2612.石油の変調



サウジアラビアにある世界最大のガワール油田が枯渇しているよう
だ。この考察。      Fより

ガワール油田は今から約60年くらい前に発見されたもので、今でも
世界最大の一日当たり450万バーレルの生産量を誇っている。
ガワール油田だけで、世界最大の産油国サウジアラビアの石油生産
の6割をも生産している突出した大油田だ。この産油量が減少して
いる。サウジの他の油田をフル動員しても、このガワール油田の減
産分を取り戻していない。

「オイルピーク」論があるが、サウジではとうとうオイルの生産ピ
ークから減産になったということである。地球物理学からサウジの
ペルシャ湾からウラル山脈にいたる地域が産油地域であるが、ガワ
ール油田に匹敵する油田はない。この地域以外でもこのような大き
な油田は見つかっていない。

このため、イラク石油の生産が急務になっている。カスピ海の石油
も同様である。イランの石油生産はここも減産になっているようで
あり、イラクとカスピ海に期待が掛けられることになる。このため、
カスピ海に面した天然ガス産出国のトルクメニスタンのニヤゾフ前
大統領の葬儀には世界からの弔問客が来ていたようだ。

イラク石油増産のためにもイラク戦争を早期に終わらせる必要が出
ている。このため、米国はイラン、シリアと同席して、イラク平和
会議を開催したのだ。石油生産を順調に再開するのはどうしても治
安の安定が不可欠である。

もう1つ、スリーマイル島原発事故で建設を中止していた米国が
30年ぶりで原子力発電所の建設を再開する。しかし、現時点で原
子力発電所の設備を製造できるのは、日本とフランスのアルパしか
ない。

そして、日本の日立はGEと、東芝はWHと協力して市場を開拓し
ているが、30年前の方式の原子力発電所である。三菱は独自開発
の新原子力発電所設備を開発した。これを持って世界市場に登場し
ている。これも石油の枯渇が見えてきて、米国も三菱の原発を準備
し始めている。

米国の発電所は石炭火力発電所が総電力量の60%にも達している。
これは中西部にある露天堀の炭田から安価な石炭が大量に産出する
からであるが、とうとう米国でも温暖化ガス問題がクローズアップ
してきて、石炭火力発電所を新設できなくなっている。

世界最大の石炭産出国はお隣、中国ですがここでも原子力発電所を
作り始めている。中国は世界最大の消費国でもあり、石炭不足を起
こす可能性があるためだ。

日本は石油の90%以上を中東のペルシャ湾の石油に依存している
が、とうとうその見直しを迫られている。サウジのガワール油田が
枯渇するということはその周辺油田の寿命もそう遠くない。
すると、どうしてもロシアからの石油輸入を視野に入れた対応が
必要になってくると思うがどうでしょうね??
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三菱重工、米国で原子炉2基の建設を発表(ASAHI)
2007年03月14日18時30分
 三菱重工業は14日、米国の電力大手テキサス電力から加圧水型
の原子炉(PWR)2基の建設を受注することが決まったと、正式
に発表した。受注額は公表していないが、約6000億円に上る見
通し。2015〜20年の運転開始を目指す。米国が約30年ぶり
に原子炉建設を再開したことを受け、同社は昨夏から米国での営業
活動を進めてきたが、今回、初めて成果をあげた。 

 三菱重工が建設するのは、米国仕様に改良した出力170万キロ
ワットの大型原子炉「US―APWR」。2基とも、テキサス電力
がダラス近郊に所有するコマンチェピーク原子力発電所内に増設す
る。共同事業者として米国の大手建設会社ワシントングループが建
屋の建設などにかかわる。 

 三菱重工は今後、米原子力規制委員会(NRC)に、原子力設備
の建設・運転の許可申請をする準備に取りかかる。07年末には、
新しい原子炉を販売するための「型式証明」をNRCに申請する予
定だ。 
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2007.03.11
リック・タナカの「南十字星通信」(the-commons)

サウジのアブラ生産、年率8%の減産
意識的な措置なのか,それともピーク後の減耗なのか、その理由は
わかりませんが,昨年1年間,サウジアラビアの原油生産が前年に
比べ8%の減産であることをスチュワート・スタニフォードが8日
付けのオイル・ドラムで報告しています。
http://www.theoildrum.com/node/2331

世界最大のガワール油田の減耗やサウジのアブラについては何度か
ここでも書いていますが,これほど重要なニュースを主要メディア
はなぜ,取り上げないのでしょうね。

●2004年の第3四半期まで,サウジは余剰生産能力を持つスイ
ング生産者として、市場を沈静化するためなら、すすんで生産量を
急激に増減させていた。この時期,サウジの生産量の増減はすべて
、需要サイドの要求に基づくものであることが理解できる。

