去ると元の木阿弥です。

 5−1水質
 平成18年(2006)度の調査結果を概括しましょう。6地点で水質が測定されていま
す。揮発性有機化合物=VOCは、午前中はほぼ検出されませんが、水上バイクの走
行にともなってVOC濃度は上昇し、日曜夕刻には最高濃度に達するようです。
 発ガン性物質のベンゼンは環境基準の約7割、トルエンは、4割、同キシレンは
1割で、いずれも基準を下回っています。しかし、トルエンについては、「水質管
理目標」である200μg/L(1■当り200マイクログラム)を超過しているとの事でし
た。トルエンとキシレンはかつてシンナー遊びで有名になったように中枢神経を
麻痺させる作用があります。
 また、大津市民の飲料水になる取水口付近の検査では水道水質基準の5%以下と
小さいものの、本来清浄であるべき水道水源からVOCが検出されること事態が問題
であるとの報告でした。
 
 5−2騒音
 民家での騒音が問題であるということから、湖岸から100mの距離にある5階建て
のマンションの屋上で測定されました。一番水上バイクが多く走っているところは
湖岸から100−200mくらいのところのようで、マンションからの距離は300―400m位
です。

 日本では主として住居地域では55 dB(A)、幹線道路沿いで65 dB(A)の騒音環境基
準が課せられています。琵琶湖ルールでは65 dB(A)までOKとしていますから、幹線
道路沿線並の騒音(15m離れて測定)を許容していることになります。この数値dB
(A)は、普通騒音計による10分間の等価騒音レベルのようです。

 8月、10月の測定データによると、午前9時頃から60 dB(A)を越える測定値が続出
し、夕方のピーク10分間には65 dB(A)近くに達しています。10月22日(日)の昼
ごろ水上バイクの事故があり、パトカー、救急車が駆けつけて騒音レベルは55dB(A)
まで下がりましたが、パトカー等が去ると60-65 dB(A)の値を示していました。ここ
で10 dB(A)の差は音の強さにおいて10倍の開きがあることを意味します。如何に水
上バイクが騒音源になっているかということです。

 私は新幹線の高速化の責任者として長く走行試験に関わって来ました。そのとき如
何に静かに走るかが高速化の決め手でした。新幹線に課せられた騒音環境要請値は世
界一厳しく、当時二種住宅地域で75dB(A)というものでした。先ほどの幹線道路騒音
基準より相当高いと言われるでしょうが、この値は25m離れた地点の基準です。しか
も10分間の平均値ではなく瞬間最高値で規制されます。そして音の強さは距離の二乗
に反比例して減衰します。琵琶湖柳が崎での65 dB(A)の値は、音源から200−400m離
れた地点の測定結果です。仮に200mとしますと、新幹線騒音は25mの8倍離れたところ
では距離の二乗に反比例しますから、64分の1になり、単純計算ですが57 dB(A)まで
下がることになります。65−57=8 dB(A)の差は、新幹線を6倍以上上回る騒音を連続
的に水上バイクは出していることを意味します。 

 また水上バイクのメーカーとレンタル業者の責任も大事です。湖岸を不法占拠して
いる業者も多数います。環境を傷めてお金に変えているようなものです。そして滋賀
県も琵琶湖ルールを定めた以上、その後の実態調査も主導して行なうべきかと思いま
す。現嘉田知事になってから、数件不法占拠施設が撤去されました。僅かながら大い
なる前進かと思います。そして山紫水明の琵琶湖など全国の湖水地域を守るためにも
水上バイクはもっと規制されるべきでしょう。
 皆さまいかがでしょうか。

 報告資料をご希望の方は下記の環境監視研究所HP(中地重晴所長)をご覧ください。 
   

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仲津英治
「地球に謙虚に」運動代表

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