2644.回帰への序章



回帰への序章           S子   
  
 財団法人「日本青少年研究所」の高校生意欲調査(日米中韓の高校
生計5676人を対象に実施、調査期間は06年10月〜12月)を行ったと
ころ、日本の高校生の「出世意欲」は4カ国中最下位であり、将来出
世が希望できるだろうと思われる有力企業に対しても魅力を感じえ
ず、未来への明確な目標を持てずにいる現状が浮上していることが
わかった。

この部分的な調査結果に対して日本の将来を悲観する見方が一部に
あるようだが、果たしてそうなのかどうかを、私なりの観点でこれ
を捉えてみたい。

まず、この調査結果の背景を探るうえでの手がかりとなるのは、2007
年問題に象徴される団塊世代の存在であり、彼等が戦後の日本をリ
ードしてきた意義は大変大きい。また、この世代の人口の占める割
合も日本の総人口の中で最も多いということも、多方面に様々な影
響を及ぼしている。

戦後の物質主義、拝金主義を支えにひた走ってきた団塊世代の大量
定年退職が意味していることは、単に彼らが日本の表舞台からその
姿を消してゆくということだけではなく、これら双方に最大の価値
を置いてゆくような生き方を、今後次世代は選択しないだろうと言
うことがここから窺える。

現にアルバイト、パートタイマー、フリーター、ニート、ワーキン
グプアというキーワードとしての言葉が、日本の現状を的確に捉え
ているではないか。彼等に仕事がないのは物質の飽和状態による物
余り現象からくるものであり、団塊世代が物質主義や拝金主義にと
らわれすぎた結果ゆえの相対的現象だと言える。

明治維新以降の日本における西欧化(量的世界)をより一層加速さ
せたのは戦後の日本であり、戦後教育であり、その時代を共有した
団塊世代であると認識するのは、そう的外れではないだろう。

彼等団塊世代が生きたのは物質主義や拝金主義という量的世界にお
ける競争の時代だった。戦後の廃墟の中で何もない状態に日本があ
ったから、反動で量的世界に意識が向かったのは当然だっただろう
し、戦後教育の影響も大きくあっただろう。

それだけに団塊世代というのは、量的に満たされるために「出世意
欲」を一番強く持っていた世代であり、競争に次ぐ競争の連続だっ
たに相違ない。その「出世意欲」と日本人本来の勤勉さという質的
世界が相乗して、日本は戦後わずか65年間で物質主義、拝金主義の
飽和と限界を向かえ、今日に至った。

今後、日本は物質主義や拝金主義とはまったく異なった新たな価値
に向かって歩み始めるだろうということが、今回の意欲調査の結果
から見て取れるのではないか。今後日本が向かってゆくのは量的世
界ではなく、むしろ日本本来の資質としての質的世界に回帰し、次
世代の意識はそういうものに価値を置くようになるのではないかと
私は見ている。

量的世界だけに意識が固着しすぎると我々は常に競争の中に身をさ
らされ、互いに争う姿勢を鏡としなければならなくなる。資源やマ
ネーの争奪戦は常につきまとい、互いの足を引っ張ることしか思考
しなくなる。量的世界においては数字が重要性を持ち、質的問題は
さほど重要視されなくなるからだ。

現に我々の意識は数字にとらわれやすくなっており、あらゆるもの
を数値化されると非常に敏感に反応するようになっているのは否定
できないだろう。また、食料自給率の低い日本での少子化現象も質
的世界回帰への序章だととらえても、そこに何の無理もないと私は
見ている。

中国や韓国の「出世意欲」が日本より秀でているからといって落胆
するのは早計であり、むしろ彼等の意識状態が日本の歩んできた過
去を踏んでいると見れば何の問題もないだろう。特に中国は民主化
という西欧型文明(量的世界)を受容し始めたばかりで、その「出
世意欲」は質的世界からもかけ離れて、かなり醜いものになってい
るのは、ご承知の通りだ。

今回の調査結果の数字というマジックに敏感に反応しすぎた人は、
少し頭を冷やして冷静になればいい。

ところで、今回の高校生意欲調査と似たような調査結果が子供の通
う中学校でもあった。卒業する生徒に対して、「10年後の自分」と
題して回答してもらったところ、大きな夢や目標を抱いている子供
は2〜3人いればいいほうで、大半の子供が非常に現実味を帯びた
回答をしていた。

そんな中でも多かったのが幸せな家庭を築きたい、家族を大切にし
たい、守りたいという内容のもので、2007年問題が及ぼす影響は身
近なところでも顕著に現れている。このような身近な結果からも次
世代を担う子供たちは物質やマネーという量的世界に価値を見出す
生き方を選択しなくなっている。

そして、物質やマネーに翻弄されて自分の明確な居場所を忘れてし
まった団塊世代の生き方を見て、自分の明確な居場所を家族に求め
る次世代の意識こそが、タイムラグのより少ない位置だと私は見て
いる。

更に、質的世界回帰への序章は、東国原知事の誕生やお笑い芸人と
女子アナ、女優との結婚報道、ジャガー横田夫妻に象徴されている。
これらに共通するキーワードは身体知だが、「笑いは世界を救う」
のである。

笑うことは身体を緩ませる効果があり、健康にも良いと言われてい
るのは誰でも知っている。実は量的世界に支配されている日本人は
、頭脳知帝国のもと、その身体がかなり緊張を強いられていること
が指摘されている。

そのために様々な健康被害を受け、薬漬けや病院通いを強いられて
いる人の何と多いことか。高齢化社会だからという言い訳ではすま
されず、それは既に洗脳されている証であり、自己に直面しない姿
勢からそうなるのだ。

東国原知事を誕生させたのは、彼が笑いどころのツボ、タイミング
を前職で良く心得ているから宮崎県民の心を捉えたのであり、お笑
い芸人は女子アナや女優の緊張した心を笑いで解きほぐしたのであ
る。

ジャガー横田夫妻は典型的な頭脳知(夫)、身体知(妻)の夫婦で
ある。妻であるジャガー横田が(ご主人を)殴りたくってウズウズ
していると言うのは、頭脳知依拠の夫が言葉だけで物事を理解させ
ようとしていることへの反発であり、物事を真に理解させるのは身
体に体得させることが一番だという彼女の人生訓からである。

テレビは視聴率という数字のマジックにとらわれているために、ジ
ャガー横田夫妻を娯楽性をもって取り上げているが、頭脳知(量的
世界)の夫にプロレス技をかけて身体知(質的世界)の妻が優位に
たっている姿は、日本人のDNAをくすぐるのだろう。

そして、笑いは今後より一層強化されるだろう管理社会を乗り切る
ための最終の切り札として日本人がとらえているような節が見られ
るのは、私だけだろうか。

このように日本は徐々に質的世界回帰への序章を始めている。が、
質的世界は量的世界にある頭脳知依拠ではないために、その身体へ
ゆっくりと時間(回転)をかけて体得させ、身体全体で物事を受容
、理解させる。

そうしないと人類は同じ過ちを何度も繰り返して止まないからだ。
そのために地球は異常気象や自然災害という形をとるのである。そ
んな中で我々が為してゆくことは、あらゆるものにとらわれること
なく、各々に与えられた現実をひたすら生き抜け、ということだろ
う。

参考文献   
毎日新聞<高校生意欲調査>「出世意欲」、日本は断トツ最下位


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