●2002年,世界経済の回復に基づく需要の増加に応えるため,
サウジは生産量を増加させた。

●2003年,米国のイラク侵攻の直前から,原油生産は急上昇す
る。これはサウジが侵攻によるイラクの生産減を肩代わりし,市場
を沈静化するために自ら行ったもので、戦闘が静まり,イラクの原
油生産が回復するにつれ,サウジの生産は侵攻以前より少し高いレ
ベルに落ち着いた。

●2003年から2004年初頭にかけ,米国、中国などの好景気
による需要増を受け,原油価格は上昇する。バレル22ドルから
28ドルというOPECの望む価格レベルを大きく上回る価格の急騰に
対処するため,サウジは2004年春,生産量を大幅に増加させる。
しかし,サウジには日産百万バレルの増産がやっとで、原油価格は
沈静化することができない。
これ以降,原油価格はOPECの希望価格に戻ることはなく,翌年,希
望価格帯自体が廃止された。

●サウジのアブラ生産は微増を続けるが、2004年後半には減少
し始める。
2004年末以来、サウジには需要サイドの要求に基づく生産調整
ができなくなり、それ以後,生産量の変化は供給サイドの事情によ
るものになった。

●2005年初頭、新油田,カティフ/アブサファが生産を開始し
,減少に歯止めがかかる。しかし、日産69万バレルの新油田が加
わったというのに,2005年の生産量は平坦で,原油価格の急騰
やメキシコ湾を直撃したハリケーンに対応し,生産量を増加させた
あとは少しも見えない。

●2005年後半に始まる生産減は2006年に入ってからも続き
、春にハラダ3油田(30万バレル/日産)が生産を開始するまで
続く。結局2006年の生産は前年比マイナス8%。この傾向が
10年も続けば,サウジの生産は現在の半分になる。

●ハラダ3の導入は焼け石に水,数ヶ月後にはすっかりもとの減少
率に復帰する。

スタニフォードは最近の別な記事で,サウジの原油採掘用リグの数
が急激に増えていることを報告しています。生産を上げようとしゃ
かりきになっていることが見て取れます。
サウジのアブラ生産が去年のような率で減少していくことはないで
しょう。

しかし、カティフ/アブサファやハラダ3のような規模の油田では
,生産曲線の下降そのものを止めることはできません。せいぜい
数ヶ月,下降を遅らせるだけです。
サウジ,そして世界の石油生産は限られた数の巨大油田や大油田に
頼っており、それらの減耗から生じる穴は、ちょっとやそっとの規
模の油田が稼働しても簡単に埋められるものではありません。サウ
ジアラビアにある世界一の巨大油田、ガワールの減耗による生産減
を埋められる油田はありません。

ここがピークを理解する重要なポイントのひとつですが、どれだけ
設備投資をしようが、探査に金をかけようが、どれだけしっちゃき
になっても,ないものは見つからない。掘り出せない。使えないの
です。

使えないといえば、サウジのアブラ減産との関連で,ジェフリー・
ブラウンが重要な指摘をしています。それは産油国における経済成
長です。

アブラ収入の増加で中産階級が増えると,エネルギー消費が増加し
ます。ということはサウジやロシアなどの産油国がアブラを増産し
ても、国内での消費が増えれば,市場に出回るアブラの相対的な量
は減ります。オイルピークによるアブラ生産の絶対量の減耗に加え
,世界市場に出回るアブラの量はサウジやロシアなどの国の経済成
長にも影響されることになります。
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 平成19年(2007年) 3月16日(金曜日)貳

 資源開発戦争はカスピ海沿岸諸国でも乱戦模様
  トルクメニスタンに五つの商談、大型開発プロジェクトの風呂敷

 もつれた糸を解すように、順番に簡潔な説明を試みる。
なにしろ日本から遠隔地の話なので、掴み所がない話題かも知れない。
しかし、資源のない日本には致命的な事柄なのだ。

 一、トルクメニスタンの豊富なガスを東南方面へ運ぶルートは、米国メジャーの「ユノ
カル」がタリバン政権の時代から話し合ってきた。
爾来、十年の歳月が流れ、まだプロジェクトは一向にはかどらないが、03年12月にト
ルクメニスタンとアフガニスタン、パキスタンの三カ国が合意に達した。
全長1580キロ、総工費25億ドル。
年間200億立方メートルの天然ガスをパキスタンの港まで輸送する。

 この構想にはパキスタンから分岐してインドへ運ぶプロジェクトも浮上し、インドの参
画も正式に決まっている。
 ただしガスの鉱区は現在ロシアへ輸出されているダウレタバードで、ロシア企業「ガス
プロム」との軋轢も予測される。
ガスプロムは世界第三位の大企業で従業員39万、マイクロソフトより大きい。
納める税金が全ロシア歳入の四分の一を占めるほど。


 二、トルクメニスタンの豊富なガスを北東方面へ運ぶルートの開発は05年7月に中国
との間で原則合意された。
 中国へは2009年から年間300億立法メートルのガス供給を約束している。
「シノペック」はアムダルリヤ川の側にある鉱区を抑えた。手始めの援助は2600万ド
ルの発掘ドリル。中国輸出入銀行が融資した。


 三、トルクメニスタンの豊富なガスをEUに輸出するためカスピ海の海底を跨ぎ、アゼ
ルバイジャン経由トルコへのルートがニヤゾフ前政権のもとでも前向きに進んでいた。
EUと米国がこのルートに前向きだが、「この構想は不可能に近い」とトルクメニスタ
ン政府幹部は発言した。(『ユーラシア・ディリー』、3月11日付け)。


 四、トルクメニスタンの豊富なガスを、一番近いくに、南に隣接するイランも興味を示
し、やはりパイプライン建設プロジェクト計画が進捗している。
 またカザフスタンが同国からトルクメニスタン経由イランへのルート開発に前向きとも
いわれ、アフマデネジャット(イラン大統領)は、たびたびこれらの地域を訪問している。


 五、トルクメニスタンの豊富なガスを、ロシアとは別個に、鉱区開発プロジェクトの協
議をウクライナとベラルーシとも、それぞれ進めている。


 ▲ ロシアの独占体制を内外から揺らす

 現在のところ、トルクメニスタンの豊富なガスはロシアが独占的に購入している。
 パイプラインを敷設しているロシア企業が運輸を独占しているからである。
独占企業は「ガスプロム」、プーチンの子分、ミレルが会長。第1副首相のメドベージェ
フが幹部会議長。実質的にはエクソンモービルについで、世界第二位のメジャー。
トルクメニスタンから安く買いたたき、高くEUに売る。

 この美味しい独占ビジネスをほかの国のルートにさらわれては大変とばかり、モスクワ
はトルクメニスタンに異常ともいえる熱意で近づいているわけだ。

 トルクメニスタンの新大統領ベルディムハメドフは3月7日、首都のアシュガバードで
ロシアのガス貿易企業「イテラ」のムカロフ社長を迎えた。
 イテラ社はモスクワの「ザルベズネフツ」および「ロスネフツ」とジョイント・ベンチ
ャー企業の「ザリト」の株式を持ちあっている。

 「イテラ」「ザルベズネフツ」、「ロスネフツ」「ザリト」と紛らわしく舌を噛みそう
な名前だが、いずれもモスクワの会社。
この新ベンチャー企業がトルクメニスタンの新しいガス鉱区開発を持ちかけ、トルクメニ
スタンの国営企業「トルクメンネフツ」と合弁でカスピ海沿岸部の鉱区開発を狙う。
ガスプロムの競合企業なのか、ダミーなのか、実態は明確ではない。
 本来なら03年12月に25年間の開発権利協定に署名した筈だが、トルクメニスタン
政府は批准を遅らせてきた。
理由はすぐ南のイランが有利な条件を出しているからだ。

 ロシアは慌ててトルクメニスタンに首相を送り込み、向こう二十年間の供給保障を取り
付けた。
ただしトルクメニスタンの値上げ要求を呑んで、1000立法メートルを百ドル(50%
の値上げ)で2007年に600億立法メートル、08年に700億立法メートル、20
28年までに800億立法メートルを買い上げる。


▲ 砂漠のくにぐにの乱戦

 くわえてカスピ海にもう一本のパイプラインを敷設しようと提案している。
 トルクメニスタン政府は、カスピ海沿岸五カ国の合意がないと新パイプラインは難しい
としてロシアに正式な許可をしていないが、問題はそれほど膨大なガスが本当にトルクメ
ニスタンに眠っているのか?

 すでにサハリン開発も軌道にのって、これ以上の大口需要が継続してあるのか?
 ロシアはガス・OPECの形成を目指しているが、アルジェリア、イランのほかに参加
する国があるのか?

 ガスの独占ビジネスに固執するあたり、プーチンのパラノイア症候群とも言えるが、ガ
スは物理的に蒸発する。
近未来のプロジェクトも、これまた“蒸発”してしまう危険性は本当にないのだろうか。


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